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デッドハーレム  作者: fumo
第1章 願いと狂いと迷いと呪い
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冬馬君会議

 私立御門学園は、自由な校風を売りとする比較的寛容な教育機関である。

 校則はたった一つ。

 自由の意味を知り、謳歌せよ。

 生徒の自主性を重んじると言えば聞こえはいいが、つまるところ自由の対価となる責任まで、生徒本人が全て負担することが義務付けられているのが実情だ。

 まぁ、社会に出れば当然のことではあるのだが。


 何を学び、何を成すのも自由。

 どちらかというと大学に近いシステムで、授業は教養課程を除き、全て選択制となっている。

 その教養課程すら、何らかの功績により学園を認めさせることができれば、切り捨てることもできる。

 どこまでも自由なその校風は、故にギフテッドの受け入れにも何ら制限を課していない。親父が俺の二つ目の高校にここを選んだ理由の一つだ。


 本来、祝福法により、登録ギフテッドに対する如何なる差別もあってはならないのだが。

 現実問題として、ギフテッドを危険視する団体、派閥は一定数が存在している。

 その気持ちもわからなくはない。一般人からすれば、隣にいつでも自分を害せる存在が潜んでいるようなものだ。

 そのため教育機関においても、表向きは制限しないと謳いながら、実際にはギフテッドの入学を拒んでいる場合が少なからずある。

 実のところ、俺はまだギフテッドとしての登録をしていないため、そういった学校に通うこともできるのだが。それでは事態の根本的な解決には至らないため、あえてギフテッドの在学する学校を選んでいた。


