第93話 異国での学生? 生活
【献春月】 一杯は、氷の聖殿 バゴノ=パラディ に泊めて貰った。 と云うより、問題が起こらないかどうか、確かめる為の、『軟禁状態』って事ね。 聖殿は、王家の人と、聖殿で働く人以外、来れない事になってるから、ちょうどいい隔離施設になってたの。
そんでもまぁ、 【恵風月】になり、気温も上昇してきたら、そんな事も言ってられなくなるのよね。 だって、氷の聖殿でしょ? 溶けちゃうのよ。 全体的に。 でも、まぁ、ギリギリまで滞在する事にはなったのよ。
ユキーラ姫の公務だって、大王様と大王妃様の職務も、色々と忙しいんだよね。 本来だったら、一ヶ月近く、聖殿に籠るような事態は、避けなきゃならん筈なのに、それでも、かなりの時間を一緒に居て貰えたんだ。
私の変化の「責任」と仰っていたよ。 全ては、ユキーラ姫と一緒に、《ノルデン大王国》に来た事から始まったってね。 他国籍の「証人官」を危険に晒した事も、拍車をかけたようね。 だって、正規の「証人官」ってのは、場合によっちゃ、国王陛下達と同列に扱われる、精霊神様から戴く ” 職 ” だからね。
私自身は、ちっとも、そんな事、思ってないんだけどねぇ。
サラーム大王妃陛下は、かなりの時間を取って下さって、私の事を調べて下さったの。 深い所までね。 【闇の精霊神様】の「愛し子」は、違うね。 精神系の魔法を駆使して、私の状態をほぼ丸裸にして下さった。
判った事があるの。
【闇の精霊神様】に私は、半妖に成るって言われてたんだけど、サラーム大王妃陛下曰く、ほぼ皮一枚が、人族。 中身はほとんど妖魔。 精神は人族。 魔力、身体能力は妖魔。 ただし、人族の時に傷んでしまった体の一部は、流石の妖魔でも、完全には修復できなかったらしいの。
場所は……背中にある、ケロイド状の皮膚の引き攣れと、片方の肩の可動域に多少の障害が出ている事。 それは、もう諦めたよ。 要は、それに順応すれば良いだけだものね。肩の可動域の狭まりは、あんまり気にしてない。 私が使う武器は、剣とか槍とかじゃなくて、暗器。 それ故に、補えるんだ。
力さえ戻れば、” 鋼線 ”と、” 菱弾 ” を、扱える。 アレは、タイミングとちょっとしたコツが、モノを言うからね。 大きく手を動かす必要なんかないもんね。 反対に大きく動かすと、ブレちゃって、使い物にならない位なんだから。
サラーム大王妃陛下と、ユキーラ姫には、大変有意義な時間を頂いたんだ。 サラーム大王妃曰く、
「普段通りにしていれば、貴女が半妖とは、誰も思わないわ。 その眼鏡を外さない限りね。 万が一、魔人族の領域に足を踏み込む事が有ったら、その眼鏡を取るだけで、彼等から同族と見なされるわ。 それが【闇の精霊神様】の見解よ。 注意してね。 その眼鏡は、貴女を護るだけでなく、貴女の周囲も護る事になるのよ」
「はい、わかりました」
「ねぇ、ソフィア」
ユキーラ姫が、少し低めの声で、お話してくれた。
「貴女は、貴女に違いないの。 だから、心配しないで。 此処で起こった事は、禍事ではあるけれど、少なくとも、貴女は変わっていない。 多少、外見が変わっただけよ。 ソフィアは変わらず、わたくしの朋なのよ」
嬉しいねぇ。 口に出して確認してくれているのよ。 言葉にしないと、不安なんだと思う。 でも、その気持ちが嬉しいんだよ。
「ありがとうございます、ユキーラ。 貴女の言葉は何時も、心に沁みます。 これからも朋で居てくださいませ。 お願いします」
「勿論よ! サラーム妃陛下も、太鼓判押してくれてるんだから、堂々と、王都グレトノルトに帰りましょう!! まだまだ、御一緒したい場所が、沢山あるのよ!」
「はい……。 仰せのままに」
ニンマリと笑みを浮かべた。 その私の笑顔を見て、ユキーラ姫の顔が真っ赤になって来たんだ。 ボソリって感じで呟かれたの、聞こえたんだ。 耳まで良くなってるよ。
”なんて破壊力のある笑顔なの!”
