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デッドハーレム  作者: fumo
第1章 願いと狂いと迷いと呪い
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ポルノワークスの悩み

「なんらかの死に関する思いを抱えた、異性のギフテッドを対象に、俺への異常なほどの執着を持たせるギフトだ」


「そりゃまた、難儀なギフトだねぇ」


 まったくである。そういう意味では、ゲス城さんと同じく人に言うのが憚られる能力であった。

 ただ、俺の場合はもっと酷い。


「でもどうやら、キミの境遇が最も私に近そうだね。そこのとこ、詳しく頼むよ」


「俺もそう思うんだがな。残念ながら、俺は自分がギフトに目覚めた記憶がないんだ」


「はあ? そんなわけないだろ。ここまできて出し惜しみするのかい?」


 ゲス城さんが訝しげな視線を寄越してくる。


「いや、本当に――」


「ああ、そういうことかい」


 弁明しようとする俺を遮り、ゲス城さんは納得したように首肯を一つ。何故か上着のボタンに手をかけ、それを一つずつ外し始めた。


「おっぱいとか見せればいいのかな?」


「あのなぁ――」


「間に合ってます!」


 途端に俺の腕を取り、揺れる山脈を押し付けてきたのは蓮さんだ。

 きっ、と威嚇するようにゲス城さんを見据え、ぐるると可愛らしく唸りを上げる。

まったく怖くはないので、それに圧されたわけではないだろうが、ゲス城さんはぽかんと口を開けて動きを止める。


「えっと……」


「あー、ほんと、そういうのはいいから。特に今は」


 どうして俺の関わる女性たちは、こうおっぱいとか膜とかで事態を解決しようとするのか。男が皆、それで懐柔されるとは限らないのをわかってほしい。

……蓮さんや紫月がいなければ、成り行きで見せてもらったかもしれないけど。


「意地悪とか出し惜しみとかじゃないんだ。俺のギフト発現時の記憶は、おそらく他のギフテッドによって消されている。だから話しようがないんだ」


「それを信じろって? 些か都合がよすぎる話じゃないかい?」


「悪魔の証明はできないんだろ?」


 打ち返してやると、ゲス城さんはぐぬぬと押し黙った。事実なのだから致し方ない。わかるなら、俺の方が教えてほしいぐらいだ。


「あれ? でもそれが本当だとするなら」


「ああ。状況としては、俺の方が遥かに酷い」


 邪な願いを叶えてしまったことに、悩むゲス城さんであるが。

 俺に比べればまだマシな方だ。なんたってこちとら、その願いすらわかっていないのだから。


「ある人に言われたんだけどさ。俺の願いに理由を付けるなら、修羅場に進んで身を置いた上で殺されたい、ってとこらしいぞ?」


「そりゃまた……言葉が見つからないね」


 もちろん、そんな願いは抱いていない……と思いたい。


「というか、よく平気だね? そんなわけのわからない状態で」


「平気じゃないし、壊れそうになったし、半年引きこもったし、逃げてばかりだし、未だに迷いも多い。でも」


 決めたんだ。

 このままじゃ、前に進めないから。


「俺は必ず、俺の願いの起源を見つけ出す。そこがたぶん、俺のスタート地点だ」


 そう、言葉にすると。

 不思議と、気持ちが少し固まるような気がした。

 上辺だけかもしれないけど。言葉で気持ちを引っ張っていく。

 ともすればすぐに諦めがちな俺には、そんな大言壮語を吐くぐらいがちょうどいいのかもしれない。

っと、ゲス城さんへの説明のつもりが、決意表明みたいになってしまったな。

 反応を窺おうとすると、彼女はなんだか呆けたような感心したような顔をしていた。


「はぁ。強いんだね、キミは」


 どうやら、いいように受け取ってくれたようだ。


「そうでもないがな。色んな女の子たちと話して、最近ようやく方向性が定まったというか、少しだけ前に進もうと思えるようになった」


「そうかい。私の悩みなんか小さいものに思えてしまうね」


「悩みの大小は人によるだろ。ただ、俺みたいな奴でもなんとかかんとかやれてるんだ。あんたもなるようになるさ」


「うん。そう思えてきたよ」


 少しだけ、ゲス城さんの表情が軽くなったように思う。根本的な解決には至っていないが、元より人の悩みとはそんなものだ。

 時間をかけて、うまく付き合っていくしかない。


「ありがとう、四条君。いやー、軽い気持ちで話しにきたんだけど、思いの外気持ちが楽になったよ」


「そりゃ何よりで」


 軽い気持ちで犯罪行為に走るのはやめてほしかったが。まぁ、罪状としては身分詐称と公務執行妨害ってところか。

 たいした被害も出ていないので、捕まったとしても起訴はされないだろう。むしろ起訴すると、ここぞとばかりにギフテッド団体がうるさいことを言ってきそうなので、親父ならスルーするのが予想できた。

