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デッドハーレム  作者: fumo
第1章 願いと狂いと迷いと呪い
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パンツはどこに消えた?

 その日のランチも、平穏に過ぎた。

 紫月の弁当は相変わらず美味い。

 ちなみに今回は、俵おにぎりとウインナーとりんごで計七匹もの畜生が潜んでいた。

 卵焼きだけは、何故か黒ずんだままだ。先週のスクランブルよりは、だいぶマシな状態ではあるが。

 紫月の心持ちはよくわからなかったが、この様子なら来週あたりには元に戻るのだろうか。


 問題は、食後の安らいだ時間にやってきた。


「下着泥棒、ですか?」


 パックのアイスコーヒーで一服する俺に寄ってきたのは、十秒チャージ中のたま先輩だ。

 ちよっと話が、ということで、俺は中庭の隅の方に連れ出されていた。


「うむ。一昨日の土曜日に、確認できただけでも五件。高等部の女生徒に被害者が出ていてねぇ」


 朝は俺も学校にいたのだが、特に騒ぎのあった様子はなかったように思う。となると、昼前後に起きたことなのだろうか。


「時にとーま君。キミには女性のお尻のサイズを、見ただけで正確に把握できる技能があったねぇ?」


 訝しがるようなたま先輩の目線。急になんだろうか。


「はぁ。そうですが」


「それは、下着の色や模様までわかるものなのかい?」


「流石にそこまでは。形状ならだいたいわかりますが」


 ちなみに今日のたま先輩は、紐でローレグというなかなかに攻撃力の高いものだ。


「ふむ、やはり違うようだね」


 一つ納得したように頷くと、たま先輩はスマホを取り出してどこかに電話をかける。


「蓮さん、どうやらとーま君はシロのようです。……ええ、そうですね。もう一つの候補の可能性が高いでしょう」


 相手は蓮さんか。ってなんか、不穏な会話がされていたようだが。


「もしかして俺、疑われてました?」


「ああ、すまないね。アリバイ的に微妙なところだったものでさ。ただ、狼狽えた様子もないようだし、能力的にもキミが関わっていることはなさそうだ」


 まったく心外である。いくら尻に関することといっても、あからさまな犯罪に加担する俺ではない。たぶん。


「でも、なんでたま先輩がその調査みたいなことを?」


 ギフ研に依頼としてきたのだろうか。ただ、いくら校内で発生した事件といえど、たま先輩なら雑事として請け負わない気がするのだが。


「……やられたんだよ。私と蓮さんも」


 ちょっと恥ずかしそうに、そう零すたま先輩。

 ああ、当事者だったのか。


「状況としては、こうふわっ、と風が吹いたかなと思ったら、次の瞬間にはもう奪われていた、と思う。あまりに自然すぎて、しばらく気づかなかったよ」


 ふむ。一瞬の内に、パンツが奪われていたと。


「なんかのギフトですかね?」


「十中八九、そうだろうね」


 ギフトによる犯罪は、立証が大変困難である。

 何しろ、どんなギフトかにもよるが、大抵は物証が残らない。故に警察では捜査のしようがなく、その専門機関である祝対においても、被害が軽微であれば本格的な調査は行われないのが常であった。

 流石に傷害事件であれば動くだろうが、下着泥棒に出動がかかるかどうかは微妙なところだ。

 つまりは、基本現行犯で捕まえる他ない。


 そして今回の犯行。

 風が吹いて、消えるように下着がなくなった。

 それを成すギフトに、俺は心当たりがあった。


「思い当たる節があるんですが」


「私もだよ」


 うちのクラスに約二名、動機はともあれ手段を揃えている奴らがいた。

 数少ない我が友人たる、前澤と中西である。

 そよ風を巻き起こすギフト、<悪戯な風神(ナーリー・ゼッファー)>を持つ前澤が風でスカートを捲り。

 二つの対象の位置を入れ替える<置換(リプレイス)>で、中西がパンツを移動させた。もう一つはなんでもいいだろう、塵でもゴミでも。

 そう考えると、ぴったり当てはまる。

 もちろんまったく別の可能性もあったが、状況からしてもうあいつらで決まりでいいんじゃないだろうか。


「それで、捕まえるんですか?」


「いや、ほぼ間違いないとはいえ、状況証拠だけだからね。しらばっくれられると、後が面倒だ。それと私の見立てでは、彼らの背後に指示を出している存在がいると思う。できればそこまで洗いたい」


 確かにあの二人はアホだが、そこまで突拍子のないことをする奴らじゃないと思う。

 となるとやはり、現行犯を押さえるしかないか。


「でも、まだ犯行を続けるとは限らないんじゃ?」


「可能性は高いと思う。さっきまで聞き込みをしていたんだがね 、二つほどわかったことがあるんだ。

 一つは下着を奪われた五人以外にも、未遂というか、風が吹いたのだけを感じた女生徒がけっこうな数いたこと。奪われたのは私が最後らしく、これはその後もしばらく続いたようだ」


 なるほど。風を吹かせた意味は、その後に続く<置換>で狙う対象をはっきりと視認するためだろう。ただ、それだけで下着を奪われていないケースもあるということは、もう一つ理由がある。


