表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/171

第6話 強制力という名の頸木





 実際に頑張ったのよ。 十歳までの五年間。





 いろいろとね。 御父様に「技」を、マーレさんに「男爵令嬢としての基本と実践」を、ビーンズさんに「領地の事を含めた勉強と、御家の「お仕事」関連」を、()()()頂いたのよ。 ミャーとの約束を果たすために、必死に勉強したわ。  そして、ビーンズさんには、並行して、色々と調べて貰ってた。



     調べて貰った事は、当然、「ミャーの事」



 暗殺ギルドの中で何が起こっているか、判らなければ対処方法が判らないもの。 彼女は私の大切な親友なの。 ギルドマスターは御父様に友好的なんだけど、暗殺者ギルドの誰かが、批判的というか、非友好的というか、敵対してるってわけね。


 それは、きっと男爵家のいわゆる「お仕事」が、絡んでいるからだと思うのよ。 その辺を中心に、ビーンズさんに調べて貰ったの。 そしたら、とんでもない事が判ったの。 


 副ギルドマスターが絡んでるって事。 その人が今、御父様の担当をしているって事。 もう一つ、その人、ギルド長に成りあがろうとしてるって事。 それら全て、マジェスタ公爵家が裏で糸引いてたって事。


 どうにかしないと、ミャーの身が危ないわよね。 御父様にはビーンズさんを通じてお話は通してあるの。 ミャーからも直接、ビーズさんに「何でも」云うように、お願いしてある。 危険なダンスを踊っている気分がするのよ。 でも、やり切らないと、ミャーは殺害されて、私には断頭台が待ってる。 だから、必死だったの。


 世界の意思(シナリオ)は、確実にミャーを排除しようとしてるよね。 そうならない様に努力はし続けているの。 ミャーには、「ギリギリ」まで、暗殺者ギルドで勉強してもらった。 やっと。 本当にやっと、私が十歳の誕生日になった。 ビーンズさんにでっち上げて貰った「嘘の誕生日」だけどね。




     その日に御父様の執務室に呼ばれたの。



***********************************



「ソフィア。 ミャーの事で、ギルドから要請があった」


「どの様な()()でしょうか? 御父様」


「ミャーに 「()()」 を、回して来た。 卒業試験を兼ねて、とある貴族のボンクラ息子を一人、この世から消し去る事だそうだ」


「お受けになりましたの?」


「君の意見が聴きたい」


「……条件付きでしたら……、良いと思います」


「条件付きで? なんだろうか?」


「ミャーの行動制限を一時、無制限に。 目標だけでなく、暗殺者ギルドのから派遣された護衛の方も同じく逝ってもらいます」


「……やはり、知っていたか」




 御父様の眉間に深い皺がよったわ。 私が色々と動いているのは、ご存知でしたから。 熱心に、御父様の「技」も学んでいたしね。 




「ビーンズさんのお陰ですわ。 あぁ、その前にギルドマスターには副ギルドマスター排除の御許可貰わねばなりませんね」


「……其処まで知っていたか」


「だって、大事なお友達の事ですもの」


「……そうだね……。 それも……、いいかもしれないね」



 御父様もかなり頭に来てたみたいね。 代々の ベルンシュタイン男爵家の当主様は、『お家の方々』 を、とても大切にしてらっしゃるのよ。 仮にその方々の誰かが害されようものなら、害した方は早く殺してくれって言う様な目にあわれるらしいの。 


 ミャーも、もう「ベルンシュタイン男爵家」の一員よ。 教育担当してた方々、その事知ってたのかしらね? 



―――――



 ミャーのお仕事の件、御父様はお受けしたの。 勿論、ミャーには、私からも伝えたわ。 だって、半分以上は私の為でも有るんだもの……。 親友を失いたくも無いし、死にたくない。 だから、御父様の判断に従ったの。 生き残る為の必要な危険よね。




「うん……。ソフィアが、行けって言うなら、「お仕事」に行って来るよ。 なにも、制限しないって……、 旦那様に、そう言われた」


「無事に帰って来てね。 ミャーの能力(ちから)の限りを使ってね」


「……ソフィアぁ……」


「なに?」


「ミャーの手は、血に汚れるよ? ちょっと……、心配だな。 血に汚れた手で、ソフィアの側に居るの……」


「……ミャー……。 貴女の手が血に汚れるのと同じくらい、私も汚れるから……。 大丈夫、生き残るために必要な事だから心配しないで」


「……嫌いにならない?」


「なるわけが無いよ。 お願いしたの私だもの。 貴女はね、私、ソフィアにとっての……」


「「盾と剣」」




 最後は、二人して笑いあったの。




 ―――――





 ほどなく、ミャーの最終試験は終わったわ。 本当に呆気ない位に。 目標ターゲットの貴族の息子さん、寝てる時に心臓が急に止まって亡くなったって。 



 公式には 「 病死 」  



 見事な手腕だったって、御父様が、そう仰って下さったわ。 


 その貴族の息子さんの護衛の人……。 ()()()が居なくなったって。 副ギルドマスターの手下の人達らしいね。 行方が分からなくなったって……。 ビーズさんを通して、暗殺者ギルドのギルドマスターから、連絡があったの。


