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記憶の彼方から ” あの人に逢うために ”  作者: 龍槍 椀
ビューネルト王立学園 三年生
74/171

第74話 彼女と、彼女と大切な想い人

【閲覧注意!】


過酷な表現が多々出てきます。 ご注意ください。

 




蒼天月(アジュエレー)】 






 今月は、ずっとノルデン大王国の公館に詰める事になった。




 ずっとね。 お家にも帰らずに、公館にお泊りする事になったんだよ。




 当然、武術大会は、見送りする事になったよ。 ミャーも同じ。 まぁね、そうなるよね。 此処で、出場したって、いい標的に成るだけだもんね。 


 ノルデン大王国の公館でね、色々とお勉強してたんだよ。 学園でのお勉強よりは楽かなぁ~~~ なんて思ってたんだよね。 だって、公館って言っても、豪華なお屋敷みたいなモノよ? そんで、お願いされて居るのは、ユキーラ姫様の御側仕え、そう、彼女の御心の安寧の為にね。


 楽勝じゃん! 


 って、思ってってた私。 本当に未来予測が下手なんだよね。 この公邸に来てから、満足に眠って無いよ。 ユキーラ姫様の御世話と、学園の課題、ノルデン大王国の騎士さん相手の鍛錬、それと、宮廷からの要請でのノルデン大王国との折衝。 


 ノルデン大王国は、ダーストラ様が、宣言された通りに、魔石の流通制限掛けて来たんだよ。 当然、三大国が追従してね、《ガンクート帝国》に対して、一切の魔石の受け渡しを拒否されたのよね。 そうなったから、エルガンスール王国の一部の貴族が《ガンクート帝国》に便宜を図ってるって言うんで、この王国にも制限が掛けられちゃって、サリュート殿下から、”抜け道を探せ” って、指令が来てるんだよねぇ……。 でも、それって、外務官の仕事でしょ? 


 私に何をせよと、御申しつけか! はぁ……。 現在、殆どの外交部の折衝が停止されてるから、何とかしないとって、思われての指示なんだろうけどね……。 


 だから、ノルデン大王国の法典を精査して、抜け道を探っているんだけどねぇ……。 なんで、こんなに事細かいんだ? ほんと、法治国家の法典は……素晴らしいんだけど、融通が利かなすぎるんじゃぁ!!!


 こうなる事ぐらい、予測できたはずじゃん! めっちゃしんどいよ……






「お嬢様は………… 困っている人に、手を差し出さないと、死んじゃう病気に罹ってるんですか?」


「だってぇ~~~」





 ミャーの言葉に、俯いて、口を尖らして、抗議の声を上げるの。 あの時は、必死だったんだよ。 おかあさんからの、表立たない連絡とか、御父様のさり気無いフォローとか、全く眼中に無かったんだよ。 


 もっと、穏便な方法だってあった筈なんだよ。


 それを、トラの尾を踏むみたいな真似をして、せっかく伸ばしてた髪、ぶち切られる羽目に陥ったんだよね。 でもさ、今は、この心を痛めている、ユキーラ姫様の事が一番大切なんだよ。




 そう、ユキーラ姫様の御心。




 ……この方が、問題なのよね。 期間限定で、この国に滞在していらっしゃるんだけど、それも、これも、彼女の精神状態が酷いから。 下手に御国に連れて帰って、事の詳細を聞かれようものなら、ほんと、彼女がどうなるかも判らないし……。 下手すりゃ、大変な惨事が引き起こされちゃうのよ……。


 いやね、本当は別に、私がどうこう出来るって訳じゃ無いんだ。 悲惨な出来事が、彼女を襲ったのは、理解出来てるし、乗り越えようとされて居る御姿には、ホント頭が下がるのよ。 ただ、そのやり方が、単に心を殺し、感情に蓋をして、やり過ごそうとしている様にしか、見えないんだよ。


 かつて見た光景……。 後悔と悔恨にミャーと二人で落ち込んだ日々を思い出してしまったんだよね……。 




 だからね……、 この話。  受けたの。





^^^^^^^^




 娼館【レッドローゼス】でさ、五歳に成るまで、さんざん見せつけられて来たんだよ、可愛らしく、柔らかい心を持った女の子が、心を壊して虚空を見詰めて病んで行くのを。 強い心を持ったお姐さん達が、フォローして、フォローして、フォローして……、 それでも、死んじゃう女の子、居たもんなぁ……。


