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デッドハーレム  作者: fumo
第1章 願いと狂いと迷いと呪い
32/118

父、観察する

 結局時間が足りなくなり、訓練は一端終了となった。

 他の日ならそのまま続けてもよかったのだが、生憎と今日はもう一件、別に予定が入っていた。また後日、機会を設けるとしよう。

 実質俺専用となっているシャワー室で軽く汗を流し、隣の喫煙室で一服つける。

 二本目に火を着けたところで、待ち人はやってきた。


「お待たせですー」


「いや、今火ぃ着けたところ」


「なんですかその返し? 意味わかんないんですけど」


「ノリだ」


「はぁ。アオさんって、たまにアホさんになりますよね」


 失礼な呼称を使ってくる香里奈。俺のユーモアの矜持になんてことを言うんだか。

 唇を突き出してんー、と催促してくるので、煙草を押し込んで着火してやる。


「ぷはー。お仕事の後の煙はたまんないですねー」


「今日は普通に入ってきたな」


「だって、全部消すのめんどいですし」


 先ほどまでのパーカー一枚と異なり、今の香里奈はちゃんと服を着ていた。いつものギャルJKスタイルだ。メイクもばっちりである。


「祝日なのに制服なのか?」


「知らないんですか? JKはステータスなんですよ」


「それはどこの業界の話だ……」


 流石にご援助的なことはしていないとは思うが。


「アオさんは好きじゃないですか?」


「まぁ、嫌いではない」


 下手に肯定すると部署内で変な文化が広まりそうだったので、曖昧に答えておく。

 以前、「ナースっていいよな。物理的にも精神的にも癒してくれるとか最高過ぎる」と零したところ、多くの職員がナース服を着用して職務に当たるという事態が起こった。点数稼ぎだったのだろうが、一面に純白の天使が集う状況に、当然上司たる大臣にはこっぴどく叱られた。


「いつから祝対は、君の性的願望を満たすための風俗店になったのだね?」


 と青筋を浮かべる大臣に、俺は始末書の提出を余儀なくされた。またぞろ制服祭りなんぞ開催されたら、今度は首は飛ばないまでも、ボーナスの査定が下げられるのは確実であった。


「それで、午後はどこに行くんですか?」


「あれ、言っただろ? どこか連れてってやるって」


 昨夜の帰り道、香里奈には訓練を含めて一日空けといてほしいと伝えてあった。


「え、マジですか」


「ああ」


 驚きと期待が入り混じったような顔をする香里奈に、告げてやる。


「デートだよ」














 御門学園にほど近い商店街。

 その一角に設置された休憩所兼公園のような場所。

 木製のテーブルと椅子が並ぶスペースに座っているのは、鮮やかな金髪をツインテールに纏めた小さな少女だ。

 少し離れた場所で植栽に隠れながら、俺たちはその少女を観察していた。


「あの子だな。紗都美凛子、中等部三年」


 ある筋から入手した最新の報告書を手繰り、整合性を確認する。金髪、翡翠色の瞳、身長百四十台半ばほど。うん、間違いないな。

 先ほどフレッ○ュネ○で購入した餃子バーガーなる珍品を齧りながら、観察を続ける。お、意外にうまいなこれ。奇抜な商品は必ず購入してしまう俺だが、今回は当たりだったようだ。


「……違う」


 傍らの香里奈が、何やらジトッとした目で睨めつけてくる。こちらの手に握られているのは、スタンダードなテリヤキバーガーだ。


「アオさん、これ、デート違う」


「何言ってんだ? 男女で出かけることの定義がデートだろ?」


「隠れて女の子を付け回すことのどこが――むぐっ!」


「しっ。大声を出すな、気づかれるだろ」


 大きく開いた香里奈の口に、餃子バーガーを突っ込んで黙らせる。

 もきゅもきゅと口が動き、それが咀嚼されるのを見て、バーガーを放す。あ、口紅付いちまった。まぁいいか。

 残りを嚥下して、ぱっぱと手を払う。


「……ハァ、期待したあたしが馬鹿でした」


「え、結構うまいだろ?」


「……もういいです。で、なんでストーカーなんかしてるんですか?」


 人聞きが悪いな。隠密調査と言ってほしい。


「うちの息子のことは、話したことあるよな?」


「ああ、職業ハーレムマスターなんでしたっけ」


「それを職業にすると最低のクズヒモ野郎になっちまうが……まぁ、そんな感じだ」


 実際にはほとんどの交際費を冬馬の方が負担しているようなので、逆だが。美尻や美乳には金を惜しむなという俺の教えは実践されているらしく、そこは喜ばしいところである。


「この親にして、ってやつですね」


「なんだそりゃ? 俺を一緒にするなよ」


「……気づいてない分、アオさんの方が業が深いですけど」


 嘆息して、わけのわからんことを宣う香里奈。確かに職務上女性に囲まれてはいるが、ただの上司部下の関係だしな。一緒くたにはしないでほしい。


「まぁそれで、毎回内密に調査をしてるんだよ。今回はヤバいのが混じってるみたいだから、こうして実物を観察しにきたわけだ」


「あたしがついてくる必要あるんですか?」


「ああ、なんたって全員がシングルだからな。最悪お前の<透過>で逃げる必要がある」


 ぴら、と報告書を見せてやる。

 少女たちの詳細なデータが、そこには整然と書き連ねられていた。



 紗都美凛子

 中等部三年

 金髪、翡翠色の瞳、身長百四十台半ば

 発動型<具現(エンボディ)>

 保有精神力:多

 射程:短

 危険度:中

 天真爛漫。ロリ枠。単純。お馬鹿。チョロイン。小悪魔的。

 あらゆる物を<具現>せしめる、創造系の頂点に近いギフトを持つ。ただし生命は作り出させない模様。保有精神力は多いが、 常軌を大幅に逸した物を作ると枯渇することもある。

