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第90話 そして、人ならざる者……

 



 目の前の磐座は、とても、とても、禍々しい状態だったんだよ。 


 荒魂ってあるじゃん。 勿論、日本の話。 なんか、故郷の街の近くの神社の奥のさらに奥に、御神体とて、注連縄に縛られとった、岩?があってね。 それの近くの由来書に、《かつて暴れた、荒魂を祀り、鎮魂とする。》 なんて、書いてあったんだ。


 小学校の時にさ、なんか、郷土の歴史とか言う時間があってね、そん時に遠足がてら連れて行かれたんだよ。


 先生が言ってたのは、神様にも、優しい神様と、荒ぶる神様が居て、両方がバランスをとって、人々を見守っているんだとか言ってたんだ。 それで、優しい神様ばかりを頼ってると、荒ぶる神様が気を悪くするから、きちんとお祭りしないといけないってね。 


 なんか、納得できたんだよ、そんときね。 その荒ぶる神様も、なんか役割が与えられてて、それをしてるんだけど、見える部分は、水害とか、落雷とか、地震とかに関係しちゃってるから、ただただ、怖がられているんだってね。 


 先生は言ったんだよ。 役割をきちんとしているのに、嫌がられていると、その荒魂が気を悪くして、災害が大きくなるんだよってね。 だから、優しい神様をお祀りする時には、同時に、荒ぶる神様も同じくらいお祀りしないといけないってね。


 会社員時代でも、同じような事有ったよ……。 嫌な仕事押し付けられて、誰にも評価されず、むしろ、嫌な目で見られたりもした事有るんだ……。 あれって、きついよね。 必要な事だから、会社の利益の為に……というか、自分のお給料の為に、必死なのに……。


 てなわけで、どうも、私は、こういった日陰者的な精霊神様には、強く出られないのよ…… 頑張って、頑張って、役目を果たしている事を理解してるからね。 しかし、それにしても、酷い状況だね、ココは……。



^^^^^



 周囲の陰気の流れが凄くって、壁面がなんか汚れてるんだ。 その上、神々しいはずの磐座が……、 なんか、湿って、黒くって、お世辞にも神聖な感じがしなかったんだ。 


 上の水と、氷の精霊神様の依代とおなじく、祝詞が刻み込まれた石板は埋め込まれているんだけど、なんか薄汚れててね……。 このまま、言祝いでも、何となく闇の精霊神様に届かなさそう……。





「大王妃陛下にお伺いいたしますが、ココの清掃とかは、どうしておられました? 余りにも陰気に覆われておられるのですが……。 死霊、縛霊、魂の欠片……。 再生への階段を踏み外してしまった者達が、渦巻いております」


「そう……なの……? わたくしに出来る事は、闇の精霊様への祈り。 ただ、それだけを、続けておりましたの……。 わたくしでは、それ以外にする術をしりませんから……」





 しょんぼりと、力なくそう言われる大王妃陛下。 いやさぁ……いくらなんでも、それは……。





「宮廷魔術師様とか、そう言った方はこちらへは?」


「……ここは本来王族しか来れない場所……。 貴女は特別なのです。 精霊様に「愛し子」と呼ばれ、「証人官」となった貴女ならば、此処に招いてもお怒りを買わずに済むと……。 他の方々は、あの移動大魔方陣に乗っても、ココには来れません……。 わたくは、賭けてみたのです……。 貴女様に……」





 う~~ん、やっぱ、なんか変だと思ったよ。 どうにも、扱いがおかしいってね。 王族が、こんな下位貴族の娘に、あんな待遇を与える訳ないもん……普通ね。


 でも、このままじゃぁ、いけないのは確か。 




 大丈夫かな?




 起動できるかな?





 まだ、まだ、魔法は……、



 


 本調子じゃ無いんだけどなぁ……。





 仕方ないよね。





「大王妃陛下……お願いが有ります」


「何でしょう?」


「これから、ココを清浄の地に戻したいと思いますが、わたくしの魔法は、安定しておりません。 暴走の危険も有ると思われます。 妃陛下におかれましては、そのような危険な場所に居られない方が宜しいかと……。 自分に自信が持てないのです」