 ミャー、どっかで纏めて殺ったって事ね。 誰にも知られず、闇に葬ってしまったのね。 きっと、闇の精霊様のご意志も大きく働いていたのよね。 そうでなくちゃ、いくらミャーでも、こんなに手際よく、暗殺者ギルドの人達を、闇に葬れないよ。



 あっちから仕掛けてきたって事よね。



 御父様にも話を通して、「 闇の精霊様 」を召喚したの。 事情を話すためと、その時、なにがあったのかを聞くためにね。 召喚は上手く行って、欲しかった情報は全部もらえた。 そうか‥‥‥、あいつら、実力行使に出てきたわけだ。 世界の意思(シナリオ)、そんな事……、考えていやがったのか。 


    返り討ちにして、潰したけどね。


 暗殺者ギルドの守護精霊である、闇の精霊様との約定を守らない奴らに、精霊様の加護は無い。 精霊様も相当お怒りだしね。 ”やっちゃっていいよね” って、お伺いを立てたのよ。 私は、ギルドメンバーでは無いんだけど、精霊召喚するだけの魔力があったから、直接聞けた。 



” 我が盟約を守らぬ者に鉄槌を! ”



 よし、許可はもらった。 あとは、機会(チャンス)を、待つだけだ。 そんなに待たなくてもよかったよ。 



 暗殺者ギルドの、ギルドマスターから、連絡が有ったの。 一度、会いたいって。 御父様は承諾して、私も、連れて行ってもらったの。


  



―――――




 郊外の古い、今は廃された貴族のお屋敷。 その薄暗いお部屋に招待されたの。 部屋は、かなりの重防壁が立てられて、安全と秘密は保たれる様にされて居たわ。 調度は貴族のお屋敷に似合わない、質素な物だった。 がらんとしたお部屋は、この部屋に来る人たちを闇に隠れて抹殺出来ない様に、配慮されて居るの。


 私達が到着した時、暗殺者ギルドのギルドマスターと、副ギルドマスター、そして、教育係で実際にミャーの相手をしてた人が居たわ。 一通りの「ご挨拶」が終わった後、御父様が尋ねられたのよ。 今回の「お仕事」になんで、ミャーを使かったのかってね。 ギルド長は何も言わず、副ギルド長に視線を送ったの。




「あの子の卒業試験ですよ。 なに単純な暗殺ですから。 まぁ、及第点ですね」




 不敵に笑ってるね。 単純? あんたの手先が護衛についてたじゃないか。 それに、相手は ” ぼんくら ” とはいえ、れっきとした伯爵家の御長男だよ? それを一人で? 普通はありえんだろ。 殺す気満々じゃないか。 若干、焦りが見えるね。 そりゃそうだ。 絶対に()る気だったのに、失敗しちゃたんだもんね。 その上、子飼いのギルドメンバーも失っちゃたしね。




「君達からの考課表を見る限り、ミャーには荷が勝ちすぎると思ったのだが?」


「そうですか? このくらいはやってもらわねば、ギルドメンバーとして認められませんが」




 虚勢か? 尊大な言葉に、”ふわり” と、私から ”闇の精霊様” の、気配が漏れ出す。 ここに来る前に、暗殺者ギルドが忠誠を誓う精霊様にお伺い立ててあったからね。


 精霊様とギルドのメンバーの間には神聖不可侵の約定があるの。 ”ギルドメンバーは、故意に互いを傷つけあってはならない” ってね。 彼が嘘を吐いているって、判断された様ね。 これで、決まり。 もう、掣肘するモノは何も無い。 


 精霊様の約定を違えると、加護が失われるの。 さらに継続してそれを行うと、精霊様の怒りに触れるのよ。 もう、お怒りに成ってるわ。 だって、ミャーを殺害しようと、あれだけの人員動員したんだもの。 ミャーが、単独で排除したけどね。 イラッって来て思わず口に出ちゃった。




