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第96話 ノルデン大王国での日々 その3

 




 お仕事は終わったよね。 和気あいあいとは行かない雰囲気が、まだ漂ってるよ。 理由はね、そう、サリュート殿下と、エルグラント子爵が居る事ね。 周囲のお偉いさん達が、サリュート殿下を冷ややかに見てるんだ。


 当のご本人、銀箔の仮面の下で冷汗流してんじゃないかなぁ。 隣にいるエルグラント子爵の顔色、「青」通り越して 「白」くなってるもん。 遠巻きにされて、ちょっと、居たたまれ無く感じたんだろうね。 お部屋の隅に下がった私の所に、やって来たよ。





「ソフィアか……。 随分と……大人びたな」


「殿下に置かれましては、ご機嫌麗しゅう」


「うむ…… 麗しくは無いな。 これ程までに、敵視されると、辛いものがあるな。 現状の認識としては、我がエルガンルース王国は、危機的状態にあると言っても過言ではない。 あれほど国王陛下に奏上したにもかかわらず、未だ魔人族の領域に入って、百年条約の更新も行っていない。 国の上層部はもはや……」


「エルガンルース王国も時間の問題と?」


「……無辜の民の血は流させたくはない。 命に代えてもな。 それに、まだ、希望はある」


「と、申されますと?」





 私の真っ直ぐな視線を受けたサリュート殿下は、視線を外されずに答えられた。





「我が国唯一の「希望」は、エルガンルース王国に籍を置く、正規の「証人官」殿が、おわす事だ。 時間はもう無い。 魔人族の王へ、謁見を願い、百年条約の更新が出来れば、辛うじて命運は保たれる。 異種族間における条約締結には、「証人官」殿の列席が求められる……」


「……重き、御役目ですこと」


「エルガンルース王国の王子として命じる事は出来ぬが、相応の対価を差し出させば、願いを叶えて貰えると、信じている。 私は……  一年余り後、私は学園を卒業する。 …… ” 同道 ” 願えれば、幸いだ」


「親征ですか?」


「少人数での旅になるであろうな」


「お立場と、影響力からですね。 国軍、騎士団の援助は期待できないと」


「恥ずかしい限りだが、その通りだ。 如何に動こうとも、かの・・公爵殿の邪魔が入る。 現状、動かせる兵は居ない」


「殿下の信頼する者達だけ……、 と云う訳ですね」


「ああ、そうだ。 その中の最も信を置くものが、君だ」


「大胆なご発言ですわね。 一年半、考えさせていただきとう御座います」


「うむ、期待している」





 表情を能面のように静かにして、小声でお話してたの。 殿下の隣のエルグラント子爵が何か言いたげだけど、サクっと離れようか。 状況は殿下からお聴きでしょ? 私ごときの 「 話 」など、聴く耳持たないんでしょ。 だから、別にお話しなくてもいいのよね。 


 視線のみを、投げかけていると、ユキーラ姫がやって来たんだ。 優雅にサリュート殿下に挨拶されたのよ。





「これは、これは、エルガンルースの第一王子様。 御久しゅうございます。 エルガンルースの「証人官」様には、大変お世話になっております。 心より、感謝申し上げます。 「証人官」様 及び、護衛官様に置かれましては、各国の陛下よりご挨拶が御座いますれば、お連れ申し上げる事、ご了承下さいませ」





 多少、挑みかかる様な文言ね。 苦笑いを浮かべながら、王族への礼を、此方の礼典則通りに行う、サリュート殿下。 エルグランド子爵、さらに引き攣ってるね。 顔が強張り倒してるよ。 ほら、貴方も、頭下げないと、非礼に当たるわよ? いいの? 


 この条約を批准する大国の集まるこの場では、いかなサリュート殿下でも、何も言えない。 いわんや、エルグラント子爵においては、居ないも同然。 今まで、このような扱いを受けた事の無い子爵にとっては、大変、矜持を傷つけられる出来事なのでしょうね。 ほら、下唇、噛み締めてるよ……。


 ね、判った? 今のエルガンルースの危機的状況ってやつ。 


 でも、まぁ、私だって、あの重圧の中に戻るのはちょっと、嫌かもしれない。 ミャーに顔を向けると、ユキーラ姫と同行しなさいよって、視線で言って来るし。 何処に居ても、身の置き所が無いしね。 仕方ないね。 一緒に行くとしますか。





「ソフィア、参りましょう。 皆様、お待ちかねです」


「承りました」





 サリュート殿下にガッツリ、カテーシーを決めて、その場を後にしたんだ。 殿下、頷くだけね。 エルグラント子爵、顔色白いままだったね。 ゴメンね、配慮する気になれないの。 しっかりと勉強して、この国の良い所を吸収してね。 貴方には、その能力が有るし、変なプライドが邪魔しなきゃ……。 素直になれば、とっても優秀な法務官になれる筈なんだよ。


 衝撃喰らった顔してるけど、自分の立ち位置を、しっかり認識しなよ。 そうで無いと、この時代の荒波に飲み込まれて、藻屑に成っちゃうからね。


 エルグラント子爵の側をすり抜ける時に、軽く頭を下げといた。 公爵家の嫡男に対してするような、”礼儀” では、無かったけれどね。 目が覚めるんじゃなかろうか? だって、私が着用しているのは、《ノルデン大王国》 の大王陛下より下賜された、正規の「証人官」の正装。 




 法務に携わる者ならば、その意味……理解出来るでしょ? 




