表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デッドハーレム  作者: fumo
第1章 願いと狂いと迷いと呪い
90/118

平和な関係?

 そうして、夏の終わりと共に私たちの物語は一応の結末を迎えた。棚上げにしたままの問題はたくさんあるが、朱里君という最大の驚異が落ち着いた以上、ただちに影響を及ぼすほどのことではない。束の間かもしれないが、ひとまずは平穏を享受してもいいのではないだろうか。


「しかし、まだまだ暑いねぇ……」


 各々が諸々の事後処理を終えて、本日は私たち全員が揃って登校となる初の日程であった。ならばと、例の会合をやってしまおうと予定を立てたのだが。

 九月も半ばに入ったというのに、照りつける太陽の熱気は未だ衰えを見せない。集合時間を日が落ちてからにした方が良かったかと、少し後悔する。


 朱里君や紫月君たちとは違って、私は体力面にはあまり自信がない。引き籠もりだと言われてしまえばそれまでだが、そこは頭脳労働専門ということでなんとか容赦願いたいところだ。

 昔取った杵柄で、体育やその手のイベントを免除してもらえたのは幸いである。この暑い中、跳んだり駆けたりなど私にとっては拷問以外の何物でもないからね。


 やっとの思いで特別活動棟に到着し、冷房の効いたロビーの涼しげな空気に安堵の息を漏らす。約束の時間は少し過ぎてしまっていたが、まぁ暑かったので仕方ない。文句はお天道様に言ってもらおう。

 登校が面倒だからという理由でここから徒歩五分の位置に用意してもらった現在の借家だが、最近はそれでも億劫になってきた。いっそのこと、適当な部活を廃部に追い込んで私の住居用にひと部屋空けてもらおうか。うん、我ながらいい案だ。是非ともそうしよう。

 

 そんなことを考えながらエレベーターに向かうと、そこで見知った顔に遭遇する。


「おや、紫月君。キミも遅刻組かね?」


「ええ。あたし()ちょっと用事があったから、ちゃんと連絡しておいたけど」


 そういえばそんな通知が来ていたような。言外に私の怠惰な遅参理由を責められている気がしたので、ごほんと咳払いを交えてうやむやにする。早くエレベーター来ないかねぇ。


 穂村紫月君。彼女の異常性に、私はだいぶ早い段階から気づいていた。とーま君の〈デッドハーレム〉よろしく、私の〈束縛〉に干渉してきたため、そのギフトが単純な転移系に留まらないことは明白だった。まさかあれほど常軌を逸したものだとは思わなかったが。


 そして三回目の会議の後で接触を計り、私たちは協力体制を築いた。共通する目下最大の懸念事項、朱里君に対抗するために。

 さりとて、私にできたことはそう多くはない。せいぜいが叔父さんの意向の確認や、父君との接触ぐらいで、計画のほとんどは紫月君によって綿密に組まれていた。正に暗躍と呼べるその立ち回りは見事と言う他なく、彼女の存在なくして今回の結末に至るのは不可能であっただろう。


 端的に言って、紫月君の思考は危うい。それはある意味、とーま君への究極の依存だ。まぁ、彼女に限らず蓮さんあたりもかなり危なげな事情を抱えているし、他の異性との共存を容認しているので、辛うじてバランスは取れているのだが。


「そうそう、祝福省の方は大丈夫そうかい? 父君が交渉に当たまってくれたなら、なんとかしてくれたとは思うがね」


「そうね。ひと悶着はあったらしいけど、概ねうまくいったみたい。詳しくは中で話すわ」


「ふむ。一応私の方からも、叔父さん経由で要望は伝えてもらっている。一助にはなったかと――って、なんだか騒がしいねぇ?」


 見慣れたギフト研究会の扉の前。その内側から喧騒の気配が漏れ出ていた。どうやら我々以外は、きちんと定刻どおりに集まっているようではある。

 立ちんぼをしていても誰が声をかけてくれるでもなし。意を決めて扉を開けると、中では踊り子さんによるストリップショーが開催されていた。


 何を言っているのかわからないって? 大丈夫、私もわかっていない。後ろを振り返ると、ただでさえ感情の読めない紫月君の顔が凍りついた能面のようになっていた。


「さあさあ、ちゃきちゃきと脱ぐですー」


「うぅ、もう許してよぅ……」


 室内に映る光景を、そのままに述べるのならば。

 やけに嗜虐的な笑みを浮かべた凛子君と、その指示に従ってはらりはらりと衣服を脱いでいく半泣きの朱里君。うん、まったく状況が掴めない。

 誰か説明してくれないものかと、さらに後方に視線を這わせるが。


「ああっ、朱里様、なんておいしそ――いえ、おいたわしげな姿に……」


「ええと……詩莉さん、とりあえず鼻血拭いてくださいね?」


 恍惚の表情でだくだくと赤いものを流す詩莉さんと、その様に若干引きつつもティッシュを取り出す蓮さんの三年生コンビ。こちらはこちらで、どうにも近寄るのが憚られた。


 あー、これはアレだね。誰かが介入しないと進まないやつだね。こういうのはとーま君に任せてしまいたいところだけど、いないものは仕方ない。僭越(いやいや)ながら、私が進行(ツッコミ)役を仰せつかるとしようか。


