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第95話 ノルデン大王国での日々 その2

 




 庶民が正式な場に着て来る、《 ナイデン王国 》の正装はね、国民皆兵のあちらの事だから、軍服仕様なのよ。 濃緑色の詰襟で、スラックスの横に深紅のラインが入ってるの。 目を引くよとっても。 


 ミャーが今、着用しているのはそれ。 でも、《 ナイデン王国 》の正装とは違うのは、上から、深緑のインバネスコートを羽織っている所と、彼方の正規の服装では無い事を示す、エルガンスール王国様式の腹帯。


 法衣の私の背後に居るミャーは、まるで警護官のように付き従うの。 私は、贈られた正規の「証人官」の正装で、銀髪を一つに纏めて、下フレームの眼鏡をかけて……、 ついでに、ミャーに「準傾国仕様」の化粧を施してもらっていたの。


 表情を消しても、かなりのもんよ? 流石、ミャー。 彼女にお化粧を施してもらうと、それこそ、「誰コレ?」 状態なんだよ。


 お知らせが来て、ユキーラ姫の待つ小部屋に伺候したの。 廊下で出会う侍従の人とか、宮廷侍女の人達が、一様に息を飲んで、頭を下げてくれる。 まぁ、正規の「証人官」スタイルだからね。 それに、カッチリした正装をしたミャーの護衛付き。


 歩を進める私は、なんだか、とっても偉い人みたいな、雰囲気になってるよ。 他の人に聞こえないように、ミャーと念話でお話をするの。





(なんか、落ち着きませんね)


(お嬢様に置かれましては、堂々としておいでで御座います。 出席を求められた席に、正装にて伺うのですから、問題は御座いません。 エルガンルース王国の外務官様のように振る舞えば、宜しかろうと愚考します)


(ミャーったら……、 そんな偉い人の真似、出来ないわ)


(何でしたら、王妃様モードでも、宜しいかと?)


(もっと、ダメよ。 オトナシク、目立たないようにね)


(……御意に)





 ミャーも緊張してるね。 先触れとか、招待状で、かなりの規模の舞踏会とわかるんだけど、その前に、ちょっと別室に呼ばれているんだ。 最初にユキーラ姫と御会いして、それから、別室に伺候する手筈に成ってるの。 とっても大事な事らしいし、極秘なんだそうなんだよ。


 なんで私が、その席に連れ込まれるのか、ちょっと理解に苦しむんだけど、ユキーラ姫様の御連絡で、是非ともその席には、御下賜頂いた正規の「証人官」の正装を着用してほしいと、ご依頼もあったんだ。 何となく、私の出席する理由が分かった気がしたのよ。


 要は、「お仕事」の依頼だよね。 「証人官」が臨席するのは、何らかの異人種の国家間の条約が結ばれる時だからね。 ミャーは私より先に、その事に気が付いていたみたい。 だから、彼女は護衛官の服装を纏った……。 



    そうよね、ミャー。




 私は、それに気が付いて、一段と根性入れて、ユキーラ姫の待つ小部屋に向かったの。 お仕事かぁ……。 オトナシク、目立たないようにってのは…… 無理かな?





 ^^^^^^





「ソフィア……。 貴女……、 とっても……素敵!」


「ユキーラ様、お呼びにより、御前に伺候いたしました」


「もう!! ……でも、ほんとに……、素敵ね」





 私の姿を見て、ユキーラ姫、目がハートになっとるね。 そっかな? まぁ、ミャーの化粧が凄いんだけどね。 このスタイルだから、胸に手を当てて、膝を折る文官スタイルの礼典則でご挨拶。 ユキーラ姫もノリノリで、スッと右手を上げてね。 その手にキスを一つ落とすの。 


 ユキーラ姫、ノリノリだったくせに、顔を真っ赤に染め上げてた。



 ユキーラ姫様以外にその小部屋に居たんだ。 久しぶりに顔見たよ。 エルガンルースの公館に戻られたって聞いてたけど、お戻りになってたんだ…… ダーストラ=エイデン公爵様。


