表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/171

第97話 ノルデン大王国での日々 その4




 部屋の端っこで、壁と同化しようと努力してたんだ。 なんか、出来なくてね。 いつもは、バッチリ気配消して、居る事すら忘れられてるんだけどねぇ。 今日は、遠巻きに見詰められてる感じなんだよ。 特に御令嬢様・・・・達から。




 ゾワゾワ変な感じなんだよ。




 ミャーを見てるんだろうって思ってたら、どうも様子が変なんだ。 お嬢様方が、扇で半分顔を隠して、視線をわたし・・・に向けたまま、あっちで三人、こっちで四人って、固まってるんだよ。 悪口(罵詈雑言)の類かな? そう、思ってたんだけど、向けられる視線がねぇ……。 妙に、生甘いと言うか、熱持ってるって言うか……。




 ダグラス第二王子を見てる、エルガンルースの高位貴族のお嬢様方と被るんだよ……。


 その視線の持つ意味合い的に……




 変な気分だよ。 ミャーも居心地悪そうに、立ってるね。 珍しくモゾモゾしてるよ。 そんな中、その人物が、異様にご機嫌な表情で、やって来たんだ。





        ナイデン大公閣下。





 壁の花を見つけるの上手な人だよね。 以前にも、こんな事があったような気がするよね。 あの時は、誰にも注目されてなかったよね。 でも、今回…… 有る意味、熱視線の中、ズンズン近寄って来るのって、相当な人だよね。 あぁ、獣人族かぁ……。





「ソフィア殿、本日はお疲れ様でございました。 いい仕事ぶりでしたね」


「お恥ずかしい限りで御座います。 気分的には、お部屋に下がらしてもらいたいと、思っております」


「まぁ、そう言わずに。 一曲、踊りませんか? 公爵として、お誘い申し上げますよ。 ほら、サリュート殿下の御許可も頂いている」





 そう言って、別の壁際に立ってる、サリュート殿下と、エルヴィンの方に視線を向けるナイデン公爵。 その視線に気が付いたサリュート殿下は、軽く頷いて、エルヴィンに何やら耳打ちしとる。 エルヴィン、目を丸くして、サリュート殿下と私を交互に見て…… がっくり肩を落としてやんの。


 サリュート殿下、何、言いやがった……。 その上、ハンドサイン送って来て云うには……。





 ” ナイデン大公と誼を通じ、国益と成せ。 三大国との繋ぎを付け、無垢なる人々の安寧を護ってくれ ”





 だって……。 あのね、殿下。 一介の男爵家の娘に頼む事じゃ無いでしょ? いくらなんでも、それは無いよね…。 ないよね……。 ない………。




 本気かぁ!!!




 仕方ねぇなぁ!! 知らんぞ、本当に知らんぞ!!! 誼を通じるのは、私だから、国益に叶うかどうか、判らんぞ!! そんでも良いんだな!! って、ハンドサイン送り返したら、





 ”行け!! 仲良くなって来い!!”





 ってさ…… どういう意味なのかは、知らん! まぁ、私もちょっと、ナイデン大公閣下には、聴きたい事有ったんだよね。 この際だから、聞いとくことにしようと思う。





「僭越では御座いますが、どうぞよしなに」





 差出された手にそっと手を載せるの。 さて、お勉強したダンスが何処まで通用するか、見ものだね。 ミャー、スマン。 ちょっと行って来る。 貴女の相手は……、 おや? ユキーラ姫? なじぇに、貴女がミャーにご挨拶してんの?


 盛大に頭に ”?” マークを飛ばしながら、ナイデン大公閣下にリードされて、ホールの中央へ……。 って、ナニコレ めっちゃ目立つじゃん!!!




 リズムに合わせて、ナイデン大公閣下のリードで、踊り出したのよ。




 滑り出しは、上々。 大公閣下もちょっと驚いてる感じ。 小娘だと思ってたのか? はははは! 残念だったな、こちとら、【処女宮(ヴァルゴ宮)】で、さんざん教育を受けてたんだ。 その上、半妖になってから妙に体の切れがいいんだ。 たいていのステップは踏めるぞ? 






             どや~~~~!!!!