 ギフト発現の経緯は、「父親の喪失から、それを作り出したいと願った」こと。対象に父親の影を重ねている節がある。

 通常は大人しいが、予期せぬ事実によっては暴走する危険性あり。

 


「チョロインって……やけに恣意的な報告が混じってますね」


「分類みたいなもんだろ。逆に言えば、それだけの数を今までに調査してきたってことだ」


「はぁ。もう誰かと付き合っちゃえばいいんじゃないですか?」


「その瞬間、嫉妬が憎悪に変わって実力行使に移るタイプがほとんどだ。酷いのだと拉致監禁してきたりする」


「うわぁ、全員ヤンデレですか。ハーレムルートは無理ゲーじゃないですか」


まったくである。どうやら<貴方を愛死てる(デッドハーレム)>と命名されたらしいが、正にその名のとおりだ。

 ギフトがハーレムを呼び寄せるというのに、選択肢を一つ間違えるとデッドエンド直行とか、マゾいにも程がある。ゲームなら開発陣が総叩きを喰らうレベルだ。

 その本質は、おそらく別のところにあるのだろうが。


 少女に意識を戻す。


「何か食べてますね……あ、ル○オのドゥーブルフロマージュですよ、あれ。いいなぁ」


 凛子ちゃんが食しているのは、ホールのチーズケーキのような菓子だ。実にいい笑顔でもぐもぐと頬張る様は、なるほどとても愛らしい。書斎に彼女を模した、というか瓜二つな人形が置いてあるので容姿は知っていたのだが、そこに感情が乗ることで彼女の魅力は何倍にも増しているように思えた。


 と、凛子ちゃんの右手が俄に光を帯びる。


「え、もう一個出てきましたよ。凄い。便利。アオさん、あの子スカウトしましょうよ」


「確かに逸材ではあるな。今は難しいだろうが、将来的には口説くのもありかもしれん」


 恐ろしく経済的な子だった。何をどこまで作れるのかにもよるが、あの子一人で様々な問題が解決しそうだ。

 ただ、その汎用性故に自制心が求められる能力だな。悪用しようと思えばいくらでもできる。紙幣の大量捏造でもされた日には、日本の貨幣経済が大混乱を起こしかねない。

 お馬鹿で単純らしいから、大丈夫なのか?


 きっちり二ホールを完食する凛子ちゃん。よく食えるな。あの小さな体の何処に収まるんだろうか。

 そこに手を振りながら、小学校低学年ぐらいの幼女が近づいていく。顔見知りだろうか、凛子ちゃんも笑顔で手を振り返す。

 二言、三言を交わし、また凛子ちゃんの手が光ったかと思うと、そこには大きな赤い風船が現れていた。

 それを渡すと、幼女がぴょんぴょんと跳ねて喜びを表す。また幾らか言葉を交わし、大きく手を振りながら幼女は去っていった。


「いい子じゃないですか。無限スイーツも付いてくるし、もうあの子で決めちゃいましょうよ」


「いや、俺が決めるわけじゃないからな。確かに可愛らしいし、いい子みたいだが」


 凛子ちゃんが冬馬の嫁として家に来るのを想像する。

 うむ。悪くないな。特に現食卓の支配者の影響が薄くなるところが喜ばしい。

 別に紫月の料理に文句があるわけではないのだが、あいつの気分次第で大幅にメニューが変わるからなぁ。

 あと素直そうで可愛いし。こう、無意味に撫でたくなる。


「え、アオさんって、もしかしてロリ――」


「違うからな? あれは愛でるものだ」


 変な勘違いをされないよう、香里奈を遮って断言しておく。父性は刺激されるが、あの年代の少女には流石に劣情は催さないぞ。


「じゃ、じゃあ、……ぁたしとかは……」


「あん?」


「あ、やっぱりなんでもないですっ」


 妙に赤い顔をして目を逸らす香里奈。もじもじと内股をこするような仕草をする。

 なんだ? トイレか?


「はっきり言えはっきり。トイレ借りたいのか?」


「な、なんでもないですってば! ほら、あの子も移動するみたいだし、次行きましょっ」


「お、おう」


 急に不機嫌になる香里奈嬢だ。うちの職員たちは共通して、たまにこんな感じになることがあった。

 理解の難しい現象である。歳を重ねてもやはり、女性の思考だけはよくわからないものだ。


 すたすたと先を行く香里奈を追いかけながら、俺はぽりぽりと頭を掻くのであった。






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