 ジッと私を見ている、サラーム妃陛下。 何が原因で、私の魔術が不安定なのかに思い至ったらしいのよ……。 確かに、ココは、大変危険な状態だよ。 でも、それを、身体を悪くしている私に頼み込むのは、流石に気が引けるよね。 単に、言祝いで貰いたかっただけだったんだろうね。 でも、それじゃ、ダメなんだよ……。 まさか、私が其処までするとは思ってなかったんだよね。 だから、妃陛下の深紅の瞳に涙が浮かんだんだよね。





「貴女って人は……。 判りました。 下がります。 終われば、お教え下さいね。 でも、でも、ご無理はしないで、お願い!」


「はい、すこしお待ちいただければ、幸いに御座います」





 能面の様な顔で、静々と、【闇の精霊神様】の依代のある部屋を出て行く、サラーム妃陛下の後姿を見送るの。 その姿が見えなくなってから、私は【浄化】の大魔方陣を紡ぎ出したんだ。 前は、無詠唱でも行けたんだけど……。 やっぱり、どうなるか判んないからね。 本格的な魔法を使うのって、あの襲撃以来の事だから……。


 描き出した大魔方陣を良く見る……。 間違いはないね。 起動魔方陣を描きだして、練った魔力を徐々に入れる。 起動魔方陣が発光を始めると同時に、【浄化】魔法の呪文を詠唱し始めたの……。





      超、超、初心者仕様!!




 でもね、魔力量は大きいし、使う魔方陣も色々と凝ってるから、効果はデカいはずなんだよ……。 ただ……制御がね……。 一発勝負に掛けてみるか。





「ゆらゆらし、さざめく御霊、送り出す。 そは、混沌の海。 ゆらゆらし、黒き思いを残しし御霊、送り出す。 そは、帰るべき、混沌の海。 ゆらゆらし。 ゆらゆらし…… 【浄化】魔方陣……発動」





 起動魔方陣に魔力が満たされ、詠唱を鍵に、【浄化】大魔方陣が発動した。 薄ぼんやりとした緑の魔方陣が、白く輝きだし、磐座のある御部屋の中にその光を充満させていく。 光に触れた、死霊、縛霊、魂の欠片が、分解して、溶けだす。 


 ドンドンと、光は大きくなり、強くなり、壁にこびり付いた奴等を、浄化していくんだ…。ただね、やっぱ、きついんだよね。 制御(コントロール)がね‥‥。 流れ出す魔力が、荒ぶるんだ。 魔方陣がはじけ飛ばないように、適正な量の魔力を注ぎ込めるように……。 どうにも難しいね……。 魔方陣が揺らぐのよ…


 暴走と云う訳じゃ無いけど……ある程度は、容認してた。 というより、諦めてた。 最悪、左手は諦めてる。 そう、魔方陣を紡ぎ出して居る方の手。 そうでもしないと、ここの浄化かなんざ、無理なほど、汚染されてるもの……。 


 魔力が暴走を始めてるのが判る……。 魔方陣の歪みが大きくなり始めてた……。 冷静にそれを観察して、周りを確認して……。 あらかたの陰気が浄化されつくしてた。 でも、もう私の方も限界ね。


 フフフフ……。 やっぱ、まだ早かったんだね。 制御系の魔力回路の回復って、難しいんだ……。 牢石の手錠……あれ、強力なんだよ……。 ねぇ……。 無茶しちゃったんだ、私。 



 ゴメン、ミャー。 ほんと、ゴメン。







              パァァァン







 ほら、弾け飛んだ。 激痛が左手を襲う。 展開していた魔方陣も霧散する。 起動魔方陣も消失。 部屋の中が一気に暗くなったよ…… でも、狙ってた効果は出た。 周囲の壁は黒曜石の様に艶のある黒色。 磐座は、漆黒に濡れて、仄かに燐光を発している。 荒く息をしている私の目に写るその磐座の姿に、満足したの。 



 うん、コレだよ、コレ!! 



