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デッドハーレム  作者: fumo
第1章 願いと狂いと迷いと呪い
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反省会2

「あ、そうだ。紫月君、祝福省関連の報告を頼むよ」


 わざとらしく一拍して、注目を集めてから間を置かずに話題を逸らす。いつの間にやら日も傾き始めてきたし、きゃぴきゃぴしたガールズトークはそろそろ終わりにしたかった。

 そんなことを思ってしまうのは、生来からなる私のぼっち気質によるものだが――紫月君の無表情を見るに、たぶん彼女も似たような心持ちだと思える。ようやく私にも少しはわかってきた。これはたぶん、もう帰りたい時の顔だ。人と長く話すのって、疲れるからねぇ。


「そういえば忘れてたわね。ほら、そこの全裸愛好会たち、少し静かにしなさい」


「え、ちょっとしゅり先輩と一緒にはしないでほしいです」


「あの、私も好きで脱いでるわけじゃないんだけど……」


「はっ。これは私も脱ぐ流れですね? いわゆる裸のお付き合いというやつですね?」


「詩莉さん、脱がなくていいですから……私は入ってませんよね?」


「うるさい黙りなさい全部録音してあるから冬馬に聞かせるわよ」


「「「ゴメンナサイ、ナンデモアリマセン」」」


 紫月君が強い。この時点で我々のヒエラルキーはおおかた決していた。もう紫月君がまとめてくれればいいと思うのだが、彼女は私以上に先頭に立つタイプではないので、それは望むべくもなかった。どちらかと言えば、暗躍して陰でほくそ笑んでいるタイプだしねぇ。

 なお、詩莉さんにだけは全く響いていないが、当然の如くスルーである。下手に突っ込んでも無駄話が長引くだけだからね。


 軽いため息を吐いて、紫月君が続ける。


「蒼さん曰く、祝福省からの干渉は最低限に抑えられたみたい。ただ、緊急時の助力要請があるらしいわ。そこが少し怪しいわね」


「えっ、ということは……」


「凛子知ってます。それって、結局いいように使われちゃうやつですよね?」

 

 確かに凛子君の懸念は尤もだ。言葉だけを聞けば、こちらに不利な条約を突きつけられたようにも思える。


「たぶん、そこまで無茶なことは言ってこないと思うよ。向こうも私たちや父君と、表立って敵対したいわけじゃないだろうからね。とりあえずは対等な立場の協力者、って関係に落ち着くと思う」


 まぁ、無難な落としどころではある。玉虫色の回答とも言うが。祝福省の立場からして、とーま君を放置するという選択肢はどう考えてもあり得ない。かといって、朱里君をこちら側に抱き込んだ今、敵対も得策ではない。なれば細いなれど繋がりを保っておき、表向きは友好を謳うのが最も建設的である。


「もちろん、油断はできないけどね。なんといってもあちらは世界最大の祝福機関だ。その組織力は決して侮っていいものではない。とはいえ、必要以上に身構えることもない。逆にあちらの情報網を利用してやるぐらいの気概でいればいいさ」


「そうね。一応、蒼さん経由で受けることになってるから、あまりにも酷い案件は調整してくれるはずよ。外部委託の形を取るから、いくらか給金も出るって話」


「あら、お給料出ますか」


 蓮さんの目が輝く。この人は常に食費に困窮しているからねぇ。


「ええ、そこは大事だからちゃんと詰めておいたわ」


「それ、そんなに大事です?」


「当たり前じゃない。あたしたちは凛子みたいに偽造貨幣を作れたりはしないのよ?」


「いえ、流石にそこは自重してるですが……」


 国の貨幣経済に大混乱をもたらすギフトの用法は、さしもの凛子君も控えているようだ。というか、性質を把握したあらゆる物品を〈具現〉せしめる彼女は、元より金銭に対する執着が薄いのかもしれない。