 かなり変わってしまった私を、何故か眩しそうに見つめていたダーストラ様は、おもむろに声を掛けて来られたんだ。 相変わらず、渋い声だねぇ。





「ソフィア殿……。 いや、ソフィア証人官様。 無理を申し出て申し訳ない。 御足労お掛け申す」


「これは、ダーストラ=エイデン公爵様。 ご機嫌麗しく。 わたくしの事を、証人官とお呼びに成られるという事は、お仕事で御座いますね。 詳細を頂けますでしょうか?」


「痛み入る。 本来ならば、ソフィア殿にお願い出来る様な立場では無いのだが、奴等が是非にと願い出てな。 我が君、エスタブレッド大王陛下、サラーム大王妃陛下も強く列席を求められたのだ。 許せ」


「その、他の方々とは?」


「賢者ミュリエ、賢者エスカフローネ、ナイデン大公……。 強くソフィア殿に惹かれて居る者達だ。 《ノルデン大王国》がしでかした事も、詳細に伝えてある。 ……済まなかった」


「その事に関しましては、巡り合わせが悪かったと……、 そう理解しております。 その後の手厚い対応に、感謝しております」


「……ソフィア殿は、そうは言うが……、 私は自分が許せないのだ」


「勿体なく……。 お気持ちは、感謝と共に頂きます。   それで、今回の会合は、条約締結と愚考しましても、宜しいのですか?」





 私の瞳をしっかりと見据え、ダーストラ様が、私の質問に答えたの。





「そうです。 《ノルデン大王国》、《ナイデン王国》、《エルステルダム》三国間の条約を結ぶ。 事はエルガンルース王国にも深く関係する軍事も含む包括的な条約となる。 多人種、多国間と言う事で、是非とも正規の「証人官」の列席が必要な案件なのだ。 残念な事に、現在《ノルデン大王国》には、証人官は登録されていない。 他国に関しても、動かせる者が居ない。 当初は、準証人官でと、根回しはしていたのだが……」


「たまたま、わたくしが居たと?」


「……ソフィア殿が、証人官であらせられた事は、誠に僥倖であったと、精霊神様に感謝申し上げた」


「……正規の「証人官」が承認した条約は、大協約にも匹敵しますからですね」


「ご理解頂けただろうか?」


「締結される条約の、「内容」如何によっては、「拒絶」致しますが?」


「そこは、我がノルデン大王国の法務官達が知恵を振り絞って纏めました故」


「……判りました。 条約の内容は?」


「こちらに。 此処でご覧いただいても、宜しいでしょうか?」


「拝読いたします」





 小間に備えてある、文机に座らせてもらった。 側にミャーが控える。 私は、渡された、装丁された羊皮紙の条約文書を受け取ると、「お仕事モード」に突入したんだ。 包括的条約は、一言で言って大協約を忘れた人族との決別。 貿易、軍事、政務、外交の一切の取りやめ。 対象は、《ガンクート帝国》及び、その衛星国。 エルガンルース王国については、四年間の猶予期間を設けるという内容だった。 


 かなりの時間読み込んだよ。 不備は無い。 と云うより、よくぞまぁ、此処までって程、穴を潰してある。 条約締結後、色々と法典の方をいじる事になるだろうけど、それも踏まえての記述だったよ。 法治の国《ノルデン大王国》で、問題が無ければ、他国にも問題でないだろうね。 


 内容の方は……まぁ、そうなるよね。 この世界に生きとし生ける者にとって、「大協約」は、どんな大国であっても、どんな小国であっても、遵守しなけらばならない、「憲法」みたいなものだもの。 それが、魔人族であってもね。 それを、あっさり投げ捨てたら、そりゃ、その国は排除されるよ。 国際的な観点からもね。


 話を聴けない、言葉が通じても、意思が通じない相手には、判るように対処するって事ね。 当然、《ガンクート帝国》及び、その衛星国の人達は、条約を締結した国々には、入国できなくなる。 条約締結後、入国しちゃったら、諜報員スパイと見なされて、国家転覆罪を適用するって。 つまりは、問答無用で殺しちゃうって事。




 最後通牒は、とっくに送ったって書いてあったよ。




 だから、この条約が締結されるんだって。 えっ? それじゃぁ、エルガンルースからは誰が来てんのさ!!




