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記憶の彼方から ” あの人に逢うために ”  作者: 龍槍 椀
ビューネルト王立学院 二年生
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第64話 やっぱり今年も、温泉♪ 温泉♪

 


 学年末試験の結果発表!!!



 上位100位までの生徒の張り出しが、各教科と、総合順位出張り出されたんだよ。 みんなワイワイ言ってるね。 四組の大部分は、任官試験を受けに行っていたから、エミリーベル先生に直接結果を聞きに行ってる。



 今年も、かなり、いい線行ってるみたいよ。 何人かは、ホントにスレスレの所まで行ってた。 でね、栄えある第一号が、いたのよ。 そう、任官試験合格者。 


 オンタリオ男爵家の御三男、ルーク=ドバイ=オンタリオ様、ルークなんだよ♪ めちゃめちゃ頑張ってるなぁ‥‥って思ってたら、本当に任官試験突破しやがった。





「ソフィア! 合格したよ!」


「それは、おめでとうございます!!! 頑張られてれ居られたのは存じておりましたが、とても素晴らしいことですね」


「いや、みんなが手助けしてくれたお陰だ」


「ご自身の努力の賜物でしょう。 それで、何処に任官されるのですか?」


「一般職任官だから、人事部での振り分けがある。 その後、どの部門に入るかが決まるんだよ。 まぁ、配属先が決まれば、そこの専門知識を覚えねばならないし、実際に仕事をする為に、その部門に行かなければならない」


「来年度からは、更に忙しくなるのですね。 お勤め、頑張ってくださいまし」


「あぁ…… ソフィアには負けられんから……」


「はい?」


「いや、何でも無い。 では、これで失礼する。 これから、人事部での面接があるから」


「ルーク様の未来に、光あらん事を」


「ありがとう……。 では」





 めちゃめちゃいい笑顔で、去って行ったよ。 その彼を、クラスの女子が ポーッ と、見てた。 多分、彼は、これで何らかの爵位を貰って、一家を立てられる。 十四歳で任官試験を突破するって、そうそう居ないからね。 どっかの大貴族さんから目を付けられるかもしれないし、官僚さん達からの引きだって、有るかも知れない。


 頑張ったねぇ……。 未来を自分の手でつかみ取ったよねぇ……。 なんかとっても嬉しいよ。





 ―――――――――――――――――





 張り出された順位表の前は、黒山の人だかり。 去年私が頑張って、頑張って、頑張ったから、他の組の人達も頑張ったって……。 ホントかぁ? 


 四組のアノ魔女(エミリーベル先生)は、薄っすら笑いながら、” 他の組の人達も頑張っていたみたいよ ” とか、言ってたんだけど……。 結果は、どうも、四組の圧勝だった様ね。 去年より、みんなの順位が上がってた。 


 総合順位で、大体30位以内には、全員食い込んでたよ。 そりゃ、任官試験組と同じ授業だったもん。 手なんて抜けなかったもん。 友達みんな、泣いてたよ。 ポロポロ涙流してね。





「やるだけやったの……」


「死ぬ気でやったの……」


「死んでたの……」


「寝る暇も惜しんでね……」


「「「「やったのよ…… 私達」」」」





 そうね、頑張ったモノね。 夏休みにまた一緒にレーベンシュタインの領地へ一緒に行こうねって、合言葉まで作って……。 よくぞ、乗り切ったモノね。 


 そんで私……、 ほら、王宮に行って勉強したり、色々と時間取られてたり、それでも、アノ魔女(エミリーベル先生)は、許してくれなかったし……。 最後の二週間なんざ、睡眠時間が日に2時間切ってたのよ……。 眼の下ばっちり、クマ作って、ユラユラ動いて……。


 で、一組の御用達の場所へ行ってみた。


 上位10位の所へね。 今年はどうかなって、思ってた。 当然順位落してると思ってたのよ。 下駄だって履かせてもらえないし、試験の問題もそれとなく教えて貰ってた一組とは違って、全くの徒手空拳。 それにさ、武術だって、一般の組じゃ無いから、こっちも順位を落としてる筈だしね。