 そしてこの御門学園、敷地面積がかなり広い。

 あいにく東京ドームの面積を知らないため、数値的に表すことはできないのだが、大きく分けるだけでも四つの校舎を中心とした区分が存在する。

 すなわち、初等部棟、中等部棟、高等部棟、特別活動棟の四つである。

 特別活動棟とは、通常でいう部活やサークル、課外活動に連なる団体の拠点が集まった校舎で、ここを中心に、残り三つの校舎が円形に配置されている。

 さらに各校舎を繋ぐモノレールまで設置されているのだから、その規模が通常の学校を遥かに凌駕していることは明白であろう。

 もっとも、各校舎駅間の乗車時間は二分にも満たず、徒歩でも充分移動可能ではあるが。

 山手線——いや、ディ◯ニーリゾー◯ラインが一番分かりやすいだろうか。それの小さい版だと思えばおおむね間違っていないだろう。



 その特別活動棟の、最上階。

 ギフト研究会と銘打たれた部屋で、俺たちはスイートバレンタインスクワールなる、またもや季節感を無視した飲み物で喉を潤していた。

 いや潤わないんだけど。ゲロ甘いなこれ……。

 先ほどのマカロンとおしるこで口の中がだだ甘な俺は、凛子に無糖コーヒーを所望したのだが、それはあっさりと却下された。


「そんな苦いもの、凛子が飲んだことあるわけないじゃないですか」


 とのことである。

 代わりに出てきたおすすめがこいつだ。勘弁して欲しい。

 ただ、他の女性陣には好評のようで、皆表情を和らげ、お茶請けのシフォンケーキとともに楽しんでいる。

 紫月もわかりづらいが、あれはかなり機嫌のいい時の顔だ。その僅かな差異は、俺と親父ぐらいにしか判別できないだろうが。


 現在時刻は午後の四時。最後の一人たるこの部屋の主を待っているところだ。

 五限後の休み時間に朱里から送られてきた一斉送信メールにて、俺たちはここに集められていた。内容は知らされていない。ただ集合と、それだけだ。


 部屋の中央には、横長の会議机が二つ。

 俺の両隣りに紫月と凛子が、お茶菓子を挟んで対面に蓮さん、朱里、詩莉さんが並んでいる。


 彼女たちは、存外に仲が良い。

 小さく元気な凛子はみんなから妹のように可愛がられているし、蓮さん、詩莉さんの三年生コンビはおっとり同士空気感が合うのか、よくペアでいるところに遭遇する。

 意外だったのがうちのクラスの二大美少女、紫月と朱里だ。

 まだ出会って二ヶ月も経っていないはずなのだが、とてもそうは思えないほど仲睦まじい様子が見てとれる。

 二人の寄り添う様は非常に絵になるもので、誰が言ったか「(しづき)女神(さがみ)」の異名でクラスの視線を独占している。

 対して俺が独占しているのは、主に僻みと妬みとやっかみの視線だが。


 紫月にこれだけ親密な友人ができるのは珍しい。

 表情の乏しいこいつは、少し近寄り難いオーラを放っているし——あとまぁ、これが最大の要因なんだろうが、俺に付き合って短期間での転校を繰り返しているため、今まで気の置けない友人というやつができなかったのだ。

 その点は、少し申し訳ない気持ちもある。


 俺ももちろん、男どもの僻みを一身に受ける関係上、ぼっち予備軍である。

 ゼロではない。ゼロではないが、片手のお姉さん指までで事足りてしまうのは、悲しい現実である。

 

 と、コンコンと入口の引き戸をノックする音が響く。


「やぁ、すまないねぇ。お待たせしたようだ」


 そう言って現れたのは、この部屋、ギフト研究会の主であるたま先輩だ。

 御門環(みかどたまき)先輩、高等部二年。

 制服の上から裾の短めな白衣を纏った、凛子と並ぶほどの小さな体躯に、肩まで伸びた水色の髪。同色の瞳は知性と落ち着きを宿しており、どことなく研究者のような雰囲気を醸し出している。

 その認識はおおむね正しい。たま先輩はまだ学生の身でありながら、ギフトの研究、考察において一定の功績を挙げており、この学園でもトップクラスに有名な人物の一人である。

 またその苗字からわかるように、学園経営者の血縁でもある。確か現理事長の姪っ子だったか。

 本来なら、俺のような凡人とは一切接点がないようなお人なのであるが。

 彼女もまた、俺に様々なアプローチをかけてくる美少女の一人であった。


 長机のお誕生日席に腰を下ろすと、たま先輩は楽しそうな視線をよこしてくる。


「やぁ、愛しのとーま君。久しぶりだねぇ。私に会えなくて寂しくなかったかい?」


「いや、週末挟んで三日ぶりなのは全員同じですが……」


「ああ、そうか。寂しかったのは私のほうということだね。どおりで感情が浮ついているわけだよ。

 君に会えて、私はとても嬉しい」

 

 その明け透けな物言いに、俺は呆れを通り越して感心してしまう。常にブレない、ストレートな自己を確立しているたま先輩は、迷いの多い俺からすれば羨望に足り得る先達であった。

 そのためか、どうしても彼女にだけは敬語を使ってしまう。

 もっとも、その率直さ故に周囲の状況を省みない嫌いもあるのだが。

 ほら、朱里がなんかむーっとした顔しちゃってるでしょうが。


「えー、ごほん。それでは皆さん集まったようですので」


 わざとらしい咳払いをして、朱里がたま先輩から主導権を奪う。本題に入る流れのようだ。

 そして続く言葉に、俺は怪訝な表情を浮かべてしまう。

 

「これより、第三回冬馬君問題対策会議を始めたいと思います」


 なんだそのネーミングは。なんか俺がすごい問題児みたいな扱いになってないか? 

