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第89話 精霊神の御座所

 





 サラーム=ノイエ=ノルデン大王妃陛下。 大変見目麗しい、大人の女性なんだよ。 柳腰ってのかな? 細~~い腰でね。 その上、出る所出っ張ってるし。 それが、コートの上からでも判るのくらいの、ナイスバディ! 結い上げている銀髪だって、ほつれ一つ無いの。 



 滑る様に歩く妃陛下の後で、えっちら、おっちら ついて行くのは、なんか、見せ付けられるみたいで、ちょっと凹んだんだ。 そりゃ、私だって、【処女宮(ヴァルゴ宮)】で、いろんな ” お勉強 ” して来たんだけどね、なんか、土台が違うっていうか……。 我が国の王妃様である、アンネテーナ妃陛下の前じゃ、こんなに気後れした事無いんだけどなぁ……。


 やっぱり、身体が思うように動かないって……気後れするよね……。





「ソフィアさん、お身体の調子が悪いのね。 ……あの牢獄から、よくぞ生還されたわ。 本当に意思のお強い人ね。 貴女を傷つけてしまった事、後悔しているの」


「いえ、そんな……。 勿体のう御座います」


「でも……本当にごめんなさいね……。 状況をよく理解している、貴女だから……、騒がず、怒りもせず……。貴女以外なら、エルガンルース王国から、戦争を仕掛けられていても、おかしくは無かった。 ユキーラや、ダーが無理を言って、アンネテーナ妃陛下の秘蔵の次期王妃候補を連れ出して、挙句の果てに、儚くしてしまう所だった……。 今だって、御辛いのでしょ? サリュート殿下になんとお詫び申し上げてよいのやら……」





 前を歩む大王妃陛下……。 二人きりで、氷の回廊を歩いているからこそ、こんな明け透けにお話頂けるんだよね……。 それに、こんなに謝ってもらえるなんてね、あり得ないっしょ、普通。 事が事だっただけに、かなりお気になされているって感じだよね。


 でもさ、次期王妃候補って、どういう事? 


 私は、学園内でのダグラス王子の取巻き達である、次代の高位貴族の監視役の為に王妃候補として、上がったんだよ? 当然、次期王妃なんてものは、高位貴族の家系のお嬢様になるに決まってる…… なんでだ?





「サリュート殿下の書簡、ダーの報告、それに、ナイデン大公、賢者ミュリエ様からの私信……。 エルガンルース王国内だけでなく、大国と呼ばれる国々の重鎮達からの高い評価……。 知ってる? ソフィアの事になると、あの・・ダーが、顔色を変えるのよ。 エルガンルースの公邸に詰めていた騎士達からも好意を得ている……。 ユキーラも貴女を朋と呼んで、大切にしている……。 他国の事情もあるから、皆、口には出さないけれど、貴女こそが、次代のエルガンルース王妃に相応しい……そう思っているわ」


「そんなぁ……。 買被りで御座いますわ。 一心に御役目を果たす為に、努力を重ねておりましただけで……」


「……ダーの言う通りね。 貴女なら、そう言うと思ってた。 …………さぁ、着きましたよ」





 回廊が終わるその場所。 大きく開いた氷の扉が其処にあった。 その向こう側には、大きなホールがあったの。 大王妃陛下に続いて、そのホールの中に入ったのよ。 な~~~にも無い、伽藍洞がらんどうのホール。 魔法灯の温かみのある光で満たされた其処は、氷の壁面は何処までも滑らかで、天上は遥かに高く、氷の床に大きな魔方陣が刻み込まれていたのよ。





「先ずは、水の精霊神様と氷の精霊神様の依代に……磐座なのです。 湖底に鎮座している、その場所に降りますからね」





 サラーム大王妃陛下は、そう説明する間も、歩みを止めず、床に刻み込まれている、大魔方陣の上に進まれたの。 勿論私もご一緒してるわよ。 中央部の何も刻まれていない場所まできて、初めて大王妃陛下の歩みは止まったわ。


 私がその場所に立ち止まるのを確認されてから、大王妃陛下は一つ頷かれると、その大魔方陣を起動された。 ボンヤリと桃色に光る魔力が走る。 内側から外側に大王妃陛下の魔力が供給されて、起動……。 足元のしっかりした床が、私達の乗っている場所以外、いきなり消失したの。 


 あとは落下? しているのよ……。 ちょっと、声上げそうになったよ。 そうね、感じとしては、フリーホール? 床面だけあるエレベーター? かなりのスピードで、落っこちんの……。 怖え~~~~~!!! チラって、大王妃陛下を見てみると……、 なんか、笑ってらっしゃるの。





「初めてこれで、精霊神の元に伺候する者で、貴女の様に堂々としている人、今まで見なくてよ? 皆、一様に大声で叫んで、恐怖に竦み上がるの……。 流石ね」


「畏れ入ります……。 わたくしも、怖いのですが……」


「そうは、見えないわ。 エスタブレッドでさえ、震えていたのよ? ホホホホ」





 いや いや いや、十分、恐怖を感じてますって!!


 暫く落っこちたあと、滑らかに止まる。 これで、湖底に到着かな? さっき入って来たホールと同じ大きさの深い穴の底、周囲は氷の壁!壁!壁!! 魔法灯が連なるその穴の底から見上げると、高かった天井が更に更に高い所に有るのが、遠くに見えた。


 衣擦れの音がしたの。 大王妃陛下が歩き出したみたいね。 脚を踏みしめて、その後に続くの。 ゆっくりと、しっかりと! 脚、震えてるわよ、まったく!!





