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デッドハーレム  作者: fumo
第1章 願いと狂いと迷いと呪い
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反省会

「えー、では、これより第四回とーま君問題対策会議……もとい反省会並びに簡易裁定を始めます」


 ようやく場が落ち着いてきたので、音頭を取ってそう宣言する。本来こういうのは私の役回りではないのだが、前議長は今回裁かれる側な上、先ほどの顛末で精神に著しいダメージを負っているため致し方ない。


 その朱里君はいちばん端の席で、顔を赤らめたままもじもじと視線を泳がせている。凛子君の許しを得て、ようやく淡いピンクのブラジャーは返してもらえたのだが。

 その代わりに、彼女の最奥を守る最後の砦を失っていた。


「いいでしょう、凛子も鬼ではありません。返してあげないこともないです」


「ほ、ほんとに……? じゃあ――」


「ただし、代わりに()()を脱いでもらいましょうか」


「え、そ、それは……」


「世の中はそんなに甘くないのです。さあ、選ぶのです! その恥ずかし乳首を晒したままにするのか、それとも乙女の守りを捨て去るのか!」


「う〜〜うぅ〜〜……」


 そうして散々悩んだ果てにパンツを脱いだあたり、朱里君の乳首コンプレックスは相当なものである。パンツ一丁ならぬブラジャー一丁のその姿は、傍目には確かに痴女にしか見えない。当然臀部も丸出しなので、とーま君としてはこちらの方が大喜びであろう。


 なお、その対角線上の席にて、未だ鼻の詰め物が取れない詩莉さんはぐるぐるに縛られている。パンツを脱いだ朱里君を見て自制が効かなくなったのか、彼女に襲いかかろうとしたため、私の〈束縛〉で緊急措置を施した次第だ。

 その上で念のため、凛子君の〈具現〉した極太の荒縄で二重に縛りつけてある。そこまでしてもまだ不安が拭えなかったのだが、そのうちに今度はギチギチに緊縛された感触に快感を見出したのか、危ない顔でよだれを垂らし始めたので、まぁ、なんだ、もう放置である。ほんとにどうしようもないねぇ、この人。


 その隣りで、蓮さんは甲斐甲斐しく詩莉さんの顔面事情をケアしている。初めは〈再生〉で治していたようだが、治す端から喀血が如く鼻血を噴き出すため、諦めたらしい。当然手持ちのちり紙では足りず、その手元には凛子君の〈具現〉した箱ティッシュが鎮座していた。


 この時点で会議の体を成していないのだが、いちいち煩っていると永遠に話が進まないため、強引に進行させる次第である。

 それに今回の場合、例の病院での事前確認により、おおよその方向性は既に決定している。今日に限って言えば、何をどう話したのかはさほど重要ではなく、「この六人が集まって話し合いをした」という事実を作ることが目的であったりする。対外的に我々の団結を知らしめ、祝福省や他の組織に対する牽制とするのだ。さしずめチーム〈デッドハーレム〉の結成式といったところか。


「まず初めに、今回表向きの主犯格であった朱里君の裁定だが……これはもう、済んだと見做してもいいのかねぇ?」


 下半身の防備が心許ないのか、もじもじと内股を擦り合わせる朱里君の姿は憐憫を誘う。私自身は特に被害を受けていないし、これ以上の沙汰は過剰だと思うのだが。


「そーですね、凛子は満足したのでもういいですよ。こんな履き古しのパンツ貰っても仕方ありませんし」


「あの、じゃあ返してほしい……」


「会議が終わったら返してあげます。あ、でも、然るところに売ればお値段付きますかねー?」


「はい! 凛子ちゃん、はい! 私買います! おいくらですかっ?」


 縛られて動けない詩莉さんが、身を捩って必死にアピールをする。そして挙手の代わりとばかりに、荒い鼻息に押されてすぽぽんと詰め物が飛び出す。慌てて蓮さんが予備のティッシュを詰め込むが……もう口も縛った方がいいかねぇ、この変態上級生は。


