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第83話 謁見の間にて

 







【謁見の間】にはノルデン大王国の重鎮の方が、大勢、詰め込まれているらしい。






 そう、ミャーが言ってた。 バタバタと暖房で行き届いた廊下を走り回る、侍従さんとか、側仕えの人達の足音が、控えの間である、この小部屋にも聞こえて来るんだよ。 


 招待状に、「卑賎なる身では御座いますが、有難くご招待をお受け致します」って、お返事書いたら、あっという間にセッティングされたよ……。 待ちに待ったって感じだよ……。 詰められるのかなぁ……。 まだ、容疑者のままなのかなぁ……。 ミャーの話を聴く限り、ちゃんと遇しようとしてるのは、判るんだけどねぇ……。 面倒だから、殺しちゃおうとか……無いよね……。





「お嬢様は、堂々としてください。 なにか言われる筋合いは全く御座いません」


「そうは言っても……。 一応、礼典則は守るよ……。 大王陛下の御前なんだし」


「お嬢様は、招かれているんです。 多少の事は、大目に見られます。 非は向こう側にあります」


「ミャー、意見とかは、後回し。 この国の礼典則に則って、付け込まれないようにするのが肝心よ。 それに、なんだか、貴女の話を聴いていると、ノルデン大王国側が相当、罪悪感持ってるみたいだし。 下手に動けないわよ。 ね。 冷静に、冷静に」





 ミャーの顔が歪む。 今にも泣き出しそう……。 大丈夫だって。 ……私も、ミャーになんか有れば、絶対同じようになるって、判ってる。 だから、有難いの。 同じように想っていてくれているって事に、心が温かくなるの。 




 コンコン。




 ノックの音がした。 出番かな?





「……入室の許可を。 ソフィア殿……」





 囁くような、そんな声だったよ。 ダーストラ様の声。 久々に聞いた。 ミャーの表情が強張るのがわかる。 大丈夫だって。 少なくとも、ダーストラ様は、私が敵じゃ無いって判っている筈だしね。





「どうぞ」





 扉向こうの衛士さんが扉を開けたんでしょうね。 音もなく扉が開いて、長身の、騎士の正装に身を包んだダーストラ様が、入ってこられた。


 椅子に腰かけて、真っ直ぐに彼を見詰める私。 そのちょっと後ろで、油断なく身を構えるミャー。 で、私の表情は氷みたいに動かない。 いや、動かせないんだよね……これが。





「……お怒りごもっともです。 このダーストラ……なんとお詫びを申し上げて良いか……」





 私の十歩手前で、片膝を付き、胸に手を当てて、深々と頭を下げている、ノルデン大王国の宿将様…… いや、それは、やり過ぎでしょ?  それって、騎士の礼で……忠誠を捧げるって……そう言う意味の礼でしょ?





「ダーストラ様、御顔をお上げください。 わたくしは、わたくしの為すべき事、ユキーラ姫の無事なご帰国を御守りしただけです。 その後の事は、情報の行き違い……。 誰も悪くありません。 謝罪は、御不要に御座います。 それで……襲撃の真の主導者は判明いたしましたか?」





 声もね、あれから、ちょっと低くなったの。 喉が枯れちゃってたからね。 そんな私の質問を、大きな身体を縮こませて、ダーストラ様は聞いて下さったのよ。





「詳細に……。 エルガンルース王国の、サリュート殿下も協力してくださいました。 尻尾は掴みました」


「ようございました。 ……炙り出しも出来たと云う訳で御座いますね」


「その通りに……。 貴女が居なければ……」


「ダートラス様のみであれば、もっと上手く事を、運べたことで御座いましょう。 足手まといになり、申し訳ございませんでした」





 私の言葉に、絶句してる……。 ミャー、睨みつけるのやめなさいよ。 ダーストラ様と一緒に入って来た騎士様も、同じように騎士の礼を取ってらっしゃるんだけど、どっかで見た様な……。 あぁ、騎士エラルゴンさんだ……。 カッコいいね。





「騎士エラルゴン様に置かれましても、ご健勝な御様子。 ソフィア嬉しく思います」





 なんでか、一層、頭を下げられたのよね……。 普通に良かったねって言っただけなのに。





「ソフィア様に置かれましては、ユキーラ姫様の無事の御帰還へのご尽力を下さりました上、配下の者達の命を救って頂きました。 わたくしの出来る限りの事をすべく、御側に……」





 何を言ってるんだ? エラルゴンさんって、公館でも指揮官クラスの騎士様でしょ? エルガンスール王国じゃぁ、近衛騎士に相当するほどの、高位の騎士様でしょ? 高々、男爵家の娘の護衛に側に居る? 有り得んでしょ?