「体面というやつさ。国としては臨時雇用という形にしておかないと、何処で誰に痛くない腹を探られるかわからないからねぇ」


「はぁ、そういうものですか」


「うむ。貰えるものは貰っておきたまえ」


 私も別に、お金には困っていないけどね。資産家令嬢の詩莉さんと、特に浪費癖のない朱里君もこちら側だろう。

 暴食と強欲の約二名だけが、狸の皮を数えて怪しい笑顔を光らせていた。


「そんなわけで、今後はこの二つが活動の軸になるかな。とーま君が引っかけてくる女の子への対処と、祝福省が持ってくる案件への対処」


「メインストーリーとイベントって感じね」


「ああ、うん。言い得て妙だね。後者が前者を兼ねる場合もありそうだけど」


 クリアすればゴールドが手に入ると。問題は、節目ごとにレイドボスが現れることだろうか。無事倒せれば配布キャラが仲間になるんだけどね。


「あとは何かあるかい? なければ終わりにするが……」


「あ、せんぱいとはどう接していきます? 全員でいっぺんに押しかけると、流石にせんぱいも困っちゃうんじゃないですか?」


「そこは気にしなくてもいいんじゃないかな? 冬馬君はみんな受け入れるつもりだろうし」


「そうだね、自然体がいいと思う。とーま君の甲斐性に期待するとしよう。下手に序列なんか決めてもあとあと面倒だしね」


「序列ね……そういう意味では、今は蓮さんが一番なのかしら?」


「私ですか?」


 紫月君に振られ、キョトンとした顔をする蓮さん。


「ふむ。少々もやっとするが、とーま君的にはそうなのかもしれないね」


 その溢れる抱擁力には、私ですら一度埋もれてみたいと思ってしまう。こう、物理的に。たゆんたゆん。


「そんなことありませんよ、冬馬さんはちゃんと皆さんのことも大好きですから」


「うっ、笑顔が眩しいです……これが勝者の余裕というやつですか」


「実際、蓮さんが拘泥した事態の幕開けを担ったものね。……ああ、膜開けだったかしら」


「紫月ちゃん、お下品……」


「膜の話ですかっ?」


「詩莉さんはちょっと黙ってて」


 即座にカウンターを入れて、詩莉さんを黙らせる朱里君。放っておくと一瞬でピンク空間が形成されるからね、ナイス判断だ。


「やっぱりアレですか、膜びりは痛いんですか?」


「あの、まだ膜の話続けるの……?」


「だってだって、気になりません?」


「ま、まぁ……」


「何事も体験に勝る知識はないからね」


「そうね、一応後学にはなるかしら」


 満場一致で膜の話題が継続となり、蓮さんに視線が集まる。だいぶ本筋から離れてきたが、好奇心が勝るので仕方ないねぇ。お口にチャック令を出された詩莉さんも、ぶんぶんと首を振って肯定の意を示していた。


「え、あの、普通に恥ずかしいので話しませんからね?」


……ちっ、駄目か。雰囲気に乗せられたかと思ったけど、案外蓮さんは冷静だった。


「えー。れん先輩、空気読んでくださいよー」


「ほんとよね。胸もいでそっちに喋らせるわよ?」


「知識の探求を邪魔するのは無粋ですねぇ」


「そ、そうだそうだー」


 口々に非難が殺到する。ちなみに最後の朱里君のは、紫月君の背中に隠れながらの消え入りそうな小声だ。


「えぇ……私悪くありませんよね? あと、朱里ちゃんは後ほどちょっとお話があります」


「ひいっ」


「ちょっと朱里、人の背中に変なもの押しつけないでくれる? 陥没が伝染るじゃない」


「伝染らないよぅ……!」


「うわぁ、れん先輩、笑顔が怖いですね……」


「アレが天然なのか計算なのかわからないのは、確かに少し怖いねぇ」


 正に、普段温厚な人ほど……の典型例だろう。朱里君には、今後とも防波堤の役を担ってもらいたいところだ。

 さておき、そろそろ話を戻すとしようか。


「はいはい、他にはもう議題はないね? そろそろ終わりにするよ?」


「なんか、乳首と膜の話しかしてない気がするです」


 まったくである。とてもじゃないが、とーま君には聞かせられないね。乙女の秘密の会合ということで、今日のことは墓まで持っていくとしよう。


「紫月ちゃん……」


「わかってるわよ。……ほら、消したわよ」


「ほんとに? クラウドに移したりしてない?」


「しつこいわね。大丈夫よ、あなたの乳首に誓うわ」


「そこには誓わないでぇ……!」


 皆のジト目と圧力を受け、会話記録を抹消する紫月君。そして終始いじられっ放しの朱里君からも、最早「破壊の女神」の畏怖と尊厳は消え失せていた。祝福省も、長年対応に苦慮していた彼女が、まさかこんな扱いを受けているとは思いもしないだろうねぇ。



 そうして、なんとも締まらない空気ながら、私たちのあとしまつは終わりを迎えた。くだらない会話が大半だったような気もするが、少し前を思えば、こうしてじゃれ合える関係性になれただけでも奇跡に等しい。日常の大切さを噛み締めているのは、きっと私だけではないはずだ。


 ひとつの結末。されどこの平穏は、おそらく長くは続かない。遠からず、とーま君はさらなる過酷な運命に巻き込まれる。呪いと悲劇を抱えた少女たちが、彼を決して放ってはおかない。

 今回は、運良く誰も犠牲にはならなかった。でもいつか必ず、それは起こる。神様ではないとーま君には、遍く全てを救うことはできない。人の、世界の悪意が、感情が、いつの日か彼を押し潰す。なればこそ。


 私たちが、とーま君を支えていこう。

 感情に呑まれないように。

 悲しみは分かち合って。

 苦しみは薄れさせて。

 そして、小さな喜びをひとつひとつ、手に入れていこう。

 

 今日は、その決意を新たにする結成式だ。終わって始まる、門出の迎え。言葉にせずとも、皆にそれが伝わっているのが、私にはわかった。


「あの、凛子ちゃん、そろそろパンツ返して欲しい……」


「しょうがないですねー。あなたが脱いだのは、この金のパンツですか? それともこの銀のパンツですか?」


「や、ごく普通の三枚千円のピンクのパンツです……」


「ノリ悪いですねー。はい、どうぞ」


「ありがとう……って、何この名状し難きヒモは?」


「正直者なのでサービスしておきましたっ」


「こんなの履けないよ……」


「あら、でも冬馬は喜ぶんじゃない?」


「え、そ、そうかな? じゃあちょっとだけ……」


「ほんとチョロいわねこの子……」


「あの、詩莉さん? 流石にその行為は乙女としてどうかと……」


「うわあああぁぁぁなんで私のパンツ被ってるの詩莉さん!? あ、やめて、舐めないで! 嗅がないでぇぇぇぇ!」


「今、五千円で商談が成立したです」


「売らないでって言ったのにぃぃぃ……!」


………………伝わってる、よね?



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