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デッドハーレム  作者: fumo
第1.5章 現代社会のギフテッドたち
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そういうとこだぞ

「あ、どうもー。星崎ですー」


 凛子君の手引きで少し頭を下げながら入ってきたのは、オレンジ色の髪と瞳が鮮やかな、活発そうな印象の少女だった。

 背が高く、スタイルも良い。ちょうど可愛いと美人の中間に位置するような、整った顔立ちの美少女。


「いらっしゃい、歓迎するよ。とりあえず掛けたまえ」


「せーか先輩、凛子のお隣りにどうぞー」


「あ、うん。ありがとう」


 いささか緊張が見える聖歌君だが、それは単に初対面の人間がいるからであって、物怖じしている様子はないようだった。自然体で凛としつつも、相手に不快感を与えない装い。うん、なんかちょっと眩しい。これがリア充のオーラというやつか……!


「えっと、会ったことないのはれん先輩とまき先輩ですかね」


「そうね。紹介してもらえるかしら?」


「はーい、お任せです」


 おお、リア充同士が会話を主導している……っと、いかんいかん。冷静になるんだ私。精神干渉系のギフトを使われているわけでもないのに、自ら混乱していては不甲斐無い。


「こっちのぺたーんなのがまき先輩で、そっちのばいーんなのがれん先輩ですっ」


「おい、待ちたまえ凛子君。なんだねその恣意的な紹介は」


「えー、わかりやすいじゃないですかー」


 先ほど朱里君に仕掛けたような、ニヤついた笑顔を見せてくる凛子君。うわぁ、実際にやられるとイラッとくるねぇ。

 さらっと流せばいいのだが、駄目だ。ここで私が引いては、全国の同士ぼっちたちに顔向けができない。顔向けしないからぼっちなんだけど。

 そんな謎の思考を展開している時点で、私の冷静さはとうに失われているわけなのだが。


「はー、これがアレかね。リア充様のマウンティングというやつかね。なんだいなんだい偉そうに。ぼっちにだって人権はあるのだよ。そも、凛子君は私とそう変わらないじゃないかね」


「そう思います? なんなら比べてみるです?」


 やけに自信たっぷりな凛子君の胸部を凝視する。ほら、私と同じく服の上からではわからないほどの僅かな膨らみしか――膨らみだと?

 続けて自分の胸部を見やる。豊かなものがそこには広がっていた。見渡す限りの豊かな大平原が。


「あれー? どうしたんですかーまき先輩ー?」


「……いやなに、私は常々女性の価値とはその内面的性質に宿るものだと考えているのであってね」


「あ、気づいちゃいました? いやー凛子ってばまだ、絶賛成長期ですからねー。いいんですよー、そんな予防線張らなくてもー」


「ちち違うぞ? 決してそういうわけではなくてだね――あ、わかった。ギフトだね? ギフトで擬似的に胸部を盛っているんだね? 汚い。流石リア充様、汚い」


「かっちーん。違いますー。そんなことしなくても凛子の方がおっきいんですー。素直に負けを認めてくださいー」


「ふん、口だけならなんとでも言えるからねぇ?」


「じゃあ脱ぎますー。ブラまで脱ぎますから、まき先輩も脱いでくださいー。あっ、ごめんなさい。まき先輩にはまだ、ブラは早かったですかね?」


「なんだとぉー!」


「なんですかぁー!」


「あの、ふたりとも、いつもの流れになってますから……」


「ホルスタイン種の人は黙っててくださいです! これは人類の争いなのです!」


「まったくだね。スライム系女子は大人しくプルプルしててください!」


「また酷いこと言われました……」


 そうなればもう、あとは止まらなかった。場外乱闘だ。しょんぽりした蓮さんを後ろに、組んず解れつほっぺたや服の引っ張り合い。冷静を標榜した私の意思はどこにいったのか。ああ、決してそれで胸部の大小の件を有耶無耶にしようとか、そういう意図はないよ?


