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記憶の彼方から ” あの人に逢うために ”  作者: 龍槍 椀
ビューネルト王立学園 三年生
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第78話 逃避行の準備、ソフィアの思考

 



 王宮でのお話は、それで終わり。 即時発行の命令書みたいな、これからの行動表を渡されたよ。 お家に帰らずに、ノルデン大王国公館に向かう事になってるのよ。 全ては、事後承諾だったみたいね。


 御父様が、お家を出る時に、神妙な顔してたから、何だろうなぁ…。って思ってたんだよ。 暫く会えないって、判ってらしたんだ。 まったく、そう言う事はちゃんと伝えて欲しいよ。 まぁ、ここんところは、ミャーの事で、一杯一杯だったけどさっ!





 ……ごめんね、御父様。 不出来な娘で……。





 馬車はノルデン大王国公館に一路走り出したのよ。 【処女宮(ヴァルゴ宮)】の玄関に、ミネーネ侍従長がお見送りに来てくれた。





「ソフィア様の無事な御帰還、この処女宮の皆、お待ち申し上げております。 くれぐれも、御身を大切に」


「有難うございます。 ミネーネ様。 侍従の重き責務を十全と果たす貴方の姿に、常々頭の下がる思いで御座いました。 今後とも、王家の皆さまを含め、この宮に暮らす方々への忠誠を期待します」


「……まるで、永久の別れの様なご挨拶……。 わたくしは、ソフィア様こそ、この宮の主たるべき人と……」


「ミネーネ様、御口が過ぎますわ。 わたくしが、「男爵家の娘」と言う立場である事をお忘れですか? 至高のきざはしを登る事を考えてはいけない、そう言うモノですわよ? それに……」


「……」


「此処では、わたくしらしく・・・生きられませんの」





 私の紅い瞳に何を想うのか、ミネーネ様は沈黙を持って応えて下さったわ。 そんな風に見てくれてたんだ。 でもね、嫌よ。 私の生きるべき場所は、此処じゃないもの。 私の傍らに居ていい男の人は、たった一人だけ。 その人以外となら、一人でいいな。 いや、違う、ミャーと二人だ。 


 微笑んだ私をジッと見るミネーネ様。 なんか、とてもとても悩んでらっしゃるね。 んじゃぁ、一言だけ。





「サリュート殿下から、二年以内と期限を切られておりますで、また、御目に掛かる事も有りましょう。 その時には、優しくしてくださいませ」


「勿論で御座いますとも、ソフィア様。 一同、お待ち申し上げておりますので、お忘れなきよう」





 食い下がるねぇ……。 まぁ、嫌われて無いから、いいか。 





「それでは、その時まで、ごきげんよう」


「いってらっしゃいませ、お嬢様」





 これで、暫く、此処に来なくて済むね。 昼前の、柔らかな日差しが、差し込んで、金ぴかの宮殿が、神々しく感じちゃうよね。 ちょっとばかし、見詰めちゃったよ。 エルガンルース王国の心臓かぁ……。   





 じゃぁ、行こうか。





 あっちの公館へね。







******************************






 お話を通したのは、思った通り、この方だったよ。





「お許しを頂けたようですね。 サリュート殿下の秘蔵の姫を引きずり出すには、なかなかと、骨が折れました。 なぁ、ダーストラ卿」


「……無茶を言う方だ、貴方と言う人は」





 そうなんだよね、サリュート殿下に話を付けられたのは、ダーストラ=エイデン卿ではなくて、ムリュ=イーデス=ナイデン公爵。 通称ナイデン大公様だったんだよね。 そんな気がしてた。 ダーストラ様は、良くも悪くも法の番人の様な人。 だから、横車なんか押せないし、押さない。 


 いくら、ユキーラ姫の為とは言え、他国の者を側に置く事を認める訳に行かないからね。 それも、護衛と身代わりを頼むなんて、ノルデン大王国の宿将って呼ばれる程の人なら、なおさら無理よね。 でも、当のご本人たる、ユキーラ姫様のたっての願いがあったみたいなのよ。





「ユキーラ姫様が、不安に思われては、如何ともしがたい。 心許せる者が、御側に居ない事には、ノルデン大王国までの遠い道のりをこなす事さえ、難しい。 その上、いまだ、姫様を狙う不貞の輩も居る。 ナイデン大公の御力をお借りすればと思ったが、よもや、ソフィア殿を引っ張り出すとは思わなかった」


「そりゃそうだろう。 あれだけの目にあって、精鋭揃いだった守役まで失っているんだ。 長距離の移動、それに、他国の中を移動ともなれば、姫様でなくとも、不安に思われても致し方ない」


「しかし、なぜ、ソフィア殿なのだ? いや、ユキーラ姫が信を置く方では有るのだが、女性なのだぞ?」


「おや? ダーストラ卿は、御噂をご存知ないのか?」





 意味あり気に、私とミャーを見るナイデン大公様。 いやさぁ……ここで、その話するのやめようよ。 対応に困るよ。 だって、あっちの顔は、普通出さないモノなんだから。


 不思議そうな顔をしている、ダーストラ様。 知らないんなら、知らない方が良いんだよ。 ナイデン大公様に、これ以上の事を言うなって、手でサインを出したの。 ゴホゴホ言いながら、なんか誤魔化されていて……、 ちょっと、面白かった。


 話は、護衛移動の事に移って行ったよ。 ナイデン大公様もその話の輪の中に、混ざって来てるよ。 その道のプロの意見は尊重しないとね。 ダーストラ様は、私とミャーも一緒に護衛するもんだと思っていらした。 ユキーラ様の御側に居て、御心を安んじ移動しろってね。