           ジャジャ~ン




 総合二位にだったよ。 一位はダグラス殿下だったよ。 はぁぁぁぁ……。 よかった、そんなに落ちて無かった。 得点率も去年とさほど変わって無かった……。 





「どうだ、今年は勝ったぞ!」





 ダグラス殿下のとても自慢げな声が私の頭の上で響いたの。 そりゃね、そうだよね。 凄くいい笑顔を顔に張り付けて、クルッと体を回して、ばっちりカテーシーを捧げるの。





「流石は、王子殿下に御座います。 卑賎なる我が身では、とてもとても……」


「そうであろう……。 来年も精進しろ!」





 そう言って、どっかに消えていったよ。 マーリンが近くに来てさ、いったんだ。





「ダグラス殿下は頑張って居られたよ……。 居られたんだが……、 あれでいいのか、レーベンシュタインは」


「何故で御座いましょう?」


「あの方の勉強は、学内試験の為の勉強だ。 如何に得点を得るかの……。 その為に、公務関連の勉強を一時停止したほどなのだ。 レーベンシュタインの様に、全てを熟して居る訳では無い……。 俺も人の事を言えた義理では無かったが、学園文化祭の時に、四組を手伝ったからこそわかるものが有るのだ。 君達下位貴族の知識欲には頭が下がった……。  益体もない、順位のみの勉強など、公務を始められてからは、何の意味も無い……。 殿下にはそれが判っていらっしゃらない」


「努力する姿勢は必要です、何事においても。 まだ、二年生ですので、いずれお分かりになります」


「そうだろうか?」


「たとえ、殿下がお分かりに成らなくても、周囲の方がご理解していれば、問題はないのでは?」


「……そうだな……それに、気が付いているならばな……。 殿下もお分かりになっていればな……」


「御心配事でも?」


「いや……何でもない」


「左様に御座いますか」





 なにか、悩んどるなぁ……。 まぁ、あっちから言って来ない限り、私からは何も聞かない。 うん、関りには極力ならない。 だって、面倒だもの。 軽く頭を下げて、その場を後にしたよ。 そうだよ、お楽しみの準備に取り掛からなくちゃね。






 ――――――――――――――――――――






 御領地へ帰る準備は、とても楽しい。 周りの男爵家の皆さんと連絡を取り合って、何を準備したらいいかとか、一緒にお買い物に行ったりとか…… 【処女宮(ヴァルゴ宮)】にも、夏の休暇と言う事で、お休みを申請して通ったしね。 今年もまた、四組全員が行く事になったよ。


 そしたらさぁ、やっぱり、エミリーベル先生もついてくることになったのよ。





「クラス単位での移動には、教職員が随伴するのが、決まりですから」





 って、めっちゃいい顔で仰られたよ。 狙ってたね。 いや、確信犯だね。 たぶんだけど、温泉の効能について、なんか論文をまとめてる感じもあるんだよ。 まぁ、大地の精霊様の恵みと、魔力がたっぷり沁み込んだ、温泉なんだから、何らかの効能があるに決まってるよね。


 身体の疲れとか、古傷とかは治るの知ってるけど、他にもなんか、効能があるんだろうね。 そういえば、あの温泉の底の泥を、エミリーベル先生は、持って帰ってたからなぁ。 ……王都のお家で、入浴剤にしたわけじゃねぇよな……? ほら、「草津の湯」みたいな……? ないよね?


 大型馬車を連ねて、レーベンシュタイン領へ帰ったのよ。 高い空、そよぐ夏の風。 何より、ストレスフリーになれるからね。 馬車の窓から、田園地帯がみえて、青々とした麦がそよいでたんだよ。 今年も、豊作だね。 レーベンシュタインの領地は、そんな穀倉地帯を抜けて、湿地帯にあるんだ。


 湖沼が沢山あってね。 ちょっとジメついているんだよ。 夜になれば裏寂しい感じがするんだ。 街道が整備されて、魔法灯火が並んだら、そんな感じも薄れるとは思うんだけど、まだまだ、お金が足りないからねぇ……。 うちは、貧乏なんだよ。 温泉が有名になり始めて、湯治客がボツボツ現れて来てるから、もうちょっと時間が経てば、何となく温泉地として、観光の目玉になりそう……かな?