 国家運営組織がそんなことでいいのかと言われそうだが、被害がない以上、無駄な仕事を増やすのが嫌いな親父は「ギフテッド間の個人的な争い」で押し通すだろう。久々利さんには少し気の毒だが。

 逆に俺たちや職員に危害が加えられていたとしたら、草の根を分けてでも探し出して、処罰を与えるはずだ。俺の知る限り、親父が祝対の室長に就任してから、凶悪犯罪を犯したギフテッドが野放しになった例は一つもない。

 そこは流石、歴代最強の室長と親父が呼ばれる所以であった。セクハラばかりが能の、単なるエロ親父ではないのである。たぶん。


「これで、あんたの目的は達成されたと思っていいのか?」


「うん。悪かったね、無理に拘束して」


「絶対悪いと思ってないだろ?」


「あはは、バレたか。でもね、感謝してるのは本当なんだよ? だからキミには、別に報酬をあげようと思うんだけど」


 ちょいちょいと手招きの仕草をするゲス城さん。

 今さら変なことをするでもないだろうと、俺は未だに腕にしがみついていた蓮さんに一声かけ、優しく剥がしてからそちらに向かう。


「エロ系は結構だぞ?」


「そうなの? 何度かお尻に視線を感じたから、少しなら触らせてあげようかと思ったけど」


「…………………後日……」


「長ーく迷った挙句に断らないあたり、業が深いねぇ」


 仕方ないだろ、尻に貴賤はないんだから。

 例え親の仇であったとしても、揉めるなら俺は揉むぞ。


「じゃあそれはそれとして。あの二人は、どっちが彼女なの? もしかしてどっちもだったりする?」


「いや、どっちも違うぞ」


「はあ? それこそ有り得ないだろ。特に三枝さんの方なんか、絶対にキミのこと好きじゃん」


「だから言ったろ。そういうギフトなんだって」


 傍目にはやはり、そうとしか思えないんだろうが。


「え、じゃあほんとに、手ぇ出してないわけ?」


「出したら最悪、他の四人に殺されるからな」


「何その充実してないリア充。三枝さん、胸もお尻も凄いじゃん。揉みたいと思わないの?」


「揉みたいに決まってんだろ。我慢だよ我慢」


 溢れ出るリピドーは我が家で発散している。主にお人形を相手に。

 先日、詩莉さん人形も手に入れたので、夜のお人形遊びはローテーションが組めるようになった。いっそのこと、全員分作ってもらおうかとも考えている。捗るに違いない。


「はぁ。なんかキミには、尊敬の念すら浮かんできたよ。私だったら即ヤっちゃうだろうね」


「俺も自分で自分を褒めてやりたい」


 マラソン選手並のストイックな環境に身を置いている自信はある。


「せっかくだから、私のギフトであの子たちをちょっとエロい感じにしてあげようかと思ったんだけどさ。三枝さんにはレジられるかもしれないけど、出力五十倍ぐらいにすれば幾らかは持つと思うし」


「ちょっと興味はあるが、俺が耐えられなくなりそうだからな。気持ちだけ貰っておく」


 紫月にかけても、後が怖いしな。


「じゃあ、悪いけどこれでお暇するよ」


 そう言って、投げ捨てたウィッグを被り直すゲス城さん。

 そのまま何事もなかったかのように、部屋を出ていこうとする。


「ああ、そうそう。キミの質問には答えておこうかな」


 と、再び身を翻し、俺の耳元に顔を寄せてくる。


都築円香(つづきまどか)――それが私の名前だよ」


 囁くように、言葉を残し。

 ほんの少し、頬に柔らかな感触も残し。


「キミにはちょっと、興味が湧いたよ。また会えるといいね」


 ひらひらと手を振って、ゲス城さん――いや、都築さんは、自然な足取りで部屋から立ち去った。


「……」


 少し熱くなった頬を、ぽりぽりと掻く。

 とんだバイトになったもんだが。

 まぁ、人助けにはなったんだろうか。


「冬馬さん?」


 あとは。


「ずいぶん楽しそうでしたが、何をお話しされてたんですか?」


 にっこりと笑いながらも、違う感情を含ませた蓮さんに、うまい言い訳を考えなければいけなかった。

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