「え、いいですけど、何に使うんです?」


「もちろん、嗅いで舐って被って抱いて出汁を取って履いてから真空パックに詰めて額縁に飾ります!」


「うわぁ、聞かなきゃよかったですー」


「やめてぇ……それだけはやめてぇ……」


 朱里君が絶望の表情で泣きそうになる。ほんとそのへんでやめてあげてほしい。詩莉さんの変態性はいったいどこまで広がるのやら……などと思っていると。


 かしゃり、とカメラの起動音が微かに響く。見れば、紫月君が無表情のままスマホを片手に構えていた。


「し、紫月ちゃん? どうして私の写真を撮ったの?」


「え? だって、そういうのって顔写真を添えないと高く売れないんでしょう?」


「売る前提で話を進めないでぇ……!」


「じゃあ詩莉さんに売る? どっちがいいのよ、選びなさい」


「理不尽な二択ぅ……!」


「はいはい、脱線してるから話を戻すよ? パンツはあとで返してあげなさい」


「はーい」


「しょうがないわね」


「残念です……」


 流石に冗談だったのか、軽く窘めると凛子君たちは引き下がった。いや、詩莉さんだけはガチの本気だったようだが。

 しかし話が進まない……司会を降りたくなってきたねぇ。他の子に任せると今日中に終わらないだろうから、やるけどさ。


「とにかく、キミたちはもういいね? 私も特に含むところはないし……あとは蓮さんかな? 被害という点では、いちばん大きかったわけだが」


 本人そのものではなかったとはいえ、実際に殺害されているからねぇ。今一度、そのあたりの感情ははっきりさせておきたいところだ。


「あ、私ですか?」


 話を振った先の蓮さんは、同級生の鼻ティッシュの交換に忙しいようであった。せっかくの美人二人なのに、絵面が大変残念である。


「そうですね、私も朱里ちゃんを責めるつもりはありません。あの時のことは、私の中ではもう整理がついていますので。むしろ、理性を失った私がどういう行動に出るのかを知れたので、いい経験になりました」


「……左様ですか」


 柔らかく微笑む蓮さんの表情に、他意は見られない。だが見えないだけで、そこには確実に何かが隠されていた。

 別に女の勘が働いたわけでも、私に読心の心得があるわけでもない。単純に、答えが別の顔に書かれていたのだ。

 蓮さんが話し始めた途端、対角線上の朱里君が羞恥を忘れて脂汗を流しだしたのである。

 つついても蛇しか出てこないだろうから、これ以上は聞かないけどね。


「それでは、これで裁定は終了。以後、禍根は残さないものとするよ」


 宣言し、皆が頷くのを確認する。これで朱里君は正式に許され、我々の仲間になった形だ。うむ、なんとかまとまったね。そういうことにしておこう。


「続いて、今後の我々の活動について詰めていこうか。だいたいの経緯はみんなわかっていると思うが……わかっているよねぇ?」


 特に凛子君や、詩莉さんあたりが少し心配だった。後者は半ば諦めているので、凛子君の方に視線を向ける、と。


「結局せんぱいは、来る者拒まずのハーレム王を目指すってことですよね?」


「ああ、うん……まぁ、そういうことだね」


 間違ってはいないのだが、事実だけ抜き出すとこう、色々と誤解を招きそうな感じだ。だいたいあってるので否定もできないが。

 そして来る者拒まず、のくだりが中々に言い得て妙だ。来る者――即ち向こうから来なければ相手にしないが、されど来たならば必ず救い出すという、とーま君の消極的積極性をうまく表象している。


「つまり、これからぽこじゃか増えていくわけですか」


「ぽこじゃかなのかちょびちょびなのかはわからないが、そうなるね」


「冬馬さんのことですから、全員助けようとするんでしょうね……」


「そうね。それも今回、時間さえかければ呪いを抑えられることがわかったから、前にも増して無茶をする可能性があるわ」


「そこがひとつ問題点だねぇ」


 とーま君は基本、なんだかんだ言いつつも優しい。私や紫月君のように、必要とあらば小事を切り捨てる思考を持ち合わせておらず、目の前の全てを可能な限り救おうとする。しかし、時たまその優先順位がおかしくなり、自身の命すら勘定に入れなくなるのが問題であった。

