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記憶の彼方から ” あの人に逢うために ”  作者: 龍槍 椀
ビューネルト王立学園 三年生
72/171

第72話 外交案件 (後)

 



 中庭への扉を、ナイデン公爵様エスコートで通り抜けた。 侍従さん、仕丁さん、侍女さん達が最敬礼で出迎えてくれたんだ。 あの小部屋での話が……伝わってるらしいね。 後ろに、ミャーが神妙な顔して付いてくれているんだ。


 そうそう、ユキーラ姫がミャーの事、大層気に入ってくれて、御茶会の後、ノルデン大公国の公館にご招待までされて居るのよね。 ユキーラ姫の是非ともとの思し召し…… 嫌だとは言えないよね。

 御茶会はすでに始まっていたんだよね。


 裏で、【なにが有ったか】 なんてどこ吹く風よ。 知らないって、ホントに罪よね。 怖い怖い。 彼女達、なんか、きゃぴきゃぴしてるよね。 でね、サリュート殿下は待ち状態なんだよね。 これから後の ” 御茶会 ”が、どんな様相を呈するか判ったもんじゃ無いもの。 でも、殿下は出席される気無いんだなコレが……。 言質取られない様にってね。


 それなのに、サリュート殿下ったら、私に言うのよ、自国のお馬鹿さん達が、乗せられて要らん事言わない様に、上手く誘導しろって。 そう言われてもさぁ、私には無理だよねぇ。 あの人達に近づくつもり、無いもの。 それにさぁ……、 




    私、怒ってるんだもの。 




 こっちは命がけで、エルガンルース王国の平安を、なんとか守ったんだ。 これから先は、知ったこっちゃないね。 ダメなら放り出してくれ。 その方が何かと動きやすいしね。 婚約者候補? それがどうした。 頭来てんだよっ!







 ^^^^^^^^^^




 小部屋を出る前にね……。 せめて、ナイデン大公様とは、「お話」を合わせて置いたよ。 遅参したって事にしようって。 頑張って綺麗にしてて、時間喰ったって事にね。 そんで、玄関でナイデン大公様とお会いして、一緒に来たって体にしようって。


 残バラ髪とか、身嗜みとか、お化粧とか、全部ミャーが直してくれたよ。 【処女宮(ヴァルゴ宮)】の侍女さん達も色々と手伝ってくれた。 ミャーにね、傾国仕様って、お願いして、まさしく傾国仕様の私が出来上がったのよね。 


 ちょっと、大人っぽいつうか、娼館の一番売れっ子のお姐さんみたいに、バッチリ整えてくれた。 十四歳の娘って感じじゃないよコレ。 


 転生する前は、どんなにお化粧したって、ちょっと子供っぽいというか、”目狸だ~” とか言われて、あんま、お化粧映えする顔つきじゃぁ無かったんだよ。 それが、今の自分、つまりソフィアの顔って整ってってさぁ、お化粧すればする程、綺麗になるんだよ。 妖艶? みたいな。 


 鏡の前に座って、ミャーに、” 出来たよ ” って言われて、目を開けた瞬間、思わず言っちゃったよ、





「誰、コレ?」


「お嬢様だよ? 目一杯、注ぎ込んだ。 やっぱり、元が良いと、化粧映えするよね! 思わず力はいっちゃったよ!」





 どうだと言わんばかりの、ミャー。 う、うん、確かに凄いよ……。 ほんとに、凄い。 でもさぁ……、 これって、昼間の御茶会じゃぁ……やり過ぎ……じゃないかな?





「ソフィアは、そうやって、綺麗にお化粧して、冷たい表情してたら、無敵。 そうやってるだけで、怖いもん。 【銀髪紅眼(シルヴェレッド)鬼姫(オーガレス)】の闘気噴出させたら、あのナイデン公爵様だって、黙るんじゃないかな?」


「いや、さすがに、それは……」


「そんだけの逸材なんだよ。 さぁ、頑張って!!」





 ミャーに背中を押されて、中庭に出陣するんだ。 ナイデン公爵様もご一緒にね。 さも、玄関でお逢いしましたって、顔をしてね。 だって、大幅に遅刻してるんだものね……。 そこはさぁ、打ち合わせ通り、最初は下手に出るしかないよね……。


 中庭で、きゃぴきゃぴしている集団に向かって歩を進めているの。 中心に居るのは、我が親愛なるアンネテーナ王妃陛下。 対する席にお着きに成ってる女性がいたのよね。 帝国至高教会の枢機卿の正装なんだよね。


 あれかぁ…… ドニーチェ=フランシスコ外交官って…… 物腰の柔らかそうな、柔和な表情をされてるけど、なかなかどうして、いろんな術式駆使されてるね。 




    それ、【処女宮(ヴァルゴ宮)】内での発動、御法度なやつだから! 




