はじまり
「暑いんだが」
「本当それ」
俺達兄妹はとにかく面倒臭がりである。外に出る気力も無ければ、学校に行く気力も無い。しかし、兄妹のコミュニケーションだけは取れるのである。おかしな話だ。
俺の名前は藤ヶ崎零。中学時代を不登校で過ごし、高校にも行かず、こうして十七歳になった今も引きこもっている。しかし俺はニートでは無い、自宅警備員だ。
「うぁぁ・・・」
隣で床に突っ伏しているのは妹の麗奈、十六歳。見てくれは美少女なのに中身は面倒臭がりである。勿体ない。
「お兄ちゃん・・・暇」
「俺に言うな」
今日もいつもと同じように昼に起き、飯を食べ、また寝て。そんな生活を繰り返している。
「寝るか」
俺は目を閉じようとした。
「ぐッ・・・!?」
おかしい、明らかにおかしな明るさの閃光が走る。
「麗奈...!」
刹那の暗転、そして覚醒。
「・・・?」
「・・・?」
兄妹揃って間抜けな顔で辺りを見回す。無理は無い。そこには、現実ではまずお目にかかれない光景が広がっているからだ。
広大な草原、背後に深く生い茂る森、草原の奥に見える壁。全てが真新しいものだった。
「成程、分かったぞ」
「なに?」
「俺達、結構面倒臭いものに巻き込まれたらしい」
所持品を確認する。どうやら着ていた服以外は全て持っていないようだった。麗奈も同様である。
「お兄ちゃん」
隣から麗奈に話しかけられる。
「なんだ?」
「これって、俗に言う異世界転移ってやつじゃ・・・」
「そんなまさか・・・と言いたい所だが、そうかも知れないんだよな」
そう、明らかにラノベとかの異世界転生とほぼ流れが同じなのだ。これでは、否定したいのに出来ない。
俺は壁に目をやる。大きな扉があり、そこに小さくだが人の流れが見える。
「おい、我が妹よ」
「なに?その呼び方きもいよ」
グサッ。そんな音が聞こえた気がした。
「あの壁、多分城塞都市の壁だ。人の流れが見える」
「そうなんだ」
まぁ見つけてしまったからには行くしか無い。
「行くぞ」
「めんどくさい」
「行くんだよほら」
俺は麗奈を引きずりながら壁の前に辿り着いた。遠くから見た感じでは綺麗だったが、近くで見ると小さな爪痕などがあり、結構怖い。
くい、と麗奈が俺の服の裾を引っ張る。
「ギルド探さない?」
俺の妹にしては良い判断だ。色々情報を集めなければならない。
街に入ると、そこは活気が溢れていた。屋台を出す商人、そしてその商品を買う人、追いかけっこをする子供たち。現実はこんな感じじゃなかった気がする。
少し歩くと、大きめな建物が見えた。看板に《ユグドラシル冒険者ギルド》と書いてある。しかし、ここで疑問が上がるのだ。何故俺は見たことも無い言語が読めるんだ?まぁ成り行きでなったと考えるのが妥当だが・・・。そういう事にしておこう。
麗奈を連れてドアを開けると、武器を持ったイカつい男達が雑談や喧嘩をしていた。
「お兄ちゃん、あそこ」
妹の指さした先には、受付のような場所があり、そこに女性が立っている。
「こんにちは」
俺達が受付に向かうと、受付嬢が柔和な笑顔を向ける。いかん、女性の笑顔には弱いんだ。ただし妹は除く。
「冒険者登録をしたいのですが・・・」
「分かりました、ではこちらの石を合図があるまで握っていて下さい」
受付嬢は俺達に透き通った小さな石を差し出す。麗奈はなにやら困惑気味だ。
「あの、これは・・・」
受付嬢は振り返るとウインクしてこう言った。
「ステータス診断ですよ」
石を握る。
「・・・!?」
兄妹二人して驚きの表情を浮かべる。石が光り、体の中心から石を握っている手の指先へ、指先から石に何かが流れ込んでいく感覚がする。
やがて流れを感じなくなると、受付嬢が合図をした。
「もういいですよー」
俺達は石を受付嬢に返す。
「さてさて、ステータスはっと・・・ッ!?」
受付嬢が驚愕の表情を浮かべるのを、俺達兄妹は不思議そうな顔で見つめる。
「あの・・・どうしかしたんですk「どうしたじゃありませんよ!」」
「ひうっ」
あまりの声の大きさに、麗奈が驚いて飛び跳ねる。そんな事気にもせずに受付嬢は二枚の紙を提示する。
「お二人、お名前は?」
「零です」
「麗奈」
「そうですか、この紙を見て下さい。こちらが零様、こちらが麗奈様のものです」
《零》
パワー[B]
防御[B]
スピード[A]
ステルス[C]
体力[S]
魔力[SS]
創造[規格外]
《麗奈》
パワー[C]
防御[D]
スピード[SS]
ステルス[EX]
体力[SSS]
魔力[S]
創造[規格外]
ん?なんかおかしいな。一般的な異世界転生物だと全ステータス最強なんだけど・・・。
俺がそんな馬鹿な事を考えていると、受付嬢が口を開く。
「お二人に適正のある職業は・・・」
ゴクリ。俺の麗奈は受付嬢を固唾を飲んで見つめる。
「創造者です」
「「は?」」
俺達兄妹の声が見事にハモった。
「何その地味そうな職」
「もっと強そうでかっこいい職無いの?」
受付嬢の発言に対して俺達は容赦無く難癖を付ける。すると受付嬢は困惑しながら、
「お二人は魔力値が高いですし、創造力に至っては評価規格外なので、魔力消費の高い創造魔法でも行使出来ますよ?レベルが上がれば材料が無くても想像しただけで物を顕現させられる程の魔力があります。」
「「むぅ・・・」」
そこで俺は冷静に考える。材料が無くても作れるようになるって事は、材料があれば作れるって事だよな。つまり俺達は現実の知識をそのまま引き継いでるから・・・。
そこまで考えて、俺は勝ちを確信した。
「OK、その職でいいよ。」
うっかりタメ口になってしまう。
「分かりました、ギルド登録祝いでこちらの5000シリスを差し上げます。この金額があれば上の宿屋に三泊は出来るのでよろしければどうぞ。あと・・・」
受付嬢は奥に入るとなにやら箱を持ち出してきた。
「最初は上手く出来ないかも知れませんが、こちらに剣を作れる程度の材料を用意しました、こちらは創造者になった全員に配布しています。それとこちら、冒険者カードです。スキル習得をすると表示されるので、こまめにチェックして下さいね。では」
そう言い放つと受付嬢は奥に行ってしまった。
「お兄ちゃ「行くぞ」」
俺は麗奈の言葉を聞くとこ無く、材料の入った箱と貰った5000セリスを持ち、麗奈の手を引っ張って二階へ上がる。
二階へ上がると、愛想の悪そうなおっちゃんが本を片手にこちらを見ていた。
「三泊、一部屋でいい」
「あいよ」
おっちゃんは鍵を俺に渡し、本を読み出す。俺は麗奈を部屋に入れ、座らせる。
「お兄ちゃん、近●相●は駄目」
「違うわい」
そう、この時点で俺は気づいていた。
「俺達、この世界で最強になれるかもしれない」
最後まで読んで頂きありがとうございます!
初投稿ですよ初投稿!
いやードキドキしますね。
まぁ私の無いに等しい語彙力では人気も出る訳ありませんが(´・ω・`)
楽しんで読んで頂けたなら幸いです。
続きを書くかは分かりませんが、またお会いしましょう!