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「…」
のろのろと相手が振り返った。
シャルンの凝視に、嫌々と言った風情で仮面を外す。
見慣れた紺色の瞳と、目を奪う金色の髪。
「あの、その髪は」
「…染めた」
「……お祭りのためですか?」
「…俺が」
ふいにレダンが眉をひそめた。立ち竦んだまま、そっと呟く。
「ギースのようなら……受け入れてくれたかと、思って」
伏せた瞳を上げる。切なげな甘い色に胸が痛んだ。
「バックルのように…奪えば、この手に堕ちてくれるのかな」
迷った頼りない声。
「陛下……」
「あなたの…望むものに、なりたくて」
けれど。
「あなたの、望むものが、わからなくて」
「陛下……レダン…」
「俺の知らないあなたも……全部欲しいんだ」
シャルンは溢れる涙に仮面を剥いだ。遮る全てが煩わしく、少しでも近く、レダンに寄り添いたかった。
随分ひどい顔だったのだろう、レダンが目を見開く。ためらう間もなく、告白する。
「陛下…私、ケダモノになりたかったのです」
「……」
「あなたを、欲しいまま、貪れる、ケダモノに」
ごくり、とレダンが唾を飲んだ。
「でも、無理でした」
シャルンは微笑む。
「私、ケダモノの振る舞いがわかりません」
「シャル」
何か言いたげに口を開くレダンに一所懸命に笑う。
「どうしたら、あなたを求められるのですか?」
みっともない顔のはず、涙で汚れて化粧も落ちて、仮面の方がよほど美しいはず、それでも、今持ち合わせるものはこの身一つしかないならば。
両手を差し伸べ、懇願する。
「私に教えてくださいませ」
レダンが凍りつく。
怯むな、と声がする。
望みのままに、思いのままに、この人の側なら、それができるはず。戦闘の中でも軽々とシャルンを踊らせてくれる、傷つき倒れる敵の間を宮殿の中のように歩ませてくれる、その腕の中なら。
「陛下のケダモノに、喰われとうございます」
「く、そっ」
レダンが舌打ちしたのはなぜだろう。
いや、そんな理由も、もはやどうでもよかった。
「シャルン、シャルンっ」
我慢の限界、そんな顔でレダンがドレスを蹴立てて駆け寄ってくる。重く華麗な衣装のまま、シャルンを強く深く抱き締めて、髪にも額にもそして頬にも所構わずキスを繰り返す。
「…あなたを…壊してしまうかもしれない」
低い声が呻いた。
「私は強欲な男だから」
「どうぞ、陛下の、思いの、ままに」
唇を奪われ、息が飲み込まれて、合間にシャルンは必死に応じる。
「私は、あなたの、妃で、ございます」
短く喘ぐ自分の呼吸にことばが切られていくから、すがりつく腕でも伝えた。
「離さ、ないで…っ」
「わか…ってる」
俺ももう、あなたから離れられない、許してくれ。
掠れた誓いに、シャルンは何度も頷いた。