「勿体なく。 貴方の御力は、ノルデン大王国の大切な方々を護る御力。 わたくしごときの従騎士に成られるなど、もってのほか。 御考え直し下さいませ」





 表情が固定してるから、冷たく響くよね……。 それに、声も……。 ニッコニコで有れば、伝わるのに……。 あからさまに、ガッカリされてるよ……。 そんで、さっきから、なんで、頭下げっぱなしなのよ! もう!! 手サインで、ミャーにも口添えお願いしたんだ。 





「ソフィアお嬢様は、気に為されては居りません。 御顔をお上げ下さい」





 なにか、勘違いがあったのか? ミャーの 冷た~~~~い声。 いや、その言い方は無いんじゃない? まるで、” 何もかも、許さないよ ” って取られちゃうよ? ほら……、 顔を上げられたお二人の表情ったら……捨てられた子犬みたいになってんじゃん……。





「ミャー……。 仕方なかった事です。 だれも、悪くありません。 法は法。 規則は規則。 順守されたまでです」





 きちんと、誤解は解こう。 ここは……、笑えばいいんだよね。 そんで、一生懸命笑おうとしたんだぞ? 努力したんだぞ? それでも、左半分の顔は、笑顔になれなかった。





「 ! はい……お嬢様……」





 ハッとした顔で、ミャーが私を見た。 でも、遅かったみたい。 なんか、項垂れて、お二人は退出された。 ど、ど、どうしよう!!  変な誤解、したままじゃ無いよね! マジ、困るよ!! 二人きりに成った、小部屋でミャーが、申し訳なさそうに、心配そうに、私の顔を見るの……。 隠してたけど……、 やっぱりわかるよね。 





「……ソフィア……。 顔の左側……」


「黙っててゴメン……。 うん、あんまりよく動かないの。 段々と、悪くなるのよ……」


「肩の矢傷の毒……抜けきらなかったんだ……。 麻痺毒……廻って来てるんだ 」


「……戦ってるから。 毒に対抗できるように…… 時間が、掛り過ぎちゃって……。 解毒ポーションも効かないんだよ……。 だけど、打ち勝つよ、勝って見せるから。 大丈夫だから」


「ううううううう、ソフィア……」





 泣くなよ。 大丈夫だから。 さてと、もう直ぐお呼び出しが来るよ。 手を貸して。 まだ、長丁場は辛いから。 歩くのもちょっと大変だから。 だから、ミャー、貴女の力を貸してね。





 ^^^^^^





 謁見の間に続く長い廊下を、侍従さんに連れられて歩くの。 ゆっくりと、えっちらおっちら歩くの。 出来るだけ自分の脚でね。 まぁ、プライドっちゃぁ、プライドなんだけどね。 襲撃後、満足に治癒出来ないから、あっちこっちが痛んだまま、牢屋にぶち込まれたんだから、許してよね。


 侍従さん、気遣わしげに、私達の歩みに合わせてくれるの。 有難いよねぇ。 背筋を出来るだけピンって伸ばして、一歩一歩確かめるように、歩くのよ。 やっとこ着いた、謁見の間に続く扉の前に着いたよ。 めっちゃ体格のいい衛兵さんが扉の両側に居るの。


