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デッドハーレム  作者: fumo
第1章 願いと狂いと迷いと呪い
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リプレイス攻略戦

「いないなぁ」


「うむ」


「凛子、ちょっと飽きてきました」


 一階、二階と廊下や空き部屋を捜索したのだが、中西の姿は見つからなかった。念のため大きめのゴミ箱やロッカー、果てはトイレの個室まで調べたのだが、収穫はなしだ。


 なお、個別に動くと<置換>で転移の綱渡りをされる危険性があるため、性別の垣根は越えた。

 生まれて初めて入った女子トイレであったが、特に感慨深いものはなかった。スモール専用の存在がないぐらいで、野郎用と大した違いはない。便座横の機能ボタンがやけに多いのは、少し気になったが。


「せんぱいのえっちー」と茶化す凛子にはデコピンを、「とーま君のえっちー」と平坦に言うたま先輩には苦笑を、それぞれ返しておいた。

 野郎ゾーンで同じことを言ってやろうと思ったのだが、なんとも言えぬ気恥ずかしさが込み上げてきたので断念した。たぶん、女子専用の言葉なのだろう。


 残る三階への階段を上る。ここが最上階だ。

 そういえば屋上があったな、とたま先輩に確認したところ、外に出る扉の前にシャッターが降りるので問題ないとのこと。

 見落としはないはずなので、この階の何処かに中西が潜んでいることになる。


「ショタ先輩、いませんねー」


 ロリ後輩が飽きを滲ませながら、男子トイレの個室を開けていく。いないなぁ。


「あいつはサイズが小さいから、隠れんぼが得意なのかもな」


「あ、凛子も得意ですよー」


「私もだね」


 確かに三人とも、似たような背丈と体型をしている。中西にウィッグを着けて並べれば、ローティーンアイドルユニットとして通用するんじゃないだろうか。


 そういえば、期せずしてロリ系が集まってしまったな。この二人だと、百八十を超える俺が並ぶとどうしても犯罪くさい。今のご時世では、普通に事案扱いされかねないのが悲しい現実だ。

 両手に花のつもりが、両手に輪っかにならないよう、周囲の目には充分に気をつけるとしよう。


 続いて隣の女子トイレへ。

 すると踏み込むと同時に、個室の一つから水を流す音が聞こえてきた。

 中西か?

