表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶の彼方から ” あの人に逢うために ”  作者: 龍槍 椀
ビューネルト王立学園 三年生
77/171

第77話 要請

 




 王宮からの急な知らせ。 まぁ、サリュート殿下だから何時もの事だと、たかをくくっていた。 ミャーに身嗜みを整えて貰って、急ぎ王宮、【処女宮(ヴァルゴ宮)】へと、急いだんだ。 


 宮殿の眼の前に男爵家の紋章付きの馬車を横付けして、とっとと降りた。 エスコートが居ないのは何時もの事だったけど、今日はいつもと違う事があったんだ。





「侍女の方も、同行してください。 殿下がお待ちです」





 あれ? いつもはココでミャーと別れて、別々になるのに? どうして? ……私達二人に用事が有るって事よね……コレって……。 ミャーに用事? 何だろう……。 あの事がバレたの? ……いや、それは無いね。 無いと、思う。 無い……よね。


 不安を押し隠して、殿下の待つお部屋に向かった。 心なしか、足取りが重いよ……。 扉は、相変わらず重厚で、嫌になるほど威厳に満ちている。 はぁ……。 この向こうに何が待ってるんだ?


 侍従長さんが、私達の到着を告げたの。 扉の両脇に立っている衛兵さんが、中からの ” 入れ ” の言葉に、敏感に反応して、扉を開けてくれた。 侍従長さんとは、そこでお別れ。 三歩中に入って、ガッツリカーテーシーをきめる。





「サリュート殿下に置かれましては、ご機嫌麗しゅう。 急なお呼び出しに、急ぎ参りました」


「うん、此方へ」





 デカい執務机の向こう側に、サリュート殿下が座ってらした。 銀箔の仮面の内側の表情は読めないけど、なにか思案気では有るよね。 手に、何か書かれた、妙に重厚な紙を持ってらしたのよ。 そんな様子を垣間見ながら、私とミャーは、一緒に御前に伺候したの。 執務机の前に立ち、更に礼を尽くす。





「座れ。 ……ノルデン大王国の外務長官からの、” お願い ” があった」





 サリュート殿下は、ひらひらと手に持った紙を振った。 いいのか? それ、正式な外交文書じゃね? そんな、ゾンザイに扱って……。 本来なら、国王陛下に持ってくもんだろ? なんで、サリュート殿下がもってんだ? ……ちょっと待て、アチラも国王陛下に重きを置いてないって事なのか?!




「はい……。 えっ? ユキーラ姫のお相手は終わりましたが?」


「そうだ、落ち着かれたので、本国に帰還されるとある。 ……ついては、帰国時に、君達を同道させてほしいとの要請だ。 ……ソフィア、おまえ、いったい何をしたんだ? 対価にと、学園が消費する魔石をよこすそうだ。 俺宛にな」


「殿下に直接お渡しに成るのですか……。 魔石の貿易は、停止されたと聞き及びます……。 それなのにで、御座いますか?」


「よほど、ソフィアたちに同道してもらいたいらしいな。 クソッ……! 此方も、これから大変な時期に入ると云うのに……」




 殿下の言葉の裏に、ピンとくる ” モノ ” があったのよ。




「……いよいよ、来られるのですね」


「察しが良いな。 そうだ、聖女様・・・のお出ましだ。 かなりの女狐と聞き及んでいる」


「狙いはダグラス王子……でしょうか」


「間違いはないだろう。 ケツ持ちに、マジェスタ大公が名乗り出た」


「……ソーニア様では心もとないと?」





 腕を組み、天上を仰ぎ見るサリュート殿下。 心なしか疲れている様に見える。 そう言えば、執務机の上も、書類で一杯だし、お部屋の中の人の数も少ない。 無駄口をたたいている人も……いないね。 何かしらの書類の整理と確認に追われているように見えるわ。





「お前、何処まで見えている?」


「……どこまでと申しますと?」


「この要請は、お前の発案か?」


「いいえ。 初めて聞きました。 ユキーラ姫と友誼を結びました事は、お手紙でお知らせいたしましたが、裏でどの様なお話になっていたのかは、存じ上げません。 ノルデン大公国公邸において、ユキーラ姫の御心の安寧が、わたくしの「仕事」でしたので」


「うむ……。 その一環か……。 いまだ、狙われていると、そうお思いなのだろう。 エルガンルースの兵では、心もとないとも……。 あちらの国に誰が内通しているとも、わからんしな……。 銀髪紅眼の鬼姫の噂が掴まれたか……。闇の右手も同時に……」


「つまりは、護衛? と、云う訳ですか? それとも、身代わり?」


「……あちらとの話し合い次第になる。 この際だから、彼方の法整備をじっくりと学んできてくれ。 きっとこれから先、この国に必要となる知識だ。 それにだな、 ……先程、ちらりと話して居った、ソーニア嬢の事だが……」


「ええ。 手駒としてマジェスタ公爵が手元に置いていた筈ですわよね。 どうか致しまして?」


「……コローナ伯爵家に戻される」


「えっ? 誠ですか?」


「あぁ……内密にと言う事だが、ファルクス伯爵からの情報だ。 確度は高い」





 マジか……。 相当、聖女様に傾倒してるね。 彼女の方がダグラス王子を篭絡出来るって踏んだか……。 今、ダグラス王子の周囲には、側近と呼べる人物は エルヴィン=ヨーゼフ=エルグラント子爵 しか残っていないよね……。 