     そしたら、もうちょっと、税収が上がるかも知れないね。 



 きちんと、街道を整備出来て、物流も良くなって、人の流れが多くなって……色々と考えちゃうよね。 湖沼の間を抜ける主街道。 まだまだ、寂しい道をボンヤリと眺めながら、領都への道をすすんだの。





 ^^^^^^





 アーノルドさんが、盛大に御出迎えしてくれた。 今年もまた、大所帯でゴメンね。 でも、これを生きがいにして、あの地獄の試験を通り抜けたんだから、許して欲しいなぁ。





「アーノルド様、今年もよろしくお願いします」


「お嬢様、大丈夫です。 ドンと任してくださいませ。 精一杯歓待させていただきます。 街の者達も、お嬢様がいらっしゃるのを首を長くして待っておりました。 どうぞ、ごゆるりと」


「まぁ、嬉しい事を! でも、何故ですの?」


「……お嬢様は不本意では御座いましょうが……」


「……もしかして……」


「ええ、お嬢様が、王太子妃候補として、宮殿に召されて居るからです。 領民にとっては、とても誇らしく我が領から、王太子妃…。 いずれ王妃様が誕生するのではないかと……領民にとっても、お嬢様は誇らしいのですよ」


「そんなぁ……。アーノルド様は、そんな事お思いになりませんわよね」


「……これでも、まつりごとが何なのかは存じております故」


「よかった……。わたしは、あくまでサリュート殿下の学園での目に御座います故」


「存じております。 御屋形様より、そのお話は伺っております。 それ故に、お嬢様に置かれましては大変な御役目かと存じます。 どうぞ、この夏はごゆるりとお過ごし下さいませ」


「ありがとう。 楽しみにしていたの。 ホントよ」





 アーノルドさん、とってもいい笑顔で迎えてくれたよ。 さぁ、お風呂、お風呂!! みんな、行くわよ!!





 ^^^^^^^^^^





 目の前に、湯気が立ち昇り、その先に深い色の湖が広がる。 視線は広がり、お日様の光がキラキラと舞っているの。 ゆっくりと、腕を上げると、纏わりつくような感覚の温泉。 お尻の下とか太ももの裏側には、細かい泥の感触。 白濁したお湯は、身体を包み込み、芯から温めてくれている。 


 代えがたい時間よね。 厳しい目も、煩い人も、やかましい作法も、なにも無い。 目の前に広がるのは、鏡の様に凪いだ静かな湖の湖面。 隣に座ってる、ミャーも気持ちよさそうに、目を細めているの。 勿論、私もね。 時々、バシャって音がするのは、一緒に入っている同級生が、顔に泥を塗ったくる音か、湖面を跳ねるお魚さんか…。…



    静かで、豊かな時間が流れるのよ。



 男湯は、ギャーギャー騒がしいけど、絶対に覗きが出来ないような仕様に成ってるしね。 万が一覗こうもんなら、生まれて来た事後悔するような事になるよって、お話ししてある。 アーノルドさんからね。 


 なんでも、民間の温泉で、覗きの被害が有ったらしいの。 でね、アーノルドさんに、お話が回って来て、此処の設備と同じ、犯罪抑止策がとられたんだって。


 結果、何人かの不届者が、電撃喰らって、再起不能になったらしいの……。 見せしめの意味も有ったらしいんだけど、それから、そんな不届者が激減したんだって……。 女性が安心して入れない施設は、不要だってことよね。


 そんなこんなで、今はとっても安心な温泉に成ってるって事ね。


 お風呂の後は、大宴会。 地元の高級食材を使った豪華絢爛なお食事なのよ。 これも、領民の人達からの差し入れなんだ。 とっても嬉しいよね。 で、クラスの皆も感激しちゃって、去年同様、色々とお手伝いしてくれるんだって。 今年も、衛兵さんと一緒に、魔獣討伐に行ってくれるって。 


 女の子たちは、この際だからって、うちの厨房係の人にお料理習うってさ。 あとねぇ……、 マックスと、メレンゲも来るって言ってたから、ダンスとか、音楽とかの練習もするって……。 なんか雅だね。 


 私は、ミャーと、温泉三昧よ。 ハッキリ言えば、この温泉の施設から離れたくないって所かしら。 御父様にお願いして、クラスの皆とはちょっと離れて、温泉のロッジに泊まってるのよ。 ご飯は、最初の大宴会以外は、こっちで取ってるの。


 疲れる事ばっかりだったからね。 ゆったりと、お湯につかるの、最高!!!!





