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これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー2 〜砂糖菓子姫とケダモノ王〜  作者: segakiyui
13.異国の王子

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2

 人々が一斉に振り返る中、金色ののっぺりした仮面の、黒と金の衣装を重々しく身につけた男が腕を開き手を払う姿があった。

「ああ失礼」

 何事もなかったかのように床に砕け散った酒のグラスを示す。

「せっかくの豊穣の実りを損なってしまったようだ」

 促されて、急いで女官が片付けにかかる。

 男は新たなグラスの酒を一口飲むと、朗らかな口調で尋ねた。

「皆様はなぜ仮面をつけておいでかな」

 王を王とも思わぬ口調、からかうような響きにサグワットがムッとした顔で振り返る。

「そこにおられる御仁が、どうしても王として姫を追い詰めたいなら、私は守りの者一人付かない彼女に騎士として馳せ参じよう」

 黒衣を翻すとマントの内側には金銀の刺繍、よく見れば、衣装そのものにも黒糸金糸で隙間なく刺繍が施されており、金色の仮面の上には布で縫い上げられた花と王冠が飾られ、無数の宝石が輝いている。

 バルゼルの面だ、とひそやかな囁きが広がる。豊かな祭のために不心得者を罰する男神の面だ、と。

「さて、王妃よ」

 立ち竦むサグワットとシャルンの間に入った男は、背中にシャルンを庇いながら、芝居じみた声で言い放つ。

「滅多なことは申されないほうが良い、王たる者がどこに潜むかわからぬのだぞ? あやつはまことに神出鬼没、最愛の妻に愛想を尽かされかけていると聞きつけたなら、今夜にでもこの国に宣戦布告に及びかねんが?」

「陛下とお知り合い、なのですか」

「ああ、シャルン妃、そこを突っ込むんだ、いいねえ、とてもいい、こんな状況なのにね」

 一転して砕けた口調で返してくすくす笑った後、

「一体レダンはどうしてるんだ、こんな状況にあなたを放っておいて? これじゃあ愛想を尽かされても仕方ないだろう。ガストまで居ないってことは、盗賊団『バルゼボ』絡みかな?」

 いろいろと心得た口調で尋ねてくれた。

「わ、からないのです」

 シャルンは涙声になりそうなのを堪えた。

 レダンからすぐに合流できないとの使者が来たのはつい先ほどだ。それだけでも心配なのに、1人で公式の挨拶をしなくてはならなくなり、心細さが増すばかりだった。

「どうして陛下が来て下さらないのか」

 もし、この広間に居るのなら、なぜシャルンの窮状を見ているのか。

 それはひょっとして、試されているのか、王妃として。

「きっと、私が王妃としては」

「そんなことを思わせた時点で、夫失格だな」

 肩越しに言い捨てて、男は今度はサグワットに向き直る。

「賢明なる、懐深き、サグワット王よ? 今宵は『宵闇祭り』、美しい姫は愛情豊かに抱き上げてこそ正しい所作と心得る。ならば私がこの姫を攫っても異論はないな?」

 サグワットが苦しげに唇を噛み、

「祭りを、楽しまれよ」

 低く唸って背中を向けた。

「バルゼルとナルセルに抗う者はどこにもおらぬ」

 苦々しく吐き捨てながら玉座に戻る。その肩が少し落ちたようだ。

「では今宵のあなたの夫は、私だ」

「あっ」

 風に巻かれたような一瞬の後、シャルンは相手に強く手を引かれて広間を出た。


「あははは」

 相手はザーシャルの城をよく知っているようだった。入り組んだ城内を飛ぶように走り抜け、やがて誰も居ない噴水にシャルンを導いたかと思うと、腹を抱えて笑い転げる。

「見たかい? いやあ、久しぶりにすっとした! サグワットも計算ずくの割には詰めが甘いよなあ!」

「あの…」

「え? 気づいてなかったのかい? 嘘だろ、あそこまで容赦ないことやっておいて」

 戸惑うシャルンを振り返り、まあ座って、と懐から出した布を敷き、噴水横のベンチにシャルンを座らせる。

「サグワットはね、君を取り戻そうとしたんだよ」

「…え?」

 戸惑いながらシャルンはやり取りを思い出し、なおも首を傾げる。

「あの、私を?」

「よく調べてるじゃないか、可愛いもんだね。ああいうやり方をしたら、君が同情して引け目に思って交渉に持ち込めると思ったんだよ、ずるいな、大人はさ」

 ましてや、あんな場所で、自分はカースウェルの王妃にふさわしくないなんて公言したら。

「かわいそうだろ、レダンがさ」

「でも…」

 軽く詰られ、シャルンは俯く。視界を遮る羽に守られた気がして呟く。

「陛下は私をお望みではありません」

「なぜ」

「…」

「私にしてみれば、こんな諸国遠征までして回って、俺のものだと触れ歩いてて、必死さが痛いぐらいなんだが」

「それは招待状があったから」

「招待状がなぜ来たのかって考えなかったの?」

 相手は笑いを含んだまま、覗き込んで来た。金色の仮面の奥から緑の瞳が輝いて、シャルンを射抜く。不思議と怖いとは思わなかった。


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