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これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー2 〜砂糖菓子姫とケダモノ王〜  作者: segakiyui
23.シャルンの決意

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3

 ああ、言われてしまった。

 脱力感に打ちひしがれながら、レダンはぼんやりと窓から外を眺めている。

 夜は深く、さっきまで泣いていたシャルンは、いまは静かに眠りについている。背後に響く呼吸が、苦しくて切なくて、胸の底に溢れる冷たさをどんどん増していくばかりで。

 窓を開け放つ。

 冷えた夜気にシャルンが目覚めてくれないかと振り向くが、疲れ切ったのだろう、呼吸は規則正しく続き、起きる気配さえない。

 のろのろとテーブルに戻り、シャルンが食べ残した料理の皿を眺めた。

 片付けを断った自分が疎ましい。

 それもこれも、こうして全てを残らず収めたかったから。

「俺は…かなりおかしい、な…」

 シャルンの唇に触れたスプーンにキスし、ゆっくりと残った料理を食べ始める。冷えて硬くなり、凍えて味もしない気がする。

 きっとこういう生活が待っているのだ、シャルンがカースウェルを離れてしまってからは。

 栄養だけは摂れるかもしれない、ガストが配慮を欠かさないだろう。けれど、肉も魚も野菜も何もかも、きっと何の味もしないだろう。

 国のどこへ出向いてもシャルンのことを思い出し、息苦しさに立ち止まり、砕けそうになる気持ちを引きずりながら、必死に公務を成し遂げるのだ、ただシャルンがそう望んだからと。

『陛下』

 耳の奥にあの声を聞きながら。

『陛下』

 仕事を終えては笑顔を探し。

『陛下』

「戻ったよ、シャルン、と呟く、か」

 歪んだ顔を片手で覆う、そうすれば全てが夢だったと言い抜けられそうで。

 しかし。

 かちゃん、とスプーンが指から滑り落ちる。

 零れ落ちた涙が止まらない。

 なぜわからない、なぜ届かない、なぜ信じてくれない。

 これほどの痛手を受けるのだと、どうして理解してくれない。

「あなたは馬鹿だ」

 苛立ちと怒りと悔しさと虚しさと。

「そんなものをあなたが背負わなくていいのに」

 この俺に背負わせてくれればいいのに。

 がりっと奥歯が嫌な音を立てて、顔を拭って急いで立ち上がり、窓を閉め、部屋を出る。

 破壊したい。

 全てを壊し尽くしたい。

 何をやっても無駄だ。

 何を願っても意味がない。

 シャルンを失う今、自分の命さえどうでもいい気がする。

「…どこへ行かれるおつもりですか」

「…ガスト」

「しかも、剣を引っさげて」

「…ああ」

 廊下で待っていたように壁から身を起こす相手に苦笑いした。

「予想してたか」

「大体は」

「シャルンが離縁を申し出た」

「…そうですか」

「ハイオルトを背負う気だ」

「……潜入しても結果は変わらないでしょうね」

 冷静に確かめられて、少し頭から血が引く。

「おそらくはな」

 はあっ、と大きく息を吐く。

「ハイオルトにまだミディルン鉱石が大量にあり、王の無策ゆえに国が飢え、民が苦しみ喘いでいると、奥方様が気づかれるのは必至」

「多分」

「で、あなたが捨てられた、と」

「…ちっ」

「王妃ですねえ」

「…王妃だよな」

 王妃などでなくてよかった。ただこの腕の中で笑ってくれる、小さな愛しい花で良かった。

 けれどそれはきっと、シャルンではないのだろう。

 見知らぬ異国へ、ただ国を守る為だけに、我が身一つを放り出し続ける覚悟を、あんな小さな体に秘めて、だからそうだ、暁の星に見えた、昂然と光を放ちながら、闇夜を開く、その輝きが。

「『薔薇の大剣』を掲げたからな」

 ふいに暗がりから声が響いて、ガストと一緒にレダンが振り向くと、サリストアが立っていた。

「正直、あれはギリギリだった。一歩間違えれば国交断絶」

 ひょいと肩を竦めてみせる、その手に剣があるのに眉を寄せると、

「いや、何となく、今夜のレダンの相手はガスト一人では厳しかろうと、な」

 苦い笑いは身内のしでかしたことを憂いている。

「…1対2か」

「闘技練習用のテラスを空けてある。来るだろう? 前哨戦と行こうじゃないか」

 顎をしゃくられて、肩を怒らせていた張りが抜けた。

「…ああ、頼もう」

 レダンは微かに笑って、先に歩き出した2人を追った。


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