 というか第三回ってことは、既に同様の集まりが過去二回開かれているのか。全く知らなかったぞ。


 みんなの表情に疑問はない。どうやら俺と紫月を除いた五人で、いつの間にやら対話が行われていたようだ。

 紫月を見やると、とてもめんどくさそうな顔をしていた。

 やる気のない視線が無言のまま問いかけてくる。すなわち、「帰っていい?」と。

 まぁ待て。この状況で俺を一人にするんじゃない。どう転ぶかによってはお前の力が必要になるかもしれんし。

「フ◯のフルーツタルト二つで」と返ってきたので、仕方なく了承する。背に腹は代えられない。


 議長らしき朱里が、言葉を続ける。


「前回、前々回の話し合いでみなさんも感じているでしょうが、正直なところ、このままでは事態の進展は望めません。よって今回は、当事者である冬馬君を招き、現状の再確認と共有、および今後の方針を詰めていきたいと思います。

——何か質問のある方は?」


 すっ、と紫月が手を挙げ、朱里が指名する。


「あたしはなんで呼ばれたわけ?」


「紫月ちゃんには、オブザーバーとして忌憚のない意見を貰いたかったので来てもらいました。

 あとは私たちだけですと、いつも最後は冬馬君のどこが好きだ、とかどれだけ尽くせるか、とか取り留めのない会話になってしまいまして」


「はぁ。まぁいいけど」


 冷静な第三者の視点が欲しかった、ってことか。なるほど、きちんと自分たちの現状を客観視できているようだな。

 上級生たちも、各々肯定するような態度を示す。

 凛子だけは、ほへ? といった顔をしているが。

 おぶざーばー、の時点でたぶんわかっていないだろう。この子、あんまり頭良くないからなぁ……。


「差し当たって、まず確認したいのが——みなさんのギフトについてです」

 

 全員の顔を見回して、朱里が続ける。いきなり重要な話題だ。

 きちんと話したわけではないだろうが、みんなそれぞれがギフテッドであることは何となく感付いているのだろう。これだけカラフルな状態だしな。


 というのも、ギフテッドの特徴としてわかりやすい共通項に、その髪や瞳の色が挙げられるからだ。彼女たちはギフト発現時に、それらが元の色から変化するケースがかなり多い。

 原理はわかっていない。心の色が反映されるだの、願いが細胞を作り変える際の副作用だのと言われてはいるが。

 なお、ギフトが遺伝することは一切ない。それは本人ただ一人の願いによるものだからだ。ただし、変化した色彩は遺伝する。

 これにより、親世代がギフテッドである有色の一般人も存在するのが、紛らわしいところだ。

 

 ともあれ。

 俺だけは全員のギフトを知っているが、その情報を共有したいということは——。


「知ってのとおり、ギフトは通常ならざる力を行使できる、異能の術です。しかし私たちは、その力を使って冬馬君の意思を強制することは望んでいない、はずです。

 よってここでみなさんのギフトを明示しておき、それによる冬馬君への直接的な干渉を禁止。及びもし、その行使が判明した場合は、罰則を与えたいと思います。

 もちろん、発現状況などは話さなくて構いません。——異論のある方は?」


 みなが首を振る。

 ふむ。これはいい傾向だ。俺の危険度が一気に低くなった。

 過去には大怪我こそしていないものの、けっこう危なっかしい状態になったことは何度かある。

 この協定が結ばれれば、少なくとも公にわかる状態で、俺の身に危害が加えられることは防げるであろう。

 もちろん、約束が守らられば、の話ではあるが。


「それでは私から。私のギフトは——まぁ、見せたほうが早いですかね」


 そう言うと朱里は、鞄からこぶし大の丸い包みを取り出した。銀色のそれは、アルミホイルだ。

 ちょっと焦げた香りの漂うその中身は、あれだろう。爆発したあれだ。何故持ってきてたのかは、あり得た過去を呼び起こすのでスルーする。

 朱里はそれをひょい、とゴミ箱に向けて放り投げると。 

 放物線を描いて下降したところで、揃えた右手をかざす。

 瞬間、パァン! という破裂音とともに、アルミホイルは中身ごと、粉々に砕け散り。

 その残骸の全てが、ぽとぽととゴミ箱の中に収まった。

 相変わらず、恐ろしいまでの威力と精度である。


発動型(コマンド)<破壊(ブレイク)>。まぁこのとおり危なっかしいギフトなので、あまり使うことはありませんが」


 本当にそう願いたいところである。

 もしそれが人体に向けて放たれたらと思うと、俺は冷や汗が流れ出るのを禁じ得なかった。

 凛子などは、ぱちぱちと賞賛の拍手を送っているが。

 