 手薄だ……。 狙いを絞って来ているんだ……。 本格的にシナリオから逸脱し始めている……、 本来ならダグラス王子を篭絡するのは、ソーニア様の役割ロールなのにね。 私がその役割ロールを放棄したから、回って来た、そのポジション……。 やっぱ彼女じゃ無理だったんだ……。


 その代りを「世界の意思シナリオ」が、用意したって云うの? なんていうか……、 無茶よね。 なんか、世界線がごちゃごちゃになっている感じがする……。 悪役の存在が無くなってるよ……。 ハーレム形成するには、駒が少なすぎる……。 ダグラス王子の克己心かぁ……。 どこまで、持つかなぁ……。 


 いや、これって、見方によっちゃ、聖女様による、逆ハーレムも……可能じゃないの? サリュート殿下をして、「女狐」って呼ぶくらいなんだからね。 真っ先に狙われるの……エルヴィン子爵じゃね? 今じゃ、唯一の大公家関係者の側近候補なんだし……。


 サリュート殿下が、重い口を開いたのは、私が、そんな思考を巡らせていた時なのよ……。





「エルヴィンを逃がそうと思うのだ」


「はっ? どういう意味で御座いましょうか? 判りかねます」


「ダグラスについては、近衛の者達に護らせる様に手配している。 側近と呼べるような王家の息のかかっている者達だ。 易々とはいかない。 しかし、エルヴィンを、その中に置くのは、悪手だ。 アイツ、頭はいい癖に、現実を見ない。 高位の貴族の癖に、脇が甘い。 直ぐに付け込まれる……。 女慣れもしていない。 女狐にとっては、格好の獲物なわけだ。 危険すぎる。 仮にも財務を司る公爵家の嫡男。 簡単には斬り捨てられない。 一度、外交の現場と、他国の空気を吸ってもらおうと云う訳だ」


「わたくしを、御引き渡しになる対価として、彼方に留学させると云うのですか?」


「目付としての役割も頼みたい。 これ以上、拗らせたくないからな……。 期限は二年以内。 あちらは、ソフィアの事を高く買っている。 付け込ませてもらう……。 手元に置いておきたい駒を、分捕って行くんだ。そのくらいの事は要求しても良いだろう?」


「……わたくしの意思は……」


「無いな」


「簡単に仰る……。 つまりは、ユキーラ姫の護衛として、”銀髪紅眼(シルヴェレッド)鬼姫(オーガレス)”と、”闇の右手(ブヨ=ドロワマーノ)”を御雇いに成るという事……ですわね? 付帯条件として、エルヴィン=ヨーゼフ=エルグラント子爵の監視をしろと? 北の大国、《ノルデン大王国》で? ……あまりにも重い御役目ですわね」





 銀箔の仮面から、強い視線が私を襲う。 いや、睨みつけられているって感じね。 この際だから、言いたい事は言っておくわよ。 だって、拒否権ないんだもの。 整理すると、ノルデン大王国までの道行きの安全を確保する事。 暫くの間、ユキーラ姫の身辺警護をする事。 エルヴィンが馬鹿しない様に監視する事。 あっちの国で、”法” を間近にみて、勉強する事。


 物凄い重複タスクね……。 どれ一つを取っても、生易しくないよ……。 背後のミャーの気配も、凄く緊張している。 そうだよね……。 そりゃ、そうだよね。 北の大国に行くんだものね。 それも、長期間……。 ほとんど、待ったなし状態で……。





       季節は冬。





 厳しい道のりに成るのは、最初から判ってる。 私も、ミャーも敵地での戦闘には不向き……。 どっから、情報が洩れてるかもわからない……。 いつ襲撃されるかもわからない。 《ガンクート帝国》の手の者か、それとも、《エルガンルース王国》の者かも、判らない。





     情報収集するには、時間が無さ過ぎる。 





 ユキーラ姫様を、一刻も早く《ノルデン大王国》に連れて行きたい、公館の人達の気持ちは、良く判る。 ここ、エルガンルース国内では……、 こう言っちゃなんだけど、安心できないもんね……。 


 かといって、彼方の正規の騎士団を動かすのは……、ちょっと、まずいって所かしら。 緊張状態にあるエルガンルースとの間に、なにが起こるか判らないしね。 意表を突き、手早く、迅速に…… だろうね。



   …………



         ……………………



               ………………………………




          判った。 





 護衛の件は、受け入れるよ。





 でもね、 エルヴィンの件は…… アイツ次第と云う所か…… そこは、運を天に任すしかないよね。




鏡祭月(シュペーセテス)】の 鏡祭りも……、

精霊月(ガイスト)】の 精霊帰祭も……、

氷雪月(アイセスシュニ)】の雪祭も……、





 全部、全部、参加できなくなったんだよ……。


 私達が、エルガンルースに帰れるのは……、


 そうだね……。 何もかも……、


 手遅れになってからかもしれないよね……。



 くそっ!








 逃げちゃおうか?









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