「えっと、あの……相模さん、いつもこんな感じなの?」


「え、私?」


「あ、うん」


「朱里、キョドってないで答えなさい」


「キョドってないよぅ! うん、そう。ほんと困っちゃうよね」


「そ、そうなんだ……なんか相模さんも、教室にいる時と感じが違うわね」


「悪いわね、この子普段はガチガチに猫被ってるから」


「そんなことないよ! 私はいつもの私だよ。ね、星崎さん?」


「そ、そうね。あ、あたしのことは呼び捨てで構わないわよ」


「え、いいの? そういうのって、ちゃんと友達になってからじゃないといけないんじゃ」


「同じクラスだもの、あたしは仲良くしたいわ。だから今日から友達になりましょ?」


「紫月ちゃん、たいへんだよ! こんなに簡単に友達ができたよ!」


「良かったわね、ぼっちから一歩遠のいて」


「あ、もちろん穂村さんも。紫月、でいいかしら?」


「ええ、構わないわ」


「良かったね、紫月ちゃんも友達が増えて」


「そうね、じゃあ今日のアイスは聖歌と食べに行こうかしら」


「えっ、そ、そんな……」


「ふふっ、二人は仲が良いのね」


「え、そうかな? そう見える?」


「ちょっと、なんで顔赤くしてるのよ。気持ち悪いわね」


「ひ、酷い……だってほら、仲良しに見えるって……」


「あ、そういえば今月の友達料、まだ貰ってないわよ? 早く払って。三万円」


「お金の関係だったの!? 初めて聞いたよぅ!」


「あー……なんとなくあなたたちの関係性がわかってきたわ……」


 キャットファイトに興じる私たちの背後では、そんな感じで友情が育まれていた。えー、私もそっちが良かったよ。あと、いい加減そろそろ止めてくれないかねぇ?


 お、紫月君と目が合った。アピールアピール。バチっとな。

 呆れるようにため息を吐かれた。むぅ、心外である。でも助けて。


「そこのロリコンビ、そろそろおしまいになさい」


「む、ほれ凛子君。裏番長からお止めがかかったよ」


「むむ、裏番長のご命令なら仕方ないですね」


「誰が裏番長よ」


「「ははーーっ」」


「殴っていいかしら、この二人」


「紫月ちゃん、どうどう、だよ」


 さて、お遊びはこれぐらいにしておくかね。聖歌君の緊張も解けたことだろう。もちろん全て計画どおりさ。


「ま、こんな具合に騒がしくやってるよ。よろしくしてやってくれたまえ」


「はい。よろしくお願いします、環先輩」


 そう言って、礼儀正しくぺこりと頭を下げる聖歌君。おお、素直でいい子だ。ここのメンバーは変人ばっかりなので、なんとも新鮮に感じる。

 凛子君からの前情報によると、確か前の学校では水泳部に属していたんだったか。体育会系のリア充女子。なるほど、この人柄もまた才能だねぇ。


「あの、私はまだ胸しか紹介してもらってないのですが……」


「え、それで充分でしょ?」


「ですね。むしろそっちが本体ですし」


「うむ。そうだ蓮さん、お近づきの印にいつものアレやったらどうです? 片乳もいでお食べ、ってやつ」


「そんなことはしません。ああ、私の扱いがどんどん悪くなっていきます……」


「えっと、その、蓮先輩もよろしくお願いしますね? 美人だって聞いてましたけど、噂以上に綺麗でなんかドキドキしちゃいます」


「あら、いい子。いい子ですね聖歌ちゃん。心が洗われるようです。お姉さんになんでも聞いてくださいね?」


「はい、ありがとうございますっ」


 ふむ、どうやらお互いに好印象が得られたようだ。この様子なら、聖歌君のハーレム加入は問題ないだろう。こっちのクセが強すぎるので、逆に距離を置かれないかと心配していたのだが、杞憂に終わって何よりである。