「じゃあ次は凛子ですね。今さらかもですがね」


 続いて名乗り出た凛子が、机の上に両手を掲げ、宙空を見据える。

 するとぱっぱっ、といくつもの小さな光が宙に現れ、そこから突起の付いた丸い物体が次々に形を成し、ころころと机の上に転がった。

 色とりどりのそれらは、可愛らしいサイズの金平糖だ。

 そして最後に少し大きめの光が瞬き、ぼふっと落ちる。

 手足の付いた人型のそれは、人形——いや、ぬいぐるみか。

 フェルトで再現された黒い髪と瞳に、にっこりとした口元。デフォルメされたその顔には、どこか見覚えがあるような。

 ん? もしかして俺か?


「うまくできました」と微笑む凛子。ぬいぐるみに頬擦りをしてご満悦の様子だ。

 その足の部分には小さなタグが付いており、丸っこい文字で「ミニとーまくん③学生服ばーじょん」と書かれていた。芸の細かいことである。


「凛子のはこんな感じです。発動型<具現(エンボディ)>。みんな知ってるでしょうけど」


 昼間のマカロンに始まり、この甘ったるい飲み物やケーキ、ぬいぐるみと、ありとあらゆる物を具現する凛子のギフト。

 味や食感、質感まで本物と遜色なく、実生活においては非常に便利な能力である。

 ただし生き物は難しいらしく、もし子猫などを作ったとしても、それは意思もなく動くこともない、ただの抜け殻になってしまうようだ。

 それが凛子の願いに則した制限なのか——それとも神の禁忌に触れる故なのかはわからないが。


 ちなみに一度、冗談交じりに等身大の女の子フィギュアが作れないか聞いてみたところ、あっさりと承諾された。

 そして贈呈されたのが、等身大凛子人形である。現実よりも、胸部が大幅に増量されていたが。

 その質感は、素晴らしいの一言に尽きた。女体の、否、宇宙の神秘がそこにはあった。

 紫月に見つかるとまずいため、普段は親父の書斎の奥で体育座りをしているが——奴は定期的に、掃除と称して俺の秘密コレクションを処分しにくるのだ——まぁその、なんだ、大変お世話になっている。


「では、私の番でいいかな」


 次に手を挙げたのはたま先輩だった。

 その目線がちらりと机の上を走り、凛子の前で止まると、「ちょっと借りるね」と小さく微笑みを作る。

 少しの間を置いて。


「あっ!」


 凛子の驚きの声。

 ぎゅむ、という音が聞こえたかと思うと、凛子の目の前——そこにあるミニとーまくんのボディが、なにやら縛られたように形を変えていた。

 それは不可視の糸か、もしくは縄のような物の存在を想像させた。たま先輩を見ると、なんとも楽しそうな——いや違うな、嗜虐的な笑みを浮かべている。

 さらにぎゅぎゅ、と縄のような物は縮まり、ミニとーまくんは苦しいような、悲しいような表情を浮かべた。酷い仕打ちである。

 相対的に、たま先輩の口角は上がっていく。

 うん、そのくらいでやめてあげて欲しい。

 

「こんなものかね」


 たま先輩の言葉に合わせて、ぱっと締め付けが放たれ、ミニとーまくんが解放される。

 全身に縄の跡を残したその姿は、哀れの一言である。

 凛子はといえば、興味を無くしたように「それあげます」とプレイ後とーまくんを押しのけ、新たな一体を作り上げていた。

——この人たち、ほんとに俺のこと好きなんだよね?


