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2

 雲が速く流れていく。上空は風が強いのだろう。

 吹き乱された髪が視界を遮る。

「俺はシャルンに何かしてやりたい。その上で」

 俺はシャルンに選ばれたい。

 レダンは苦しい息を吐く。

「俺は何でも手に入る。王だからな。カースウェルに嫁ぐしかなかったから俺を愛してくれるんじゃなくて、他のどんな国の王と比較しても、誰よりも俺を望んでいると言われたい」

 媚薬なんか使わずに。

「…それで、カースウェル国内を放って諸国行脚ですか」

 ガストが溜め息混じりに応じた。

「あんたも大概めんどくさい人ですよねえ」

「ほっとけ」

 そのめんどくさい男に付き従うんだぞ、これからも延々と。

「あんたにはわからんでしょうが」

 振り向いたレダンにガストは肩をひょいと竦める。

「『それだけで』幸運だったと思う男だっているんです」

 冗談かと思ったが、ガストの目は笑っていなかった。

「あんたが即位する前は、まあ色々ありましたよ、カースウェルでも」

 賑わう屋台をゆっくり見回すガストの顔が、やや幼い表情になる。

「孤児は路上で死にかけてるし、老人は部屋に押し込められて身動きしなくなってくし、じゃあ働ける若い者に明日があるかって言われると、死ぬのが早いか遅いかってだけの話だったり」

 ガストは目を細める。

「もう少し早くあんたが即位してくれてりゃって、何度思ったか」

 ガストの両親の話だとわかった。

 レダンは黙って続きを待つ。

「誇りをお持ちなさい、レダン。あなたが即位し、カースウェルは確かに良くなったんです。奥方が楽しいと喜ばれるほどの国になったんだ」

 それはあなたの功績だ。

「奥方一人に惚れ込むあなたも楽しいですが、それで自分を卑下するのはおやめなさい」

 それはあなたの治世で潤っている私達の傷みになる。

「もし、シャルン妃があなたを苦しめるしかない女性なら、私は容赦なく斬らせて頂きます」

「ぷ」

 レダンは吹き出した。

「…何ですか」

「いや、容赦なくって、その前にまず俺を諌めるだろう、マヌケだとか甲斐性なしだとか人でなしだとか」

 お前がシャルンを離宮に住まわせることに抵抗したのを、俺は覚えてるぞ。

 レダンはくすくす笑いながら、薄赤くなったガストという世にも珍しいものを堪能する。

「あれは…あんたがあまりにも無粋なことを言い出すからでしょうが。ろくに手入れもしてないところに不安がってる妃を放り込むとか、いくら人目構わずいちゃつきたいからって、やっていいことと悪いことがあるでしょう」

「だからお前が手入れして、小物も揃えてくれたんだよな、ああ、ほんと感謝してるぞ」

 けれど肖像画は外さなかったんだよな。

「あれで俺は危うくシャルンに振られかけた」

「あれは外せないでしょう、離宮は今でもあの方のものなんだし」

「ほんとに戻ってこないつもりだよなあ」

「はい、戻られないでしょうね」

 何となく2人顔を合わせて溜め息をつく。

「さすが俺の母親だよな」

「カースウェルのケダモノの母ですからね」

 満面の笑みになったガストにレダンは舌打ちした。

「そろそろ仮面を買いますか」

 構わずガストは店を示す。

「あんまりこうしていると、噂の少年を思い出す者も居るかもしれませんよ」

「だよな」


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