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これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー2 〜砂糖菓子姫とケダモノ王〜  作者: segakiyui
19.ハイオルトの夢

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1

 温泉には体を温める効果があったのか、2人でゆっくり湯に浸かった後は、冷えた空気の中で体を拭いて着替えるのも、それほど辛くなかった。それでも待っていてくれたルッカはやや青ざめた顔をしていて、シャルンは申し訳なく思った。

 翌日の朝、遺跡を案内してくれるというマムールのことばに従って、部屋で支度をしながら、

「陛下が付いていて下さるのだから、ここで待っていてもよかったのに」

 凍えてしまったのでしょう、と尋ねると、ルッカはシャルンの髪の毛を編みながら、ふと手を止めた。

「ルッカ?」

「…姫様」

 いつもは使わないようにしている呼び名を使われて、鏡の中の相手を見る。

「どうしたの?」

「……お手紙を、お預かりいたしました」

「手紙?」

 いつだろう、と考えて,温泉に入っていた間だと気づく。

「どなたから?」

「…国王様より」

「え」

 思わず声を上げたのは、昨夜の夢に父親が現れたからだ。


 不思議なことに、父は昨夜の遺跡に居た。シャルンは一人でもう一度湯浴みにやってきていて、どうして私は一人なのだろうと訝っていたところだった。

 遺跡の石柱の奥に人影が見え、誰何すると音もなく現れたのがハイオルト13世だった。

 お父様、どうしてこんなところにおられるのです。

 夢の中で尋ねる声はあやふやに響く。

 こんなところとはおかしなことを言う。ここはハイオルト、そなたの故郷ではないか。

 父は低く唸った。

 その声と同時に、温泉の滴りで作られた景観が、あっという間にハイオルト城のそれと変わった。雪風の吹き込む城内、傾いた扉と凍てついた金具、風に鳴る庇に重い雪に軋む屋根。月光に輝くのではなく、ただひたすらに寒く痛い、冬の城。

 この城は凍りついておる、そなたを失って。

 王は恨むように呟いた。

 体が竦んだ。

 見捨てたのだ、そなたは、我を、この国を。

 いえ違います。

 シャルンは縮こまるような気持ちで訴える。

 私はずっとハイオルトを忘れたことなどありません。お父様の幸せを願い祈り続けております。

 ならば問おう、この惨状は如何なる報いか。

 父が示した扉が開き、みすぼらしい街に座り込む子どもらの姿が見えた。吹き荒ぶ寒風に薄い毛布一つもなく、必死に身を寄せ抱き締め合うその横で、身動き一つしない体が幾つもある。

 この国は、お前を失って飢えた。餓えた。もう、それほど保たぬだろう。

 そんなはずは。

 シャルンはことばを失った。レダンの笑顔が脳裏を掠める。

 その男はそなたを騙したのだ。

 まるでシャルンが誰を思い出したのか見抜いたように、王は嘲笑った。

 世間知らずのお前を手玉に取るのは容易かろう。だからあれほど、気に入られてはならぬと言ったのに。

 そんな。

 尋ねてみるがいい、なぜ里帰りを許さぬのかと。

 里帰り?

 幾度も頼んでおったのじゃ、幸福なそなたに一目会わせて欲しいと。なのに、その男はそなたを帰さぬ、病床に伏すこの老いた父の元に。

 シャルンは息を呑む。

 ご病気なのですか、お父様。

 聞いてみるがいい、ああ、よく聞いてみるがいい、聞いてみるがいい、シャルン!

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