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記憶の彼方から ” あの人に逢うために ”  作者: 龍槍 椀
ビューネルト王立学院 二年生
60/171

第60話 世界の重鎮達と固まる決意

 



 ゴトゴト走る、うちのちょっと古めの馬車の中。 あ~~沈黙が重い。




 大森林 《 エルステルダム 》の賢者様が一緒に乗ってるってだけで、ピリピリしとるのに、その御仁がなんでか私をじっくりと見とる…… あ、あのね、この国じゃそれ、誠に不躾な所作なんだよ? それにさぁ、婚約者候補っていうのもあるし……。


 口を開こうにも、何処に話の糸口があるかわかんねぇしなぁ……。


 御父様も、ミャーも一言も口を開かないし……。 どうしようかな……? で、でもまぁ、ナイデン大公閣下の元へは、もうちょっとだから、我慢しとくか……。 笑顔の仮面を張り付けたままね。 ピンと背筋を伸ばして、賢者ミュリエ=ウッダート様の視線を受け流して置くか……。





「なるほど」





 やっとこ、言葉が馬車の中に紡ぎ出された。 でも、なんで、そんな重く低い声のなの? 意味不明だし……。





「ナイデン大公様が、なぜあなた達と御一緒にと言われたか、判りました」


「どういう事ですかな?」


「人物を見ろとの思し召し。 エルステルダムでの一つの儀式に成りますが、簡易的にそれを行ったまでです」


「試されましたか?」


「済まないが……そういう事です」





 御父様と、賢者様の交わす言葉は、私には意味不明。 ミャーはなんか感づいているみたいね。 いいや、私だけ蚊帳の外だけどさっ! 確かに森の賢者様にはじっくりと穴のあくほど見詰められて居たけど、何してんのかは分からんかったよ。 深い緑色の瞳に揺らめく、淡い光はそれはそれは、荘厳な雰囲気を醸して居たけどね。


 まぁ、私にとっては、「見られてる」以外の状態じゃ無かったから、其処まで気にする必要が有るとは思えなんだし……





「お嬢さんが私を、森の賢者として認識されても尚、気負う事無く、凛とされて居る様子。 まさしくナイデン大公閣下のお話通り」


「物知らずな娘であるだけかもしれませんぞ」


「それは……無いですね。 宮廷での話、この国の宮廷魔導士達の話から、お嬢さんは、他国の事をよくご存じですから。 この国の他のどのお嬢さんよりも」


「……何を為されようと?」


「可能性を……」





 ほらまた、意味不明だよ……。 結局、良く判んないまま、《ナイデン王国》の公館に到着したんだ。





 ―――――――





 《ナイデン王国》公館は……重厚な館だったよ。 あちこちにケモミミの衛兵さんが立っててね。 それで、物凄い威圧感出してるんだ。 誰一人、厄介な人は中に入れんぞ! ってね。 車寄せに馬車が着いて、扉が開かれたのよ。


 御父様、賢者様、私、ミャーの順番で降りたんだよ。 そしたら、びっくりする光景が広がってた。 並みいる公館の人達が、みんな膝をついて胸に手を当てて、頭を垂れているの。 あはっ! そうだね、本来なら、賢者様に対するには最上級の礼を以てしなくちゃならないもんね……。 


 お忍びって事で、【礼則】吹っ飛ばしてたよ。


 賢者様、片手でそれを制して、公館の中に入って行かれた。 もう、どうしようか?





「レーベンシュタイン男爵様に置かれましては、ご家族様とご一緒に此方に」





 執事さんが出て来て、慇懃にそう仰れられたんだ。 ケモミミのカッコいい人だったよ。 モノクルがキラリンなんて、光ってね。 ご招待頂けているのだから、そこはきちんと挨拶をしたんだ。 挨拶は大事。 御父様のご挨拶の後に、私のご挨拶ね。





「ご招待、痛み入る。 ブロイ=ホップ=レーベンシュタイン男爵だ。 同伴は、娘ソフィア、ソフィアの侍女ミャー。 ご要請のまま、同伴致した」


「ご招待、誠に有難うございます。 レーベンシュタイン男爵が娘。 ソフィア=レーベンシュタインに御座います。 どうぞ、よしなに」





 左手でスカート、右手を胸に、軽く会釈。 執事さん、ちょっとびっくりした表情をしてたね。 まぁ、想定内。 笑みを浮かべられた執事さんは、私達を公館の中へ誘って下さった。



