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第98話 ノルデン大王国での日々 その5

 





 緊張している私に、ナイデン大公閣下が、柔らかく微笑みかけてくれた。 狼だけど。 内々にお話して頂けていたみたい。 ミャーの意思を尊重するってね。 ミャーは私の側で、一緒に暮らして行きたいと、意思表示した。


 泣きそうに成りながらも、私は全面的に受け入れた。


 心は決まった。 ミャーが一緒に居ると決めた。 だから、私も、ミャーを護り、一緒に居る事を誓う。 そう、全てをつかっても…。


 そうよ、だって姉妹だもん。 何にも代えがたい、ミャーだもん。 貴女が、離れたいって言うまで、離さないからねっ!



 獣王ツナイデン陛下が、その綺麗な金銀眼ヘテロクロミヤに私を写して、真正面から見詰められた。 何かを想うその瞳の色は、深く、底知れない威圧感を浮かび上がらせている。 陛下の口が緩み、私に問われた。





「「証人官」殿…… いや、人族の娘、ソフィア。 そちは、ナイデン王国の国内事情には精通しておらぬな。 ヘリエンラール……我が妹。 あれがどういった立場に居たか。 そして、何が原因で、何が起こったか。 その結果がどうなったか……。 ヘリエンラールの娘……ミャーと言ったな。 ミャーが生まれ、生きていたという事がどういう事なのかも……」


「獣王陛下。 ……ミャーはわたくしの側に居ると。 王族に戻らず、専属侍女(一般人)として暮らすと、そう決心いたしました。 わたくしの姉妹の決断を、わたくしは尊重し、護り抜きます。 ……たとえ、それが誰であっても」





 ブワッって、何かかが体から発生した。 いや、マズい…… これ、殺気? ち、違うよね。 魔力の壁? ……それとも違う。 でも、なんか出た。





「獣王陛下は、わたくしが事情を知らぬと仰いました。 それは、違います。 全てを調べ尽くし、その上でミャーの決断にゆだねたのです。 彼女が、その出自故に、本来受け取るべき待遇や ” 愛される王女 ”で有る事も、その存在故に、政争の種となるであろうことも。 今は亡き、第四王女ヘリエンラール=エステン=ナイデン殿下に、置かれましては、強く精霊の息吹を宿され、ナイデン王国の誰もが女王にと思われていた方であった事も。 彼女の存在が、王家の疑心暗鬼を生み、王権が揺らいでいた事も。 彼女亡きあと、揺らぐ王権が纏まり……獣王ツナイデン陛下が御即位された事も。 承知しております」


「……そうか」


「更に、ヘリエンラール殿下の事件により・・・・・、ナイデン王家の姫様の御一人が、《ノルデン大王国》に嫁がれ、エスタブレッド大王陛下の側妃となられた事。 奇しくも、その一人娘、「ユキーラ=エスト=ノルデン王女殿下」とミャーが友誼を結べし事は……、 喜ぶべき事に、御座いました。 真実の従姉妹に当たりますゆえ。 たとえ、御母君が、事件の裏側に居られた方だったとしても、ユキーラ姫には何の咎も御座いませんので」





 ピンと空気が張り詰めた。 そうだよ、調べたんだんよ。 ” おかあさん ” は、何も伝えてくれなかったから、余計にね。 ミャーに渡せなかった、ヘリエンラール殿下の形見の耳輪。 あれ……ある種の ” 呪い ”が、符呪されて居た。 妬み、嫉み……凝り固まった、” 不幸になれ ” って想いが、呪いになって、乗っかってた。




 気配から、同じ獣人族のそれも、同種……、近親者からの物だと、判った。




 ナイデン王国の闇の部分だよ。 そして私は、レーベンシュタインの娘。 闇の中の秘匿された情報をつぶさに見る事は、御父様から習い覚えた……第二の習性ともいえるの。


 ノルデン大王国に来て、過去の重大事件の判例とか、色々な文献を読む機会を頂いた。 あの中に、有ったんだ。 そう、ヘリエンラール殿下の事件により・・・・・、嫁いで来られた王女殿下の記述もね。 そこで、全容が判ったんだ。 ユキーラ姫と、ミャーの関係性もね。