——いや、流石に逃走中に、堂々と花を摘んだりはしないか。

 そろそろ封鎖から一時間が経つし、催した生徒が我慢できなくなったのかもしれない。

 しかしそうなると、少し面倒だな。この隙に教室に紛れ込まれてしまうと、捕縛が難しくなってくる。


 どうしたものかと思っていると、がちゃりと錠前が外され、普通に中西が出てきた。


「あっ」


「あっ」


……しばし、見つめ合ってしまう。


「……お前、なんで女子トイレにいんの?」


「……いや、僕さ、実は女の子なんだよね」


 にっこりと微笑む中西。

 そうだったのか。まぁ確かにどっちかよくわからない容姿ではあるが——ってそんなわけあるか。

 普通に俺と連れションしてただろうが。


「もう、四条君のえっちー」


 そう言って、自然な動作で歩き去ろうとする中西。

 ぷちん、と俺の中で何かが切れる音がした。


「逃すかーーっっ!!」


「やっぱ駄目かー」


 不思議な空間に呑まれてしまったが、我に返って中西を追う。

 その背中に同じく放心から戻ったたま先輩の<束縛>が絡み付く。


「おっとー」


 しかしその動きが封じられる直前に、中西は何かを前方に投擲していた。

 瞬間、中西の姿が視界の奥まで移動し、こちら側にはちゃりん、と小さな音が残る。

 小さなメダルだ。これを中西は投げて、<置換>の対象に取ったのだ。

 再利用されないよう、一応拾っておく。集めてもたぶん何も貰えないだろうが。


 廊下の曲がり角に、中西が消える。


「ちっ、逃したか……」


「あっ、でもせんぱい、チャンスです!」


「ピンチをチャンスに変えろ的なアレか?」


「いえ、ふつーに。あっちは凛子の教室なんですが、その先は非常階段だけなんです」


 閉鎖中の今なら袋小路ってことか。


「よし、追うぞ」


 中西が戻ってくる前に、急いで追いかける。

 案の定、中西は行き止まりとなった廊下の端で、あちゃー、といった顔をしていた。


「……見逃してはくれないよねー?」


「洗いざらい吐くなら、考えよう」


 俺はな、と心の中で付け加える。尻被害を受けた二人がどうするかは、俺の知るところではない。


「うーん。どうしようかなー」


 そう言いつつも、中西の両手はポケットに突っ込まれたままだ。その中でまだメダルが握られているのは明白であった。

 諦めの悪い奴だ。何がそこまで、こいつを駆り立てるのだろうか。


 俺はスマホを取り出して、画像フォルダの「いとも容易く行われるえげつない行為」から最新の一枚を表示させる。


「中西、これがなんだかわかるか?」


「うわ、何それ。グロ画像?」


「酷いこと言うなよ。相棒だろ?」


「……」


 流石の中西も、マイペースな態度を崩してたらりと冷や汗を流す。


「今投降しなかった場合の、お前の未来の姿でもある」


「脅迫罪で立証できそうなセリフだねー……」


「とりあえず両手を挙げてもらおうか。ああ、もちろん開いたままでな」


 ニヤッ、と会心の笑みを添えて言う。


「うわー、せんぱい悪い顔してますー」


「とーま君は好きな子いじめちゃうタイプだよねぇ」


 横二人の会話はスルーだ。

 好きな子はちょっとだけいじめて涙を浮かべたところで解放してあげるタイプだが。


「さあ、早くしないとうちの撲殺ロリータが暴れ出すぞ」


「せんぱい、その二つ名はちょっと嫌です」


「さあ!」


「……しょうがないかー」


 深くため息を吐き、中西が両手をポケットから出す。

 開いたその手に何も握られていないのを確認する。

 そのまま中西は、降参するように頭の後ろまで両手を掲げ——。


 ぷちぷちっと、髪の毛が引き抜かれる音が響く。


「——っ! たま先輩!」


「<束縛>せよっ(バインド)!」

  

 たま先輩のギフトが中西を拘束するが、間に合わない。宙を舞った髪の毛を対象に<置換>が発動し、中西がほんの少し位置を変え、<束縛>から逃れる。

 そしてすぐさま握られたメダルが、俺たちの後ろに投擲された。


 中西が視界から消える。まずい。


「凛子!」


「はいっ!」


 合図を受けた凛子が、例のアレを<具現>する。

 俺はそれを掴んで、中西の背中に向かって全力で投げ飛ばした。


「あーっ! こんなところに全裸の詩莉さんが!」


「なんだとー」


 ぐりん、と高速で振り返った中西に、アレ——凛子の作った全裸の等身大詩莉さん人形が命中する。


「あいたた……むぐっ」


 そこを逃さず<束縛>するたま先輩。詩莉さん人形と密着させた状態で、だ。


「もがっもがっ」


 ちょうどその巨大なメロンたちに、顔を挟まれる形になる中西。

 もがいて脱出しようとするが、次第にその動きを弱めていく。

 そこにすかさず、スタンガンを構えた凛子が迫る。


「もが——あ、もういいやー」


 ばちばちばちばちっと。

 頭に強烈な火花が散り、中西が悲鳴を上げる。


 がっくりとうなだれ、意識を手放す中西。

 しかしその顔は、何処か満足げな表情を浮かべているのだった。













「さて、キリキリ吐いてもらおうか」


 その後。

 たま先輩に封鎖を解除してもらい、手近な空き教室に移動して一息ついていると、中西が目を覚ました。

 

 もちろん、新たに縛り直して首以外は動かせないようにしてある。

 ポケットのメダルも全て取り上げておいた。は◯ぶさの剣ぐらいは貰えそうだ。


「黙秘権とかはー」


 ばちばちっ、と凛子に借りたスタンガンを作動させる。


「ですよねー」


「まずは目的からだ。なんでお前たちは縞ぱんなんか集めてたんだ?」


 なお、上着のポケットに凛子の物も含めたパンツが全て無造作に入っていたので、こちらも回収してある。


「そりゃ、依頼を受けたからだよ。用途は知らないけどねー」


 やはりたま先輩の睨んだとおり、こいつらは下請けだったようだ。


「報酬は?」


「それが出来高制でねー。最低五枚でおっぱいが見れて、それ以上だとランクアップしていく感じ」


 できれば揉めるところまで集めたかったんだけどねー、と付け加える中西。

 またこいつららしい、あほぅな目的である。

 生粋の星人である中西にとっては、全てを差し置いてでも達すべき事案だったのだろう。


 だからこそ、例の作戦がうまくいったとも言える。

 巨乳と聞いてこいつが反応しないはずがないと踏んだのは、やはり正解だった。

 なお、廊下に放置しておくわけにもいかないため、詩莉さん人形も持ってきてある。全裸のままなのもどうかと思い、今は凛子の作った制服を着せてあった。

 僭越ながら、お仕着せは任せてもらった。人形とはいえ、少女の形をしたものにパンツを履かせる作業は、背徳的な興奮を覚えるものだった。できればお持ち帰りしたい。


「せんぱい、この人たちはお馬鹿なんですか?」


 凛子の視線は、蔑みを通り越して憐れみを滲ませていた。


「返す言葉はないな」


「あ、酷いなー。四条君だって、美尻の女の子に同じ条件で頼まれたら請け負うだろー?」


「………………まさか、そんなわけないだろ」


「せんぱい? ずいぶん間がありましたが」


「とにかくだ!」


 追求を打ち破るように、俺は語気を強めた。

 たま先輩は「やれやれ、とーま君だものねぇ」といった呆れ顔をしているが見なかったことにする。


「依頼者は女性なんだな? 巨乳の。なんで縞ぱんを集めたかったのかは不明だが」


「まあねー。ちなみに中高生が今履いているものに限定されたよ」


 同姓愛者なのだろうか? それも縞ぱん限定で愛する極度の変態だ。


「どれぐらいの巨乳なんだ?」


「せんぱい、その情報いります?」


 いらないがまぁ、興味本位だ。中西がなびくほどのサイズとなると――。


「ちょうどそれぐらいかなー」


 中西が視線をよこした先には。


「っていうか、彼女なんだけどね」


 無表情を貫く、精巧な作りの人形が佇んでいた。

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