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デッドハーレム  作者: fumo
第1章 願いと狂いと迷いと呪い
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中西と前澤

  中西と前澤は、同性の気の置けない存在としては、久方ぶりにできた友人である。

 ちょうど教室での席が近かったというのもあるが、転校してすぐに他愛のない会話を交わしており。俺のギフトが発揮され始めてからは、「爆発しろ」「捥げろ」とやや本気の恨み言を言いながらも、なんだかんだと付き合いを続けてきた。

 二人が男としては珍しいギフテッドであったのも、シンパシーを感じる一因であろう。僅か一月ほどではあったが、彼らの人となりはある程度把握できていた。

 

 他の一般的な男子高校生の例に漏れず、こいつらは基本馬鹿である。俺も大概だが、たいしたことは考えていない。

 中西の方は、その薄い金色の髪と神秘的な印象の碧眼も相俟って、一見しただけでは性別がわかりにくい、中性的な顔立ちをしている。高等部からの編入組で、入学したての頃は上級生のお姉様たちから黄色い声を浴びていたようだが、三ヶ月が経った今、すでに化けの皮は剥がれていた。

 中身はゲスの一言に尽きる。完全な星人であり、そのギフト<置換>を悪用して様々な問題を起こしている問題児だ。それでも致命的な悪評を抱かれていないのは、やはり外見の成せる技か。※というやつだ。


 前澤の方は、これも派手な赤い髪と瞳を持つワイルドな印象のイケメンで、素性さえ知らなければいくらでも女の子が寄ってきそうな男だ。

 ただし喋ると全てが台無しになる。初等部から一貫して御門学園に通っている彼はある意味有名であり、その<悪戯な風神>で捲ったスカートの数は最早数えきれないと豪語する、生粋の変態である。

 そこに俺が加わって、一部では三馬鹿との不名誉なカテゴライズをされているのが、俺たち三人の評定であった。



「しかし中等部まで足を延ばしたってことは、一つ範囲が広がりましたね」


『うむ。これで「高校生」に限るという線はなくなったね。先に初等部を対象にしなかったことから、「中高生」あるいは「ティーンエイジャー」あたりを狙っていると思われる」


 凛子の作ってくれた自転車で中等部棟まで先回りした俺たちは、校舎の内部に潜んでいた。

 たま先輩と連絡を取りつつ、ここで奴らを捕縛する算段だ。


「これで凛子の囮作戦が使えるな。頼むぞ、凛子」


「ちょっと嫌ですけど、お任せください。パンツも二重履きしてますしね」


 凛子は自前のパンツの上から、もう一枚縞ぱんを重ね履きしており、尻が晒される事態を予防している。

 準備は万全だ。

 あとは奴らにタイミングを見て凛子をぶつけ、縞ぱんが奪われた瞬間に確保してしまえば言い逃れはできない。大人しくお縄についてくれるといいのだが。


『とーま君、そろそろ二人が校舎に入るから、凛子君を向かわせてくれ。犯行直後に私が捕縛するが、前澤君はともかく中西君は<置換>で逃げるだろうから、凛子君と協力して足止めを頼む』


「了解。凛子、作戦開始だ」


「らじゃーです」


 スマホの通話を切り、凛子を奴らに向かわせる。俺はその後ろ姿を視界に収めつつも、障害物に身を隠しながら適度な距離を保って追っていく。

 たま先輩の言うとおり、やっかいなのは中西の方だ。いくら<束縛>で捕獲しても、<置換>でするりと抜けられてしまう。潔く神妙にしないなら、物理的に意識を奪う必要があった。

