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第86話 ノルデン大王国での、使命

 



 翌日、準備を完了したのは、朝食後、直ぐだったんだ。 あれから、ミャーと一緒にドレスとか、小物とかを選んで、とっ散らかったベッドの上を、何とか片付けて、寝た。


 早朝、暗いうちから、湯浴みをして、ミャーと一緒に、ドレスを着こんで、髪を結い上げて貰ったの。 ミャーは自分でしてた。 





「この位は、問題ないです。 お嬢様の事が判らない間、ミャーはユキーラ姫の側について居ましたから」





 そう言って、寂し気に微笑んでた。 緘口令が敷かれていたからね。 だれも、ミャーに教えなかったんだもの、仕方ないよ。 ユキーラ姫にしても、記憶の混濁とか、逸失とかあったからね。 それにしても、そのドレス、素敵ね。 ミャーに良く似合ってるよ。





「畏れ多い事に、ユキーラ姫ご自身から、お譲り頂いた物なんです。 なんでも、お輿入れ前にお召しになっていたモノだったそうです」





 そうだよね、やっぱりそれ、姫装束ってやつよね。 綺麗な筈だよね。 マフも標準装備だしね。 毛皮をたっぷり使った、暖かそうなドレスだよね。 ……本来は、ミャーが着るべきドレスだもんね。 ねぇ、ミャー、それには、暗器、隠して無いよね?





「ミャーには、……ちょっと、心もとないです」


「可愛いよ、ミャー。 お姫様みたいで。 ……ホントに、お姫様だしね……」


「お嬢様!!!!」


「いや、その通りなんだよ。 その姿で、《ナイデン王国》に入国したら、まず間違いなく、王家に拉致られるよ。 ナイデン大公様も、そう思われるよ、きっと」


「ミャーに…… 私に出てけって云うの? もう、一緒に居られないって、云うの? じゃぁ、こんなの着ない。 ソフィアが、そんな事言うなら、侍女服の方が良い!!!  着替える!!」


「それは、出来ないわよ。 ユキーラ姫様の思し召しでもあるんだから」





 きっと、私の目は、寂しそうな光が宿ってたと思うんだ。 昨日の夜、二人でキャッキャ言いながら、今日着て行く服を用意してた時にね、ミャーのドレス見て、思ったんだ。 レーベンシュタインのお家に居る限り、こんな素敵なドレスを彼女に用意して上げる事は出来ない。


 ドレスを着て、髪を纏めているミャーを見てしまった私。 遅々として回復が進まない私。 私が側に居て欲しいって言っちゃったけど、本当にいいのか、それがミャーの為に成るのか。 そんな事をこの頃ずっと悩んでいたんだよ。





 私と一緒にこれからもずっといてくれると言ってくれたミャー。


 ずっと、姉妹として側に居てくれるって言ってくれたミャ―。


 私が要らないって、言うまで、絶対に離れないって言ってくれたミャー。


 ドレスを着こむ時に、そっと、心配そうに背中と肩の傷を撫でてくれたミャー。





 ……本当に、本当に大切な姉妹。 






 だからこそ…… その素敵なドレスに身を包んだ貴女を見ると、私の望みがいけない事だと、思い知らされる。 貴女の幸せは、私の側には……きっと無い。 修羅の道って云う訳では無いけど、これかも、そう言う事が度々あるような気がする。 それに、巻き込む事になるのは、私の望みじゃない。





 姉妹であるがゆえに、貴女には、幸せになって欲しい。





 グルグルと、そんな思いが、頭の中を巡って、相反する想いに千々に心が裂けて行くのよ……。 だから、私も自分を見極めたいのよ。 《ノルデン大王国》に居る間にね。 私にとって、ミャーの存在がどれ程大きいモノか、それは、彼女がいる事で、どれだけ心の平安が保たれているかって事で、理解している。 





 そうで無くては、あの土牢・・・・の中で狂ってた・・・・。 確実・・にね。 





 ミャーが居てくれる。 きっと、何かしらの手は打ってくれる。 いずれは、誤解であると証明してくれる。 それが……、 それだけが……、 あの孤児院で彼女と共に育った、私が縋る、唯一の希望……。 大王様が気高い心って、言ってたのって……。 結局その事なんだよ。 