 ――――――――――――――――――――




 月が綺麗な夜だった。 


 街の喧騒が遠くに薄っすらと聞こえる時間だった。


 お湯の中に体を沈めて、月を見上げていたの。 湯気が上がり、月あかりを揺らめかしていた。 銀の光が、辺りに舞っていて、濃密な魔力の流れが感じられるの。 この温泉は、大地の恵みと一緒に、魔力が多分に含まれているの。 エミリーベル先生はご存知みたいよ。 きっとその事を、論文にするんじゃないかな。




 ”癒しの霊水、我に力を……”




 そっと呟く。 私の周りの薄緑色の魔力がフワリと体を包み込むの。 別に怪我なんてして無いんだけど、ついね。 ストレートな力を感じるの。 体の中にこびり付いた、何かが溶けだしていくというか、洗い流してくれてると言うか……。


 気持ちイイよね。





「それなに?」


「治癒魔法。 サリュート殿下からの宿題。 何時でも使える様にしときなさいって」


「ふーん…… どの位の事が出来るの?」


「傷口が塞がったり、体力が戻ったり…… くらいからな?」


「……ミャーにもできるかな?」


「教えてあげる」


「ありがとう……   つッ!!!  ソフィア、伏せて!!!」





 ミャー声が私の耳を打つ。 反射的に、お湯の中に体を沈み込ませたの。 ズボズボって、なんか降って来てた。 お湯の中でそれを見つける。 矢の様だった。 なんか痺れ薬も塗ってあるよ、鏃に。 ミャーが湯船を飛び出して、盥の中に隠してあった、暗器を持って、飛んでった。 


 撃ち合う気配と、斬撃の音。 注意が逸れたらしいから、湯船の反対側に出て、【探索】で周囲を探る。 ミャーの気配を感じる。 あの子、裸だけど、強いよ。 暗闇はあの子の友達。 襲撃者が何者かは知らないけれど、残念でした。



「闇の右手」モードの彼女を止める事は、出来ないよ。 



 私もついでに、。【銀髪紅眼(シルヴェレッド)鬼姫(オーガレス)】モードに移行。 【暗視】【隠密】 そして、【探索】全部最大限で展開。 ミャーの気配を辿って、その周りを最大強度で探査。 


 判った事は、誰かが追われてて、目撃者に成りそうな私達を襲撃者が狙ったって事。 追われている人かなり弱ってるね。 【遠話】でミャーに繋ぎを取った。




(ミャー、だれか襲われている)


(こっちでも観測した、助ける?)


(そうね、だいぶ弱ってるからね…… 囮だと思う?)


(肌感覚としては違うと想う。 本気で逃げてるし、本気で追ってる)


(追ってる方は、手練れ?)


(訓練されているね、アレは。 正規の隠密部隊って感じ)


(やれそう?)


鬼姫(オーガレス)が一緒ならね)


(決まり。 着てる暇ないから、このまま行くね。 マーキング宜しく)


(狙撃、よろしく)




 盥の中から、菱玉を取り出したの。 両端輪っか付きの鋼線は、アップに結ってある髪の毛の中から取り出した。 足音も無く、塀の上に上り、屋根に駆け上がる。 視界良好。 ミャーがマーキング付けてくれた順に、菱玉を飛ばすの。 最大強度、三連発で。 


 私の観測結果も、ミャーに送る。 彼女の目には、彼女の【探知】の結果と、私の【探索】結果が両方映っている筈。 的確にマーキングをしてくれている。 次々に菱玉を飛ばす。 連射よ、連射。


 彼方ら此方に、頭を弾け飛ばした人がひっくり返っている。 追われてる人、急に追っている人達が乱れたの感じているみたい。 戸惑ってる雰囲気がアリアリだね。 ミャーも私も、【隠密】使ってるから、気配は感じない筈。 暗闇から突然、カウンター掛けられた、追ってる人達、滅茶苦茶混乱している。





 その混乱に乗じて……、




 殲滅して上げる。




 たとえ、流れ弾であっても、




 この領内で、私を狙った犯罪行為は、




 処罰の対象。 




 きっちり、落とし前つけてあげるね。







何処にいても、何かに巻き込まれるソフィアです。



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