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手紙を読み終えると、シャルンはしばらく泣き続けていた。
ルッカが居たたまれないように体を固くして立ち竦んでいる。
結構色々な修羅場をくぐってきたはずだが、愛しい女性がこれほど嘆いているのに何もできない無力を感じたのは初めてだ。
レダンは手紙を丁寧に畳んで封筒に戻した。
内容はこれまでの2通とほとんど変わらない。
シャルンに読ませかけた部分が新たに追加されたぐらいだ。
どうしようもない男だ。
冷えた思考でうんざりと思う。
自分の無策を娘に押し付けて、娘が自分の好きなものさえ望めないほど萎縮しているのにも気づかず、ようやく花開きつつあるシャルンになおも負担を強いて恥じる様子さえない。
それでも、シャルンの父親だ。
それに、とちくちく痛む胸で考える。
この文面ではどう見てもレダンが悪者だ。
しかもこの手紙が3通目だと言うのは事実、事実とでっち上げを巧みに織り交ぜられているあたりが対応が難しい。
「…陛下」
「何だ」
「お尋ね、しても、よろしい、でしょうか」
ひっく、と一瞬息を引いたシャルンがかわいそうで愛おしくて、レダンは頷く。
「何でも」
「手紙が、3通目、なのは、事実、でしょうか」
「事実だ」
「同じような、手紙を?」
「ああ、読んでいる」
「っ」
顔を上げかけたシャルンがまた堪え切れぬようにぼろぼろと涙を溢れさせた。
「3通目…」
小さな声が繰り返す。
「ひ、姫様…私、あの、もう少しお支度に時間がかかりますと、お伝えして参ります!」
ルッカが苦しそうに言い放って身を翻した。
「ありがとう…」
「どうか、どうか姫様、すぐに戻りますから!」
何を言えばいいのかわからなかったのだろう、必死に付け加えてレダンを見もせず部屋を出て行く。
こいつは振られるのかな。
レダンは足元が揺れる気がして眉を寄せた。
俺はシャルンを失っちまうのかな。
ぞおっと身体中が寒くなる。
間違っていたのかも知れない。
余りにも酷くて愚かな手紙だったから、シャルンに見せずにガストと2人で対処しようとした、それがまずかったのかも知れない。最初からシャルンに見せて、2人でどうしようかと話し合っておけば良かったのかも知れない。
それをしなかった理由は明白だ。
シャルンに悪者だと思われたくなかった。密かにハイオルトのことを調べ上げ、財政とミディルン鉱石のカラクリを知っていて、なのにシャルンの心配を減じてやらなかったことを責められるかも知れないと不安になったからだ。
なんてことだ、と苦々しくレダンは唇を嚙む。
真実をあからさまにしたくなかったのは、ハイオルトだけではなく、レダンも同じだったのか。
「シャル…」
「陛下」
「はい」
呼びかけて、予想したよりはっきりとした声で呼び返され、思わず畏まってしまった。