 勤めて、表情を変えず、彼の前を通り過ぎる。 そう、蔑んでもいないし、侮っても居ない。 期待してるのよ、貴方に。







 ^^^^^^^







 その後はねぇ……、 私の忍耐力と精神力の検定試験みたいなモノ。 もう、精神的に、もみくちゃ。 


 各国の国王陛下とか、大王陛下とか、大賢者様の前で、緊張し通し。 変な事言わないように、ニコニコ顔で、受け答えの時間だった。 王様方も、王妃様方も、色々とお話してくださったよ。 うん、優しくして貰えたと、思っていいんじゃ無いかな? まぁ、色々と威圧感、感じてたけどね。


 ある程度の詰めとか、ニュアンスの違いなど、すり合わせて、本当にお仕事は終わったって気になったよ。





ようやく、大王陛下がにこやかに微笑まれたんだ。






 エスタブレッド大王陛下が、その場に居た人達全てに、条約の締結を、お祝いして、祝宴を張るから、そっちに移動しましょうって、仰ったの。 


 そっかぁ……。 舞踏会の招待状って、この事かぁ。 ミャーと二人して、顔を合わせて、見詰め合っちゃったよ。 「証人官」の礼服と、「警護官」の正装。 どっちも、男だか女だか判んない恰好してるよ。 思わず、プププって、噴き出しちゃった。





「お嬢様、いけませんね。 その様にお笑いになっては」


「ミャー。 ユキーラ様の御心遣い、感謝しましょう。 この姿では、若い男性は寄ってきませんからね。 好都合です。 周辺国の方々もいらっしゃるのでしょう。 守りを固めたと、そう受け取っても、宜しいんではないのかしら」


「有象無象に悩まされずに、すみます。 ……でも、……ミャーは、ソフィアと踊りたかったよ」





 最後に、警護官モード投げ捨てやがった。 ば、ばか……、、 なんか、急に気恥ずかしくなっちゃったじゃん! うっすらと笑みを浮かべて、上目遣いでミャーを見るの。 その顔をマジマジと見詰めたミャー。 急に真剣に心配そうな、そして、ちょっと怒ったような表情を浮かべて私に告げたのよ。





「ソフィア。 これだけは注意して。 ソフィアは、この間までのソフィアとは違うの。 いくら眼鏡を掛けて、周囲に発散しないように、妖魔の力を抑えててもね。 危険だよ。 ホントに。 耐性の無い男性には…… 特に若い男性には近寄らないように、心掛けよう。 ……女性の私でさえ……、 姉妹だって理解してるミャーなのに……、 掻き乱されちゃうよ……」





 ミャーがちょっと上気した顔で、マジマジと私を見詰めているの。 なんだろう? いつもと変わんないよ? マジで。 それに、今は男だか、女だか判んない恰好してるんだし? きょとんってしちゃった。





「ま、また!! いぃい、ソフィア。 貴方は、私の側から離れない事。 もし、若い男の人にダンスを誘われても、断る事。 お話するのは、ご重臣の方々だけ。 ……ミャーは心配だよ……」





 なんで、ソンナ制限、つけて来るのか、全然、わからないけど、とにかくミャーの云う事だから、何らかの理由が有るんだろうね。 判った。 従うよ。 ミャーの判断に。


 調印式があった部屋を出たら、側にミャーとユキーラ姫様がついて来た。 ミャーの厳しい顔と、ユキーラ姫の楽しげな顔。 侍従様が先導してくれて、舞踏会の会場に向かったのよ。 長~~い、廊下をトコトコ歩くの。 ちょっと前なら、無理だったよね。 それが、今なら、走れそうなくらい、元気になれた。


 体調はすこぶる付きで、回復した。 裏の「お仕事」も出来るよ。 これならね。 しっかりと前を向いて、踏みしめて歩く。 背筋を伸ばし、優雅に。 習い覚えた、宮中式の歩き方は、遠目に見ても綺麗なんだよね。 それに、隙も出来にくいんだ。 なにが有っても、対応できるって事ね。 


 王妃教育って、そういう物なんだってね。 そうそう、これは、《ノルデン大王国》で、聞いた王妃教育の一つで、いずれ王妃陛下になる人には、護身術が授けられるんだって。 で、最悪、伴侶の命を守る盾になれって。 凄いよね。 エルガンルースの教育じゃ、そこまでは求められないんだけどね。



 流石と言うべきか、無茶と言うべきか?