 まぁ、普通はそう思うよね。 うん、間違ってない。 間違ってないんだけど、私がナイデン大公様に同行人数の中に入れられたのは、違う目的からだよね。 そう、あっちの顔の方が必要だって思われたんだよね。 はぁ……。


 道中の安全について、色々な側面からの検証が必要って訳だ。 失われたお姫様が、生きて本国に帰還されるとなると、色々と都合の悪い人もいるしね。ノルデン大王国領に入国するまでは、ほんと、気が緩められないもの。


 情勢が情勢だけに、彼方の軍が動く事は非常にマズイから、自力で、国境を越えないといけないんだよね。 





          時期は冬。





 雪中行に成る訳だ。 積雪は其処まで多く無いから、馬車移動だけど、それでも手間と時間は倍かかるよ。 で、移動速度も普段の半分くらいか? 狙い放題だね。 夏まで待てないのかな……? 待てないんだろうなぁ……。 他国に重要人物を置いておくのは、たまらんらしいよね、あっちの重鎮の方々。


 で、ダーストラ様を筆頭に、使える人全部使って、姫様の移動を敢行する訳だ。 まず私のする事は……、暗殺者ギルドのギルドマスターに連絡を取って、王都内での安全移動を確保する事だね。 建物一杯あるし、狙撃ポイントなんかも沢山。 あの人達に事前にお願いして掃除しておいてもらったら、まずは安心して移動できるもんね。


 でも、一歩でも王都を出た後……、 そっからが問題なんだよね。 


 道中長いから……。それに、街道だって、完璧に安全って訳じゃないし。 狙われるし。 地形とかから、大体の襲撃ポイントは、想像できるけど……。





「地図を」





 ダーストラ様が、一応の旅程の説明を始められた。 行程日数、二週間。 内、十日間が、エルガンルース国内移動。 襲撃可能ポイント…… 大規模なモノを想定するなら、三ヶ所。 小規模なモノを含めると、十二か所。


 相手の都合というか、他国内での作戦を考えると、二撃……。 いや、奇襲も含めて、三撃が限度か……。 エルガンルース王国内の敵対勢力がどのくらいいるかは判んないけれど、それでもルートから類推するに、敵対勢力圏を上手く避けているから、此方の動きを見てから動くとすると、二、三家の私兵団か……雇の者か…… 総勢数百人規模かな? まぁ、順繰りに小出しにする筈だし、一度に相手するのは数十人程度だと思うんだけどね。





「ソフィア殿、おもう所があれば、言って欲しい」


「……ダーストラ様、今回どの程度の人員を動員されますか?」


「公館内の衛兵、騎士、全てだが?」


「総勢、60名程……。 徒歩かちは?」


「皆、騎乗とする。 用意させている」


「練度は?」


「重騎士の突撃力を持つ、実戦でも十分に遊撃に使えるほど」


「なるほど……ユキーラ姫は乗馬の経験は?」


「何? …… …… …… 騎乗経験は、有る。 お転婆姫様に、乗馬を教えたのは、私だからな……」





 ふーん、そっか。 騎乗、出来るんだ。 で、ダーストラ様が教えられたって事は、相当乗れるよね……。 そっか……。 だったら、一番早く、いける方法があるね。





「用意される馬車は三台。 ユキーラ姫様の影武者一名。 我が国の令息も同行するそうです。 護衛騎士が六十余名。 全員騎乗にて、護衛を務められる。  ……バラバラの情報を流し、襲撃者とつるんでいる者も、あぶり出してしまいましょうか……。 誰が、どの地点で襲われるか……。 本命の襲撃は、状況から見るに、一回でしょうか……」


「…………」


「…………」





 お二人とも、沈黙された。 まぁ、こんな小娘の云う事にいちいち、構ってられないだろうしね。 顎に手を当てて、地図を見詰める。 隣でミャーも同じ地図を見てた。 ふと視線を上げると、やっぱり、ミャーも視線を私に向けてた。 で、地図の一点を見たの。





     一番襲撃に適した場所。





 森の中を走る街道。 一番の狭隘。 襲撃者を伏せて置くには、最も適した場所。 抜けたところにある、小さな村落。 





      待ち伏せには、持って来いね。





 もう一度、ミャーを見た。 彼女、頷いていたよ。 ”わたしなら、此処で仕掛ける。 そこが一番自然 ” そう、言ってた。 私もそう思う。 それは、ダーストラ様も判ってらっしゃるだろうから、力押しで押し通ろうとされているよね。 だから、六十余人もの騎乗兵を用意されるんでしょうね。 衝撃力で押し通るつもりがアリアリと判る人員構成ね。





     でももし、私が、襲撃者側なら、そうはさせない。





 つるべ打ちで、疲労を狙う。 本命の場所のココに着くまでにね。 連続した奇襲と襲撃で、注意力と、忍耐力、それに、体力と、精神力を、削るだけ削るの。 狭隘の街道は、騎兵には向かない地形。 街道の両側は、森……。 射線が通るなら、弓兵も伏せときたい所ね。


 それでも、万が一、討ち漏らした場合は、抜けたところにある小さな村落で、バッサリいくね。 あぁ、そん時には、村落の人達も一緒に始末する筈だよね……。 最終手段だから、きっと、広域攻撃魔法を使って来るよ。


 この比較的安全なルートの唯一の殲滅を狙えるヤバイ場所はそこだけ・・・・なんだからね。 





 想定は、最悪を。

 行動は慎重に。

 そして、大胆に。






 頭の中で、レーベンシュタインの家訓が鳴り響いたんだよ。







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