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これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー2 〜砂糖菓子姫とケダモノ王〜  作者: segakiyui
10.伝説の祭

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「『宵闇祭り』は古い古いお祭りです」

 ルッカが話し出すのを、シャルンはもちろん、周りに侍る女官達も興味深そうに耳をそばだてる。

 風が少し強くなっていた。

 けれども日差しは暖かく、テラスに出された机にお茶と焼き菓子、花弁や果物を煮詰めたジャムが並べられ、今ばかりは無礼講と女官もルッカも小さなカップと焼き菓子を手にして、皆寛いでいる。

 1人で食べるのは寂しいわ。

 シャルンが言い出したことだった。

 いつもならルッカがお茶を淹れ、シャルンが飲むという形なのだが、今日は珍しい話を皆で聞きたい、皆でお茶を楽しみたいと望んだのだ。

 女官達は驚き、喜んだ。

 カースウェルは国土が広いわりには人口が少なく、穏やかな領主達が分割して治めている。

 1年に1度、各領主達が城に集まり色々な問題を合議する。領主は世襲制だが、子どもがいなかったり継ぐことを誰も望まなかったりと言う場合もあり、その場合も合議で次代が決められる。

 領主を継がないと言うのは不思議な感覚だが、領主と呼ばれるものが屋敷こそ大きいものの、各領地の管理業務を一手に引き受ける負担も大きく、王であるレダンはフラフラとしょっちゅうあちこちに出没して領地の動きを視察するので気が抜けない。それゆえ、利益と負担を秤にかけるとお断りすると言う輩も出てくるらしい。

 それでも城の中では仕えるものと仕えられるものの違いは歴然で、境界を越えてのお茶会など滅多にあることではない。

「今の王様の、先代の先代の先代の先代の、つまりはううーんと昔に廃れてしまったお祭りで、元々は実りの豊かさに感謝するものだったそうです」

 ルッカが話を続ける。

「ああ、それでこの時期なのね」

 焼き菓子に印刻された穀物の図案を眺めながら、シャルンは頷く。

「はい、様々な穀物が実り、山や野原に果実が溢れ、寒くなる前の産卵に魚も肥え太っております」

「いろいろなものが美味しゅうございます」

「ワクバの塩焼きとか、マルリのよく熟れたのを皮を剥いて頂くとか」

「デコンも捨てがたいですよ、表面は硬いのにまあ中身がほくほくと美味しくて」

「奥方様、いつか是非、ヤワスの蒸し煮をご賞味下さい、もう蕩けるほど甘いんですよ」

「メルの下町ではビーガが山盛りにされると、この季節になったのだとわかります」

 女官達が口々に幸福そうに話すのを、シャルンは楽しく聞く。

 ワクバもマルリもデコンもヤワスも、もちろんビーガも知らないけれど、皆の口調から、豊かな実りが城や王族で独占されずに、国のそこかしこで楽しまれているとわかる。それもまた嬉しい。

「昼に準備をして、夕方から夜にかけて皆、仮面をつけて街に繰り出すそうでございます。仮面をつけている者には正体を尋ねないこと、ダンスを申し込まれたら1度は必ず踊ること、2度目は必ず断ることが約定で」

「ああ、それで『宵闇祭り』」

「無礼講でダンスは1度は必ずと言うのはわかるけど、どうして2度目は駄目なのでしょう」

 女官の問いはシャルンも知りたかったことだ。

「このお祭りは『豊かな実り』を楽しむものですからね」

 ルッカがにんまりと笑った。

「ああ、そう言うこと」

「まあ大変」

 くすくす笑い出す女官達にシャルンだけがわからない。

「『豊かな実り』? それがどうして2度目は駄目なの?」

 一瞬女官達が笑いを止めて、微妙にもじもじと恥ずかしげな気配になった。ルッカが生暖かく笑いながら、

「1番目の人がいいとは限りませんし、ひょっとすると2番目、3番目の方が相性が良いと言うこともありますでしょう」

「あ、ああ」

 ようやく通じてシャルンは顔が熱くなった。脳裏を媚薬の小瓶が掠める。

「そう言うお祭り、なの」

「そういう意味もあるということでございますよ。ただ、無体は実りの神々にも不敬ですし、無理強いするような輩は仮面を剥いでよいそうでございます。街中仮面をつけております。店の者も通り行き交う者全て。その中で仮面がなくて素顔を晒すことは随分みっともないことでございましょう」

 確かにそれはいろいろ目立って困るだろう。

 素顔を晒すということは、祭りが終わった後も、祭りをうまく楽しめない不調法ものとして知れ渡ってしまうということだ。どのような仕事についているにせよ、ひどくやりにくくなるのは目に見えている。

「ですから、街へ入る時に仮面を1つ買い求め、そこを通り過ぎたら2度とは買えない仕組みになっているそうです」

 それに。

 ルッカは少し考え込むような顔になった。

「それに?」

「実りの神々に扮して、無粋な輩を取り締まる者もいるかもしれません」

「実りの神々に扮して…」

「バルゼルという男神と、ナルセルという女神ですよね」

 女官の一人、カトリシアが頷いた。ビーガが山盛りになるというメルの下町から来た娘だ。

「昔祖母から聞いたことがあります」

 カトリシアが話し出す。

「闇の夜が続いたので、バルゼルとナルセルは二人で光を作ることにした。まず1度踊り、2度踊った。光はなかなか生まれなかったので、3度踊り、4度踊った。やがて光が生まれ、それが昼となった。バルゼルは捻った角の生えた神で、ナルセルは裳裾引きずるような長い髪の神です」


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