「私も発動型の、<束縛(バインド)>と名付けている。大した使い道はないが、痴漢の確保なんかには役立つかね」


 そこで何故俺を見るんでしょうか、たま先輩。

 いや、あの時のことは偶然というか、自然の摂理というか、据え尻揉まずは何とやらといいますか、ねぇ。


「四番、綾女詩莉です」


 高らかに宣言し、詩莉さんが続く。いやコンテストではないんですがね。


「私の場合は、ちょっとわかりにくいんですよね。そうですね……環ちゃん、さっきより少し強めに、私にギフトを使ってもらえますか?」


「ふむ。それは構いませんが……」


 少し訝しげに、たま先輩が答える。詩莉さんへのダメージを心配しているのだろう。

 思案顔をするが、にっこりとした蓮さんと視線が合うと、その意図を理解し、詩莉さんに手を伸ばす。

 すると再びぎゅぎゅ、という締め付け音が鳴り、詩莉さんの持つ見事な果実が縦横に押しつぶされた。

 何故その場所を選んだのか突っ込みたいところではあるが、まぁ素敵な光景ではある。


「んっ、あっ」


 響く嬌声に、みんなの視線が集中する。

 その先では、詩莉さんが恍惚とした表情を浮かべて、ほんのりと頰を染めていた。

 その顔に、締め付けによる痛みを感じているような様子は一切ない。


「私は……んっ、発動型の……あっ、<変換(コンバート)>といいまして……はふぅ」


 途切れ途切れに説明をする詩莉さん。

 そこからは急激にピンク色の波動が広がっており、当てられたみんなが顔を真っ赤にしていく。特に朱里と凛子は茹でだこのようで、両手で顔を覆い隠していた。

 紫月ですら少し赤みを帯びており、同性にすら通用するその色香に、俺は改めて戦慄を覚える。やはり汎用型十八禁の異名は伊達ではない。


 よだれを垂らしていよいよ危ない顔になりつつあったところで、流石にたま先輩が拘束を止める。

 うん、これ以上は見せられないよ! である。


「んっ……はぁ。こんな感じで、私は対象にかけられた効果を、任意に変換することが、できます」


 息を整え、詩莉さんが説明を続ける。

 つまり今の場合は、「痛み」を「快楽」に変換していたというわけだ。

 何故そのチョイスなのかは、彼女の嗜好であるとしか言いようがないのだが。つまりは変態である。


「あ、じゃあ、私ですね」


 まだ少し赤い顔で、蓮さんが空気の転換を図る。そうですね、早くこの気まずい空気を払拭してください。


「私は、みなさんとは違って常駐型(パッシブ)なんですが……」


 そう前置き、蓮さんは制服のポケットからソーイングセットを取り出した。

 その中から縫い針をつまむと、それでちくっ、と自分の指に傷を付ける。

 赤い血玉が浮かぶが、それをぺろっと舐めると、既にそこから滲み出るものは何もなかった。


「常駐型の、<再生(リジェネレイト)>。大抵の傷は、すぐに治ってしまいます」


 先日などは、体育の授業中に転んで擦りむいた膝が、ものの数秒で完治していた。

 どの程度の傷まで大丈夫なのかが、少し気になるところではあるが。まさか試すわけにもいかないしな。


 なお、なんとか型というのはギフトの分類にあたる。

 最も多いのが発動型、即ち自分の意思で任意にギフトを行使できるタイプだ。ギフテッド全体のおおよそ七割がこの分類に属するという。

 対照的に、任意行使はできないものの、常にその効果を発揮しているタイプが常駐型、と称される。

 常時発動型とも呼ばれ、全体の二割ほどと数が少ないが、発動型に比べその効果は強力なことが多い。

 その性質上、基本的には後手、受け身に回るのが前提となってしまうが、認識外の状態にあっても——例え寝ていようが、気絶していようが効力を発揮するのが強みと言える。

 俺のギフト? も、任意発動ではないためこの分類に入ると思われる。

 そして最後が、どちらにも分類できない特殊なタイプだ。

 俺はまだ出会ったことはないが、極々少数、他に類を見ない特別なギフトも確認されているらしい。


 ともあれ、これで全員——ああ、まだこいつがいたか。


