第61話 二年目も、ポーション屋
ナイデン大公様の御茶会は、なんとなく上手く行ったと思いたいよね。 お家に帰って、御父様の執務室で、ミャーと三人で、やっと息を抜けた。 御父様も、あんな所に引っ張ら出されるとは、思っても見なかったみたいね。
「ソフィアと居ると、昔日のあれやこれやが、目の前にさらけ出されてくるな」
「ナイデン大公様と、なにかあったのですか?」
「色々とな。 防諜と諜報が我が家の役目。 相手は外交長官。 これで、判るだろう?」
「はい、御父様」
相当遣り合ったんだね。 命を狙い、狙われ。 それが、今は手を携えて……。 ほんと、面白いわね。 これが、大人の世界なんだよね。 統合された意思決定機関なんか無いし、緩やかにでも連携できる国際協議の場なんぞも無い。 それぞれの国が、それぞれの画を書いて、邪魔者を排除する。
まんま、中世の群雄割拠状態だもんね。
でもさ、それでもさ、世界の理を理解するならば、やっちゃいけない一線ってある訳じゃん。 《ガンクート帝国》は、それを越えた。 ルビコン川をわたっちまったんだ。 そうと知らずにね。 だったら、抗うよ。 世界の理を壊し、この世界に破滅をもたらす者にはね。
さぁ、難しい話は、ここまでだ!! 暫くは、どうにもできない。 周辺で、細々と動くしかない。
だって、私、男爵家の娘なんだもの。
―――――――
二年目の、校内文化祭。
【穀雨月】のメインイベント。 やっぱり、一組はチャリティー舞踏会を開催するらしいね。 そんで、二組は、なんかお芝居するらしい。 三組は……、 なんか売るって聞いた。 手持ちの不用品かな?
そして、我等四組……! 前年に引き続いて、ポーション屋に決定!!!
これまた、根回しをガッツリやらせていただきました!!!
去年のポーション屋、結構好評でね。 是非とも、今年もやって欲しいって、冒険者ギルドから要望が有ったんだって。 去年よりもみんな錬金能力上がってるし、アノ魔女も、めっちゃ乗り気。
それなのに、予算が…なんで、去年より減ってんの!!!!!
仕方ねぇ……。 出来る事をやるかっ!
去年と違った初動。 エミリーベル先生に言って、魔術の実地講座で、近くの森に連れてってもらった。 ほら、近くの森に出る、魔獣退治も兼ねた、攻撃魔法の実地研修。 裏で、冒険者ギルドの依頼を受けたの。 私が代表して、冒険者登録してね。 これで、もっとすっきりと、売買ができるんだ。
流石に去年は実績が無かったからね。 でも、今年は違うよ。
討伐完了の報奨金結構あったんだ。 ほら、もっと強い魔獣、魔物対策に、冒険者ギルドの人達が駆り出されてて、塩漬けに成ってた依頼があったからね。 それを私達の組全員で、虱潰しにしたんだ。 人海ローラー作戦ね。
普通だったら、こんな人数投入できない。 だって、クラス全員よ、クラス全員。 いくら、ちょっといい報酬だって、四十人くらいで分けたら、スズメの涙だもん。 だけど、塩漬け依頼をこなそうと思ったら、その位の人員は必要。
だからこそ、受けた。
私、冒険者。 みんな、その助手って事にした。
通ったんだよ、それ。 冒険者ギルドのギルドマスターなんか、めっちゃ笑ってたよ。 それで、その報酬で、依頼をかけるの。 なんでもいいから、薬草を取ってきて欲しいってね。 ほら、去年の一発目と一緒。 今年は、みんなで討伐クエストこなして、塩漬け依頼一掃したから、かなりのお金に成ったよ。
去年の事も有ったから、有名どころの冒険者パーティから、駆け出しの人達まで、ニコニコ顔で協力してくれた。 だって、この依頼、買取カウンターに薬草持ってって、買い取ってもらうだけで、達成できるように、お願いしたもん。 休憩時間にその辺の薬草ブチブチ千切って、彼等のクエスト完了時に、一緒に買い取って貰うだけで、もう一つクエスト完了して、報奨金貰えるんだよ? おまけにギルドへの貢献度も上がるんだ。 やるって!
