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「え、いえ、あの、そういうことでは」
話が妙な方向に流れて、シャルンは慌てる。
「私はとても幸せなのよ、お茶も、ほらこの焼き菓子もとても美味しいし」
「このような焼き菓子で、お喜び頂けるならば」
きっとした顔でカトリシアが顔を引き締めた。
「私、奥方様のために、もっと美味しいお菓子をご用意いたします、絶対に!」
「それなら私は!」
負けじとマーベルがこぶしを握る。
「奥方様のドレス、どなたにも負けないものを必ずご用意いたしますわ!」
「私はガスト様に交渉します、ええ、お望みがあるならば、何だってお応えできるように一歩も引きません! 王付き執務官がどれほどのものですか!」
イラシアが胸を張って頷く。
「あ、あの…」
すごく嬉しい、自分のことを思って皆が頑張ってくれようとしてるのは、本当に嬉しいのだが、何かとんでもない方向に突っ走っていないか。
助けを求めてルッカを見たが、相手は女官達の宣言にうんうんと満足そうに頷いているだけだ。
「あの、ルッカ…」
「奥方様」
呼びかけた矢先、誰かがふんわりと手に触れてきて振り向くと、ルッカに負けず劣らず目を潤ませたイルラが、深々と頭を下げながら、
「失礼をお許しください。今まで私共は多少なりとも奥方様をお慰めできていると勘違いしておりました」
いや、勘違いではない、それは十分正しいのだ、ここでシャルンはどれほど幸福に暮らしているか知ると、ハイオルトの父は驚くばかりだろう。
「イルラ…」
「名前を呼んで頂けるとは、もったいのうございます、奥方様。いえ、慣習でそうおよびして参りましたがお妃様とお呼びしなければいけなかったのですね、私達。それで、お妃様のお悲しみに気づくことができない未熟な距離におりましたのですね」
「それは」
「私、決心しました。この先、どのようなことが起こりましょうとも、ルッカ様の下、私共5人、お妃様のお味方でございます。ご安心下さいませ」
「あ、の…」
「付きましては、今後お妃様の身の回りのお支度は私が完璧にご準備いたしますね」
「は、はい…ありがとう、ございます」
あまりの気迫に思わず押されて、けれどもこれだけは、と
「あの、公式には妃、で良いのですけど、こうして皆さんと一緒の時には奥方の方が、私は好きです。妃だと、皆さんと離れているようで、少し寂しく」
「お妃、いえ、奥方様っ!」
イルラががつっと手を握ってきた。
「どうぞ、全ては奥方様のお望みのままに!」
「は、はい…」
これはどうして収拾したものだろう。とシャルンが握られたままの手をそっと動かすと、はっとしたようにイルラが手を離してくれた。
お茶のお代わりをお持ちしますね、焼き菓子はもう少しいかがですか。ジャムももう少しお持ちしましょう。上に羽織るものが必要かもしれませんね、見繕ってまいります。
さすがに興奮度合いが照れ臭くなったのか、女官達が一旦それぞれ席を外す中、ベルルとルッカが残っていてくれる。
「奥方様」
「はい」
そっと控えめな口調でベルルに話しかけられてほっとした。この女官は落ち着いていてくれているらしい。
だが。
「私、少し医術の心得がございます」
「はい?」
「奥方様の御不調の時はもちろん、必要時にもお応えできます」
「必要時とは?」
ひょっとしてそれはまた媚薬とか何とかだろうかと考えたシャルンの予想は裏切られた。
「毒薬痺れ薬などの類も調合できますので、いつでもお申し付けくださいませ」
奥方様のためなら、最強の薬を作ってご覧に入れます。
「…ありがとう、ベルル」
無邪気に笑うベルル、なお満足そうに頷くルッカに、シャルンは微妙に頭痛を覚えた。