「此処が聖なる依代である、二大精霊神様の依代である、磐座。 祈りを……」





 目の前に、照らし出された、巨大な岩があったの。 透き通るような瑠璃色の巨大な宝玉。 精霊のおわします、磐座。 水と氷の精霊神様の御座所。 淡く燐光を発しているの。 神聖な空気が充満して、自然と頭が下がるのよ。


 流石にね、言葉を選ばないとね……。 母国語である、エルガンルースの言葉。 此方の現地の言葉であるノルデン大王国の言葉では、祈りが届かないかも知れないもの。 だから、人族の国とその他種族の国が何らかの契約を結ぶ、全種族が統一して使う言葉の、「神代言語かみよことば」を使う事にしたのよ。


 祈りは、言祝ぎ……。 まぁ、そこは、磐座に刻み付けられている祝詞があるから、それを読むのよね。 真心を込めて、感謝の祈りを、捧げることにしたんだよ。






 《そは磐座に神留坐す、水の精霊神、氷の精霊神の命以て、禊祓給ふ時に 生坐せる 祓戸の大精霊神等。諸々禍事罪穢を 祓へ給ひ 清め給ふと 申す事の由を、天津精霊神 地津精霊神 八百万精霊神等と共に 聞こし食せと 畏み畏みも奏上いたします》






 響き渡る私の声。 磐座の仄かな燐光が、カッと強くなって、私と大王妃陛下の周りを飛び回り始める。 よしよし、お喜びの様ですね。 サラーム大王妃陛下も隣で同じように祈りを捧げて居られたけど、なんかめちゃ驚いておられたよ……。 なんでだ?





「……神代言語かみよことば…… ソフィアさんは、紛れもなく「証人官」……で、あらせられたのね。 紛れもなく、正規の……「証人官」でございましたのね……」





 サラーム大王妃陛下の、口調が変わったのよね……  こんな小娘が、「証人官」ってのが、やっぱり信じられなかったんだろうね。 普通は結構お年を召した方々だし、それでも証人官補とか、準証人官とかだし……。 まぁ、信じられないよね……普通はね……。 でも、なんで、その事、大王妃陛下知ってんだろう?


 ……そうか……。 「証人官」って、国の役職じゃ無いんだった……。 各国に極秘裏に登録されているから、その筋の人だったら、当代の証人官が誰かくらいは、知ってる筈だしね。 下手こきゃ、各国の国王様達と同等の扱いに成る役職だもんね……。 それに、私が証人官だって事は、サリュート殿下が、内々にその筋の人達に漏らしてる可能性だってあるものね……。 



 だからかぁ……。 



 おかしいと思ってたんだよ。 いくらユキーラ姫が連れて来たっていっても、私は高々、男爵家の娘。 そんな小娘が、いくら王子の婚約者候補って言ったって、大王陛下やら、大王妃陛下とお逢いできるはずないモノ…… そんで、そんな証人官が、王女殿下の暗殺容疑で、牢屋で死にかけていたなんて、他国に知れれば、それこそ、《ノルデン大王国》の根幹が揺らぐもんね……。


 まぁ、今更、騒ぎ立てても、誰の得にもならないし、私も別に気にしてないし……。 それに、ノルデン大王国で破格の扱いを受けてるしね……。 そっか……。 サリュート殿下が、前に言ってたなぁ……。 ” 君は「力」を手に入れた ” ってね。 この事なのかなぁ……。


 そっか……。 証人官かぁ……。 と言う事は……つまり……。 証人官の「お仕事」が有るって事なんだよね……。 





「ソフィア証人官様。 ノルデン大王国の大協約管理者、サラーム=ノイエ=ノルデン大王妃として、貴女に、願いが有ります」



 真剣で、真摯な視線を私に向け、力のこもった声で、そう仰ったの。 承りましょう!



「何なりと…… 大王妃陛下」


「……あんな仕打ちをした、《ノルデン大王国》が、貴女にお願い出来する事自体、間違っているとは、判っております。 が、危急の事……。 どうしても、正規の《証人官》様の御力添えが必要な事なのです」



 大変、言い難いようですよね、大王妃陛下様。 とっても困ってらっしゃるのは、何となく判ってた。 辛そうだったものね。 表に出てこないのも、その為ですよね。 懸命に懸命に、精霊様をお祭りし、祈り、全てを捧げていらっしゃったのでしょ? 



「はい…… 「闇の精霊神」様の関連事項に御座いますね」


「えっ!」


「大王妃陛下の周囲から漏れだす陰気……。 お疲れの御様子。 そして、なにより、わたくしが本当に「証人官」としての能力を持っているか、確認の為に此方へ わたくしだけ・・・・・・を伴い、お運びに成ったという事実。 繋ぎ合わせれば、必然かと?」


「……洞察、有難く。 ソフィア証人官様、此方です。 百聞は一見に如かずと言います。 我らが国の由々しき問題……。 我等の力だけでは、どうにもならぬ、憔悴の原因……。 闇の精霊神様の、磐座へ、お越しください」


「はい」



 能面みたいに、顔の表情が抜け落ちちゃったよ。 取り繕う必要も、必死に表情を繕う必要も無いよね。 素だよ素! 




 だって、力を抜いて、自然体で居なきゃ……、




 何ものにも囚われず、




 何者にも強制されず、




 私、ソフィア自身として、




 そこに向かわないと……、







 きっと、禍事まがつが、






 溢れだす事に成るって……、









 そんな、予感みらいが見えたから……。










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