 そんな彼女達に共通した性格は、とにかく溜めこむって事。 感情の捌け口が、心の中にしかないから、ドンドン暗く籠って行くのよ。 周囲が気が付いて、早めになんとかできたら、浮き上がってくることは出来るけれど、よほど気を付けて見ないと、判らないのよ。 そういう子って、物凄く素直で、いい子で、上手く感情を隠すから……。


 気が付いた時には、梁からぶら下がっている姿を、何度も見て来た。 私とか、ミャーに優しくして呉れてた人も、何人も居たよ。 その度に、《おかあさん》が、お金を出して、共同墓地に埋葬したんだよ。 その事自体は、娼婦の最後としては、破格の扱いなんだけどさ……。 そんな、精霊教会の共同墓地にね、ミャーと一緒にお花を捧げに何度も足を運んでいた事、思い出してしまったんだ。


 こんな思いは、二度と御免だ! って、ミャーと誓い合ったんだけど、やっぱり、感情を隠すのが上手いんだよ。 本当に、何度も、何度も、何度も、同じ目にあって、ようやく、女の子の目の中に⦅ 虚ろの光 ⦆を見る事が出来るようになったんだよ。


 それからは、お姐さん達に、それとなく誰がドンダケ病んでるか、そっとお知らせしてね……。  娼館【レッドローゼス】の娼婦の脱落率(自死率)は、落ち着いたんだ。


 ユキーラ姫様の瞳の中に、そんな虚ろな光が居座ってるのよ。 絶対に明かさない様に、がっちりと蓋をした御心の中に、酷い思い出が詰まっているんだ。 でもさ……、 何かの拍子に、その蓋が押し上げられて、中の黒いものがちょろって出るんだ。 


 例えばさ、公館の騎士さんが下げている、儀典用の剣。 特にダーストラ様の御腰にある、細かな細工飾りがついた剣は、黒いモノの心の蓋を押し上げる 【 (キー) 】みたいになってるんだ。 極力お目に触れない様にしてるんだけど……。 なにせ、公館の中だけに、あっちこっちに衛兵さんが立ってるから、自然と目に写るんだ……。


 彼女の旦那様が弑された記憶と、ご自身が乱暴された記憶と、どっちの記憶かなぁ……って考えていた。 その答えは、ミャーが持ってたよ。 彼女、色々とお話聞いてたみたいね……。 私にも黙ってたよ、あの子。


「ちょっと……言い難いのですが…… お気づきに成った、【 (キー) 】は、姫ご自身の惨劇の記憶の方です。 その……姫様に……乱暴したのが、どうも《ガンクート帝国》の高位の騎士なのですよ。 ……目先に衛剣を突き立てられて、抵抗虚しく着衣を裂かれ……」





「聴いたの?」


「まだ、お薬が効いている内に、少しでも情報をと思いまして……」


「ミャー…… 教えなさいよ! そう言う事は!! あんたも私も、同じような境遇だったんだから、遠慮はいらないんだよ!! むしろ、気を使われる方が嫌だ……。 なんとか、言って、ミャー」





 公邸に来てから、侍女モードを、外そうとしなかった ミャー に怒りをぶつけて、彼女の本心と友達モードを引き出したんだ。 あのね、貴女も知ってるでしょ? これは、心の深い所の話なの。 上辺の綺麗な所で、どうにかする事なんか、出来はしないって事を。 だから、吐かせるよ? 明け透けな事実を。 どうしようも無い、起こってしまった事を。 


 事実に向き合わない限り、本当に乗り越える事など、出来はしないんだ。 だから……ね。 


 お願いよ。





「……ソフィア……ほんとに、良いの? つらいよ? ソフィアが、ダーストラ様迎えに行ってる間に、聞き出した事……。 ホントに伝えて良いの? 私だって、思い出したくない様な事だよ?」


「……ミャーにだけ負担を掛けさせられない。 二人で考えよっ! その方が良い考えが浮かぶって。 レッドローゼスに居た時もそうだったじゃん。 そうしようよ」


「……ソフィア……」





 じっくりと、聴いた。 ユキーラ姫様に起こった惨劇に付いて、彼女が知る限りの事をね。 お薬が効いていた時のユキーラ姫は、赤裸々に語ってたね。 感情は凍結された彼女、事実のみを、まるで他人事のように語ってたって。 どんなふうに乱暴されて、どう反応したのかも。 


 娼館で行われる ”味見”なんて、目じゃ無かったよ……。 人間ってさ、どこまでも残酷になれるんだね。 ホントに気分悪いよ。 でも、その記憶が、姫様の潜在意識に、ナイフで刻み込むように、彼女を傷つけ続けているんだよ。 最後に……、 ミャーが聞かせたくなかったって…… 珍しく、涙を零しながら、私に語って聞かせてくれたの。





