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記憶の彼方から ” あの人に逢うために ”  作者: 龍槍 椀
ビューネルト王立学園 三年生
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第69話 学園舞踏会に日は……

 



紅染月(ルートリック)




 日本で云う所の、10月ね。 三年生になってから、一月が経ったのよ。 授業はまぁね、まずまずかな?  あの魔女(エミリーベル先生)の猛烈授業にも慣れたよ。 特に先生が私に課する癒し系の魔法の課題についてはね。 




 ってか、なんで、大魔法扱いの魔方陣組ませるのよ!!




 お陰で、魔力がゴリゴリ削れるわ! しんどいわ! 倒れそうに成るわ! 頭パンクしそうになるわ! もう、しっちゃかめっちゃかよ!! けどさ、おかげで回復系、癒し系の魔法の実力はかなり上がったと思うのよ。 それには、感謝してる。 


 まぁ、感謝するってことは、実際に力が付いてきているのを実感できるからよね。 しんどい授業をこなせばこなすほど、術の精度は上がるし、強度も上がる。 他の魔術も引きずられる様に、強くなるもの。 実際、【隠形】のレベルもかなり上がった。 【処女宮(ヴァルゴ宮)】の感知魔法に引っかからないくらい、精度が上がったのよね。 


 その上、攻撃系も御同様。 輪っか付き鋼線に魔法糸絡めといたら、菱玉に付加魔法を付与できちゃうし、なんだかとっても、つおい! って感じになって来てる。 ミャーには ” 調子に乗るな ” って、良く怒られる程ね。 用心用心





 さて、【紅染月(ルートリック)】と言えば……





 新入生歓迎舞踏会がある月なんだよね。 一応、出欠を選ばせてくれるんだけど、なんか強制されそうなんだよね。 ちょっと、不穏な空気が流れてるんだ。 なんか、学生の間で派閥みたいな感じのモノが、生まれつつあるんだ。 学舎のあちこちで、勧誘とかそんな感じの事が起こっているのよ。



 首魁っていうか…… まぁ、引っ張り役? そう云うのが、居るんだよ。



 本来なら、ダグラス王子を筆頭とした、あの人の取巻きが全てを掌握してた筈なんだけど、二年の時に、マクレガーの脳筋が、そんで、三年に上がった時に、マーリンの魔術バカが消えたじゃん、学園から。 そんで、今、ダグラス王子の隣と言うか、背後に居るのが、エルヴィン=ヨーゼフ=エルグラント子爵だけに成っちゃってんだよね。


 いや、別に、困った事じゃ無いんだよ。 脳筋も、魔術バカも、「君と何時までも」の時みたいに、継嗣を剥奪されて、放逐、断罪なんて事じゃ無く、それぞれの目標とか成りたい姿とかを目指して、学園の外に飛び出して行ったんだもの。 力を付けて帰って来るって。 まぁ、そん時、ダグラス王子の与力に成るかどうかは、判らんけどね。


 で、エルヴィン…… コイツねぇ…… やっぱり、「君と何時までも」のシナリオの通り、脇が甘いんだよ。 自分じゃ、いっぱしの財務官とか、法務官とかだと思って、色々と吹聴しとるんだけど……実務経験が無いから、殆ど絵空事。 なんか聞いてる方が、恥ずかしくなるよ。


 そんで、ついに、外交関係の事柄についても、御高説を述べ始めたんだよ。 それを、ダグラス王子が良く聴くもんだから、高い鼻が更に高くなってね……。


 ちょっと、鼻もちならないんだよ。 と言っても、私と直接関係する訳じゃ無いから、現状放置なんだ。


 放置……なんだけどね。 こいつが原因で、派閥が出来つつあるってのが、問題なんだよ。 派閥っても宮廷の中の本物のドロドロした奴と比べたら、上澄み液みたいに、透き通った純粋な奴なんだけど、それ故に、ちょいと厄介なんだよ。





    派閥は全部で三つ。





 一つ目は、エルヴィンの御婚約者であらせられる、アマリリス=ローザ=カトラス侯爵令嬢 の一派。 エルヴィンの御高説を御信託の様に受け取ってる人達。 アマリリス様の傍らには、ダグラス王子の御婚約者候補筆頭であらせられる、ソーニア=エレクトア=マジェスタ公爵令嬢様が居られる。 


 で、主張はね……帝国至高教会の教えを最上とするんだと……。 外交も見直さなければならないんだと……。


 もうね……マジェスタ公爵の思うがままよ……。





 二つ目は、キャメリア=デイジナ=フィランギ侯爵令嬢 の一派。 なんていうのかな……? 大協約遵守派って言うべきかな。 宮廷魔術師のご家庭の人だから、誓約関連とかの秘め事とかに精通するお家の方だし、国の成り立ちを理解してもいる。 穏健な意見の持ち主なんだけど、結構苛烈な面も有るのよね。 「君と何時までも」の中じゃダグラス王子の頭脳的側面を担っていたわよね。


 そんで、主張はやっぱり、大協約に則るべきだってこと。 どんな人種にも上下は無いって。 魔人族も含めてね。 百年祭の意味もそこに有るって。 極めて常識的 且つ 《教条的》 な集団なんだよ。 そんで、彼女自身、王子の婚約者候補にも挙がっているしね。 


 気品あふれる人なんだけど、一歩引いた姿に、押しの弱さがあって、候補としては二番目。 でも、マジェスタ公爵の目の上のタンコブ状態なんだよね。 なんとか排除しようと色々となさってるらしいのよ。 ほんと、困った伯父様だこと。 お友達は、マクレガー子爵の御婚約者であらせられる、フローラ=フラン=バルゲル伯爵令嬢 だったりもするのよね。