 判んない様に【隠遁】で誤魔化してるけど、あんた、魔力量あんま無いね。 つうか、ほぼゼロじゃ無いんかい? だって、魔石使ってるでしょ、それ。 余剰魔力ダダ漏れじゃん! ほら、ナイデン公爵ですらわかってらっしゃるよ。


 そんで、何を隠してるんだよ……。 ほう、【魅了】【魅惑】ついでに、ちょっとご自身も【発光】させてんだ……。 嘘くせぇ~~~、マジ、胡散くせ~~~。 エルガンルース王国、下町、貧民窟の詐欺師の方が、もっと上手に術式展開するよ? マジで、それで、ガンクート帝国の首脳部を洗脳できちゃったの? うはぁ~~、色んな意味で、ウケる~~~~。


 ……さぁ、馬鹿な事思ってないで、ご挨拶ご挨拶っと! つかつかと、お嬢様達が着席なさっている、御茶会のテーブル近くに近寄ってっと。 光あふれるその場所で、優雅にご挨拶したんだよね。 





「遅参、申し訳ございませんでした。 アンネテーナ妃殿下に置かれましては、ご機嫌麗しゅう御座います。 御婚約者候補のお嬢様方に置かれましても、ご機嫌麗しゅう御座います。 初めての御目に掛かる御方も居られます由。 エルガンルース王国、レーベンシュタインが娘、ソフィアに御座います。 どうぞ、よしなに」





 ガッツリと カテーシ決めて、頭を下げる。 アンネテーナ妃殿下、何かホッとした顔してるよね。 何を喋ってたんだ? かなり、疲労されているね。 でね、お嬢様方はガッツリ無視。 いや、これはいいんだよ、だって、相手は高位貴族なんだし。 


 ソーニア様と、キャメリア様、フローラ様 あと、クラベジーナ様が微かに目礼してくれた。 居るって認識したんだよね。 でも、まぁ、そこはこんな席だからね。 着席の許可は高位の方々からしか出せないし、この場での最高位はアンネテーナ妃殿下。 


 でも、お客様である、フランシスコ枢機卿がこっちを向かない。 だから、許可出せずにいるんだ。 あくまでも、無視を突き通すつもりかな? あんた、私に会いたいって言ってなかったっけ? 


 で、展開されているフランシスコ枢機卿の【魅了】と【魅惑】って言う、精神感応系の魔法が私向きに方向を振って来た。 ははぁん、コレが何時もの手なんだ。 かなりの強度の魔法だね。 これ、使わせといて良いのかな? 側周りに仕丁さんは、余波に当てられてんね。 そんで、お嬢様達も一人一人、キッチリターゲットにされてたらしい。 




 なんも言えんのか。 んじゃ、粉砕しとく。




 防壁展開する必要もない。 高々、魔石任せの術式。 魔石の魔力出力より大きい魔力をその術式に注ぎ込むだけで、あっけなく……、




    ゴリッ

            ゴリッ



 ってね。 ほら、術式が破損した。 【隠遁】には、手を出して無いし、【発光】にもね。 ただ、ヤバい精神感応系の術式だけぶっ壊してあげた。 何かの御飾りに、符呪してたんでしょ? そうでしょ? 御飾り壊れちゃったね。 


 知らんぷりしておくよ。





「どうやら、このテーブルに着く事の、御許可頂けないようですので、彼方に参ります。 アンネテーナ妃殿下に置かれましては、後程……」





 カテーシーを解いて、別に設えてあって、丸テーブルに向かうの。 んで、着席。 お隣には、ナイデン大公様が着席されたのよね。 当然、ミャーは後ろに立ってる。





「ソフィア殿、何をされました?」


「【処女宮(ヴァルゴ宮)】内で使用が禁止されている魔法術式を検知しましたので、叩き潰して置きました。 学び舎で真剣に勉強している者ならば、あれくらいは、簡単にできます由」