 だから彼女に告げたの。





「ミャー、ごめんね。 ……貴女一人に、辛い想いさせていたのね。 聴かせてもらって良かったよ。 ユキーラ姫の心の傷の深さを理解出来た。 彼女が今、平静を保っていられるのが、不思議なくらいね。 わかった。 このまま、彼女が心に蓋をし続けていれば、いずれ爆発して、取り返し付かない事になるのが判った。 ……ちょっと、話してくる。  彼女と。  荒療治に成るけど…… 泣き叫ぶ事になると思うけれど……。 彼女に起こった事を、無かった事にして、心が壊れる危険を抱えたままには、出来ないから……ね」


「ミャーも行くよ。 一緒に……」


「ありがとう……。 でも、私が ” やり過ぎてる ” と、思っても、止めないでね。 レッドローゼスでの事を思い出して。 状況はアレより酷いんだから」


「うん……頑張ってみるよ。 ダーストラ様に、個室と、完全防音お願いして来る」


「お願いね。……彼女の未来を取り戻そうね」


「うん……。 ソフィアが居てくれて良かったよ」





 時間を掛けても、良い事無いから、直ぐに準備したんだよ。 小さな部屋の中にユキーラ姫と、私、そして、ミャーの三人だけにして貰った。


 小さなテーブルの上には、ミャーの用意したお茶の道具。 優雅な手付きで、御茶を入れてくれている。 お茶請けは、私がほんの少しの時間を見つけて作ったクッキー。 まぁ、悪くないけど、見た目は及第点を大幅に下回るんだよね……。 ちょっと凹む。


 三人で暫く雑談をしてね、姫様の表情を伺うの。 そうね、色々と溜め込んでるね。 瞳に浮かぶ、虚ろな光が、如実に彼女の心の内を現してるよ。 本当なら、こんな御茶会もどきなんざ、出たくもない筈だよね。 自分の役割は終わったと言われていたし、彼女が本当に愛した方も、彼岸の彼方に旅立たれて、もうこの世には居ない。




 それでも……周囲の人々は、彼女に生きて欲しいと望む。 




 生きて、幸せになって欲しいと、望む。 だから、必要以上に優しく、壊れモノに接するように、彼女に接する。 余計に彼女は自分が要らないモノ、生きているだけで周囲に迷惑を及ぼすと勘違いをする……。 表に出せれば、明確に否定出来るのだけど、彼女の表情は柔らかくそれを韜晦する。 息をする事も、心臓の鼓動さえも、今の彼女は疎ましく思っている……。




 んじゃさぁ、一回、ぶっ壊そうか? 




 ユキーラ姫、此処は私が編んだ魔方陣で、外と隔絶してあるんだ。 外側は、ノルデン大王国の方達が防御魔法を掛けてくれているけど、万が一って事で、消音は掛けて無いんだ。 監視の為の魔法だってね。 防音はお願いしたけど、通らなかったって、ミャーも言ってたしね。


 でも、私が編んだ魔法は、その「目」と「耳」を全部、誤魔化しちゃうんだ。 この部屋の外側からは、いつも通りの、” 御茶会 ” としか、見えたり、聞こえたりしていないんだよね。 でも、中は、違うんだよ。 すっと、自分の目に力が乗った。 少し目が吊り上がったのが判る。 そんな表情、今まで見せてないから、ユキーラ姫、ちょっと たじろいたね。 







        でもね……。 












         始めるよ。








^^^^^^




「ユキーラ姫……。 いえ、敢えて言います。 ユキーラ。 今の貴女の愛は何処にありますか?」


「えっ? どうされたのですか、ソフィア様」


「お聞きしたいのは、ユキーラの大切な想い。 どんなに蹂躙されても、決してなくさなかった、貴女の拠り所。 それは、何処にありますか?」





 ユキーラ姫様の瞳が、虚無の光を大きく孕んだ。 そうさね、思い出すんだよ。 大切な者をね。 体の上を過ぎ去っていった惨劇なんざ、どうだっていいんだ。 貴女の心の奥底に仕舞い込まれた大切な想いを、掘り出すよ。