 マズいよ……。 マジでマズイ……。




 こんな大事の条約だから、エルガンルース王国から誰も来てないとなると、マジでヤバいよ。 外務卿は、マジェスタ大公閣下の息がかかってるし、高位貴族の名前が無いと、条約不参加とされちゃうし……。 





「あの、ダーストラ様、エルガンルースからは、どなたがご列席になられますか?」


「うむ、流石。 そこに気が付いたか。 忍びでは有るが、サリュート殿下がお越しになられる。 法務官として、エルヴィン=ヨーゼフ=エルグラント卿が御側に付く」


「……エルグラント子爵は、正規の法務官では御座いませんが? 宜しいのですか?」


「うむ。 エルガンルース王国は、列席はするが、あくまでも対象国の一つだ。 署名する訳ではない」


「という事は、他の二国は……」


「察しの通り、国王陛下がご臨席に成られる」


「……それは……また……」





 えらいこっちゃ!!! 国家的断罪の被告席に、サリュート殿下が座るつもりだ!!! あちゃぁ……。 私は、「証人官」として、参加するから、私的意見は述べられない。 条約を読んでも、なんら不備な点は無い。 第三者視点でしか、参加できない……。


 あのタヌキ(サリュート殿下)…… 詰め腹切らされるな。 いつも、人に押し付けてくる苦労を味わいやがれ!! そんで、エルヴィンよ、本物の外交案件に痺れなきゃいいんだけどね。 北の大地は、やはり、「試される大地」なんだね。 良く判ったよ。






 ^^^^^^





 大きなお部屋に連れて行かれたの。 ユキーラ姫が先導してね。 ダーストラ様がその後に続くの。 それから、私とミャー。 物々しい雰囲気でね。


 お部屋の扉の前について。 一息、吐き出した。 


 よし、気合入れっぞ!!


 扉を護る衛士さんが、私達の到着を告げる。





「ノルデン大王国、ユキーラ=エスト=ノルデン王女様、外務長官、ダーストラ=エイデン公爵様、証人官、ソフィア=レーベンシュタイン様、並びに 警護官 ミャー=ブヨ=ドロワマーノ様 御入室で御座います!」





 大きく扉が開かれて、重厚な執務室というか、条約調印室が目の前に広がったんだ。 各国の国王陛下と、御歴々。 もうね、雰囲気が半端なく重い。 威圧感満載の部屋の中。 空気すら、粘度が上がってんじゃないかって思う位ね。


 大きな執務机の三つの席が用意されていてね、その前に、私に渡してもらった、装丁されている条約の綴りが置いてあるのよ。 


 右側から、ナイデン王国の ツナイデン国王陛下、ノルデン大王国の エスタブレッド大王陛下、 そして、エルステルダムからは、大賢者ハイエローホ様が、着席されていた。 うわぁ……! この三人が揃っているってだけで、とんでもない事なんだよね……。 それだけ、重要且つ、決意を込めた条約って事だよね。




        やべ~~


           震えて来た……。




 っと、我が国の偉いさんは……。 いたよ……。 銀箔の仮面の貴公子が。 エルヴィン連れてね。 エルヴィン、私を見て、呆けてやんの。 そりゃそうか、知らないもんね。 更に言えば、私が牢屋にぶち込まれてからの消息、教えて貰え無かったらしいしね。


 国王陛下様達 ” 三人 ”が、席を立たれた。 私の姿を見てね。





「証人官殿。 お待ちしておりました。 どうぞ、此方の席に」





 エスタブレッド大王陛下が私を席に着かせるの。 御三人の真ん前よ……。 うわぁぁぁ、重い重い!!! ある種の威圧感を放つ、国王陛下が三人。 モロにその重圧を受けちゃってるから大変よ。 


 契約の精霊大神【コンラート】様の御加護が無ければ、この威圧感にぶっ飛ばされてたと思うよ。 静かに用意された席に着席したの。 もう、ここまで来たら、まな板の上の鯉よ。 