「ほう……? 強力で高価な魔石を割られたか」


「さぁ? 何の事で御座いましょう。 わたくしは、単にご挨拶したまでですわよ?」


「さても、頼もしい。 以前、賢者ミュリエに止められた事だが、貴女が王妃に成られたら、エルガンルース王国も安泰に成るでしょうに」


「お戯れを。 一介の男爵の娘に、何を期待されて居られます?」


「王国の危機を未然に納められた人の言とは思えませんね。 貴方の御父上と同じだ。 かつては色々と遣り合うたが、今でも貴女の御父上、” ブロイ=ホップ=レーベンシュタイン男爵 ” の名は、我が国では密やかに鳴り響いておるのだよ。 その娘御が、只者で有るはずもあるまいに…。 のう、シルヴレッド……」


 ギロって、睨んどいた。 その名前はココでは言うな! ナイデン大公様、ちょっと引いてた。 ミャーの云う通り、この顔で睨ん見たら、ナイデン大公でも怯むんだね。 こりゃ面白い事だ!





「ナイデン大公さま、なんの事でしょうか?」


「いや、済まぬ。 しかし……あ奴、どう出るかな」





 あっ、話題、変えやがった。 そうだよ、目下の敵は、フランシスコ枢機卿だよ。 あの方の出方が気に成るよね。 さても、さても。 何時もの手が使えないって判ってらっしゃるのかな? まさか、術式が壊れた事、判んないなんて事無いよね? でも…… あれ? ……そうなの? 


 暫く、美味しい紅茶と頂きながら、ナイデン公爵様とお話してたんだ。 あっちのテーブルから、アマリリス様が立ち上がって、フランシスコ枢機卿様を引き連れて、私のテーブルに来やがった。 一応お客様だし、私だけ立ち上がって、頭を下げてみた。 何を言うか、ちょっと興味があったんだ。





「貴女が、ソフィア=レーベンシュタイン? 御評判はお聴きしております。 ……お綺麗な顔をしていらっしゃるのね」


「御方は、フランシスコ枢機卿様に、御座いましょうか?」


「ええ、そうよ。 ……クンクン、なにか、獣の匂いがするわね」





 コイツ、ナイデン公爵の事、揶揄してやがるな。 外交官として、マズいだろう、それは。 ナイデン公爵様の雰囲気が妖しくなる……。 多分、私が何も言わないと、ここで、宣戦布告って事になるね。 ヤバイ、ヤバイ。 反撃しちゃるよ。





「わたくしの専属侍女が半獣人族。 ……貴女も良く知った・・・・・・・匂いで御座いましょう? 高貴なる方と、同種の香りなれば。 なんでも、御手内のお花は、お手元から離された由」


「そ、そう……? ソフィアは、わたくしのお花をご存知なのかしら?」


「さぁ、なんの事で御座いましょうか」





 冷たく、ほんと、冷たく笑っといたよ。 フランシスコ枢機卿、顔引き攣ってるよ? 大丈夫? 冷たい笑顔の紅い目に怒りを載せてちょっとした事情聴取。





「ガンクート帝国の帝国至高教会の枢機卿の方であろう貴方様のご慧眼の前には、卑賎なる我が身など、芥も同じ。 そちらの教会でのお話、寡聞にして良く知りませんの。 お話を聞きたいのですが、よろしくて?」





 前から思ってたんだ。 帝国至高教会の教義って……なんか、聞いた事有るような気がしてね。 ほら、居たじゃん。 駅前とかに。 若い兄ちゃん二人組で、自転車に乗った、宣教師の真似事してた、外国人。 ” アナタハ カミ ヲ シンジマスカ? ” って、滅茶苦茶うざい奴等。


 あれと、同じ匂いがしたんだよね。 この世界の理とは、全く異質な考え方。 大精霊神とか、幾多の精霊をまるっと無視して、” 神 ” とやらが、この世界を作り出されたって、そう言う教義……。 自分達の信ずるもの以外を全て異端と断じる、驕慢さ。 


 そして、神の国に入る為に、罪を浄めよと脅迫する様な言葉の数々……。 神の御業と奇跡という名の、疑似科学技術……。 単に、石油が魔石に置き換わっただけなんだけどね。 そんで、神の使いって、あり得ない権威を積み上げていくさま……。




