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これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー2 〜砂糖菓子姫とケダモノ王〜  作者: segakiyui
25.サリストア下克上

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 足りない。

 レダンは苛つきムカつき不快さを増している。

 何もかも足りない、この怒りを昇華するためにも、この苛立ちから目を逸らすにも、この不安を押し潰すにも。

「もっとまともな奴はいねえのか」

 吐き捨てる自分の声が我ながら黒い。

 何とか相手の剣を叩き落とす程度で済ませようと骨折っていて、その気働きで集中力を保っているが、あからさまに楽しげなミラルシアの視線が鬱陶しいし、ようやく手を振ってくれたシャルンの癒しも、そろそろ底をついてきた。

 シャルンを抱き締め、陛下、と優しく呼んでもらって、甘い指先で触れて欲しい。

 なのにこんなに遠ざけられて。

 彼女の居る場所に駆け寄れもしない所で、見世物になって剣を振るって。

「いっそ全員一気に来ねえかな」

 3人程度じゃ食い足りない。

 いっそこのままミラルシアのところまで駆け上がって、アルシアに肝を冷やさせるか。

 そう考えた矢先、歓声が上がって、十分な準備を整えたサリストアと緊張した顔のガストがやってくるのが目に入った。

「わかってるじゃねえか」

 嬉しくて楽しくて、満面笑み綻ぶと、2人がひくりと口元を引きつらせる。2人が頷きあって一気に駆け寄ってきてくれ、ふっと気が緩んだ。

 助かった。

「…ああ、やばかったのか、俺は」

 立て続けに降ってくるサリストアの剣を受ける。身を翻す暇もないほど隙なく攻め立てられて、中途半端な集中が次第次第に絞られてくる。同時にガストが飛びかかってくる。睨みつける目は真剣で、刃は潰してあるが、受け方を間違えると骨を砕かれる勢いだ。

 神経が研がれて澄んでくる。濁った怒りが霧散する。

「多少は正気に返ったか」

 軽く息を弾ませながら、サリストアが剣を打ち付けた瞬間に囁いた。

「ああ済まん」

 飛び離れるのはレダンの蹴りを察したからだ。標的を失ったので、足先は滑り込んできたガストの腹に向いたが、長年の付き合いだ、むざむざ食らいもしない。

「ぼちぼち落ち着いてください」

 冷ややかな声も耳に届く。

「奥方の前で修羅場を展開するつもりですか」

「…危なかったか」

「ええかなり」

 吐息とともにトンボを切って遠ざかる。追いかけたのをサリストアが迫って遮る。

「謝るのはこちらだ」

 舌打ちしながらサリストアが体を翻してレダンの剣を避けた。

「余計なちょっかいを掛けて負担をかけたな」

「ああ、別に」

 3人同時の闘いならば苦ではなかった、と返す。

「それより食い応えのある奴が一人もいないのが困った」

「ちっ」

 サリストアの頬をかすめた切先は空振りだ。跳ね上がった足先がレダンの手首を捉える。一撃食らったが、わずかに外したせいで致命傷にはならない。飛びかけた剣をもう片方で掴み、別方向から突っ込んできたガストに向ける。

 ガスト参戦で盛り上がった場内は、レダンがガストとサリストア2人を同時に相手して、しかも双方とも手加減している気配がないのに勝負がつかないというあたりで、再び不安げに揺れ出しているようだ。

「姉上は武術の奨励も止めた。アルシアの伝統も捨てた」

 苦々しく吐き捨てるサリストアの目は暗い。

「今回のお前への扱いも目に余る」

「何をされておるのか、ミラルシア王は?」

 剣を噛み合わせながら、一瞬ごとに会話を交わす。

「…嫉妬さ……下らぬ」

 サリストアが唸った次の瞬間、レダンは鋭く空気を切る気配に相手を突き飛ばした。同時に前に立ちふさがり掛けたガストを掴み、共に背後へ飛び退る。

 3人が一気に分かれた空間に、ざくり、と不気味な音を立てて突き立ったのは、小ぶりの剣だ。

 素早くそれを見て取ったサリストアがきっとした顔を振り上げた。


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