 会社勤めしてる時にね、デカい案件の契約に立ち会った事、有るんだよね。 そん時はお茶くみに駆り出されていたんだ。 まぁ、億越えの案件だったから、役員の人を含めて、ピリピリした雰囲気でね。 署名貰えるまで、マジ、半端なく、緊張感が張り詰めてたんだ。 あの感じを数百倍にした感じ? それに、なんか、当事者の一人みたいになっちゃってるし。


 背中に冷汗が、流れていたんだ。 だって、私、まだ、十五歳なんだよ? もう直ぐ、十六歳に成るけど……。 正規の「証人官」には、年齢は関係ないって言われてるけど、それでも、この威厳たっぷりの方々の前で、堂々と振る舞えって……、 ムリゲーですって。 前世の記憶があるから、おばちゃんの精神力振り絞って、立ち向かってるだけ……。




 いや、本当に辛い……。




「では、証人官殿。 此度の包括的条約に関して、なにかご質問等、あるか?」





 エスタブレッド大王陛下が私が席に着いた事を確認してから、口を開いたの。 特別言う事はないわ。 十分に大協約の精神に則ってるから。 此処は、完全に「お仕事モード」でお返事しますね。





「契約の精霊大神【コンラート】様の名の元に、契約を精査致しました。 大協約に則る、この条約の正当性を保証いたします。 対象国への通達は、如何されましたか?」


「我等三国、及び我等と志を同じくする国々の元首の名の元に、対象国には通達済みだ。 本条約の発効は、本日、署名を致した時とする」


「対象国からの返答は?」


「回答期限を過ぎても、なにも無い。 唯一、エルガンルース王国のみ、状況説明をしに参られた。 それを勘案し、付則として、エルガンルース王国に対し、四年の執行の猶予期間を加えた」


「良く判りました。 魔人族との関係は如何なさいました?」


「各国の百年条約担当官が、各々伝え了承を頂いておる。 ただし、エルガンルース王国は、御前に伺候できていない為、了承されて居らぬ。 よって、了承を受ける事が出来たなら、執行の猶予を取消し、条約に参加する事を認めるとした」


「契約の精霊大神【コンラート】様の聖名により、この条約は正しく施行されている物と、証します」





 私の言葉と共に、席について居る国王陛下達と、私は条約の綴りを開いて、署名を始めた。 一冊書いたら、控えの人に渡して、別の綴りを貰って署名する。 四回繰り返すと、相互署名が終わり、条約が締結された事になる。




 最後の一冊には、三人の国王陛下の名前が刻まれている。




 いや~~~、壮観だね! こんな条約文書、見た事無いよ。 こりゃ、「不磨の大典」もびっくりだよね。 整合性とんのに、めっちゃ苦労したろうね。 頭が下がるよ。 ほんと、ノルデンの法務官って、ドンダケ優秀なのよ……。


 最後の一冊に私の名を刻み込んだとたん、四冊の条約批准書がボンヤリと光に包まれてね、契約の精霊大神【コンラート】様がお認めになったって事が判った。 聖典と同じ扱いにされるね、きっと。 




 さて、お仕事は終わった。




 ちょっと、ぶっ倒れそうになるくらい、消耗したよ。 何だろうね、この、大分削られた感。 緊張の連続だしね……。





「証人官、ソフィア=レーベンシュタイン。 列席誠に有難く思う。 この世界の未来に、光あらん事を」


「卑賎なる我が身、過分の御言葉、勿体なく思います。 わたくしも、祈りたいと想います。 この世界の未来に、光あらん事を」





 席から立ち上がり、ツナイデン国王陛下、エスタブレッド大王陛下、大賢者ハイエローホ様と、がっちりと手を握り合ったの。 本当に心の底から、祈りを捧げたのよ……。





        ほんとに、




         かなり、




       辛かったけど……。




     この世界の平和の為には、






      必要な事だったのよ。







    あの人に……褒めて貰えるかなぁ……。







一体、彼女は何者になるでしょうね?

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