       だから、聞きたかったの。




 帝国至高教会の教祖様って…… 召喚者じゃ無いかなってね。 ほんと、まるっきり同じような教義だもの。うざい奴等がくれたパンフレットととね。


 つらつらと、色んなお話をして頂けた。 聞きたい事は、教祖様の事なんだけど、精神世界の話バッカリで、なかなか到達しない。 もう、恍惚した表情でね。 如何に神様が偉大で、私達が矮小かって事を、ほんと、嫌になるくらい。 そんで、その神様とやらが、人族が一番だよって言ったって話をね、延々聞かされるんだよ……。 



        だからさぁ、話の腰を折って聞いてみたんだ。





「ガンクート帝国では、百年祭をなさいませんの?」


「魔人との契約は、神の御心に反します。 降臨された至高なる教祖様が【これ】を破棄し、人族の世に光をもたらされました!」




 あっちゃぁ~~。 目が逝っちゃってるね。 ダメだコイツ。 要は、召喚された人が、どうも宗教関係者で、自分が命を張って、魔人族と交渉する事を嫌がって、自分以外・・・・の血を贖いに、魔人族との契約を反故にしたってこったね。 良く判ったよ。 





「なかなか、面白きお話で御座いました。 良く判りました」


「それでは、ソフィアも帝国至高教会への入信を……」


「しませんよ? 大協約を無視する様な方とは、これ以上お話する事は御座いませんもの」


「な、なんですか!!! ぶ、無礼な!!!」


「この世の理を解せぬ御方とは、これ以上のお話をする必要はないと、申し上げました。 この世界は人族のみで成り立っている訳では御座いませんわ。 御国は道を外されました。 周辺諸国への負担も考えず、己が正義に酔われた。 それも、良いでしょう。 その正義の行き着く先に何が有るのか、よくよく見られれば、お判りに成られると思いますわ。 では、ごきげんよう」





 席を立ちあがり、ガッツリとカテーシを決めて、失礼の無い様に礼儀だけは尽くして、



      斬り捨ててあげた。



 もう、あんたらとは、関係したくないって、前面に押し出してね。 フランシスコ枢機卿、顔色悪いよ?





「あ、悪魔め! じ、地獄に落ちろ!!」





 ふーん、そう言う事言うんだ。 ならば、戦争だ。





「貴女の為した事は、ナイデン王国、ノルデン大王国、エルステルダムの民に対する暴虐ですのよ? お分かりになりませんか? エルガンルース王国の民は、安寧を求めます。 責は、ガンクート帝国一国に在りますわ。 わたくしが悪魔? いいでしょう、その誹り、甘んじて受けましょう。 ……そうそう、貴女が行った事で、大国三国は、大変お怒りですわ。 もう、わたくしの手には負えませんのよ? レーベンシュタインは、三国の方々ととても良い関係にありますの。 お分かりいただけたでしょうか? それでは……」





 怒りマックス。 激おこですね。 でも、知らんよ。 私に怒ったとしても、私のエルガンルースにおける立場がどうなろうと、あんただけは決して許さないからね。 三十路前の一般職OLの怒りはね、あんたの思っているほど、軽いもんじゃ無いんだよ!!


 冷たく、冷たく、冷たく、フランシスコ枢機卿を見ておいた。 何なら、恐怖心を植え付けて置くのも良いかな?奴の使ってる防御魔方陣とか、【隠形】とか、全部粉砕しとくか。



 術式の裂け目に、目一杯の魔力を注ぎ込んであげた。


 さて、耐えられるかな? 





         バリン


                     バリン


     バリン





 ほらね……。 思った通りだ。 自身の魔力を使わない術式なんてこんなもんだ。 あっさりと全部壊れたね。 驚愕に目を見開いたフランシスコ枢機卿を後に、皆さんにお別れのご挨拶をして、中庭を退出したんだ。

 


         長い廊下を歩く。




 後ろに、ナイデン公爵様が忍び笑いをしながら着いてらっしゃるの。





「ククククッ  ソフィア殿……。 貴女は面白き御方だ」


「そうですか? 只の我儘な娘ですわよ?」


「左様、左様……。 そう言われると、思いましたぞ」





 あの人、結構この【処女宮(ヴァルゴ宮)】でもやらかしてらしたのかしら、行く先々で、侍従さん、仕丁さん、侍女さん達が、みんな頭を下げて下さってるの。 にこやかに微笑んで、ご挨拶しながら……、






    やっと、面倒な御茶会(外交案件)から抜け出せたよ……。








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