だってさ。 ふふふ、狙った通りね! ミャーが、やれやれって顔で見詰めていたよ。 男に向かって、絶対にするなよって、顔してた。 それは、どうかな? 時と場合を見て、有効なら、使うよ? 微笑み一発で、言う事聞いてくれるんだ。 安いもんだよ。
まぁ、そんなこんなで、ようやく、『軟禁状態』も、解除される運びとなったんだ。
ユキーラ姫も、公務に付かれるし、私だって、「お仕事」が出来ちゃったもの。 頑張らないとね!!
王都グレトノルトに戻る事になった日。 私達が出立した後、最後の力が抜けたんだろうね、氷の聖殿、『バゴノ=パラディ』は、溶けるように水に戻って、あの精霊神様達の依代である『磐座』を、水底に飲み込んで行ったんだ。
また、来年の冬…… お祈りを捧げますね。
精霊神様。
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王都に戻ってからは、とっても忙しかったの。お部屋でゆっくりする時間もなかなか取れなくなってね。 と云うのも、ほら、法務院大学での講師の件。 あれの他にね、聴講生として、他の授業を受けさせてもらいたいって、願い出たんだ。
なぜか、アッサリ認められてね。 どうも、法務長官のベックマン公爵が口をきいてくれたみたいなんだよね。 ほら、なんだかんだ言っても、”第一級国賓扱い” だからね。
聴講生とは言え、授業に出るんだから、予習復習、そんで、課題もするんだ。 なんと、ミャーも一緒なのよ。 教室で、隣に座って、シレッと授業を聞いているのを見て、唖然としたよ。 さも、当然と言わんばかりの顔をしてるんだよ。
あの、ミャーさん? 授業の内容、お判りになっているんですか?
深夜、お部屋の中で、課題に頭を悩ませている私に、ミャーがお茶をもって来てくれた時に、ちょっと気になって、聞いてみたの。 退屈じゃないのかなぁ?
「ソフィアの横に居るだけで、何となくわかるよ。 法典とか、大協約とか、小難しい事言ってるけど、要はこの世界の生きる為のルールでしょ? 孤児院でも独特の ” お約束 ” って、あったでしょ。 同じ感じかな? 【処女宮】で、躾けられてたから、高度な読み書きだって、出来るしね」
「そ、そうなの。 ミャーが判るんなら、問題無いよ。 一緒に受けようね、授業」
「ソフィアが先生になる時間も、一緒だよ? まぁ、生徒でもいいけど。 「神代言葉」だっけ? あれも、教えてね。 大協約の聖典の原本読めたら、楽しそうだし」
「え、ええ……、 判った。 それ用のモノ、作っとくね」
「うん、ありがとう!」
ニッコニコで、嬉しそうに笑ってくれた。 よ~し、ソフィアさん、頑張っちゃうぞ!
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法務院大学ではね。 人生初ってくらいの、モテ期に突入しちゃったよ。 そりゃ、周りが男ばっかりの中に、女性は私と、ミャーだけってのが、効いてるんだけどね。 チヤホヤしてくれるの。 そんで、ちょっと、微笑んでみたら、ポーってしてるの。
「お嬢様、お止め下さい。 勘違いされて、後で困っても知りませんよ?」
「ゴメンさい。 厄介ごとは、極力回避でしたね」
「左様に御座います。 普通にしているだけでも、大変魅力的な御姿に成って居られますので」
「お上手だ事……」
すました顔してたら、ミャーに脇腹を殴られた。 そんで、そっと耳打ち。 ” 鏡見て見ろよ、ソフィア。 ミャーにも、そのスタイルと、美貌、分けてくれよ……。 ミャーもチヤホヤしてもらいたいよ ” ってね。 でもさ、そんな事言ってる、ミャーの後ろにも、ゾロゾロ着いて来てる奴等一杯いるよ?