 本来なら、大王陛下は私達が入室してからお入りに成る筈なんだけど、今日は先に入られているって、侍従さんが教えて下さったの。 へぇ……、そうなんだ。





「エルガンルース王国、レーベンシュタイン男爵が御息女、ソフィア=レーベンシュタイン様、御到着に成られました」





 先触れを侍従様が言上された。 衛兵さんが、サッと扉を開く。 うわぁ……。 エルガンルースの、【金牛宮(トーラス宮)】より何倍も豪華で、大きい……。 文武百官が揃ってるんだよ……最奥の玉座に エスタブレッド大王陛下がお座りに成られているね。




 すぅって、息を吸う。 




 さて、謁見だ。 何を言われるのか、何をされるのか……、 知ったこっちゃないね。 此方はこちらの誠意を伝えるだけ。


 ノルデン大王国では、男爵家のそれも、爵位を持たない娘が、大王陛下の足下まで伺候するのは、禁忌。 同室の場合は、出入り口から十歩での礼が礼典則。 他国の者でも変わりない。 だから、その礼典則通りに致しましょうか!


 扉より、十歩入った処で、片膝を付いて胸に右手を添えて、頭を思いっきり下げて……、 よし、完璧!





「お呼びにより、エルガンルース王国、ブロイ=ホップ=レーベンシュタイン男爵が養女、ソフィア=レーベンシュタイン 御前に参じました。 お見知りおきを」







 ^^^^^^^^






 めっちゃ遠くの玉座から、御声が掛かった。 謁見の間には、大勢いる筈なのに、シンと静まり返っているの。 息を飲んで、見詰めているって感じ? ノルデン大王国の礼典則通りの跪拝してるもんね。 突っ込めないよね。 特に法務官とか、礼典官とかは。 この雰囲気は……、多分、容疑者にしてゴメンねの方だ。 


 そんな気がする。 でも、大王さまは…… 王族は、臣下の前で、頭を下げる事は出来ない。 と言う事は……、別の言い回しに成るよね。 うんそうだ。 肯定したら、それでいいだけだ。 





「大儀であった! そちの身の潔白は晴らされた。 ノルデン大王国での滞在を許す」





 ほらね。 この場合の滞在を許すってのは、大王様が出来る精一杯の謝罪の言葉だ。 判ってるよ。 これでも、宮廷言葉はしっかりと勉強してるからね。 私の返事は、一つだけだよ。





「有り難き幸せに、御座います」





 コレね。 儀式めいた遣り取りだけど、これで終わり。 言ってみたら、”ゴメンね ” と、”気にしてないよ ” って事だけ。 はてさて、面倒な事だこと。 下がれるのかな? ちょっと疲れたよ。 まだ、身体の自由が効かないから、此処まで歩くのだって、億劫なんだよ。





「……なにか、言う事は無いのか?」





 えっ? なんで、まだお言葉が続くの? さっきのが精一杯でしょ? えっ、えっ? でも、御声が掛かったから、どうにか返事しなきゃ…… えっと、えっと……? 





「御座いません。 滞在の御許可を頂けて、ソフィア=レーベンシュタインは、有難く思います」





 こ、これでいいよね。 間違いないよね。 一介の男爵令嬢に圧迫面接かけんなよ……。 マジモノで足が震えるよ。 





「ふむ……。 あい判った」




 遠い玉座だから、分りづらかったんだけど、なんかしたよ、大王様。 手サインだけど、あれ、何だったけ? 部屋の準備だっけ? そんな感じだよね。





「皆の者、ご苦労であった」





 そう言うと、大王陛下は、玉座を立たれて、奥向きに歩いて行かれた。 緊張したよ。 跪拝の礼を解いて、立ち上がる。 皆さん? なんで、私の方向いてるの? なにか、言いたげだけど、どうしちゃったの?





「下がりましょう、お嬢様」


「はい」





 ミャーに手を引かれて、廊下に出たんだ。 十歩だけだから、サッサと退散できたよ。 最末席だからね。 もの言いたげな、大人達は、バッサリ斬り落としたよ。 でね、廊下に出たとたんに、侍従さんから、耳打ちされた。





「ソフィア様、此方に……。 ユキーラ姫様からのお願いです」


「……判りました」





 とはいったものの……。 疲れてんだよね……。


 早めに終わんないかな……。


 今度は、何処に連れてかれんのかな……。



 ミャー……、 



 疲れたよ……。





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