「……ううう……貴女って……ひ、酷い人……」





 クシャリって、顔が歪む。 美しい顔が歪む。 ミャーから聴いた話だと、泣き叫び、拒絶しても尚、蹂躙され続ける残酷な時間があったんだ。 そうなる事は、承知の上だよ。





「ええ、酷い事を聴いているのは、自覚しております、ユキーラ。 その上で、その惨劇の最中、誰を想っていたのかを問いたいのです」





 私の目が座っているのが判る。 そう、コレは敢えて聴いているんだ。 彼女の想いの強さを見る為にね。





「そ、そんなの……決まっているわよ!!! たった一人だけよ!!! 私を心を請い、そして、粘り強く、真摯にお願いしてこられた、あの方しかいないわ!!!」


「たとえ、どんな酷い目にあってもですよね」


「そうよ!!! あの方以外を受け入れる事など考えもしなかった、それなのに、それなのに……」


「……そうですよね。 御心は、殿下にのみですよね。 でも、ユキーラは、それを信じられない。 自分自身が信じられない……」


「酷い……! 酷い言葉よ、それは……。 でも……間違ってない……。 何度も……何度も……何度も、蹂躙される……。 嫌だって思っているのに、身体は反応してしまう……。 あの人だけと、おもっていたのに……。 なんでよ!!! どうしてよ!!!! 何度も蹂躙されるうちに、私の中のあの人が消えて行ってしまうのよ!!! 暗い感情が、あの人の面影を覆いつくすのよ!!! 消えないシミが広がって……」


「今では、その面影さえも?」





 両手で、顔を覆い、嗚咽が手のひらから零れ落ちて来る。 ミャーが、私の肩にそっと、手を載せる。 うん、やり過ぎだね。 判ってる。 でも、本番はココからなんだよ。 実際、今は彼女の心の蓋を取り外しただけだもの。 溢れて来る、暗い想いが彼女を埋め尽くして居る筈なんだよ。


 暗く、重く、絶望に侵された、ユキーラ姫の声が、幽鬼の様な気配を纏ませつつ響くの。





「そうよ……。 もう、想いでさえ塗り込められ……白濁した視界に、あの人の面影は消えたのよ……」





 顔を覆った手がパタリって膝の上に落ちてね、綺麗に清んだ瞳は虚無の光すら発せずに、血の涙を頬に流していたんだ……。 





「ヴァァァァァン!!!!!」





 絶叫が、小部屋の中に広がった。 哀しくも猛々しい、猛獣の咆哮の様に。 ビリビリと、衝撃の様な波紋が彼女を中心に広がる。


 ツッって立ち上がってね、彼女の側に行って、憎悪の瞳で睨みつけて来る彼女の頭を抱えたの。 ぐっと、力を込めてね。





「ユキーラ、本当に消えたと思うの?」


「当たり前でしょ!! 制約と共に誓った、私の想い、彼だけに捧げた!なのに!!! ……彼を裏切ったのよ……! 私の体は……」


「女なんだもの。 ユキーラは、女なんだよ。 心と体は別物よ……」





 そうなんだよ、コレは、手練れのお姉さんが常々口にしていた事なのよ。 娼婦の心は誰よりも気高くなきゃならないんだ……ってね。 お客を取って、身体の上を過ぎ去っていく男達に、心までは捧げていないってね。 彼等が求めるモノは肉。 だから、肉の対価に金銭を支払うの。 そこに癒しを見るのも、彼ら自身だから、そんな事にいちいち惑わされるべきじゃないってね。 


 お姐さんが、心を壊しがちな新人に、度々語っていたわ。 ” 貴女の、一番に心を ” 口に出す必要はないのよ。 それは、心の奥底の自分だけの神殿に常に祭られているものだからねって。 ユキーラ姫様、今、私は、薄汚れた欲望で汚され、暗い感情に埋め尽くされた ” 心の神殿 ” を、掘り起こす事にする。


 ミャーから聴いた、貴女がされた事を、一つ一つ、言いながら、「コロロ」と「カラダ」の分離を計って行くわよ。 酷い事、一杯云うね。 でも、絶対放しはしないから。 私の事、憎んだって、蔑んだっていいんだ。 貴女の心の神殿を掘り起こして、貴女の大切な想い人をそこに祭り上げるまでね。


 絶叫と、『 聴きたくない 』って言葉。 ノルデン大王国の言葉で、『数々の罵倒』を受けながら、私は彼女の耳元で、彼女がされた事を言って聞かせ、最後にそれは、” 女だから当然の体の反応だよ ” って付け加えた。 声を限りに叫び暴れる彼女を、決して放さないように、抱きかかえながらね。 


 もう、暴れる暴れる。 ユキーラ姫が、小柄で良かったよ。 そんで、此処の騎士さん達に鍛えて貰ってて、本当に良かった。 絶対に放せないもの。 中途半端では、終われない事だから。 ミャーも判っていてくれた。 耳を覆いたくなるような、罵倒の数々を私が受けるのは、ミャーにとっても辛い事なんだよ……。 よく耐えてくれたと思うよ。