 さて、この公館……。 一目見て重厚だなぁって思った。 中は……、最前線の砦と変わんないね。 綺麗な装飾とか、絨毯とか、絵画とか、壺とか、そんな物一切無いのよ。 錬石の壁がずっと続くの。 魔法灯火が壁面を照らし出しててね……。遮るものはなにも無いの。 ミャーと顔を見合わせて……、



 ”こりゃ手強いね”

 ”忍び込む手が……表からでは、無理でしょう”

 ”ここが、そうなら、裏側もガッチリでしょうね”

 ””流石は、ナイデン王国の出先機関ね””



 遠話で、話しちゃったよ。 此処に逃げ込まれたら、外側からは、どうやったって、抜けそうにないね。 獣人国って云うのは、やっぱり、そういうお国柄なんだね……。


 執事さんに従って、大きな扉を抜けたんだ。 後ろで衛兵さんが扉が閉めてた。 うはぁ、これで、勝手に外には出られなくなったね。 そこで、気が付いたんだ……。 向かっている場所……、屋敷の中央の中庭だって。 風にお外の香りが混ざり込んでるんだ。 春の香りって云うのかな? そんな感じの匂いがね。





「こちらに、御座います」





 執事さんが、一枚の扉の前に立って、そう仰ったの。 う~ん、何でもない様な扉なんだけど、滅茶苦茶色んな防御魔法掛かってるよ。 重防御、耐魔法、耐物理……。 迂闊に手なんか出せないね。 弾かれるよ。


 執事さんが扉を開けられるのをまって、その扉を抜けたの。


 燦々と降り注ぐ陽光が、その場所を明るく照らし出していたわ。 思った通り、中庭だったのよ。 広い中庭の中央に、白いテーブルが置かれていて、そこに数人の人影があった。 


 遠目に見てわかるのは、この公館の主である、ナイデン王国の大使。 その上官である、ナイデン大公閣下。 森の賢者の、ミュリエ=ウッダート様。 そして、見知らぬ御顔だけど、その方の着ている正装から、《 ノルデン大王国 》 の方だって判ったの。


 テーブルの近くに寄ってね、バッチリ カテーシーを決めて、ハッキリとご挨拶申し上げた。 御父様の後に続いてだけどね。





「御茶会のご招待、誠に有難うございます。 レーベンシュタインが娘、ソフィア=レーベンシュタインに御座います。 何卒、よしなに」





 そういえば、この場に女性は、私とミャーだけだね……。 意味わからんよ。 それで、御茶会だもんね。 なんか悪巧みしている、おっさん共に捕まった感じ……。 それに、この値踏みする視線……。 まぁ、下位貴族だからね、私達……。





「これは、痛み入る。 さぁ、お席に。 おい、ダーストラ、睨むな」


「睨んでなど居らぬ」


「もうちょっと、どうにかしろ……。 あぁ、この御仁は、ノルデン大王国 外務官のダーストラ=エイデン殿だ。 いつもこんな感じだから、気にするな」




 あぁ、この人がそうだったんだね。




「ダーストラ=エイデン様に御座いますか。 ソフィア=レーベンシュタインに御座います。 御噂は、かねがね、お聞きしております。 ノルデン大王国、エスタブレッド大王が懐刀にして、彼の地の宿将。 老練という言葉をダーストラ様以外に使うなかれと……。 御目に掛かれて光栄に存じます」





 御名前と、御噂と、外見が一致したよ。 うん、この人がそうなんだ。 また、とんでもない人、呼んだんだね、ナイデン大公様。 この人が出張ってるなんて、聞いてないよ。 凄くきな臭いよ。 なに、我が国は、三方の大国に狙われるの?





「いやはや、ソフィア殿は!! おい、ダーストラ、どうだ、この可愛い外交官は」


「うむ…… 卿が眼を付けるだけはあるな」


「ははっは! まぁ、座ろうか。 茶だ! それに、この場では、エルガンルースの言葉を使おう。 余計な修飾語も、腹芸も無しだ。 あれは、疲れるからな!」





 長テーブルに付くと、いい香りの御茶が出されたよ……。 はぁ……緊張するね。  出されたお茶……、エルガンルースの御茶だったよ。 話題は、この国に付いてだね。 判った。 気を引き締めるよ。





 ――――――――――





 御茶会は……。 腹芸なしって言われたけど……。いや、もうなんで、ああも明け透けに言うのかね。 エルガンルースが置かれている状況を、三大強国のお偉方からガッツリと説明してもらったよ。


 それにしても、なんで、私に?


