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デッドハーレム  作者: fumo
第1.5章 現代社会のギフテッドたち
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下着屋と後輩たち

「とりあえず、適当にブラついてりゃいいのか?」


「そうね。そのうち現れると思うから」


 ブラウスとスカートに着替えた星崎と連れ立って、駅近くの商店街を歩く。星崎が店長さんに早引けを了承してもらえたので、早速今日から行動することになったのだ。


 中西と前澤は、少し離れた位置から周囲を警戒しつつ付いてきている。怪しい奴を見かけたら知らせてもらう手筈になっているのだが、成功報酬に目が眩んだ二人はやけに張り切っており、逆にあいつらが第三者に通報されてしまわないかが少し心配だった。


 なお、この布陣は星崎が選んだ。曰く、


「消去法よ消去法。あの二人に比べればあんたがいちばんマシだもの」


 とのことだ。まぁ、無難な選択である。

 あいつらと並んで歩くところを知り合いに目撃されようものなら、翌日には堕胎費用のカンパが始まっていてもおかしくはないからな。


「あ、ちょっとそこに寄っていくわ」


 そう言って星崎が示したのは、横文字の店名を掲げた小さな店舗――ランジェリーショップだ。


「ああ、そういやお前、ブラついてるんだったな」


 ブラは着いてない故に。ずっと鞄でガードしてたのはそのためか。透けブラならぬ透け乳しちゃうからな。


「……あんた、さっきから親父くさいわよ」


 胸元に鞄をぎゅっと押し寄せて、星崎がジト目を送ってくる。

 いかんな。どうにも最近、親父菌の侵食が激しい。


 店員のおねーさんの甲高い声を受けながら、店内に入る。

 

「え、なんで付いてきてるのよ?」


「ん? 外で待ってた方が良かったか?」


「当たり前じゃな――ああ、でもそれはそれで彼氏を待たせてるみたいでなんか嫌ね」


 よくある光景だな。あのなんとも所在なさげな男の顔は、見ていて寂寥感が込み上げてくるものだ。


「っていうか、普通男ってこういうところに入るのは嫌なんじゃないの?」


「慣れてるからな」


「なんで男子高校生が女性用下着ショップに慣れてるのよ……」


 慣れてるのだ。一応ハーレムの前半は正当にハーレムしてるので、デートの経験は数えきれないほどある。下着屋に二人で入って赤面したりされたり店員さんにからかわれたり一緒に試着室に入って生着替えからのイケナイ雰囲気に突入、といったベタなイベントはひととおりこなしている。


 まぁ、だいたい一線を越える直前で別のハーレムメンバーが乱入してきて、修羅場待ったなしの展開になるんだがな。

「待て」「違うんだ」「これには深いわけが」。俺の発してきたセリフの中でも、使用頻度で上位に位置するワードたちである。


 今にして思えば、あの不可解なまでにばっちりだったタイミングも、紫月の介入によるものだったのだろう。安易に流されずに済んだことを感謝するべきか、修羅場を増幅させたことを恨むべきかは、判断の迷いどころだ。

 あいつのことだから、八割方俺がいい思いをするのが気に食わなかったとか、そんな理由だろうし。


「で、どうすりゃいいんだ?」


「んー……まぁいっか。どうせすぐ終わるし」


「お前らの「すぐ」は信用できねぇんだよなぁ……一時間ぐらいか?」


「は? なんでそんなにかかるのよ。五分もあれば充分でしょ」


「なん……だと……?」


 驚愕に目を見開く。丸々一話使ってお披露目した○解が、あっさりと破られたような気分だ。

 五分、だと……!?


「星崎、お前ほんとに女か……?」


「失礼ね。あたしに言わせりゃみんなが迷いすぎなのよ。こういうのはびびっ、ときたものをささっ、と選べばいいの。時間がもったいないじゃない」


 やだ、男前。脳筋寄りだとは思っていたが、ここまで気風(きっぷ)がいいとは。そこまで悩まない紫月でも三十分はかかるぞ?