「……? あたしも?」


「ふあっ」とあくびを噛み殺していた紫月は、集まる視線に怪訝な表情を浮かべる。


「うん。まぁ一応……だめ?」


「いいけど……朱里たちみたいな規格外とは比べらんないわよ」


 前置いて、紫月が席を立つ。

 そして少し集中するような様子を見せると、瞬く間にその姿が消え失せてしまった。


「しづ先輩、消えちゃいました!」


 驚きの声を上げる凛子。

 他、朱里以外の三人も知らなかったのか、同様の反応を表す。

 今のは、たぶん隣の部屋にでも転移したのだろう。

 中西の<置換(リプレイス)>もそうだが、やはり移動系のギフトは便利そうだ。こっそり更衣室に忍び込むのには最適と言える。

 朱里たちを規格外、と言った紫月だが、あいつも充分別格だと思うんだがな。


 数秒置いて、がちゃりと扉の開く音。

 驚くみんなを他所に、現れた紫月は何でもないように自分の席に戻った。


「<短距離転移(ショートトランス)>。ほんの少しだけ、離れた場所に移動できるわ。たぶん5メートルぐらいが限界。あなたたちに比べれば、大したことないギフトね」


 実につまらなそうに、紫月は言う。

 だったら俺と交換して欲しいものだが。贅沢な奴である。


 なお、俺のギフトもどきについては、既に全員に周知してある。それで諦めたり、疑念を持つようであればそれで構わなかったし、過去の統計的にも、先に知らせておいたほうが、最終的な被害が少なくなることがわかっていた。

 諦めてくれた子は、今まで誰一人としていなかったがな。

 

 さて、これで本当に全員の確認が終わったわけだが。

 朱里議長は思案顔でひとつ頷くと、まとめに入る。


「それでは皆さん、今後はやむを得ない場合を除いて、ギフトによる冬馬くんへの干渉は絶対にしないように。もし発覚した場合は——」


 そこで朱里は、ちらりとゴミ箱に視線を向ける。

 爆発後に爆発した物体が、そこには収まっている。


「まぁ、言わなくても大丈夫ですよね」


 議長の笑顔が怖い。

 俺は関係ないはずだが、何故かみんなと一緒に頷いていた。


「あ、あともう一つ、提案があります。最近の「胃袋掴んで冬馬君もゲット」作戦なんですが……」


 そんな作戦名だったのか。

 まぁ古来より行われてきた、歴史ある所業ではあるが。

 

「流石にこう毎日ですと、冬馬君の健康が心配でして……一度中止にしようと思うのですが」


 おお。よく言ったぞ朱里。

 どう考えても裏のある発言だが、俺の平穏なランチタイムのためにも、細かいところはスルーだ。


「えー。それって、しゅり先輩がお料理できな」


「違います。全くもってそんな意図はありません。冬馬君が心配なだけです」


 凛子の非難に、だいぶ食い気味かつ早口で返す朱里。

 やはり本音はそちらか……。


「代わりと言っては何ですが、これからは放課後の時間を使い、ひとりずつ冬馬君とデートをするというのはどうでしょうか」


「あ、いいですねそれ!」


「あら、それも楽しそうですね」


「ふむ。いいんじゃないかね」


「冬馬様とデート……ふふ……」


 口々に賛成の声が続く。

 なるほど、そうきたか……。

 もちろん俺に拒否権なんてものは存在しないため、成り行きを見守る他ない。しかし意思確認すらされないのは、少々悲しくはあった。

 と言うか俺、この場にいる必要なかったんじゃないか?


「では、明日からはそのようにしましょう。あとは順番ですが——」


 俺の根本的な疑問を他所に、朱里たちは細かいスケジュールの話し合いに移る。

 その向かいで、紫月はスマホでフ◯のホームページの検索を始めた。特に役に立たなかったのだが、しっかりと報酬は貰うつもりらしい。

 そして完全に空気と化した俺は、哀れな縛り後の残るミニとーまくんと視線を合わせ。

 気持ちを共有するように、深いため息を吐くのだった。

 

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