 三つめは……派閥って云うより、有象無象。 筆頭は、クラベジーナ=ナスシズ=ファルクス 伯爵令嬢と、私。 両陣営から引き込みを狙われて居るけど、彼女も、私が頑としてどっちにも付かないから、皆さんイライラしてるって感じ。 


 クラベジーナ様は、王宮内の筆頭侍女さんを排出する家系の人だったから、ある程度なんだけど、この国の置かれている状況は御存じなのよ。 下手に動くと、マズいって良く判ってらっしゃるの。 柔和な笑顔の奥に、黒いものが見えているわよ。


 よく言えば、バランスを取って、陰に隠れてる。 悪く言えば、日和見を続けて寄生して生き永らえる、達人の家系。 暴走なんか絶対にしない、抑制と節制の達人なんだよ。 だから、こんなバカげた派閥争いから、一線を引いて離れてられるんだ。 どっちに天秤が傾こうと、知らんぷりするよ、この人は。


 私は……そんなのに、巻き込まれたくないじゃん。 日和見でいいじゃん。 私、元日本人だよ? 日和見、まぁまぁで、何がいけない? こんなちっぽけな所で、ごちゃごちゃやるより、【処女宮(ヴァルゴ宮)】の御茶会で蠢いた方が、よっぽど実りが有るんだよ。


 それに、気分は、大協約遵守派なんだけど、教条的に信じてる訳じゃ無い。 法は人が作るものよ。 大協約にしても、現世に合わない処だってあるもの。 そこをどうにかしないと、足枷に成るんだよ。 解釈の方法ですり抜けるには限界も有るんだ。 ほら、《ノルデン大王国》の国法だって、大協約の矛盾に引き摺られている処があるじゃん。 


 精霊様とのお約束だっていっても、数多居る精霊様全てが納得されている訳じゃ無いのよ。 最大公約数的な善処の塊みたいなモノなんだよ、大協約って。 だから、柔軟な運用が要求されるのよ。 それを、教条的に運用しようとすれば、自縄自縛に成るんだ。 そこが、キャメリアに与しない最大の理由だったりもするんだよ。


 まぁ、そんなこんなで、どっちにも付かない様に、態度を曖昧にしてたんだよ。 学園舞踏会においてはね。 





 ――――――――――――――――――――





「お嬢様、今週に入ってから、もう三十通目です」





 ミャーがそう言って、サロンへの招待状を持って来たんだ。 だから、平然と取り上げて、内容を確認して、ゴミ箱にポイってね。 差出人は両陣営の下位貴族の人。 派閥の長からはなんも言って来ない。 男爵家の令嬢への招待状だから、上位貴族から直接って訳には行かないらしいね。


 だから、つり合いの取れた男爵家の人からのお誘いなんだよ。


 でもさ、行かねぇよ。


 行ったら、絶対に出て来るだろうし、話し合いなんぞしたら、色々と退路断ってくるの目に見えてんじゃん。 だから、まるっとお断りしてんだよね。 ” 学業で忙しいので時間が取れません ” ってね。 おかげで、運動場での鍛錬もやめているんだよ。


 あそこに行ったら、ソーニア様と会っちゃうじゃん。 お家に帰ってから、お庭でミャーと鍛錬する事にしたんだよ。 ……こんな事が無ければ、ソーニア様とは鍛錬したかった。……だけどね。 まぁ、事情はお手紙にして、ソーニア様宛にミャーが届けてくれた。 ご納得してくれたよ。





「ソーニア御嬢様には、何とお詫びしたらよいか……」


「ミャー……と謂ったわね、貴方。 ソフィア様の侍女」


「はい、左様に御座います」


「……ソフィア様にお伝えください。 ソーニアは、馬鹿げたことには与しません。 でも、お立場は良く理解しております。 落ち着きましたら、また、お相手してくださいと」


「誠に……」


「このお手紙は、わたくしの宝物です。 誰にも見せません。 そう、誰にも。 ソフィア様にも、そう伝えてね」


「御意に」





 てな、会話がひっそりとした運動場で有ったらしいの。 ミャーが教えてくれたよ。 そん時、ソーニア様とっても寂しそうだったって。 ゴメンよ……。 落ち着いたら、また、全力で鍛錬しようね。 貴方の剣を振ってる時の笑顔、私は好きよ。


 のらりくらり躱してたら、歓迎舞踏会の日に近くなって来たの。 まぁ、そんなわけだから、欠席するつもりだったんだ。 顔合わせって言っても、私が高位貴族さん達に会ったって、向こうは知らんぷりするから、行っても無駄だしね!





^^^^^^^




 最終の意思を示す前日にね、【処女宮(ヴァルゴ宮)】の方から、緊急の御茶会の予定が組まれたのよ。 ほんと、都合よく、歓迎舞踏会の日にね。 やっほい!! これで、厄介ごとから逃れられる!! 





 そう、一瞬思ってしまった、私のバカ……!





処女宮(ヴァルゴ宮)】の方からの 「御茶会」の招待状ってだけで、厄介ごとなのは判ってる筈でしょ、私!!







くそっ! 







誰が仕組みやがった!!!







こりゃ、くそ面倒な、外交案件だぞ!






******************************



宛 ソフィア=レーベンシュタイン



来たる【紅染月(ルートリック)】晦日、【処女宮(ヴァルゴ宮)】において、茶会を開く。 ダグラス=エルガンの婚約者候補として、出席する事。 欠席は許されれない。 数名の他国外交官が同席される。 また、他国王族も同席される、心するように。



       エルガンルース王国 第一王子

            サリュート=エルガン



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