「確認して、選別している」


「そうだね。それを裏付けるのが、もう一つの共通点だ。わたしを含めた五人の下着は、全てしましまだった」


 しましまかよ。蓮さんまで。

 ああ、それで俺に模様の把握ができるか聞いてきたのか。


「つまり、目的はよくわからないけど、あいつらは縞ぱんを集めていて、それはまだ目標数に達していないということですかね」


「うん。加えてもういくつか条件がありそうだけど、そこはまだ絞れていない。学生、年齢、あるいは処女性あたりかな」


 処女の縞ぱんって……ほんとにあいつら、なんでそんな物を集めてるんだか。


「それで、ここからが本題なんだがね。とーま君には、今日の放課後に彼らを追い詰める手伝いをしてほしいんだ。もちろん、報酬は出す」


「俺は構いませんが……」


 今日は凛子の番なんだよな。


「凛子君なら、すでに了承は得ている。むしろ「探偵みたいですね! 楽しそうです!」とだいぶ乗り気だ」


 流石たま先輩、仕事が早い。

 ならば、俺が言うことは何もないか。


「わかりました。引き受けましょう」


 そうして俺は、本日の予定を決めるのであった。

  













 放課後。

 たま先輩の指示で、まずは中庭で凛子と合流する。

 中西と前澤はやはり犯行に及ぶつもりなのか、互いに目を合わせて一つ頷き合うと、そそくさと教室から出ていった。

 監視には、たま先輩が直接付くとのことだ。


「せんぱいせんぱい、探偵ごっこデートなんて、なんかちょっとドキドキしますね!」


 相変わらず凛子は元気いっぱいだ。そして何故かデートの認識だ。

 果たして、こいつに隠密性が問われる任務を全うできるのだろうか。人選ミスな気がするのだが。


「あのな、凛子。探偵だと思うなら、もう少し静かにしような。尾行相手に気づかれちまったら、任務失敗だぞ」


「はっ、そうですね! ドキドキしますねー」


 小声で元気いっぱいという器用な真似をする凛子。早くも不安が一入(ひとしお)である。


「それで、凛子たちは何をすればいいんですか?」


「あいつらの動き次第で、たま先輩から指示が来るから、ちょっと待機だ。凛子の方は、準備できてるのか?」


「はい、ばっちりです。見たいですか?」


 小悪魔のニヤつきで、凛子が問うてくる。

 両手でスカートの端をちょこんと掴み、ただでさえ短い裾を更に持ち上げるポーズだ。

 たま先輩の指示で、凛子には例のしましまを履かせてある。囮として使うためだ。そう都合よく縞ぱんを常備しているわけもないので、<具現>による自作であろう。ほんとに便利な奴だ。

 もし無人島に一つだけ持ち込みができるなら、凛子を選べばいい。ひとり自給自足が可能な凛子がいれば、何処でもパラダイスリゾートだ。


「見たいが、一応お仕事中だからな。我慢するよ」


「あれ、せんぱい真面目モードですか。珍しいですね」


 失敬な。俺はいつだって真面目に生きているぞ。特に尻に対しては。


『とーま君、対象が動いた』


 と、そこでたま先輩から連絡が入る。

 胸元のスマホを通話状態でオンスピーカーにしてあるのだ。


『何人か捲っていたんだが、しましまは確認できなかったようでね。狩場を移るみたいだ』


「初等部はもう帰ってるだろうから、中等部ですかね?」


『だろうね。とーま君たちは、電車で先回りしてくれ」


「了解。行くぞ、凛子」


「はーい」


 小走りで駅まで急ぐ。奴らより一本前に乗れればベストだが、間に合うか怪しいところだ。

 ちなみに御門学園駅は、小、中、高の駅全てが円環状に繋がってできており、その内側に更に特別活動棟駅が接続されている。これらをまとめて御門学園駅と呼称しており、外部の私鉄と接しているのが、ここ高校駅だった。

 まだ放課後間もないこの時間なら、十分に一本ぐらいは電車が通っているはずだ。電車を使わず、走った方が早いかどうかは、微妙なところだ。

 ふと、思いつく。


「凛子さ、ど◯で◯ドアとか出せないのか?」


「……せんぱい、凛子は猫型ロボットではないのですが……」


「ダメか」


「できないことはないですが、たぶんそれ一つで精神崩壊するです。あまりに突飛な効果を持たせるのは、イメージも難しいですし」


 そうか。まぁ、そんな物が量産されれば大変なことになるだろうしな。


「とりあえず、中等部に早く着けばいいんですよね?」


「ああ。タ◯コ◯ターか?」


「ちょっと二十二世紀から離れてほしいのですが……差し当たってはこれで我慢してください」


 そう言って凛子が作り出したのは、自転車だ。それもママチャリやマウンテンルックとは異なる、競技用のあれだ。


「ロードバイクってやつか」


「はい。これで二人乗りして行きましょう!」


 爛々と目を輝かせる凛子だが。


「いや、これ完全にひとり用みたいなんだが?」


「はっ、しまったです。やっぱりママチャリ作りますので——」


「先行ってるぞー」


「あ、待ってくださいよーー!」


 慌てる凛子を置き去りに、俺はロードの重いペダルを踏み込んでいくのだった。


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