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これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー2 〜砂糖菓子姫とケダモノ王〜  作者: segakiyui
12.仮面をつければ

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2

「…まあ……」

 近くにつれ、溢れ出す色彩にシャルンは息を呑んだ。

 金銀赤銅色は言うに及ばず、紅に緑、朱に紺藍、水色紫黄色にピンク、土色黒白青黄緑。

 巨大な羽飾りや大輪の花、宝石金鎖真珠に貴石、リボンレースフリルひだ飾り。

 黄金の鳥籠を抱えた者、銀と青の錫を持った者、煌めく玉を掲げた者、鮮やかな扇子を動かす者、髪飾りとして船や聖堂、小さな城を乗せた者。

 幾重もの光沢のある布、空気のように淡く閃く薄物、長く引かれた裳裾、からげられて艶めかしく彩色された手足、布や紐を束ね重ねて作られた花や鳥や獣や木々。

 仮面にも名家の刻印や浮き彫り、鮮やかな模様、宝石や羽、リボンや飾り紐が瞳の部分だけを残して様々に飾り付けられている。

「男がいいかい女かい、それとも化け物がいいのかい?」

「望まれたい女はあちらへ行きな、飾りたい男はこちらへ来な」

 賑やかな声が呼ばわる、人々の熱気をなおも高めるかのように。

「そんな安っぽいのはおよし、あれなら至高の逸品だ」

「ドレスも一緒に奥で揃えて行きな、まだまだ夜は長いよ」

 次々と売られていく仮面の波は奥へ奥へとシャルン達を誘い込む。

 馬車の立派さにシャルン達の周囲がわずかに空間を作ってくれて入り込んでいくが、この人混みでどうやって仮面を買い求めるのか。

「馬車でお待ちください、意匠をお伝えくだされば、私共が買って参ります」

 案じたルッカが声をかけてくれたが、それよりもシャルンは1つの仮面に吸いつけられて目が離せなかった。

 これはどう言う意匠だろう。

 中央に白い上品な顔の仮面がある。くっきりと描かれた眉、整った鼻、真紅に塗られた鮮やかな唇。だがその周囲を首の部分だけ残して赤い羽が覆っている。羽の背後にはまるで太陽を思わせる赤と黄色の布で作られた数本の角のようなものが四方に伸びて生え、その先端には宝石がきらめいている。仮面の片方の目のあたりからもう片方の頬にかけては、絡みつく蔓のような模様が金銀で描かれ、額には金色の捻り角が2本、刺々しく突立ち、金の鎖を絡めてある。

 猛々しくて禍々しい、恐ろしささえ感じる顔。

「奥方様、どちらへ」

「あれを見てみたいの」

「ベルル、早く!」「はい!」

 思わず馬車を降りたシャルンにルッカが慌ててベルルに命じ、それでも不思議と人波の中を流されもせずに、その仮面の店に近寄れた。

「男がいいかい、女がいいかい、それとも化け物がいいのかい?」

 黒いネズミの仮面を被った店主が誘う。

 熱に浮かされたようにシャルンは指を差し伸べた。

「あれを」

「はいはい奥方様、仰せの通りに」

 シャルンの姿を見て、すぐに身分が高いとわかっただろうが、店主は動じなかった。にこやかな声で仮面を取り外し、

「カースウェルのケダモノの仮面でございますよ」

 恭しく差し出す。

「カースウェルのケダモノ…」

「かつて名を馳せた『バルゼボ』を魔性の力で食い破り屠った、非道な男の仮面でございます」

 店主の瞳がじっとシャルンを見つめる。

「本当によろしいのでございますか」

 まるで、こう尋ねられるように聞こえる。

 この仮面を被ったが最後、あなたも非道なケダモノとなりますが、それでもなお?

「……私は…」

「奥方様」

 側に擦り寄ったベルルが不安そうに見上げるのに、シャルンは薄く微笑む自分を感じた。

「私は、ケダモノになりたいのです」

 そうして、愛しい方を強く捕らえてしまいたい。

 胸の奥で小さく響いた声に、シャルンは眉を寄せた。

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