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「…まあ…」「……そういう…ことなら…」
「ふ、ふんっ、何とも下品な」「何が無骨だ、曲者めが」
うっとりと頷いた女達の呟きと聞こえるか聞こえないかの悔しげな男達の罵りを背中に、レダンは平然とギースに笑いかける。
「よろしいかな、グラスタス王」
今ではダンスの意図は十分にギースに伝わっている。何か言いたげにシャルンを見たが、
「…部屋を用意させよう」
「有り難く。では、一旦失礼する」
素早く動き始めた女官長に従って、シャルンを抱きかかえ歩き始めたレダンは不安そうに囁きかけてきた。
「シャルン? 大丈夫か?」
「は、はい、陛下」
すぐ側を歩く、明かりを掲げた女官長に聞こえないように、シャルンは頷き相手を見上げる。
「私、上手に踊れたでしょうか」
「見事だった」
額にキスされ、次いで頬に、唇にも軽くキスを落とされてシャルンは息を飲む。
前を行く女官長に知られてしまうと抵抗もできない、声も立てられない。
「ギースの顔を見たか」
くつくつとレダンは楽しげに笑う。
「…あの曲をご存知とは驚きました」
「必死に調べたんだろうさ、こちらをやり込める方法を」
如何に報復に見えずに仕返しができるか。
「いつまでたってもせこ…」
「陛下!」
あまりといえばあまりに傍若無人な囁きに思わず声を上げると、
「…こちらでございます」
女官長が立ち止まり、広間から少し離れた部屋へ二人を案内した。
こじんまりはしているが、金色の飾りを施された壁に扉、所狭しと飾られた絵画に彫刻、並べられたソファやテーブルも美しい模様が彫り込まれている。
「こちらで少しお休みください。後ほど、お飲物をお持ちします」
「…では、シャルン」
窓際のゆったりとした長椅子にシャルンをおろしたレダンは、愛おしげに髪の毛に触れた。
「少しここで待って居てくれ。…せっかくの髪を解かせてしまった、すまなかったな」
「いえ……あの曲の、髪の意味もご存知でしたか」
「決めた相手以外にはうなじを見せない、だろ?」
「はい」
「私にはいつでも見せてくれるのにな」
「、陛下…っ」
「…もしよろしければ」
際限なく続きそうな二人の会話に業を煮やしたのか、それともレダンを確実に広間に連れ帰るように言いつけられていたのか、女官長が口を挟んだ。
「私が御髪を整えさせて頂きます」
「…では、頼もう」
レダンがひやりとした目で女官長を振り返る。薄寒い顔になった相手に、
「我が妻を元の愛らしい姿に戻すよう命じる」
「…かしこまりました」
「では、シャルン」
迎えに来るまで動くなよ?
優しい命令に頷いて、シャルンはレダンを見送った。