 でも、ユキーラ姫からは、” 呪い ” の様なモノは感じられなかった。 


 彼女は、彼女。 真っ直ぐで…… 傷ついた心を持っているけど、気丈に振る舞う、王女殿下。 真摯な気持ちで、私とミャーを朋と呼ぶ人……。 もう、過去の事なのよ。


 ……私の瞳に、力が入るの。 深紅の瞳が妖しい力を貯めるのが判る。





「全てを……知った上での事か。 ソフィアよ……」


「はい」


「ソフィア、ミャーを此方には……」


「 ” 嫌 ”で御座います」


「そうか……。 ならば、この場でのみ、一度だけ……、この胸に抱かせてもらえないだろうか? 愛しき妹の娘なれば……」





 獣王陛下の目に寂し気な光が灯り……ケモミミがペタンってなったよ。 うわ~~~、王族のこんな姿、見た事ねぇ!!! よっぽど、手元に置かれたかったんだね。 どうしよかぁ? ミャー、どうするよ? ミャーに視線を投げかけると、ミャーも同じような感じで、片方しか残ってないケモミミをペタンってさせてた。





「ミャー…… 行っておいでよ。 今宵一時だけだから。 貴女の親族なんだから。 ね?」


「ミャーは……」


「ここは、意地を張る時じゃないよ? 貴女の叔父さんなんだからね。 そして、愛してくださってるのよ? 信には信を……。 ノルデン大王国の素敵な言葉。 さぁ、ミャー」





 私の言葉を受けて、ミャーはツトツトと、獣王陛下の元に向かう。 獣王陛下も椅子から立ち上がり、ミャーに歩み寄る。 ゆっくりと、歩み寄り、そして……、





 がっしりと抱き合った。




 良かったね、ミャー。 さっきから漏れだしてた、変な気合がス~ッって体の中に戻って来たんだ。 緊張した~~~。 なんだったんだ? あれ? 






^^^^^^






 ナイデン大公閣下が、近寄ってこられた。






「冷汗かきましたぞ」


「えっ?」


「……【銀髪紅眼シルヴェレッド鬼姫オーガレス】の名は、伊達ではないですな。 この小部屋の中の武官共が、たじろぎました。 威圧? 殺気? そんなモノでは語れませんな。 アレは……」


「判りません。 ただ、ミャーを護ると決めた時に、自分でも良く判らないものが、身体から漏れだしました。 申し訳ございません」


「……ご自身でも、判らぬと、仰られるか……」





 何かを思い出そうとしている、ナイデン大公閣下。 そして、気が付かれた様。 その事に、驚かれて、私をマジマジと見詰められ…… 上ずった声を上げられたんだ。






「……アレは……妖気……ですな。 エスタブレッド大王陛下より、お話は聞いておりましたが、真偽の確かならぬ話である上に……その、ソフィア殿は……」


「ええ、わたくしは、もはや人族では御座いません。 ……半妖となり果てております」





 ナイデン大公閣下が、目を丸くして、私を見詰めていた。 まぁ、いうなら、 《マジか!》 って感じよね。 うん、それが、一般的な反応ね。 だから、サラーム=ノイエ=ノルデン大王妃陛下は、秘匿せよって仰ったのよ。 ……生きる為とは言え……、こんなモノになり果てた私を、受け入れてくれる「人」は……。 いないもんね。



 この事を伝えるのは、” 本当 ”に、【信頼】を置ける人だけ……



 ジッとナイデン大公閣下を見詰める。 眼鏡越しにね。 私の深紅の瞳に、妖紋印が浮かんでいる事を見つけられたのよ。 【認識阻害】かかってるのに、流石はナイデン王国の諜報機関のトップだね。





「……そうか……」





 ポツリとそう言われる。 半妖ともなれば、こんな場所には居られない。 王族の側においていいモノじゃない。 判っているさ、判ってるって。 


 ヒシと抱き合う、ミャーと獣王陛下を見ながらね、ちょっと溜息をついた。 ……ナイデン大公様、どうするんだろうね。 やっぱ、ミャーと引き離そうとするのかね。 抗うよ? 全力をもってね。


 だって、ミャーが決心したのと同じように、私だって、決心したもの。





 その時、背後に、トンデモナイ重圧を伴った、気配を感じたんだ。


 なにか、とっても、崇高で、誇り高い人の気配。


 近寄り難くって…… そして、畏れも抱く、そんな気配。






 振り返る事すら出来ない。


 何か、途轍もない存在が居る……






「フォ、フォ、フォ、 長生きはスルもんじゃの。 面白き者が居る様じゃ。 爺にも、良く見せて貰おうかの」






 枯れた……、枯れ切った声がわたしの耳朶を打ったの。


 痺れる様な感覚が、全身を拘束するの。


 抗う事が叶わない。


 ゆっくりと、身体が声のする方に向かされる・・・・・






 出たよ……。






 もう一つの大国の王。





 《 エルステルダム 》 の賢者のおさ



 森の賢者 ハイエローホ様が、



 シワシワの御顔で笑いながら、

















 を見てたんだ。











大国三国を相手に出来るの?

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