「今、俺のお前に対する好感度が五、上がった」


「ちょっとやめてよ。謎のポイント上げないで。しかもなんであたしがあんたを攻略してる風になってるのよ」


「正直、一回ぐらいなら抱かれてもいい」


「MAXじゃない。完全に攻略完了しちゃってるじゃない」


「か、勘違いするなよ? 別にお前のことが好きなわけじゃないんだからなっ」


「無理矢理ツンデレ要素を入れてこないで!」


 うむ、やはり楽しい。そも、俺の周りにはヤンデレ系ばかりしかいなかったので、星崎のようなタイプとはあまり深く接したことがなかったのだ。色恋の絡まない女友達ができたみたいで、新鮮に感じる。


「はぁ……疲れる。ほんと、なんで相模さんたちはあんたみたいなのがいいのかしらね……?」


「蓼食う虫も好き好きだろ?」


「自分で言ってりゃ世話ないわね……」


 まったくだ。朱里たちのことは受け入れたが、未だ〈デッドハーレム〉が彼女たちを引き寄せる本当の理由はわかっていない。

 呪いを抱えた少女たちを集めて、過去の俺はいったい何をするつもりだったのか。早く解明したいものである。


 そんな会話を交わしながらも、星崎は並んだ下着のディスプレイを流し見ていた。そしてその足が、急に動きを止める。


「ん、これにしましょ」


 そう言って星崎が選んだのは、水色をベースに薄茶色の縁飾りが彩られた可愛らしい印象のブラだ。有言実行の即断即決にまた俺の好感度が上昇する。


「ほう。ブラのことはそこまで詳しくないが、なかなかいいセンスしてるな」


「別にあんたの感想は求めてないわよ」


「パンツはいいのか? そっちの見立てなら多少自信があるぞ」


「結構よ。なんで彼氏でもない男の選んだ下着を買わなきゃいけないのよ」


「わかったよ。しょうがねぇから五分だけ彼氏になってやる」


「だからなんであたしが頼んでる風になってるわけ?」


「今ならそちらの鞄にしまってある、古いパンツの下取りも行っておりますが……」


「急に怪しいサービスを始めないで! まったく……着替えてくるからそこでちょっと待ってて」


 盛大なため息を吐いて、星崎が奥の試着室に入っていく。なんともからかい甲斐のある奴だ。死の呪いなど抱えていようはずもないので、安心して弄れるのも俺的にポイントが高い。


 さて、星崎が着替えている間、新作のパンツでも眺めていようかと思っていると。


「あれ、せんぱいです?」


「凛子」


 かけられた声に振り向くと、そこには見慣れた金色の二房がびょこぴょこしていた。


「なんだ、新しいパンツでもコピーしにきたのか?」


「パンツ限定で話を進めるあたり、改めてせんぱいの手遅れ感が半端ないです……」


「え、だってお前、ブラは必要ないだろ?」


「むっ。ありますぅー。ちょっとはありますぅー。せんぱい、それってロリハラですよロリハラ」


 なんだその限定的なハラスメントは……。


「その子は?」


 凛子の少し後ろで、おどおどした感じで手をまごつかせている女の子を見やる。


「あ、凛子のお友達の氷見(ひみ)ちゃんです。お店の前でばったり会いました」


「あ……長束(ながつか)、氷見です……」


 ゆっくりとした喋り方で話す女の子――氷見ちゃん。薄紫の髪と瞳が儚げな印象を感じさせる、凛子と並ぶほどの小柄な少女だ。また凛子とは正反対の、大人しそうな感じの子だな。