 酷い事ばっかり言って、それでも、続けてさ……。 疲れたのか、やっと、オトナシクなって来た、ユキーラ姫。 散々、えぐりだしたからね……。 ミャーから教えて貰った事も、もう残り僅か……。 彼女の目は見れてないけど、大部分を語り終えたよ。 





 仕上げだね。





「護剣をもって、脅されたユキーラは、それでも尚抵抗したんです。 たとえ衣服が切り裂かれようと、毅然と相手を見返し、護るべきモノを護ろうと努力為された。 そんな貴女を貶める為に使ったのが【媚薬】の数々。 わたくしは、知っております。 その薬がどんなものかも。 効果も。 心はどうであれ、身体が、どうなるかも。 あの日、あの部屋で、初めてお会いした時に、侍女が確認いたしました。 女ならば、無理です。 アレに抵抗出来る女など、この世に存在しません。 結果はご存知の筈です。 「あの薬」の数々は、ユキーラの身体どころか、御心を折り、潰そうとしたのです。 でも、ユキーラの心は潰れませんでした。 いま、貴方はココに居る。 私の胸に中に居る。 何故でしょうか」





 長々と続いた、精神的 二度目の蹂躙。 最後の仕上げは、あの過酷な状況の中、今もって彼女自身が何故壊れずにいられたかとの質問。 有る筈なんだよ。 絶対に。 貴女の心の神殿ってやつは。 さんざんに口にしていた、暴言の数々を、今は 一言も口に出ていない。 心が壊れたのか、それとも、答えを見つけたのか、まだわからない。 もし、壊れたんなら、甘んじて ” 罰 ” を受けよう。


 あのまま、心を閉ざして潰れる未来ならば、ユキーラ姫本来の心が虚無に呑み込まれて、壊れ果て、未来と決別する方が、よっぽど彼女にとって幸せだろうしね。  





「今一度、問います。 ユキーラ。 今の貴女の愛は何処にありますか?」





 私の問いに、ビクッて体を震わせた。 本当に、本当に、小さな声で彼女は私に言ったのよ。





「あの人に。 誓いを交わした、あの人に、私の愛は有ります」


「微笑んでくれていますか?」


「ええ……。 婚姻式があった、あの神殿の前で……、 はにかんだ笑みを浮かべて、わたくしを見てくれています」


「その笑顔に、一点の曇りでも有りますか?」





 フルフルと首を振る、ユキーラ姫。 どうやら……取り戻されたようだね。 そっと、腕の力を抜く。 抱え込んだユキーラ姫の頭を放すの。 ゆっくりと、ゆっくりとね、頭が上を向いて、滂沱の涙を零す彼女の顔が見えた。 赤い血の涙じゃ無くって、綺麗な真珠の涙だったよ。





「取り戻されましたね。 ユキーラは、裏切ってはいない。 いいですね。 御心の内の大切な人の顔が、一点の曇りも無く、貴女に微笑んでくれているのです。 貴女もまた、『愛されていた』のです。 そして、その愛は永久に変わらない……。 すこし、羨ましいですね」




 さらに、顔は赤くなり、クシャリと歪み、大丈夫?って思うくらい、涙が溢れ出て……。 哀悼の慟哭が彼女の口から零れだした。 今は居なくなってしまった、彼女の最愛の人の為の、慟哭だったんだよね。 


 今まで、泣く時間すら無かったもんね。 いいよ、気が済むまで泣いて。 涙が枯れ果てるまで。 その人に対しての何よりの手向けになるよ。 





「お嬢様、これを……」





 ミャーがそっと、大判のスカーフを渡してくれた。 なんでだろうと思っていたら、ミャーがそれを裂いて、私の手とかに巻いてくれた……。 そっか……ユキーラ姫も、半獣人だもんね、「爪」有るんだものね。 ザクザクにあっちこっち切れてたよ…。かなり、出血してるし……。


 なんか、立ち眩みして来た……。





「お嬢様!!!」





 ちょっと、ミャーの声が遠くに聞こえる。



 貧血かぁ……。



 ユキーラ姫様の瞳に驚愕の色が出てるねぇ……。



 あぁ、この人、あの諦観じみた、「虚無の光」 以外の感情が瞳に宿ったよ……。



 よかった。 帰ってこれたんだ。





 お疲れ様でした。





 視界が徐々に狭まり……、




 暗闇が私を包んだんだ……。




 




         そして、私は、






 意識を手放した……。













R15 では、不具合があるやもしれません。

とっても、不安です。 


どうぞ、よろしくお願い申し上げます。

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