 めっちゃ、笑顔になった。 会心の笑みって奴さね。 なんか、目を丸くして、私を見てるんだ、ナイデン大公閣下。 そんじゃ、尋問始めようか。





「閣下。 ミャーの事についてです」


「ソフィア殿、今、それを言うのか?」


「ええ、ココならば、他の方に聴かれません。 ……わたくしも独自で調べました。 ミャーは、閣下の仰る通り、やんごとなき血筋の姫で御座います」


「……ツナイデン王が、あの席でミャーを見詰めていたのは?」


「知っております。 よほどご関心が在られると、感じておりました。 しかし、申し上げます。 ミャーはわたくしには無くてはならない姉妹。 ミャーの意思を尊重したく、存じます。 ミャーが望まないならば、全力を持って、阻止いたしますわよ」


「……一度、ツナイデン王とお話されてみれば如何か?」


「今宵に致しません事? わたくし……、 本心で言えば、ミャーの幸せを祈っておりますの。 わたくしと共に居ても、心配ばかりかける事になるやもしれない。 あの子には幸せになってもらいたいのです」


「姉妹として、育ったが故にですか?」


「ええ。 その通りです。 幸い、今宵、ミャーはナイデン王国の正装に近い装いをしております。 こんな機会はありません事よ? ツナイデン王に置かれましても、侍女服に身を包んだミャーでは、差しさわりが御座いましょ?」


「……なるほど。 左様、左様……。 しかし、ソフィア殿、貴方は何時も先を見られておられるな。 その瞳には、どの様な未来が映っておるのやら」


「買被りで御座いますわ。 わたくしの視界は狭く、手の届く距離も短い。 精一杯、その中に居る方々の、「安寧」と「平穏」に心を砕いて行きたいと、そう思っております」


「……世界の半分に届く視界と、その向こう側に届く手の範囲ですか。 貴女はまさしく、貴族の御令嬢に御座いますな。 判りました。 暫しお時間を。 もう直ぐ、ワルツは終わります」





 楽器が最後の音を出し、ワルツは終わった。 拍手に包まれて、壁際に下がる。 ミャーも、何故か・・・、ユキーラ姫のお相手を終えて、戻って来た。





「ミャーなんで、ユキーラ姫と踊ってたの?」





 頬を膨らませたミャーが、ぶっきらぼうに答えるんだ。





「だって、ソフィア、ナイデン大公閣下と踊るんだもん……。 ユキーラ姫の次点だよ、ミャーは。 ホントはその姿のソフィアと踊りたかったって、何度も言われた」


「ミャーも素敵だったじゃない」


「そう言うソフィア……笑って踊ってた。 めっちゃイイ笑顔だったよね」


「……アレは……」


「楽しかったんだ」


「……うん。 まぁ、ちょっとした自慢したかったのもあるんだ。 ミャーが一緒に練習してくれた、成果が出たんだもの、嬉しかったんだよ」


「えっ…… そ、そうなの?」


「わたしの笑顔は、大体がミャーのお陰。 それで、ちょっと尋問して来た」


「誰に! 何を!」


「もう直ぐ結果がでる。 ……ほら、来た。 静かにしててね。 傍から離れちゃダメよ」


「う、うん。 ソフィア……。 なんか、悪い笑顔になってるよ? ミャーなんか怖いよ」


「大丈夫よ。 大丈夫」





 そう、大丈夫。 ミャーがどんな事を思っても、どんな決断を下しても……。 それを、受け入れる、心の準備は出来てる。 悩んで、悩んで、悩んで……、 決めたもん。 ミャーがしたいようにする。 ミャーの心を一番大切にする。 私のせいで壊し掛けた、ミャーの心を、一番大切にするからって……、 決めたもん。


 ナイデン大公閣下が戻ってこられた。 小部屋を用意したって。 付いて来てほしいって。 うん、行くよ。 私達、姉妹のこれからの為に。 ミャーのこれからの為にね。






 ^^^^^^





 広間では、新たな曲が流れ出して、また、ホールがお花畑に成ってるのを、横目で見ながら、私達はナイデン大公閣下に連れられて、ホールに隣接する小部屋の一つに入って行ったの。 扉の前には、ミャーと同じような姿をした衛士さんが立っておられた。


 扉が開けられ、中に入る。 五歩歩んだ所で、膝を折り、胸に手を当てて、深々と頭を下げる。





「御前に伺候いたします。 エルガンルース王国、ブロイ=ホップ=レーベンシュタイン男爵が娘。 ソフィア=レーベンシュタインに御座います。 足下に伺候いたしました事、お許しください。 さらに、此方におわす方は、ミャー=ブヨ=ドロワマーノ。 現在は、わたくしの専属侍女にして、第四王女様、ヘリエンラール=エステン=ナイデン王女殿下の忘れ形見。 その証が此処に御座います。 お受け取り下さい」