 紫月君に聞いたところ、やはり(かね)てからそういう傾向があったらしく、それが今後エスカレートするのは充分に予測できた。


「幸い、〈デッドハーレム〉による暴走は緩やかに起こるから、準備する時間はある。頃合いを見計らって対処していくのが現実的かね」

 

「にゃるほどです。凛子たちでせんぱいのフォローをするわけですね」


「うむ、そこが私たちのチームの強みだ。基本はとーま君の〈デッドハーレム〉が呪いを緩和するまで、調査と時間稼ぎをすることになるね」


 本音を言えばあまり危険な橋は渡ってほしくないのだが、こればかりは仕方ない。自身に引き寄せられた少女を、とーま君は決して放ってはおかないだろう。

 であるならば、私たちで下支えをするまでだ。そうして少女たちを救っていけば、結果的にとーま君を守る力も増やしていける。

 とーま君が望もうと望むまいと、最早ハーレムの構築は不可避の宿命であった。


「あ、でもでも、またしゅり先輩みたいな頭のネジがぶっ飛んでる人が来たらどうするんです?」


「対処はできると思う。客観的に見ても、私たちは非常に優秀なギフテッドだからね。それが六人もいれば、よほどの相手でない限りは後手には回らないだろう」


 例え朱里君と同格のギフテッドが暴走したとしても、私たちが揃っていれば充分に渡り合える。それでも被害が出る可能性はあるが、一応対策というか対抗馬の用意もあった。

 

 ふと、紫月君と視線が合う。ああ、どうやら同じことを考えているようだ。


「そうよ凛子、安心しなさい。最悪、犠牲を強いてくる相手だったとしても問題ないわ。こっちには無限増殖する粘性体が一匹いるもの」


「あの、流石に匹で数えられるのはちょっと……」


「誰も頭のネジの部分には突っ込んでくれない……」


「朱里様、大丈夫ですよ。私もよく言われますので。お揃いですねっ」


「全然大丈夫じゃないよ……」

 

 おっと、危険な流れだ。ほんとにすぐ脱線するなぁ、この子たちは。


「はいはい、まとめるよ。今後新たなギフテッドが〈デッドハーレム〉に囚われた場合、まずは私と紫月君で動向及び素性を調査。驚異度を判定して、必要に応じてある程度接触しておく。あとはとーま君との関係を見守りつつ、先に呪いが薄まるならそれで良し。暴走するようなら実力で対処だ。

 相手にもよるが、基準の役割(ロール)としては蓮さんがタンク兼ヒーラー、朱里君と凛子君がアタッカー、私と詩莉さんがサポーター、紫月君がコマンダー、といったところかね」


 なかなかにバランスはいいんじゃないだろうか。蓮さんの仕事量が多いので、できれば他にメインタンクが欲しいところだが、機能すれば集団戦もこなせそうな気がする。

 ただ、ひとつだけ気がかりなのは。


「私毎回痛そうですね……別にいいですけど。慣れてますからいいですけど」


「では私が前衛を受け持ちましょう。どんなダメージだろうと耐えてみせます」


「詩莉さんはただ攻撃受けたいだけでしょ。まぁでも、その反応で相手の士気を下げられるかもしれないわね。こっちも下がりそうだけど」


「凛子大活躍の予感です。凛子万能ですから。なんでもできる女ですから」

 

「え、そういうのいるかな? 私が一撃で壊して終わりだと思うんだけど……」


「朱里、あなた話聞いてた? 壊しちゃ駄目なの。ちゃんと蓮さんが治せるぐらいまで加減するのよ?」


「どちらにせよ私は血塗れになるんですね……いいですけど……」


「ほんとですよー。それじゃつまらないじゃないですかー。しゅり先輩はちょっと引っ込んでてください。具体的にはその乳首ぐらい」


「もう乳首の話はしないでぇ……!」


「なるほど、では朱里様の乳首を掘り起こす役目は私に任せてもらいましょう」


「ちょっと何言ってるのかわからないわ」


…………………………。


 果たしてこのメンバーで、チームワークが取れるのだろうかねぇ。


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