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デッドハーレム  作者: fumo
第1章 願いと狂いと迷いと呪い
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お金がないっ!

 資金が尽きた。

 ようやく月の半ばを折り返したばかりだというのに、だ。

 原因はさもありなん、先週より始まった個別デートの積み重ねである。二巡が過ぎた今、残る札は英世さんがひとりきりとなっている。

 学生の身であるなら、下級生は別として同級生、上級者とのデート代は折半でもよいのでは、という風潮もあるだろうが、四条家の信条として、それは罷り通らない。美尻に金を惜しんではならないのである。

 故に場合にもよるが、だいたいの費用は俺が負担していた。


 なお、最も出費が嵩むのが蓮さんだ。主にエンゲル係数的な意味で。俺の失言ならぬ失想による補填の意味合いもあるのだが。

 逆に凛子は割安だ。一度口にした物はなんでも作り出してしまうので、その辺の公園でも立派なカフェと遜色ない環境に仕立てあげてくれるのだ。金のかからない女である。

 

 ちなみに、月の始めに親父から支給される資金は、諭吉さんと一葉さんがひとりずつ。家庭内春闘を経て昨対比百五十%の大躍進であったのだが、連日の交際費には少々ショートしてしまっていた。

 紫月も同額なのだが、家庭の食卓を担うあいつには、それとは別に食費が支給されていた。そのこと自体は、世話してもらっている身として何も文句を言うつもりはないのだが。

 やけに質素な晩餐が数日続いたのち、奴の部屋に以前はなかった巨大なうさぎのぬいぐるみが鎮座していたのには、業務上の横領を疑ってしまう。それが事実であったとしても、胃袋を支配されている俺と親父に反抗の術はないのだが。


 とにかく。

 金がない。

 ならばどうすればいいのか。答えは一つだ。

 労働による対価を得るしかない。

 そういうわけで、本日は親父の斡旋によるバイトに勤しむ予定となっていた。






 霞が関。

 言わずと知れた日本の官公庁が建ち並ぶその地区に、今回のバイト先――祝福省本庁舎はある。

 親父の勤め先であり、今までも何度かバイトを紹介してもらっていたため、道のりは頭に入っていた。

 駅のホームに降り立ちながら、そういえば、と俺は隣に声をかける。


「紫月はずいぶん久しぶりじゃないのか、霞が関は?」


「そうね。登録の時以来かしら」


 珍しくも今回は、紫月が付いてきていた。

 家や学校では毎日顔を合わせてはいるが、中学に上がってからの俺は女の子たちの対処に忙しく、こうして紫月と連れ立って出歩く機会というのは数えるほどしかなかったように思う。


「しかし珍しいな、紫月がバイトとは。お前も早くも使い込んじまったクチか?」


 いつもは俺が無駄遣いをすると、「お金は計画的に使いなさい。あたしは貸さないわよ」と母親のようなことを言ってくる紫月である。食費をちょろまかしても補填できないほどの金欠になるのは、本当に希なことであった。それとも何か欲しい物でもあるのだろうか。

 ちなみにうちのリアル母さんは、その辺は放任主義であった。「好きに使って、後悔して、学びなさい」との言葉どおり、何度も後悔しては学んでいる。うん、学んでいる、はずだ。


「……今月は、専用ウサギが手強かったのよ」


「ああ、アレか」


 専用ウサギというのは、クレーンゲームでシリーズ展開しているプライズのぬいぐるみたちのことだ。パスケースのついた通学専用ウサギ、内部が小銭入れになっている硬貨専用ウサギなど、何かしら特化した機能を併せ持った商品になっている。

 本体がやけにデカく、耳が無駄に長いため実用には全く適していないネタ商品なのだが、紫月はこれらを殊の外(ことのほか)気に入っており、新商品が出るたびに筐体に張り付くのが常であった。


 その腕前については、お察しレベルである。

 そこそこの頻度で代わりにやらされる俺の方が、明らかに上手かった。

 というか、うず高く積まれた百円玉が次々と消えていく様に、食卓の危機を覚えた俺は自腹で練習した。それで、以降は一定のお布施をしても取れなかった場合、俺が代打をすることになっていたのだが。

 今月は連日のデートで俺に暇がなく、自力で挑み続けた結果、ご覧の有様というわけだ。

 計画的なご利用を謳ったのはどの口だったか。見事なまでのブーメランであった。


「ヤ○オクとかにあるんじゃねぇの、アレ? 絶対そっちの方が安上がりな気がするんだが」


「あほぅ、それじゃ意味ないのよ。あの狭い箱から、あの子たちを救い出してあげなきゃ」


 いつものあほぅ呼ばわりだったが、この件に関してはお前の方があほぅだと思うんだがな。

 ゴトン中毒プラス愛といったところか。


「で、取れたんだろうな?」


「……重いのよ、今回の撲殺専用ウサギは」


 ……なんだその不穏なワードは。

 絶対鈍器持ってるよね、それ。耳で。


「でも、あたしはあの子たちを救い出すわ。どんな手を使ってでも」


 駄目だこいつ。決意を滲ませた顔をしているが、今日の稼ぎが瞬時に消えるイメージしか浮かんでこない。

 仕方ないな、明日にでも取ってやるとするか。このままでは夕食のおかずがメザシになってしまいそうだ。


 そんな会話を交わしながら、改札をくぐる。

 見回すと、もうひとりの彼女はすぐに見つけることができた。


「蓮さん、おはよう」


「おはようございます、冬馬さん、紫月ちゃん」


 私服姿もやはり凄い蓮さんである。

 至って普通の白いワンピース姿なのだが、胸部の盛り上がりが凄まじいため、何もせずとも色気が溢れ出ている。ちょっと街道を走らせれば、揺れる大山脈に道はモーセの海割りが如く開けることだろう。(うずくま)る多数の男どもを残して。