 神聖さを取り戻した、磐座。 【闇の精霊神様】の依代。 気が遠くなる様な激痛が有るんだけどね。 大きな音がしたから、サラーム大王妃陛下が飛び込んで来たの。





「ソフィア!!! 貴女、何を!!! ハッ!!」





 ズタボロになった左の肘から先を目にした大王妃殿下が、息を飲んだんだ。 たぶん、顔色も真っ青になってると思う。 そりゃ、限定的とはいえ、魔力暴走を起こしたんだものね。





「サラーム大王妃陛下……。 ご覧ください。 これが、本来の依代の姿です。 仕上げをしましょう」





 フラフラに成りながらも、磐座に向かいながら、言祝ぎを始める。 祝詞は石板にある。 一言一句間違えない様にね。 頑張るよ。





 《そは磐座に神留坐す、闇の精霊神の命以て、禊祓給ふ時に 生坐せる 祓戸の大精霊神等。諸々禍事罪穢を 祓へ給ひ 清め給ふと 申す事の由を、天津精霊神 地津精霊神 八百万精霊神等と共に 聞こし食せと 畏み畏みも奏上いたします》





 ボンヤリと燐光を発していた、磐座から、強い光が生まれ……人の形を取ったのが判った。 朦朧とし始めた意識の中で、精霊神の顕現を確認できたの。





 《サラームよ……。 わが、愛し子、サラームよ。 よくやった。 祈り確かに受け取った。 言祝ぎ、確かに受け取った》


 《闇の精霊神、アーデス様! 違います!! わたくしでは御座いません。 わたくしでは、陰気を払えません!! 全ては、此処にいる、ソフィアが!!! その身を投げうち、清浄なる磐座に戻してくれたお陰なのです!! 何卒、何卒、彼女に祝福を!!》





 絶叫の様に、大王妃殿下がそうおっしゃったの。 私を抱きかかえるようにしながらね。 初めて、闇の精霊神様が私に気が付いたみたい。 視線が私に合ったのよ。





 《娘……。 その気配は……様々な者達に愛されておるな。 ……ん? なんじゃそれは》





 私の胸に手を当てて来たんだよ。 珍しいね。 精霊様がこんなに、人を気にするなんて……。





 《娘、そなた、ソフィアと申すか》


 《はい、エルガンルース王国、レーベンシュタイン男爵が娘、ソフィアと申します》


 《そちの身体の中に、わが眷属が居るぞ? 何故か?》


 《……病に冒されております。 片側の肺に病が住み着きまして御座います》


 《それだけでは無いであろう?》


 《左肩に毒矢を受けました。 毒は体に残り、抑えつけては居りますが、快癒は難しいかと…… また、魔力を上手く制御出来ませぬ故、このような失態を……お許し下さい》


 《ふむ……。 そちの身体から我が眷属を抜く事は出来ぬか……。 そちの魔力を喰らって、妖魔に成らんとしておるの……》





 うえ? な、なんだと? 身体の中に妖魔が? で、でも……もう、左手は使い物にならないし……。 これから……どうしたら……。 流石に血の気が引いたよ……。 アワアワしている私に、闇の精霊様が続けて御言葉を下さったの。





 《本来ならば、捨て置くのだが……。 サラームが言うように、私を言祝いでくれたのは、他ならぬそちじゃからな……。 生きたいと願う心がそちの中に有るのが判るのだ。 そこでじゃ、一つ方法がある。 嫌であれば、拒否せよ。 しかし、他の方法では、そちの命は持たぬ》


 《……な、なんなりと……》


 《そちと、その妖魔を混ぜる。 媒介は私の祝福じゃな。 身体の不調は取れる、がしかし、人族には戻れぬ。 半妖となる。 よいか?》





 は、半妖? ……やらなきゃ死んじゃうの? ……まだ、あの人に逢ってないよ。 は、半妖かぁ……。 愛してくれるかなぁ……。 あの人……。 私が私らしくあればいいって、そう言ってくれたけど……。 半妖かぁ……。





 《あの……》


 《なんじゃ?》


 《ど、どの位の半妖に成るのでしょうか?》


 《……判らぬ。 そちの魔力量は大きく、純粋なのだ。 半々に成ればよいが、それも判らぬ。 生きたければ、そちの心がそう望むなら……。 私の祝福を授けよう》





 ……心が決まらない……。 けれど……、 ここで、死んじゃったら、あの人に逢えない。 探す事も出来ない。 拒絶されたくないけど……告白するチャンスも無くなる……。




            い、嫌だ。




          それだけは嫌だ!!






 《お、お願いします。 私は、まだ、道途中(なかば)……。 は、半妖に成ります……。生きたいのです……》


 《判った。 受け取るがよい、我が祝福を》





 闇の精霊様の発光するからだから、幾筋もの光の帯が私に向かって流れ出し、私を包み込んだの。 まるで、繭の様に……。 ゆりかごの様に……。 





 大王妃殿下の腕から離され……、





 その光の繭の中で……、 





 意識を失ったの。








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