モテてるよ! それも、バッチリ、イケメンばっかりね。
でも、そんな事ばっかりやってないわよ? ちゃんと授業受けてたよ? ノートとって、難解な条文やら、判例なんかを覚えて、記憶と突き合わせて。 課題になっている、事件と、判決と量刑についての考察とか、必死になって考えたりね。
ミャーは感性で、大体掴んでる。 大筋を掴んでるって感じかな? でも、それが一番大事な事なのよね。 細々とした枝葉末節に拘り過ぎると、大筋で大ポカするモノね。 だから、ミャーが居てくれて良かったと思うのよ。
そんなこんなで、一応学生もしてたんだ。
問題は……、講師の方なんだよね。
何をしたらいいか……、 良く判らないから、私を此処に引き込んだ人に直接聞く事にしたんだ。 そう、法務長官の、エルネスト=デル=ベックマン公爵閣下にね。
だって、判んないんだもの。
大協約に関しての、講義って、何すりゃいいのさ。
大協約自体が、精霊神様達と、この世界に生きる生きとし生ける者が交わした、ルールなんだけど、精霊神様一杯いるから、結構矛盾が有るんだよね。 何となく、その事かなぁって思うんだけど……。 こればっかりは、聞いてみないと判らないからね。
早速、ユキーラ姫に連絡をとってね、繋ぎを付けて貰ったんだ。
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場所は、ベックマン公爵様の執務室。 重厚な調度に囲まれながら、ミャーと二人して、お待ちしてたの。 色々と忙しい方だからね。
お茶二杯分の時間を、そこで待ってたの。
ミャーは微動だにせず、ソファの後ろで立っていたよ。 バタバタ足音がしてね、先触れも無く、ベックマン公爵閣下が、お部屋に入ってらしたの。
「すまない。遅れた」
「お忙しいのですから、お気になさらずに。 わたくしの我儘を聞いて下さって、誠に有難うございます」
「うむ。 で、何用かな?」
「はい、講師の事に御座います。 何か、お考えでも?」
「そうだな、単刀直入に言うと、大協約の重要性を説いてもらいたい。 近頃、若い法務官共が、大協約を深く理解しておらぬ様でな。 不磨の大典も、聖典も、全て、大協約に則って居るというのに……」
「では、講師をするにあたり、言語を全て、「神代言葉」にて、実施いたしましょうか?」
ぐっと、息を飲まれたの。 あぁ、勿論、ベックマン公爵がね。 私にとっては、普通の事の様に出来るんだよ。 だって、日本語だよ? 出来て当たり前だよね。 そんで、大協約の原本もね。 書いてあるのは、精霊神様と、人々の取り決め。 そんで、一番大切な事が書いてあるのは、当然一ページ目。 序文って所ね。
ベックマン公爵が目を白黒させていらしたけど、これで決まりね。
じゃぁ、用意しなくちゃね。 ミャーへの教材作りに、丁度、大協約の序文を使ってたから、楽勝! ってね。 お礼を言って、退出したの。 忙しい人を何時までも引き留める様な事、したくなかったし。 それに、なんか、固まってるしね。 サリュ~~。
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結果的に、講師をした、大協約の授業は、大盛況のうちに終わったの。 いや、阿鼻叫喚かな? 準証人官の人とか、証人官補の人とかも居たし、証人官目指してる人も、割といたんだけどねぇ……。
途中から、《ノルデン語》に変えざるを得なかった。
ミャーが一番、理解してた。
ふう……
まぁ、そういう事で、また、ぞろぞろ、
変な集団に付き纏われる事になっちゃったよ。
……そうだよ、こっちの学院の生徒達にだよ……。
無双、開始ですね。