 ノルデン大公から、渡された、古い新聞の切り抜き。 おかあさんが、教えてくれた、ミャーの出自。 秘匿されるべき王女殿下。 生きていてはいけない王女殿下。 ミャーの為に何が一番になるのかを……、 見極めたいの。





 そこには、当然……、一つの選択肢として……ミャーを……、





             彼女を……、





           《ナイデン王国》に、





           送り出す事もあるんだよ……。






            なんか、泣けて来た……。





 目を真っ赤にして、浮かび上がって来る涙を必死に押し込めて、ミャーを見てる。 今にも侍女服に着替えに行きそうな、ミャーの手を取って、彼女の顔をジッと見詰めているの。





「ソフィア……また、一人で悩んでる。 ダメだよ。 一緒に考えて、一緒に悩もうよ……。 ずっと、そうしてきたんだし。 これからも、そうしたいよ、ミャーは。 いろいろ残念なソフィア。 私だって、色々残念だし……。 お互いの欠ける所を、埋め合ってたじゃん。 ソフィアの悪い所は、一人で全部しょい込む所。 姉妹って呼んでくれたじゃないミャーの事。 だから、お願いだよ、一緒に悩ましておくれよ」


「ミャー……、そうね、貴女は、大切な私の姉妹……」


「ソフィアがそう言ってくれる限り、私はソフィアの側を離れない。 放したくない。 いい? それがミャーの望み。 唯一の望みなんだよ。 なにも要らない。 ソフィアの側に居られればね」


「……ミャー……」






 彼女の言葉が、私を縛る。 心地よい私の居場所に、私を押し止める……。 彼女の手を握る力が強くなるの。 ほんとに、もう、この子は!!! 私みたいなのの、何処が良いのよ……。






 コンコンコン





 ノックの音がして、先触れがユキーラ姫の到着を知らせて来た。 彼女もまた、待ちきれなかったようね。 ミャーから、手を放す前に、不覚にも、一筋涙が零れ落ちたの……。 見られちゃったかな、私の大好きな、姉妹に。





 ^^^^^^^




 法衣の男の人たちが、沢山 “ その部屋 ” には詰めていた。 まぁ、部屋っていっても、広い広い、図書館みたいな部屋だったんだ。 なにせ、《ノルデン大王国》の心臓部、法務部立法部専用のお部屋だったもの。


 ユキーラ姫様が、朝から護衛の方々を引き連れて、ミャーと私が滞在させてもらってるお部屋に迎えに来たのよ。 侍従長様も同行されてた。 護衛の騎士さんの何人かは、見覚えもあったね。 かなり、いろいろと配慮してもらってたみたい。


 法務院、立法部にお邪魔させてもらってたんだけど、普通、この場所は見学させられないらしいの。 ユキーラ姫がお越しになるってことで、法衣の方々、なんかめちゃめちゃ緊張されているね。 エルネスト法務長官がご挨拶されて、それから、仕事に戻るようにと仰ったんだけど、まぁ、むりだわな。


 ざわざわした、浮き足立った雰囲気が伝わってきた。 ユキーラ姫様は、ミャーに声を掛けて、ちょっと談話が出来るような場所へと腰を落ち着けられて、いろんなご説明を受けられていたんだ。 そっちが本命だよね。 私は、自由に動けるように、ご配慮して頂いたんだ。 ミャーが恨めしそうに、私を見てきたよ。





 そんでもさ、ミャーの姿は、本当に綺麗でさ、見た感じ《ナイデン王国》の王家の人っていっても、ぜんぜん違和感無いもの。 着てる物は、ユキーラ姫さまのお下がりだから、完全王族お姫様仕様。 法務の法衣貴族さんたち完全にそう思い込んでるよね。





 わたしは、あっちこっちでお仕事されている、実務バリバリこなされている方々の側にいって、お仕事をみさせてもらったの。 ちょっと離れて、エルネスト法務長官様が居られたのね。 あれは……、監視かな? 不味い物を見られないようにかな? 


