2
黒髪を金髪に染めて、そのレダンしか受け入れないとシャルンが拒んだら、レダンはどうするつもりだったのか。
「意味に気づいていなかったとは言わせませんよ」
「ああ、じゃあはっきり言おう、気づいてなかった全く全然金髪に染めることで玉座を捨てるなんて想像もしていなかった、これでどうだ」
「…嘘でも、考えてたから悩んだとおっしゃって下さい」
ガストが深々と溜め息をつく。
「どうして、そこまで入れ込んでしまったんです」
「随分な言い草だな、王妃に対して」
「今のあなたは危うすぎる」
空になったカップに新しい茶を注ぎながら、ガストが続ける。
「側に居るのが私だから、何とか誤魔化せてますが、隙だらけで無防備です。一日何回シャルン妃の様子を見に行ってるか数えたことがお有りですか」
「別に構わないだろ、食事の後に機嫌よく過ごしているかと覗きに行くだけだ」
「お食事も毎食ご一緒ですよね?」
「夫婦だからな」
「公務が長引くと急ぎ寝室に向かわれますね?」
「1人で寂しい思いをしてるかもしれないだろ」
「朝もなかなか出てこられませんね?」
「今日1日、何をするかを聞いておけば、用事があれば居場所を探さずに済むからな」
「午前と午後にお茶の時間を取りたいとごねましたよね?」
「仕事をうまく回すには休憩は必要だろう」
「落ち着いて考えて下さい、シャルン妃の顔を見ていない時間帯が半日もないんですよ?」
「半日も離れると、シャルンが寂しがるだろう?」
「……レダン」
ガストがもう一度、深く深く溜め息をついた。
「あなたは立派な病気ですよ」
「いや、これまでにないほど元気だと思うが」
「いいえ、完全に病気です」
「病名はなんだ」
「恋わずらいですね」
ガストが言い放った瞬間、レダンは呆然と相手を眺めた。
「恋…?」
「それも重症です」
ガストが冷酷に突っ込む。
「一度、奥方様と距離を取られてはいかがですか。少し落ち着かれた方が、奥方様のお体にも良いのでは」
レダンの手からばらばらと焼き菓子が落ちる。
「いや…だって」
口ごもりながらレダンは血の気の引いた頭で必死に考える。
「そんな…シャルンと距離を置く……?」
「はい。最近、奥方様がお疲れのように見えます。不躾ながらお伺いしますが、夜に肌身離さずお側で休まれていたりはなさいませんよね?」
「え、いや、その」
「…人間、多少は1人の時間を作らないと、お互いに余計なものが見えたり不愉快なことに気づいたりしますよ?」
ガストが重々しく続けた。
「余計なもの…」
「例えばあなたが自分勝手で強引なところとか」
「うっ」
「実はとんでもないことばかり考えてるのに、いかにも誠実そうな礼儀正しそうな振る舞いを装ってることとか」
「ううっ」
「極め付きはあれですね、奥方の顔が見たさにやりかけの仕事を何やかやと理由をつけて放りだそうとするところですかね」
「うううう」
指摘されてレダンは唸る。覚えがありすぎて反論できない。
「シャルン妃は、王たる務めを放り出すような方はお好みではないのでは?」
「…そう、だろうな…」
頭ががんがんして不安になってきた。
愛らしく笑うシャルンが顔を強張らせ、囁くように訴える。
『…陛下、私のせいで陛下のお仕事が滞るようでしたら………私、ハイオルトに戻った方が良いのかもしれません…』
「ダメだダメだダメだ」
慌てて手を振った。
「待て、それはなしだ」
「……何を想像しているのか、わかり過ぎるほどわかる気がしますが」
ガストが冷ややかに尋ねる。
「それでは、しばらく公務を優先して下さいますか?」
「…わかった。そうする」
レダンは渋々頷いたが、はっと気づいて立ち上がった。
「陛下?」
「それでは、急ぎシャルンにそのことを説明しておかないと!」
「は?」
「公務優先にしてしまうが、決してあなたを嫌ったりはしていないと言ってこないと!」
「…へいか」
「すまん。先に説明してくる、仕事の段取りを整理しておいてくれ!」
「おい、あんた!」
走り出た部屋の背後から、ガストが喚いた。
「いい加減にしろよな、それがまずいって言ってるんだろうが!」