 対策はしてある。たま先輩の権限を使い、廊下を一本無人にしておいた。中西は最大でも人間大の物しか対象にできないようなので、邪魔な通行人が現れないようにとの措置だ。


 来た。

 曲がり角から覗く視界の端に、奴らの姿を確認する。手前の凛子との距離は二十メートルほど。そして奴らの更に奥には、俺と同じようにたま先輩が潜んでいるはずだ。

 凛子が二人と交差する。そのまま両者はゆっくりとすれ違い、数歩歩いたところで男二人が廊下のロッカーの影ににすっ、と身を隠す。

 長身の方、前澤が凛子に向かって手を伸ばした。すると絶妙な加減で柔らかな風が吹き、ふわりと凛子のスカートを揺らしてその下の下着を露わにする。

 ピンクと白の縞模様が見え、途端に目を見開いた中西が両手を前後に構える。前の手は真っ直ぐに、後ろの手は何かを握るように。

 一瞬の内に、その手には二枚の薄い布が握られていた。——ん? 二枚?

 凛子を見やると、ちょうど風が収まり、スカートの位置が戻るところだったが。ちらりと見えた肌色は、その事実をありありと物語っていた。

 風を感じた凛子が、キッ、とした表情で振り返る。そこに戸惑いや、必要以上の羞恥は見られない。——あれ、気付いてるか?

 男二人が脱兎の如く逃げ出そうとし、瞬間、その動きを不自然に固める。


「うおっ」


「あれ? 動けないや」


 たま先輩の<束縛>だ。不可視の糸が二人の体を縛り上げ、その動きを完全に封じ込める。

 よし。時間稼ぎも兼ねて、一応勧告はしておくか。


「よう、二人とも。できればそのまま大人しくしてくれるか? 悪いようにはしない……ように努力はする」


 裁定はたま先輩たち次第なので、確約はできないが。無理そうなら諦めよう。


「四条君?」


「四条、なんでお前が……ってそうか、ギフ研の会長か!」


 俺とたま先輩の関係性から、自分たちの現状を察する前澤。首は動かせるようで、隣の中西に視線を向けてがなり立てる。


「やっぱりあのロリ会長はやめとこうって言ったじゃねーかよ!」


「えー、僕のせいにするぅ? 前澤君だって、とりあえず捲ってみるかって言ったじゃないかー」


「実際パンツ獲ったのはお前だろ!」


「だって、なかなか縞ぱんの子いなかったしさー。なんとかなるかなって」


 途端に言い争いを始める二人。先日の犯行まで、ありありと語るに落ちてるがいいのだろうか。


「どっちが主犯でも構わんがね。投降してくれるのかい?」


「凛子のパンツ返してくださいー」


 追いついてきたたま先輩と凛子が加わる。これで両側から挟んだ形だ。


「ちっ、どーすんだよ中西?」


「んー、ちょっと相手が悪いかなー」


 俺の方を見ながら、考えるように首を傾げる中西。これで終幕か。意外とあっさり終わったな。


 不意に響くのは、誰かの足音。それも俺の後方から。

 振り返ると、きょとんとした顔の女生徒と視線が合う。


「あ、やっぱりもうちょっと頑張ってみようかなー」


 くそ、連絡漏れか? タイミングが悪すぎる!