「えっと、凛子君? これはいったいどういう状況なのかね?」


「あ、まき先輩。遅いですよー。あんまり遅いんで先に始めちゃいました」


「……私の記憶が確かなら、今日の目的はストリップショーの観覧ではなかったと思うのだがね……」


「あっ、紫月ちゃん、助けてよぅ〜〜」


「……朱里、あなたそんな趣味があったのね。この前も脱いでたし……なに、とうとう詩莉さんの同類になったわけ?」


「誤解だよぅ! これは凛子ちゃんが言うから仕方なく――」


「ちょっとしゅり先輩、口を動かす暇があったらさっさと脱いでくださいー」


「あっ、ブラは、ブラはやめてぇ〜〜!」


 懇願虚しく、朱里君の胸を覆っていた最後の一枚が剥ぎ取られる。露になった形のいいそれは、なるほどとーま君でなくともごくりと生唾を飲み込むような、美の結晶であった。――ただし、先日も目にしたように、一部がとても個性的な主張をしている。


「はへー、なるほどなるほど。恥ずかしい乳首してますねー」


「乳首の話はしないでぇ……!」


「まぁまぁ、別に減るもんじゃありませんし」


「私の自尊心は確実に減ったよぅ……。そこの友達は見てるだけで助けてくれないし……」


「え、あたし? 悪いけど痴女の友達を作った覚えはないわよ」


「友達まで減ったよ!?」


 わちゃわちゃと騒ぐ彼女たち。話進まないねぇ。うん、とーま君の気持ちが少しわかった気がする。

 まぁ、おおよその推察は済んだ。はちゃめちゃな行為を強制する凛子君と、何故かそれに逆らえない朱里君。この状況を二人のこれまでの関係性に当てはめれば、自ずと答えは見えてくる。


「おおかた、先の件の埋め合わせで自分にできることならなんでもする、とでも朱里君が言って、じゃあ自分と同じ目に遭ってもらおうと、凛子君が脱衣を強制したって感じだろう」


「わぁ、正解ですー。流石はまき先輩ですねー」


「私に言わせればあの争いはお互い様なんだが。まぁ、いくらか朱里君にイニシアチブが偏っていた嫌いもあるから、妥当な落としどころではあるかねぇ」


「凛子なんか、すっぽんぽんに剥かれてお漏らしまでさせられましたからねー。でも凛子は優しいので、パンツは乳首に免じて許してあげます」


「乳首に免じるなんてセリフ、人生で初めて聞いたねぇ……」


 願わくば、今後使う側にも使われる側にもなりたくないところだ。というか、花のJKとJCが乳首乳首連呼しすぎである。


「うぅ……もうお嫁に行けない……」


「朱里、あいつは痴女でも気にしないから大丈夫よ。元気出しなさい。ほら、乳首まで気落ちしてるじゃない」


「これは生まれつきですぅ……! 好きで凹んでるわけじゃないんですぅ……!」


 さんざんに弄られ、瞳を潤ませる朱里君。あれ、この子こんなキャラだったかねぇ? 

 紫月君がうまく手綱を握っているのもあるのだろうけど、ずいぶんチョロい子に思えてきたよ。


「朱里様、ご安心ください!」


 と、そこにやけに瞳を輝かせた詩莉さんが乱入してくる。言葉とは裏腹に、鼻に詰め物をしたその表情からは何ひとつ安心できる要素が窺えない。


「必要とあらば、私が吸い出しますので!」


 やっぱりだよ。この人はもう手遅れなので、ツッコミをする気も起きない。というかなるべく関わりたくない。

 例の〈ポルノワークス〉都筑氏あたりとは、非常に気が合うんじゃないだろうか。ああ、でも周囲にとんでもない被害を撒き散らしそうだから、会わせない方がいいな。混ぜるな危険、とラベリングしておく。


「えー、でも、すぐに戻っちゃいません? その恥ずかし乳首」


「やめて。凛子ちゃん、その呼称だけはやめてぇ……」


「抜かりはありません。私が常に吸い続けていればいいだけのことです。こう、リズミカルに左右を切り替えて吸引しますので」


「抜かりしかないよね? そんなことされたら私、一生人前に出れないよね?」


「あ、今の! 今のいい具合の蔑みでした! もう一度お願いします!」


「もうやだぁ……」


 カオスが収まらない。とーま君でも無理なのだから、元より私にどうこうできるはずもなかったか。

 それでも、一時は殺し合いまでした彼女たちが、こうしてくだらないやりとりをしていられるのだから。

 結末としては、そう悪くはないんじゃないかと思える。


「ちなみに蓮さん、アレは〈再生〉で治せるので?」


「う〜ん、そうですねぇ……元々、私のギフトは「傷」には強いんですが、「病気」にはあまり効果が及ばない場合もありまして。それにアレは、「異常」というよりかは「特徴」に近い気がします」


「だ、そうよ朱里? 良かったわね、あなたの大事な個性は守られたわ」


「何も良くないよ……っていうか、いい加減乳首の話題から離れてほしい……」


「良かったですね、恥ずチク先輩っ!」


「うぅ……二人とも私より小さいくせにぃ……」


「あら。いい度胸してるわね、あたしを哀れ乳グループ扱いするなんて。凛子、やっちゃいなさい」


「何故二重にディスられたのかは謎ですが……了解です。ぴ、ぽ、ぱ、っと。――あ、せんぱいですか? 聞いてくださいよー、実はしゅり先輩の乳首がですねー」


「うああああっ、嘘です嘘ですごめんなさいぃぃぃっ!」


 そんなこんなで。

 本題に入るまでは、もうしばらく時間がかかるのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