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デッドハーレム  作者: fumo
第1章 願いと狂いと迷いと呪い
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ギフト

  一部の、限られたケースにおいて。

 自惚れでもなんでもなく、俺は異性に非常にモテる。

 いや、 正確には、異常なほどの執着を持たせる、といったところか。

 その説明には、まずギフトの話をしなければならない。


  祝福(ギフト)

 神だか仏だかにより選ばれし者が授かる、常軌を逸した特別な力——と、おおまかには認識されている。

 間違いではないが、しかしてその本質は、少々様相が異なる。

 おおよそ七十年前より世界各地で発現し始めた、祝福されし者——ギフテッドたち。

 彼らに共通するのは、願い、祈り、そして強き思い。簡単に言えば、神様に願いごとをして、それを叶えてもらった、ということだ。

 もちろん、それが神であることの証明は誰にも成し得ないのであるが。


 七十年の間に、摩訶不思議な現象にはいくつかの予測がついた。研究がなされたのだ。

 個人で超常的な力を持つギフテッドを、様々な思惑で各国がこぞって求めたためである。

 ギフトの発現において、判明した傾向は二つ。

 一つは、大きな感情の発露を伴う願い、祈り、決意、誓いなど、思いの極致がキーとなること。

 もう一つは、感情の発露しやすい女性、それも多感な時期の少女に発現しやすいということだ。

 まだまだその細かい条件はわかっておらず、限られた者のみがその恩恵を受けている状況ではあるが。

 歓喜に咽び泣いた者は多い。

 なんたって、そう。


 願いは叶うし、祈りは届くのだ。

 この世界では。



 さて、ここで一つの疑問が残る。

 それは俺のこの状況が、ギフトによるものであるか否かということだ。

 おそらくは是。ただし、断定はできない。

 俺は男だし、なによりそんな極限の願いをした覚えが一切ないのだ。

 まぁ、男にとっての究極の夢の一つである、ハーレムを夢想したことがないわけではないが。

 そんな程度の思いでギフトの発現が成されるのであれば、世界はハーレムだらけになっているであろう。


 ここで少し、俺の経緯を語る。

 始まりは、中学に上がって間も無くの頃だった。

 今回と同じように、俺は三人の美少女から異常なほどの好意を向けられた。それに対して単純に、俺は舞い上がった。

 しばらくは、キャッキャウフフな展開が続いた。

 時代が来たと叫び、紫月に呆れられ、彼女たちと楽しい時を過ごし、尻を揉みしだき。


 そうして、三人の間で少しずつ膨らんでいった嫉妬が憎悪に変わるまで、俺は何も気付かなかった。

 いや、本当は気付いていたが。

 根拠もなく、何とかなると気楽に考えていた。

 俺はハーレムを統べる男、この程度の諍い、俺の愛で止めてみせると。

 愛が何かも知らない、ガキの戯言であった。無論、未だにわかっていない。


 崩壊はあっという間だった。

 感情を抑えきれなくなった彼女たちは、実力行使に及んだ。

 実力——彼女たちは、全員が強力なギフテッドであった。

 当然ながら、俺にはそれを止める力など無く。

 学校ごと巻き込んで、多数の負傷者を出した。幸いと言っていいのか、死者は出なかったが。


 三人の内一人は、未だに病院のベッドから動かずにいる。

 俺の慢心が招いた事件であった。


 事件の真相は親父の権力によって隠蔽され、俺は転校の処置を受けた。逃げ出したのだ。

 強烈なトラウマを負った俺は、新しい学校に通うこともできず、母さんに甘えた。真夜中に叫び、恐慌のまま暴れる俺を、母さんは諦めることなく、親身に世話してくれた。


 その甲斐あって、ようやくいくらかの落ち着きを取り戻し、一人で眠れるようになった頃。

 ある夜、荒い吐息に目を覚ますと。

 俺に馬乗りになった母さんが、彼女たちと同じ顔をして、俺の服に手をかけていた。

——母さんもまた、強力なギフトの持ち主であったのだ。


 俺の悲鳴に、親父は素早く起き出し、部屋の扉を勢いよく開いた。

 視界に映るあってはいけない光景に、それでも親父は強く、母さんの名前を叫んだ。

 その言葉にはっと自我を取り戻した母さんは、俺を見て、親父を見て、事態を理解すると。

 涙を溢れさせながら。

 ごめんなさい、と小さく呟き——。

 その絶大なるギフトの力を、自身に向けて解放した。

——その後のことは、しばらく記憶にない。




 今度こそ本当に、俺の自我は崩壊した。

 特に女性に対する恐怖が強く、テレビに異性が映るだけで——いや、ラジオからその柔らかな声が聞こえるだけで、俺は錯乱した。

 尻への信仰すら、その時には失ってしまっていた。


 自室に引き篭もり、膝を抱えて震える日々が続いた。

 前の学校の友人や、教師たちが俺を見舞ったが、決して扉を開けることはなかった。

 一月が経ち、二月が経ち、彼らは誰も来なくなった。

 三月が経ち、四月が経ち、仕事の忙しくなった親父は、泊まり込みが増えた。

 半年が経ち、まともに食事を摂らなくなっていた俺は、見る影もなくやつれていた。

……このまま朽ちていくのだと思った。


 それでも。

 妹と、そして紫月だけは、毎日扉越しに話しかけてくれた。

 長い時間をかけて、少しずつ、少しずつ、俺は心の欠片を拾い直していった。

 そうして、また新しい春が近くなった頃。

 かなり強引な手腕ではあったが——。

 紫月の手で、俺は約十月ぶりに、外の世界に帰還したのだった。





 それから、俺はギフトについての勉強を始めた。幸い、親父の仕事がギフトに深く関わるものだったため、また一連の状況が、俺に宿るギフトによるものである疑いがあったため、資料は優先的に用意してもらえた。

 未だ辛い状況を思い返し、まとめると。

 俺に執着を示した者は、全員が女性かつ、強力なギフテッドであること。

 そして、過去もしくは現在において、何がしかの「死」に関する思いを抱えていたことが、共通項として浮かんできた。

 少女たちはそれぞれ、親兄弟や友人、あるいは自分自身に迫る死を経験しており。

 母さんもまた、昔大切な人を亡くしていた。

 その時の大きな感情の発露により、彼女たちはギフトを発現していたのだ。


 俺の場合、はっきりとした目に見える効果を発揮しているわけではないため、ギフトであると断言はできないのだが。

 これらの特徴を加味して、便宜的に常駐型(パッシブ)〈誘惑〉(テンプテーション)と名付けることにした。


 試行と研鑽を紡ぎながら、俺は学校生活を続けた。

 同じような状況は以降も続き、俺は心を折られそうになりながらも、何とか壊滅的な事態に陥る前に状況を見極め、転校を繰り返した。

 都合、今回で八回目の転校である。

 いくらか、慣れと諦めも混じってきてはいるが。

 今度こそは、平穏な日々と、平穏に揉める尻を求めているのである。


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