 親父からのオーダーは、最低二人のギフテッドということだった。

 紫月が真っ先に手を挙げ、皆にも連絡してみたところ、蓮さんも都合がよいとのことで、今日はこの三人でバイトに臨むことになった。


「じゃあ、さっそくだけど行こうか。こっちだ」


「はい」


 祝福省本庁舎は、駅から少々距離がある。

 蓮さんもギフト登録の際に一度は訪れたことがあるはずだったが、学生がそう何度も足を運ぶ施設でもないので、最も詳しい俺が先導する形で歩く。


「蓮さんは、何か欲しいものでも?」


「いちばん欲しいのは、冬馬さんですよ?」


 と、たおやかに微笑む蓮さん。

……そういう不意打ちはやめてほしい。ちょっとドキッとしちゃうじゃないか。


「ふふ、冗談です。今月は新作のスイーツがたくさんありまして」


「ああ、そういうこと」


 学園近くのモールに軒を連ねる甘味処は、全て制覇していると豪語する蓮さんである。夏の新作スイーツ巡りの資金繰りといったところか。

 彼女の場合、(笑)は付かない。流行やおしゃれを気取っているわけではなく、単に食欲の為せる業であるためだ。言うなればガチスイーツである。

 その無限の胃袋は、先日も色とりどりのスイーツをメインとしたビュッフェにて見せてもらったばかりだ。

 軽く二十種類は並ぶ甘味ショーケースを前に、平然と「とりあえず、 全部二つずつください」と告げる蓮さんに、俺は戦慄を覚えるのを禁じ得なかった。見ているだけで胸焼けがしてくるというやつだ。

 恐ろしいのは、そのあとに普通の食事メニューをやはり全種平らげ、「さて、デザートにしますか」と再びショーケースに向かうところだ。食前のデザートという新たな概念を生み出す蓮さんは、相変わらず色んな意味で凄い人だった。


 両脇に花を携えていると、いつものむず痒い視線が感じられた。彼女たちとのデート中はいつもこうだ。慣れたものだが、決して心地よいものではない。

 特に今日は二倍なので、痒いというかもう突き刺さるように痛い。蓮さんは言わずもがな、紫月もまぁ外見は整っているので、男たちの僻みも一入というわけだ。

 何も言わずとも、その心の内はよくわかる。「もげろ」「爆ぜろ」あたりだろう。代われるものならいつでも代わってやるので、そんなギフトがあるやつは是非名乗り出てほしいものである。


――いや、と俺は浮かんだ思考を振り払うように首を振る。

 そうじゃない。

 俺は決めたんだった。彼女たちと向き合い、その思いと対話するのだと。

 ついつい逃げ腰になってしまう思考には嫌気が差すが、長年染み付いた癖のようなものなので、少しずつ剥がしていくしかないのだろう。まったく我ながら、ヘタレな野郎である。


「冬馬さん、何かお悩みですか?」


 ほら、優しい彼女たちはすぐに俺を気遣ってくれる。それに甘えているだけでは、何も変わらないのだ。


「いや、なんでもないよ。そういや蓮さんは、この前の詩莉さんの件はどうするか決めたのか?」


 少し強引に、話題を変える。週あたまに起こった、しましま事件の顛末についてだ。


 詩莉さんが主犯、中西と前澤が実行犯であった例の事件は、その後被害者たちとの話し合いの機会を得て、謝罪と賠償の追及と相成った。

 それぞれの少女たちに、三人は揃って頭を下げたのだが。その時の前澤は顔面を夥しい量の包帯で巻かれており、そのあまりの異容にすでに充分すぎる罰を受けたと判じたのか、彼女たちはこぞって彼らを許した。ドン引きしたともいう。


 それで一応は解決したのだが、詩莉さんだけは何か納得いかなかったのか、「私にできることでしたら、なんでもひとつ致しましょう」と彼女たちに提言をしたのだ。

 たま先輩は研究への協力を依頼し、凛子は俺とのデート権を三回分もぎ取った。

 そして蓮さんを含めた残りは、その場では保留ということになったのである。


「色々と言ってみたのですが、結局はヒ○トンのディナーをご馳走になる予定です。冬馬さんの分も快諾してもらいましたので、今度一緒に行きましょうね」


 およそ学生には縁のない、高級ホテルの名前を蓮さんは告げた。


「お、そうなのか。そりゃうまそうだな」


「はい。楽しみです」


 この場合、心配なのは出資者の財布の中身であるが。

 詩莉さんに限って言えば、問題ないであろう。どこぞのお嬢様である彼女なら、事も無げに白銀か、もしかしたら真っ黒なカードを取り出して、金の問題はすぱっと解決してくれるはずだ。


 そうこうしている内に、目的の建物が見えてくる。

 官公庁の庁舎の内、祝福省の庁舎だけが明らかに飛び地にされているのには、何か理由があると聞いたような気がした。忘れてしまったが、まぁいいか。どうせ一介のバイトには関係ないことだろう。

 楽しみもできたことだし、今日は労働に勤しむとしますか。




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