 疑問が疑問を呼んだんだ。 ある程度お話を聴いてから、その疑問をぶつけてみた。





「他に言うべき者が居なかった……。 そう言うべきかな。 エルガンルースの国王陛下以下、国の重鎮たちは、事態を甘く見ている。 これは確実だ。 その中において、ソフィア嬢が南の動向に気を使って居られる。 最初はレーベンシュタイン男爵の指示と思って居ったのだが」





 まぁね、普通の御令嬢ならばそうだよね。 





「レーベンシュタイン男爵は、エルガンルース国内において、不遇な位置に居られるが、我らの様な役職に就く者にとっては、この上ない好敵手。 その節は、色々とな……」





 ナイデン大公閣下が、御父様を射抜くような視線で見られるのよ。 御父様その視線を受けても、平然としておられるけどね。 ダーストラ様が、面白そうな光をその強面に浮かべて、私に語り掛けて来た。





「ナイデン大公をここまで追い詰めた御仁の娘御。 いや、面白い。 儂の顔を見ても、ひるみも、おびえもせんとはな。 聞いたぞ、賢者殿の諮問の視線を跳ねのけられたと」


「えっ? その……判りかねますが?」





 そっと、ミャーが私に耳打ちしたの。 馬車の中での事。 じっと見てたでしょって。 あれがそうなの?





「いやはや、驚きましたよ。 我が国の、魔術師達でも、簡易とはいえ、あの視線をまともに受ければ、精神が焼けます。 それを、いとも簡単に跳ね除け、あまつさえ、見返して微笑まれるとは! 恐れ入りました。 どれ程の魔力を有せられているのか、計りかねます。 それと……なかなかの使い手と」


「賢者殿、どういう事かな?」


「ナイデン大公、それがな……」





 賢者様、私が、ミャーと一緒になって、周囲警戒とストーキング探索やった事、知って居られた。 あっれぇぇぇ? あれ、相当判りにくくしてたんだけどなぁ…… ひとしきり、そんな事を言って、笑ってらした皆様。 なんか、居心地悪いねぇ……。 で、ナイデン大公閣下が急に真面目な顔をして、御父様にお尋ねされた。





「男爵、宮廷でのソフィア殿の動きについて、お聞きしたい」


「どのような事でも」


「ソフィア殿の宮殿での動きは、本当に男爵が命では無いのか?」


「ソフィアには、幸せになってもらいたい。 何にも縛られず、自由に。 レーベンシュタインが者達は、皆それを願っている。 そして、ソフィアがしたい事、やらねばならぬと感じた事には、全面的に手助けをする。 我が家は、エルガンルース王家から切捨てられた。 ならば、如何様に動いても問題は無い。 私は、あの王家に仕えている気はもうありませんからな。 全ては、我が愛しの娘、ソフィアの想いのみ。 そのソフィアが一番に想うのが、エルガンルースの民草の安寧。 自身の事よりも、それを優先させる愛娘の気概を、親である私が掣肘などできません。 それが真実でございます」


「……ならば」


「ナイデン大公、其処までにしよう。 これは、エルガンルースの国内の問題。 如何なる事になろうとも、準備を怠らなければよい」


「左様。 エルガンルースの中に、世の理を解する者が居る。 それが何よりも重要。 まだ、時間はある。 この小さき者の慧眼を以てして、この国の行く末が決まるやもしれんからな」


「賢者どの……。 ダーストラ殿……。 判りました。 もう暫く、時間はありましょう。 ナイデンは、この小さき者を見守ります」


「それは、御同様。 ソフィア殿、妹が事、宜しくな」


「ほう、そちらにも、尽力されているか!」


「ダーストラ殿、その他にも色々とな。 いずれ、礼を尽くさねばならんと、思って居る」





 三人の超重鎮様達の言葉に、背筋に寒いものが走るの。 なんだこれ? マジか? お国が平穏無事でなくては、私が自由に動けないから、必死に成ってるだけなのに……。 



 でも、まぁ、三大国の人から、しばらく様子見しますよって、お言葉貰えたから、良かったよ。



 現状、どうにもならないしね。


 マジェスタ大公閣下の思惑とか


 王家の恋愛脳とか


 ガンクート帝国の意思とか



 ……ね。







         私は、この世界に生きているの。



        だから、私はこの世界が壊れる様な事、



             認められないの。




      この世界で、私は特異点となってしまった自覚はある。




               だけど……




          だからこそ、この世界を護りたいの。








          「君と何時までも」の役割には無かった、






                   私の、



                  私だけの、



                   役割。








                  この御茶会で、






 





                それが、はっきりした。







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