 中西の視線を遮ろうとするが、遅い。次の瞬間には、ぱっ、と中西と女生徒の位置が入れ替わっていた。


「じゃあねー」


「あ、コラ中西、俺も連れてけっての!」


「ごめんねー」


 そのまま曲がり角の奥に、中西が走り去る。

 見事なまでの裏切りであった。

 気持ちいいぐらいにあっさりと見捨てていったな。流石は中西、相変わらずゲスい奴だ。


「逃げられちゃいましたね。どうしますか、たま先輩?」


「まぁ、予想の範疇ではある。仕方ない、包囲を狭めるかね」


 そう言って、スマホを取り出すたま先輩。

 その間に俺は巻き込まれた女生徒に謝罪し、早く立ち去るよう伝えてやる。


「あー、叔父さん。すまないが、逃がしてしまってね。……うん、全部閉鎖で頼むよ」


 理事長か。俺は直接会ったことはないが、写真では確か立派な髭を蓄えた偉丈夫だったな。この巨大な御門学園の経営を取り仕切っているのだから、さぞ有能なのだろう。

 そして恐るべくは、その理事長を顎で使うたま先輩だ。いったいどれだけの権力を有しているというのか。やはり彼女には逆らわないのが懸命であろう。


 と、何か機械の駆動音のような音が聞こえる。

 窓の外を見ると、分厚い灰色のシャッターがゆっくりと降下してきていた。


「これでこの校舎は全部閉鎖した。外に逃げられることはないだろう。あとは中で鬼ごっこだね」


 防犯用の隔壁だろうか。外部からの脅威に対するというよりは、今回のように内部のギフテッドが暴走した際に、それを閉じ込めるための設備なのだろう。

 重厚すぎる気もしたが、ともあれ、これでそこまで急いで追いかける必要はなくなったな。


「こいつはどうします?」


 未だ縛られたまま、首以外動かせない前澤を見やる。


「とりあえず尋問しようかね」


「くそっ、俺は何も喋らねーぞ!」


 お決まりのセリフを吐く前澤の小物感が凄い。せっかくのイケメンが言葉一つで台無しであった。


「凛子君、やっちゃってくれ」


「はーい」


 前澤の目の前まで来た凛子が、手中を光らせる。

 そこに忽然と現れたのは、バチバチと火花を散らす髭剃りのような機械——スタンガンだ。

 凛子の<具現>はイメージを現実に物質化させるギフトである。故にその苦味を知らないブラックコーヒーは作れなかったのだが。

 何故こんな危険な精密機械は作れるのか、あとで問い質した方がいいかもしれない。


「ばちっといきますよー」


「待てロリっ娘。話す。全部話す」


 慌てて前澤が静止を求める。変わり身はえーなこいつ。


「えー、でも凛子パンツ見られましたし……ちょっとだけ」


「うおいいい、やめろおおおお!」

 

 悪あがきか、前澤がギフトで風を起こす。しかしその出力の低い風では、体重の軽い凛子すら吹き飛ばすには能わなかった。

 ただしスカートは舞った。ぶわっと盛大に捲れ上がり、その中身を衆目に晒け出す。

 前澤の目が点になった。

 うん、気持ちはよくわかる。

 草の根一つない無毛地帯が、そこには広がっていた。


「むぅ、一度ならず二度までも凛子のパンツを……」


 少し恥ずかしそうな凛子は、やはり気づいていなかった。先に教えておいてやるべきだったか。

 たま先輩も、頰を染めて目を逸らしている。


「あー、凛子さんや。ちょっとそこの教室に入って、スカートの中を確認してみようか?」


「へ? なんでですかせんぱい、凛子は早くこの無駄イケメンを拷問しないと——」


「いいからほら」


「はぁ……」


 促され、はてな顔のまま教室に入る凛子。

 俺とたま先輩は、動けない前澤から充分に距離を取って離れた。

 前澤の顔が一気に青くなる。


「待て四条、展開が読めた。頼む。助けてくれ」


「自業自得だな」


「い——————」


 耳を塞ぐ。


「いやあああああああああああっっっ!!」


「あばばばばばばばばばばばば!!」


 茹でダコのように真っ赤になった凛子が教室を飛び出して、前澤に全力でスタンガンを押し付けた。

 その衝撃に、前澤の体は拘束を打ち破るようにビクンビクンと痙攣を繰り返す。


「死ねですっっ! 死ねですううううっっっ!!」


「ぐほおっっ! ぐぼおおおっっっ!!」


 続いて凛子は金属バットを作り出し、前澤の顔面をがむしゃらに殴りだした。

 赤い液体が飛び散り、前澤の端正な顔が見るも無残に腫れ上がっていく。


「おーい、前澤のライフはもうゼロだぞー」


「地獄に落ちろですうううううっっっ!!」


 俺の声は届かない。

 そうして体力が尽きるまで、凛子の殺戮劇は止まることはなかった。

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