 見知った顔じゃない私が、バリバリお仕事している人の近くに居ても、その人たちは集中してるから、お邪魔にならないように、静かに見てたの。 まぁ、手元をね。 広げてある資料とか、報告書から見ると、密輸事案関連の法整備をされているとわかったわ。


 《ノルデン大王国》は、その厳しい生活環境から、人族だけでなく、他人種の人々も渾然と生活されていたから、その辺のこともきちんと考慮されて、禁輸物品を選定されているそうなのよ。 でね、テーブルの端っこにあった、禁輸品のリストに目が奪われたの。


 いや、別に他の国のことだから、いいんだけどさ、他の部署にも図ってこれ作られたと思うんだけどさぁ……まずいよ、コレ。


 あのね、禁輸リストの一部にさ、薬品類と薬草類があったんだよ。 その中の物にさ、森の民が常用している薬草が紛れ込んでたんだ。 系統というか属というか、その類の薬草全部駄目ってことだろ? あの薬草が禁止薬品になったら、森の民(エルフ族)困るよ? 


 人族とか、獣人族には、強い麻薬効果があるんだけど、ある特定の薬草なら、そうはならない。 でも、これじゃ、その薬草も禁輸対象になっちゃうよ。 で、その薬草が無ければ、森の民(エルフ族)の人たちが普通にする、瞑想の時間がとっても荒れる。 荒れた結果、精神に変調をきたすんだよ。


 まずいよね……うん、とってもまずい。





「あの、このリストは、決定済みのものでしょうか?」





 集中している法務官の男の人に、尋ねてみたの。 なんかとっても胡散臭げ。 このなり(ドレス姿)だし、つい最近まで、国事犯容疑者だったし……ね。 どうしようかなぁって、思ってたら、エルネスト法務長官様がスルッて来られてね。





「ご質問に答えよ」





 ってね……。  なんか、大げさな事になってしまった。 その男の人、口出ししたのが、法務長官ってわかって、びっくりしたらしいね。 あわてて、そのリストを確認してた。





「ええ、薬事方の承認印もついていますし、この資料は正規のものですから、このリストは、間違いなく禁輸品のリストです」


「左様にございますか……。 麻薬としてですよね」


「はい。 強い習慣性と、精神に作用するために、販売、輸入の禁止措置をとる事になっております」


「全種族に対しての発令ですわよね」


「ええ、そうですが……それが、なにか?」


「……「森の民(エルフ族)」の方々への配慮は?」


「「森の民(エルフ族)」……で、ございますか? えっと……」





 ガサガサ何か探されていたんだけど、別項条項とか特別通達とかね。 お部屋に持ってきた貰ってた、資料の中には、何点かそう言った感じのものはあったんだけど、密輸に関しての記載は無かったような気がする。





「《ノルデン大王国》不磨の大典には、ノルデンの大地に住まう者達への十分な配慮をうたっておられます。 また、大協約では、各種族特有の事柄については、国法よりも優遇する事になっております。 ちらりと、お手元の法典草案を見て思ったのですが、その草案では、「森の民(エルフ族)」への配慮が欠けております」


「と、言うと?」


「はい、この系統の薬草には、強い麻薬成分が含まれる事が知られています。 人族はもとより、大多数の種族にとって、大変危険な物である事には、相違ございません。 ただし、エルフ族の方々にとっては瞑想に使用する、無くては成らない薬草です」


「ええ…。 それでも……国内に入れるわけには行かない物です」


「ご懸念は、理解しております。 際限なく輸入されては、国の下層から腐りますからね。 しかし、その薬草が無ければ、ノルデン国内のエルフの民の精神が持ちませんよ? あの方々が、精神崩壊から、その豊富な魔力を爆発させては、治安維持すら困難になります。何らかの施設を作り、彼らの瞑想をノルデン大王国で管理するか、麻薬成分の弱いものを許可制にし販売を管理するかしたほうが、現実的です。 それに……」