「それで氷見ちゃん、この人が凛子の愛しのせんぱいです。でも極度の変態さんなので、凛子がいない時は近づかないようにしてください」


「おいコラ。語弊のある紹介をするんじゃない」


「こんなところで会う時点で、語弊も何もないと思うのですが」


「……」


 正論であった。くそぅ、何も言い返せねぇ……。


「凛子ちゃんの……変態、彼氏、先輩……?」


「語感がヤバいですね」


「じゃあ否定してくれよ」


「残念ながら事実ですのでー」


 にべもなかった。まずい、このままでは不名誉な呼び名が定着してしまう。

 誤解を解くため、俺は氷見ちゃんに向けて最大限の優しげな笑みを作る。


「四条冬馬だ。今日のところは、とても優しい先輩だということだけ覚えていってくれたまえ」


「……優しくて、変態な、冬馬先輩……」


「何故だ!?」


 いちばん抜けてほしい要素が抜けていない。


「せんぱいの変態オーラはだだ漏れですからねー」


「お前、あとで覚えてろよ……」


 今度会ったら絶対にエロいイタズラをしてやると、脳内のメモに書き込んでおく。


 と、そこでブラを装着したらしき星崎が戻ってきた。


「四条、待たせたわね。……あら、知り合い?」


「まぁな」


「ふぅん……って、氷見ちゃんじゃない」


「……こんにちは、です。聖歌、先輩……」


「なんだ、そっちも知り合いか?」


「ええ、前の中学で一緒だったの」


 そういえば、さっきちらっとそんなことを言っていたな。

 残りの初対面同士で、さらに軽く自己紹介をする。


「にゃるほどです、せーか先輩ですね。凛子はせんぱいの愛奴隷の凛子です」


「四条、あんたこんな小さな子まで……」


「待て、色々待て」


「せーか先輩はまだ、せんぱいの毒牙にはやられてないみたいですね」


「まだじゃなくて、未来永劫ないわよ」


「そですかー。でも気をつけてくださいね? この人、本当に節操ないですので」


「……すごい……流石は、四条、変態、冬馬先輩……」


「うん、ミドルネームみたいになってるからね? 君も案外人の話聞かないタイプだね?」


 三人集まってしまったので、だんだん姦しくなってきた。全然ツッコミが追いつかない。

 そして今さらながら、下着屋で雑談をする俺の姿が非常にシュールであった。


「それで、デートでなければ、お二人はどうしてこんなところに?」


「あー、まぁ、ちょっとな」


「あ、わかりました。またせんぱいがエロイベントを起こしたんですね? 下着をダメにする系の」


「いや、今回はこいつが――いてっ」


 背中がみちっ、とちみくられる。痛い痛い。振り返れば、星崎が笑顔を崩さず無言で何かを訴えていた。

 言うな、ってことか。後輩の前だからな。いや、マジで痛い。わかったから。


「あー、そうだな。不本意ながら――」


「……凛子ちゃん。たぶん、違う……」


「はへ?」


「……聖歌先輩、おっちょこちょい、だから。よく、パンツとか、履き忘れてきたり、した……」


「ちょ、ちょっと氷見ちゃん?」


「……水泳の、授業がある日は、特に。ついた、あだ名が、プール上がりの、女神……」


「うわああぁっっ! ストップ! 氷見ちゃんストップ!」


「……むぎゅぅ……」


 思わぬ方向からの裏切りに、星崎が慌てて氷見ちゃんの口を塞ぐ。

 しかしそうか、星崎のこれは前々からの悪癖だったわけか。


「なんでバラしたのよぉぉ……! 氷見ちゃん、あたしのこと嫌いなの!?」


「……そんなこと、ないです。先輩のことは、大好き……」


「じゃあどうしてぇ!?」


「……聖歌先輩の、可愛いところ。みんなにも、知ってもらいたくて……」


「ううぅぅ……瞳に善意しかない……」


 さしもの星崎も、後輩の無垢なる思いは無碍にできないようであった。


「愛が重いな」


「……四条、今聞いたことは忘れなさい。全部。今すぐ」


「忘れられないと言ったら?」


「忘れるまで殴るわ」


 目がマジだったので、これ以上からかうのは止して頷いておく。平和な商店街で流血事件を起こすわけにはいかないからな。


「あれ、でもそれだと、せんぱいが付き添う必要はないですよね?」


「ああ、ここはついでに寄っただけだ。ちょいと別に用事があってな」


「そういえば、さっき外でお馬鹿先輩たちを見かけましたけど……なんか関係あります?」


「ない方がいい気もするんだが、あるな」


「そですか。すごい動きが怪しかったんで通報しようかと思いましたが、それなら放っといて良かったです」


……通報してもらった方が良かったかもしれない。あいつら、頼むから足だけは引っ張ってくれるなよ……。


「ちなみに。凛子のお手伝い、いります?」


 それまでの流れから、俺が何か厄介事に巻き込まれていると勘づいて、そう言ってくれる凛子。


「んー……まぁ、とりあえずは俺たちだけでやってみるわ」


 他に女子がいると、件のストーカー君が出てこないかもしれないしな。


「わかりました。がんばってくださいです。

 せーか先輩、せんぱいはこんなですけど、いざという時は頼りになりますので。たぶん。おそらく。ちょっとぐらいは」


「何故に少しずつ評価を下げる……?」


「自分で言ってて不安になってきました」


「お前なぁ……」


 やはり一度、凛子とは「お話」が必要なようだな……。


「あはは。わかったわ、凛子ちゃん。悪いけど、ちょっとだけ彼氏を借りるわね」

 

「はいです! あ、ライン交換しましょう。もしせんぱいにえっちいことされたら連絡してください。おしおき隊を呼びますので」


「何その俺の知らない組織」


「隊長はしり先輩です」


「真面目に働くことを誓おう」


 知らぬ間にやべー部隊が編成されていた。何がヤバいって、おしおき隊なのに、気づいたらおしおきされ隊になっていそうなところとかほんとヤバい。


「頼むぞ星崎、俺は至極真面目に働いたと報告してくれ」


「……なんか、あんたも大変なのね……」


 そんな星崎の同情が、少し身に沁みるのであった。




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