 尤も、いちばんアクが強い……というかアクしかない約一名のことは、まだ紹介できていないわけだが。それはまたあとで考えることにしよう。

 なぁに、聖歌君は人柄が良いから、きっとなんとかなるさ。たぶん。メイビー。おそらく、ね。そういうことにしておこう。
















 そうして名ばかりの会議は終わり、親睦を深める催し――即ちお茶会が始まった。

 ぼっち憧れの女子会である。聖歌君が加わったことによりリア充度が増し、どこに出しても恥ずかしくない女子会になったと言えるね。うむ、素晴らしい。


「今日はせーか先輩の歓迎会ですからね。張り切っちゃいますよー」


 言うが早いか、凛子君が次々と手中を光らせる。ぽんぽんと小気味良く現れるのは、色とりどりかつ様々な種類のお菓子たちだ。


「え、すごいすごい。マカロン、シュークリーム、スコーン、フロランタンまで」


「リクエストありますかー?」


「凛子君、のりせんべいを頼むよ。あとわらび餅も」


「凛子、バターサンド」


「はいはーい」


「何これ? ここは天国なの?」


 瞬時に机の上を埋めていくお菓子の大群に、聖歌君が戸惑いながらも目を輝かせる。ふふ、リア充といえど、やはり彼女も原罪を孕んだ女子のようだね。圧倒的なまでのスイーツの魔力には抗えないと見える。


「せーか先輩はどうです? 何か食べたいのありませんか?」


「なんでもできるの?」


「凛子の知ってるものでしたら」


「じゃあ……クイニーアマンとか」


「へいお待ちですー」


 間髪入れずにブルターニュの名物が〈具現〉され、ぽふんと聖歌君の手の中に落ちる。流石凛子君、菓子類については古今東西問わず、深い造詣を持っているようだ。


「すごいわ……ねぇ凛子ちゃん、あたしのところにお嫁に来ない?」


「せんぱいと重婚になっちゃいますけどねー」


「もちろん構わないわ。ああ、おいしい……実はちょっと早まったかもって思ってたんだけど、これだけで四条のハーレムに入った甲斐があるわね」


「ふむ、なるほどね。古来より人心を陥落せしめるにはまず胃袋を掴めと言うが、その点凛子君を抱えているとーま君は、非常に有利な位置にあるのかもね」


「へへー、凛子できる女ですからー」


 誇らしげに胸を張る凛子君だが、実際そのギフトの汎用性は恐ろしく高い。交戦に限らずあらゆる場面で活用できるし、新たな知見を得ればそれだけで手段が増える。正にオールマイティーなその性能は、聖歌君という新規の前衛が加わったことで、より十全に発揮されることだろう。はは、最強じゃないか、我らがハーレムは。


 私がそんな空想に耽っている間も、凛子君は次々とスイーツを作り出していく。そしてとうとう、机の上は甘味で埋め尽くされるまでになった。


「ふいー、こんなものですかね」


「ええっ、すごい量……流石に作りすぎじゃないの?」


「凛子もそう思うんですけどねー」


「どういうこと……って」


 聖歌君の疑問は、すぐに氷解することとなる。その対面でゆっくりと手を合わせた食の魔人が、食事を開始したためだ。


「では、いただきます。あ、美味しい。美味しいです。これも。こっちも。美味。至福。至高。究極。素晴らしいですっ」


「え? えっ?」


 山と積まれたスイーツ群が、みるみる内に消え去っていく。形容するならば、もはやその光景は食事ではなく絶対者による捕食であった。


「相変わらずよく食べますねー、れん先輩は」


「ねぇ、おかしくない? どう考えても質量保存の法則を無視してるわよね?」


「たぶん全部おっぱいに行くんじゃないですかねー」


「そんなわけ……あ、そういうギフトなの?」


「いーえ、素です。れん先輩の食欲は、ギフトとかトリックとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねぇのです」


「そ、そうなんだ……」


 蓮さんの捕食風景を目の当たりにした聖歌君が、恐ろしいものの片鱗を味わったかのような顔をする。私たちは慣れたものだが、確かにそれが普通の反応だろうね。


「もぐもぐもぐもぐ美味しい美味しいもぐもぐもぐもぐあ、凛子ちゃんこれあと一ダースお願いします」


「ダース!」


「はいはい、今日だけですよー」


 止まることを知らない蓮さんの向こう見ずな食欲に、ただただ圧倒される聖歌君。他は比較的常識人なのに、これを見せられてはまた、彼女の望む真っ当な扱いからは遠ざかってしまうことだろう。そういうとこだぞ、と言ってやりたい。


「はは……あたし、もしかしてとんでもないところに来ちゃったんじゃ……」


 手に持つクイニーアマンの存在も忘れ、聖歌君は乾いた笑いを漏らすのであった。

 ほんっと、そういうとこだぞ。


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