「そ、それに?」


「一概に全てを禁止してしまうと、エルフ族がこの大地には棲めなくなります。 大協約違反です」





 一気にそこまで言ってみた。 法衣貴族の法務官は唸るんだよ。 手元の草案をじっくり眺めてから、顔を法務長官様に向けられてね、お尋ねになるのよ。





「閣下……今しばらくお時間を頂きたく。 この草案では、掬い切れませぬ」


「やっと理解したか。 そちの提出した、初案と、修正案を数回、何故お前に返したかを。 ……理由がそれだ」




 年若い、法衣の人が、項垂れだ後、キッと法務大官様を睨みつけるように、見ながら言ったんだ。 こうね……。




「……この方は……何者なのです? わずか数瞬で、不備の本質を見抜かれるとは……」


「ソフィア殿は、エルガンルース王国の王妃候補様だ。 聞いたことがあるであろう、切れ者のサリュート殿下の秘蔵の姫様でもある。 われ等法務官があらぬ疑いを掛け、国事犯牢で、危うく命を落とされかけた人でもある。 その中において、気高さと、矜持をわれわれに見せ付けられた方でもある。 ノルデンの不磨の大典を学び、血肉に刻み込まれても居られる。 真摯な畏敬の念をもって、対応するように」





 おい、なんだよ、それ……。 恥ずかしいじゃないか。 言われた事の半分は間違いないけどさぁ。 目を丸くした、法衣の男の人、そっから、馬鹿丁寧な対応に変わったけど、草案を見せてもらえたよ。 色々と問題あるよね、コレ。 自分の知識がどの程度のものかもわからんけど、意見の交換ということで、色々と喋ったよ。


 そのうちさ、その辺に居た人たちも、巻き込んでの、考察と仮組みになっちゃたんだよ。 凄い集中力でさ、大量の案件が、最初に居たテーブルの周りに集まってきたんだ。 誰かが椅子もって来てくれたのは、とっても有難かった。 立ってられなくなりそうだったもの。


 ユキーラ姫とミャーの姿が途中で消えたんだけど、私は留め置かれた。と、いうより、放してもらえなんだよ。 なんか絞りとられてる気がする。 そんで、その方々、いい人なのはわかったけど、食べることも、飲むことも忘れて、議論をつくそうとするのよ……。


 嫌いじゃないよ。 その姿勢。 でも、こっちはまだ病み上がり。 ちょっとは、配慮してほしいなぁ……。 してよ……。 頼むよ……。





^^^^^^^





 結局、放してもらえなくてね……。 明日も来いよ! ってな感じに言われたよ。 最後の方は法務長官様も含めての、不磨の大典の解釈方法とかまで踏み込んでたんだよ。 あのままだったら、深夜まで留め置かれたと思うよ。


 ユキーラ姫が、晩餐に呼んでくれて、本当に良かったよ。 ミャーが迎えに来てくれて、顔色青くなってる私を見て、また、法衣の男の人達に威嚇(カルカル)音出してたんだよ。 とっても、疲れたよ、ミャー。 頭とっても使ったよ。 晩餐、パス……。 出来ないよねぇ。 


 ミャーと一緒に、ユキーラ姫との晩餐会に臨んだの。 エルネスト法務長官様が、やっぱり同席されてね。 色々と、褒めて下さったの。 それで、一つ、ご依頼があったのよ。




「ユキーラ姫様。 このエルネストが願い、お聞きいただけませんか?」


「卿が其処まで仰る事など、今まで御座いませんでしたわね。 何で御座いましょうか?」


「ソフィア殿の事に御座います。 姫がこの国の文物をお見せすると、そう言われて居られたのは、重々存じておりますが、時間を我等法務院に作っては、貰えないでしょうか? 本日は、実に妙味深く、有意義な時間で、御座いました。 出来得れば、若き法務官達との自由な議論をさせてやりたい。 ” 法 ”とは何かを、考えるには、他国の視点も必要と、そう考えます。 何卒」




 

 あのね……。 わたし、そんな大した者じゃないよ? 単に思いついた事とか、色々と矛盾の多い、大協約との整合性とかの問題とかをね……、 聴いてみたかっただけなんだよ。 不磨の法典とかさ、スンゴク大事な憲法みたいなモノまで、存在するこの国の、意見を聞きたかっただけじゃん……、





     そ、そんなに、真剣に言われても…… 。 






          困るよ……。








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