 法衣のポケットに、紫紺の袱紗に包んで持って来たレッドローゼスの ” おかあさん ”から預かっていた、ミャーのおかあさんの耳輪。 とうとう、ミャーには渡せなかったんだ。 


 近くに居た、侍従さんに手渡した。 視線は、ずっと床に向けてるんだ。 頭、上がらないよね。 お言葉だって、貰ってないし、跪拝したままの状態を取り続けているんだよ。 ザワって、その部屋の中に、動揺の、漣が輪を広げたんだ。





「「証人官」ソフィア殿。 面を上げて欲しい」





 渋い、渋い、お声。 ナイデン王国が国主、獣王、ツナイデン国王陛下の御声だ。 ゆっくりと跪拝を解く。 立ち上がる。 前を見る。 豹頭獣王、ツナイデン国王陛下の何とも言えない表情が、視界を埋めたの。





「ムリュから、聞いていた。 ヘリエンラールの忘れ形見かも知れぬと。 妹には……辛い想いをさせてしまった。 私が継承した、王座は、妹の禍事まがつの上にある。 ミャーと言ったな……。 ヘリエンラールと同じ、良い目をしている。」





 ツナイデン陛下が、ミャーと同じ金銀眼ヘテロクロミヤに優しく、そして悲し気な光を載せて、ミャーを見詰めていた。 そっかぁ、ミャーの事、ずっと今まで猫人族だと思っていたけど、豹人族だったのかぁ……。 力強い訳だ……。


 ミャーは何も言わない。 わたしと同じく、スッと立ち上がって、前を…… 陛下を見詰めていた。 ちらりって、ミャーを見ると、彼女の顔から表情は伺えない。 感情を無にしているのが判ったの。 




 どうしたの?




 私の耳に、ミャーの声が聞こえるの。






「ナイデン王国、獣王ツナイデン国王陛下に奏上いたします。 奏上の件、お許しを」


「許す」


「有り難き幸せに御座います。 獣王ツナイデン国王陛下に置かれましては、ご機嫌麗しゅう御座います。 我が主、ソフィア=レーベンシュタインよりご紹介に預かりました、専属侍女(戦闘メイド)の、ミャー=ブヨ=ドロワマーノに御座います。 只今、主人より、初めて我が出自についての《お話》を頂きました。 また、我が母の形見の品も初めて目に致しました」


「左様か。 深く秘匿されていたと……いう事か。 苦労を掛けた」


「いえ、そうでは御座いません。 これ等の事から考え得るに、ミャー=ブヨ=ドロワマーノは、ナイデン王国の、第四王女様、ヘリエンラール=エステン=ナイデン王女殿下の忘れ形見として、生きていてはいけないモノであったと、そう愚考いたします」


「な!」


「その上で、奏上申し上げます。 今、わたくしが、表に出た場合、獣王ツナイデン陛下の威に些少でも傷をつけるのではないかと。 獣王国は他国と違い、王座は権能を持って保持され、些少なりとも傷持つ者は、その階に上がれぬと、聞き及びます。 よって、わたくしの事が公になりますれば、陛下の威に、傷が付き、良からぬ輩が策動を始めるともかぎりません」


「グッ!」


「よって、ミャー=ブヨ=ドロワマーノは、現状のまま、我が主、ソフィア=レーベンシュタイン様の専属侍女(戦闘メイド)として、生きて行く所存に御座います。 何卒、お許しの程を」






 み、ミャー……? あ、貴女…何言ってるの! そ、そんな……。






「陛下…… わたくしが申し上げた通りに御座いましたな。 ……陰ながら、見守る方が良いと。 ミャーは、誰よりも、ナイデン王国の、「王座の事」を、” 知って ” おりましたな」





 静かな……重い……そして、切ない声が、ナイデン大公殿下の口から漏れた。 凛として、しっかりと前を見詰めるミャー。 その姿に、目を釘付けにされて居る、獣王ツナイデン国王陛下。 二人の間に…… その視線の中に、どんなやり取りが有ったのかは、判らない。


 でも、確かな事が一つだけ有るの。




 これからも…… ずっと…… ミャーと一緒に居られるってこと。





 御前で無きゃ、抱きついて、ワンワン泣いてたと思う。 だって……今だって……、 



 涙が止まんないんだもの……。



 ミャーが私のそんな顔を見て、



 フワッと微笑んでくれた。



 耳元で、彼女の声が聞こえた様な気がした。












 ” 離れないよ? ミャーはずっと、ソフィアの側がいいの ” 













ミャーとの絆は深し…… ずっと、一緒。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