 その覚悟のある人しか、後宮に入れないって事。 命を懸けて、国を、国体を、大王陛下を、御守するのが、王妃陛下の仕事。 


 だからこそ、大王陛下は、王妃陛下を殊の外、” 大切 ” にされるのよね。 側妃の方々も同じよ。 大王陛下の大きな翼の下に全ての王族は護られるんだって……。


 相互信頼。 信には信を。 


 強いはずだよ、《ノルデン大王国》は。





 ^^^^^^




 舞踏会が開催される大広間に到着したの。 調印式が執り行われた部屋にいらっしゃったのは、物凄い高位の方々ばっかりだから、国王陛下と同じ場所から、入場される事になってた。 





「わたくしは、一般入場の方に参りましょうか?」


「ソフィア? 何を言っているの? 一国の王と、同等の権威を持つ、正規の「証人官」様が、一般? そんな非礼は、ノルデン大王国では認められませんわよ? お分かりになりませんの?」


「……勿体なく……」





 い、いやね。 なんとなく、その役職は……隠していた筈なんだけど……。 なんで、こうなっちゃったんだろう。 エルガンルース王国の関係者って……ほかに居ない……よね。 本国に知れたら、また、なんかされるから……。 その辺は、サリュート殿下の差配にかかってるよね。 



 宜しくお願いしますよぉ……。



 そう言えば、此処まで来る間に、エルグラント子爵の姿が消えてたね。 サリュート殿下はいらっしゃるんだけど? サリュート殿下の姿を目の端に捉えて、その周囲を探すんだけど、居ないんだよ、奴は。 その視線に気が付いた、ユキーラ姫様が、冷え冷えとした表情で、応えてくれたんだ。





「第一王子サリュート殿下の後ろに立っていた方ですか。 あの……えっと、なんという、御名前でしたかしら? でも……子爵の爵位では、この場に同席する事は出来ませんわ。 それに……」





 彼女の冷たい表情の理由が有ったんだ。 よっぽど、根に持ってたんだね。 有難いような、エルヴィンにとっては災難と言うか……。





「本当の事は、何も知らない、あ奴の語った、一方的なビューネルト王立学園の高位貴族子弟共の囀り。 エルガンルースにある、《ノルデン大王国公館》に、少々滞在して居た私でさえ、判る様な悪意に満ちた”あの噂”を、あ奴は堂々と此方で語ったのよ。 此方の者達は、出来るだけ正確にモノを見る訓練を、幼少の頃からしている。 高位貴族程、公平さを要求されるの。 まさか、単なる思い込みと、階級意識で、そんなバカな噂を流していると、誰も思わなかった……。 ソフィアが、あの容疑を掛けられた、大きな理由よ。 許せるわけない」





 メラッって、青い炎が見えた気がしたよ。 本国の学院じゃ、男爵家の娘で、第二王子の婚約者候補ってだけで、相当数の高位貴族の御令嬢から、やっかみ受けてんだから、その噂は出て当たりまえ。 辞退しろって、何度も言われたし。 


 でも、サリュート殿下が許してくれないんだもの。


 だから、それは、お国柄なのよ。 人族の悪い部分が出ちゃってるのぉ! 悪くないとは言えないけど、まぁ、そんな物なのよ。 怒ってくれるのは、嬉しいんだけど……ね。





「ユキーラ様。 わたくしは、気にしておりませんわ。 ただ、わたくしが悪く言われる事によって、わたくしを「朋」と呼んで下さっている、ユキーラ姫様に申し訳なく思っておりますの。 でも、これだけは、ハッキリ申し上げられますわ。 わたくしは、何も恥ずかしい事はしておりません。 矜持に従い、胸を張っております。 どうぞ、どうぞ、お含み下さいませ」





 なんで、奴のエルヴィン弁明せにゃならんのかなぁ……。 


 まぁ、これで、ちょっとは、お怒りが解ければいいなぁ……。 そう思う事にして置いた。 いよいよ、会場に入る。 私は、目立たないように、隅っこに行こうとしたんだ。





 出来るだけ、静かにしていようとね。



 ほんとだよ。



 ミャーにも釘、一杯、刺されていたからね。



 エスタブレッド大王陛下の、開催の辞の後。



 会場に、ダンスの曲が流れて、お花畑みたいになったんだ。








 ねぇ、ナイデン大公様?







 なんで、ニコニコ顔で、私の前に立っとるんだ?



 なんで、手を差し出してくるんだ?






 そんで、サリュート殿下……?







 なんで、視線と、ハンドサインと、色んな宮中肉体言語で……、



 ”行け!! 仲良くなって来い!!”



 って、言ってんのよ……!








 国の危機は、判るんだけどさぁ……。









 私をどうしろって云うのさ。








国外では、ノビノビしている、ソフィアです。

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