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2

 それから隙を見ては返そうとしていたのだが、シャルンもどうやら探しているらしく、小机周辺からなかなか離れてくれない。侍女に申しつけて戻すにも、薬まで使って非道な振る舞いでもするのかと勘ぐられそうで嫌だし、万が一シャルンに媚薬だと分かったと知られたら、それはそれで収集がつかなくなりそうで怖い。

 ただでさえ、遊んでいるなどと余計な事を吹き込んでくれたのもいるのだし。

 昼は公務があるから良いとして、夜は小瓶を目にするたびに落ち着かなくなる。

 一体シャルンはなぜこんなものを持っているのか。

 どこから手に入れたのか。

 どう言うつもりで手に入れたのか。

 そしてここが最大の問題だが、どうしてレダンに使ってくれるつもりがなかったのか。

「…他のやつ、とか…?」

 ベッドに寝転びながら小瓶をくるくる回して眺める。

「例えば、あのクソ教師か?」

 さすがに国外追放などしてはシャルンが驚くだろうから、それとなく理由をつけて、城から遠ざけ、地方に住む場所を変えさせたりしたのだが。

「…馬車もあるよなあ…」

 会おうと思えば会えないこともない。

「……どうする気だったんだ、こんなの」

 例えば小瓶を手にしたシャルンがあいつを待ち、やってきたあいつがにっこりとシャルンを誘い、ついでに二人で軽い酒などに垂らして。

「……畜生」

 頭の中が靄で覆われて唸る。

「俺だって『まだ』なんだぞ」

 それともあいつか、とレダンはギースの事を思い出す。

 シャルンはギースをグラスタスと呼んだ。幼名で呼ぶなんて、よほど近しい関係だ。

 けれど、そんな関係ではなかったはずだし、第一、ギースに傷つけられたのではなかったのか。

「……」

 小瓶を眺める。

 本当は気づいている。

 シャルンはたまたま、あるいはみっともないから取り柄がないから、諸国の王に断られている訳ではない。意図的に、恣意的に、彼女は賢く立ち振る舞って破談を導いているのだ。

 そんなシャルンがレダンには嫁いでくれた。

 理由は簡単だ。

 レダンがずる賢く逃げ道を塞ぎ、しかもハイオルトの安寧を餌に脅したからだ。

 シャルンは頷くしかなかった、嫁ぐしかなかった、レダンの元に。

 今までの王とどこが違う。

「………」

 溜め息をついた。

 ケダモノになれない理由だ。

 レダンはシャルンに望まれていない。

 小瓶を指先で回す。

 望んでさえくれればいつだって応じるつもりがあるのに、こんなものを持っているのに使ってもくれない。

 小瓶を返したくない。

 返したら、シャルンが誰かに使ってしまう。

 ただでさえ可愛いシャルンが、こんなものを使ってもっと愛らしくなってしまったら、堪えられる男など絶対いない、断言する、玉座をかけても良い。

「はあ…」

 泣きたくなってきた。

 シャルンの顔が見られない。

 見たら最後、所構わず押し倒しかねない。

 なのに今夜は、同じ部屋で同じベッドだ。

 煮詰まっていたら、シャルンを追い詰めてしまった。

 大人気ない。

 男らしくない。

 どうしようもない、ばかだ。


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