翌週から、すんごい量の薬草が、四組の使っている倉庫に届きだしたの。 うんイイね。 それを手分けして、錬金したのよ。 そうそう、今年もね、来たんだ。 奴が。 マーリン=アレクサス=アルファード子爵が。 助かったよ。
「去年と同じでいいのか?」
「ええ、お願い出来ればいいのですが。 勿論、マーリン様にも、何かしらの特典があればと考えていたのですが……」
「特典? ……あぁ、それならば、お願いしたい事がある」
「はい、何でしょう」
「……知っての通り、私は今までが今までだ。 師事しようにも、誰も相手にしてくれない。 独力では、限界もある。 我が家では、それが当たり前になっているが……。 それでな、この度、宮廷魔術師を辞退した。 まだ、受理はされて居ないのだが」
「えっ? 何故ですの? 魔術を志す者にとって、宮廷魔術師は憧れ……。 その任を自ら辞されるのですか?」
「あぁ。 研究といっても、旧来の魔術をこねくり回す事しかしていない。 真髄と言うべきモノに到達するには……、 あの環境はかえって邪魔になる。 そこで、お願いしたい事があるんだ」
「はい……。 何で御座いましょうか?」
「森の民の魔術師を紹介してほしいんだ」
「えっ? でも……私には、そんな伝手は……」
「レーベンシュタイン領経由で、森の民の魔術師達が、大森林に帰還していると聞く。 その一人で良いんだ……。 ダメか?」
コイツ、どっからその情報手に入れやがった……。
「マクレガーと、フローラ、それに、フリュニエからの忠告もあったんだ……このままじゃ腐るぞってな」
「そうだったのですか。 判りました。 しかし、マーリン様程の方ですから、易々とは……」
「それは、レーベンシュタインが見てくれ。 私にはわからぬから。 師事できるような方を君が推薦してくれるのであれば、私は有り難い」
「そうですか……。 時間を頂ければ……、有難いのですが」
「宜しく頼む。 今年中には、宮廷魔術師を辞せる。 時間はあるから、頼む」
「はい。 御心に叶います方を、探します」
てな、ことで、取引成立。 でもなぁ…… 最年少で、宮廷魔術師に任官した人の師匠を探せって、無茶言うなよなぁ……。 全然心当たり無いなぁ……。 まぁ、頑張って探すか……。
今年は皆、銀級の錬金士に成ってるから、順調に錬成してるのよ。 品質だって去年より数段上よ。 マーリン驚いてたもの。 それでも、お値段据え置きにしたの。 だって、学生が作ったモノでしょ?効果にばらつきあるし、いくら証明書出したって、実際に使って今一つってあるじゃん。
だから、お値段据え置き。
私も、頑張ったよ。 産業廃棄物から絞り出して、もう一本とか、マーリンに教えて貰って、超高品質ポーションとかを錬成したのよ。
色々と勉強に成ったよ。
マーリン、驚いてた。
「レーベンシュタイン、君の錬成の能力をもう一度、計り直した方が良い。 その腕で、銀級は無い。 少なくとも、金級。 もしかすると、白金級かもしれん」
「えぇ? そんな事無いですよ。 出来たのも、マーリン様の教えの通りにしたまでですし」
「教わっただけで出来るんだったら、もっと、錬金士が沢山いる筈なんだがな……。 なんにしても、能力の検定は受けた方が良い。 先程の最高級のモノ、何と言われているか知ってるか?」
「なんでしょう?」
「……冒険者ギルドに持って行くといいよ。 買取カウンターで、驚いた方が、実感できる」
「??????」
困惑気味な私は、マーリンの云う通り、冒険者ギルドへ行って、作ったポーションを売ってみたんだ。 でね、いつも通り、にこやかに対応してもらえたんだ。 いいね~。 そんでもって、いつも通り、奥に持ってって、品質検査してもらったんだ。
「あの、ソフィアさん」
「はい、なんでしょうか?」
「ギルマスがお呼びです」
「えっ? なにか不都合でも?」
「ちょっと……。 此方に」
「はい」
なんか、不安だ。 マーリンが言ってたけど、物凄く不安だ。 トンデモナイ、毒でも作っちゃったとか。 そんで、怒られるのか……? まさかの販売停止とか無いだろうな……? 恐々、ギルマスの元に行ったのよ。 ギルマスが応接室の真ん中に座ってたよ。
ローテーブルの上には、ポーションの瓶。
なんか難しい顔してるよ。 ど、ど、どうしよう!!!
「済まないね。 ソフィア嬢。 来てもらったのは、他でもない。 このポーションについてだ」
「はい…… なにかトンデモナイ事してしまったようですね。 申し訳ございません」
「とんでもないと、言えば、とんでもない事だ。 この瓶は?」
「クラスメイトが土魔法で作った瓶です」
「そこに入れたという事か?」
「はい、左様です」
「この瓶では、品質が保持できない」
「はっ? い、いえ、上級ポーション用に錬成したもので、使用する前に、マーリン=アレクサス=アルファード子爵に【鑑定】して頂いておりますので……。 間違いが御座いましたでしょうか?」
「上級で有れば、問題は無い。 ……確認させてもらった所、此方の瓶を使ってもらわないと、お受けできない」
そういって、差し出されたのが…… エリクサーの瓶。 小さい奴。 あの中身を入れ替えると、優に20本以上になる。 エリクサー? えっ? えっ? えっ?
「こちらで、移し替えしても良いかな?」
「……エリクサー……なのですか? それは……」
「マーリン宮廷魔術師殿は、何も言われなかったか」
「はい……。 特に目新しい薬草も、素材も使われて居ませんでした」
「そこまで到達されて居るのか……。 ソフィア嬢、貴女は確か、銀級錬金士だった筈」
「ええ、左様に御座います」
「……今直ぐ、錬金能力の検定を受け直してもらう。 これでは、検定の意味がない」
「はぃ?」
「それと、この代金は、いつも通り?」
「ええ、そのつもりですが……」
「エリクサー二十本分以上をポンと差し出されるか! 貴方という人は……! 宜しい。判りました。 今後とも、宜しく」
「はぁ……。 よろしくお願い申し上げます?」
「では、これで」
という事で、もう一度、錬金検定を受け直しまして……。 等級が変わりました。 一瞬なんも変わってない様に見えたんだけどね。 今までは、銀級錬金士、 そんで新たに与えられたのが、銀級錬金術師なんだよ。
えっと……? 良く判らん。
学園に取って返して、まだ居た、マーリンに困惑気味に聞いてみたんだ。
「作ったポーション一本が、エリクサーだって言われて、ニ十本に入れ替えられたのです。 良く判りません。 さらに、錬金検定を受け直して……こんなものを頂けました」
そう言って、ライセンスを渡したの。
「はっ! そうだろう、言った通りだろ!!! レーベンシュタイン、君は錬金術師なんだよ!!! 君が銀級の錬金士だという方が無理が有るんだ。 おめでとう。 この国に十人も居ない、錬金の頂にようこそ!!」
ふぇ? ど、どういう事?
「力を入れて錬成しても、通常の魔法草から、エリクサーを錬金するなんていう芸当誰も出来ない。 方法は知っていても、私だって出来た事は無い。 出来上がったポーションを【鑑定】して、のけぞりそうになった。 君の手は、至宝の手だ。 何をポカンとしてるんだ?」
「い、いや、その、なんです……? こんな事って……」
「あのエリクサーは、いつも通りに?」
「え、ええ……。 置いてきました」
「ふ、ふふ、ふふふふ、アハハハハ! さぞかし、ギルマスも驚いただろうな! 王都のど真ん中にどでかい屋敷が買える程のモノを、アッサリと……! いや、まぁ、そこが、レーベンシュタインらしいのだがね」
「?????」
「これまで通りの、君で居てくれ。 凄い事なんだが、本人に自覚が無い。 そこが、君らしい」
笑いながら、マーリンは去って行ったの。 いや、ちょっと待て! 全然説明に成ってないだろ!!! 自分が、エリクサーを錬成? 良く判らん。 本気で判らん。 判らん事は、黙っておくに限る。 アイツも吹聴する様な奴じゃないしな!
潤沢な予算が貰えたと思っておくよ。
――――――――――――――――――――
模擬店は、去年同様、凄い人だかりで、大盛況。
飛ぶように売れた。
クラスの皆も、ホクホクしてた。
アノ魔女も喜んでくれた。 売り上げも、全額学園に寄付した。 莫大な金額だったよ。 これで、下級貴族のクラスにも、一級品の実験器具が手配されるって……。
その上、ちょっと良い事が有ったんだ。
アノ魔女が、クラスの皆を御実家の アデクラント伯爵家にご招待してくれて、歓待してくれた。
「よく頑張りました。 何人かは、金級錬金士の資格を取得されました。 誇らしい事です。 みんな、今日は楽しくしましょう!」
ってね。 帰る間際にね、コッソリ、先生にだけは、私のライセンスを見せたのよ。 そう、こっそりとね。 大々的に云うような事じゃ無いし……。 一応、先生だし。 知って無くてはいけなさそうな人だし……。
そしたら、ライセンスを見た先生……。
ビックリし過ぎて、ひっくり返って……、
気を失われたんだ。
ソフィアの能力が、世界の特異点という事で、
また、爆上がりしております。
彼女が望む、世界の平安は、来るのでしょうか。
ソフィアは思います。 個人の能力がどれだけ突出しても、流れを変える事は、至難の業であると。
それでは、また明晩、お逢いしましょう!!!