「ミャーを、殺そうとしたくせに。 どの口が云うのでしょうか」




 私の声に、副ギルド長が眉を顰めるの。 ”何を言っているのだ” って、感じかな。




「どなたですかな? 大人の話に首を突っ込む お嬢さんは。 子供は口を慎みなさい」


「あら、ミャーは、わたくしの侍女ですわ。 私の命無くして、ギルドには行かせませんでした。 彼女への命令権は私にあるのですよ。 この事は、ギルドマスター様も御存じですわ。 ……お父様も、ギルドマスター様も、彼女が全制限解除の上、()()()をすべて排除する事を了承されましたわ」




 御父様、ニヤリと笑ってるね。 その副ギルドマスター、手下の消息が消えた事によほど、動揺しているのか、私の言葉にいきなり反応したのよ。




「子供が大人の話にしゃしゃり出るな! 子供の戯言ざれごとなど、聴く耳持たん!!」




 激高したね。 じゃぁ、最後の詰めを、始めますよっと。 すっと立ち上がって、その人を見降ろして言うわ。




「ギルドメンバー同しでの殺し合いは、”闇の精霊様” の、ご意志に反しますわよ? わかっておいででしょ? ミャーを苛んだうえ、殺害しようと画策しておいででしたわね。 知ってますわよ。 当然、誰の指示かも。 あぁ、子供の言う事など、お聞きになりませんでしたわね」




 ザっと彼らの視界を暗闇が包んだの。 「闇の精霊様」が、とうとう痺れを切らしたんだね。 対象外なのは、私と、お父様と、しっかりと誓約を守ってらっしゃるギルドマスター様。 




「っ!」




 ほら、視界を奪われただけで、更に動揺する。 ミャーはこんな事ばかりされていたんだよ? あんたら、教官なんだろ? 対処できる筈だろ? ほらほら。




「この場で、「闇の精霊様」に、視界を奪われたという事の意味‥‥‥お判りになりますでしょ? 加護の剥奪はおろか、「闇の精霊様」の御怒りを買ったのよ。 さて、わたくしは、ミャーの”耳”と、”痛み” の、お返しをいたしますね」


「まっ、まて! ギルドメンバー間では傷つけあっては‥‥‥」


「あら、わたくし、暗殺者ギルドのメンバーでは御座いませんわ? だから、自由にしてよいと、「闇の精霊様」から、お言葉を頂いておりますの。 たかが子供の、戯言なのでしょ? ならば、抵抗されては如何でしょうか? 出来るのならば、ですが」



 

 冷たく、凍えるような声で、そう言ってあげたの。 だって、全く反省の色ないもの。 「闇の精霊様」物凄いお怒りよ?  私がどうこうしなくても‥‥‥ねぇ。 物凄い恐怖が、この人達を襲ったみたい。 彼等だけの暗闇の中で、必死に足掻こうとしてたの。 




 ……無駄なのにね。




 取り合えず、ブンブン短剣を振り回してる、ミャーの教官してた人の「左耳」削ぎ落しといた。  副ギルドマスターには 【 幻の痛み(ファントムペイン) 】で、ミャーの受けた痛みを ”お返し” しといた。 部屋中に絶叫が響くの。



 うるさいなぁ‥‥‥。 仮にも暗殺者ギルドの人でしょ? そんな、痛みに弱くてどうするの?




「た、高々、男爵風情が!!! わ、私には、マジェスタ公爵家が付いているのだぞ!!! こ、公爵家の後ろ‥‥‥」




 語るに落ちやがった…… 馬鹿め。




「マジェスタ公爵家の方は、闇の精霊様と、契約を交わしておりませんわよね。 残念なこと。 それでは、暗殺者ギルドを統べる事は、叶いますまい。 お考え違いしないでくださいね」




 ギルドはあくまで、そのギルドを守護する精霊様との契約に立って、設立されるの。 人が後ろ盾になったとしても、加護なき組織は早々に潰されるよ、ギルドの守護精霊様に。 それに、マジェスタ公爵って、国務長官の役職を戴いているわよね。 そんな人が、自ら、暗殺者ギルドの後ろ盾になったと言うかな? あり得んでしょ? 馬鹿なの?




「‥‥‥あぁ、「闇の精霊様」からご伝言です。 あなた方と、御仲間さん達は、闇の名簿から削除されたそうです。 そして、命じられました。 本日只今より、あなた方は、暗殺者ギルドを除名され、狩られる立場になりました。  もう、お逢いする事も御座いませんわね、ごきげんよう」




 冷たい口調の、御別れのご挨拶が、私の口から出たとたんに、ギルドマスターが、合図をして闇から湧き出した方々が、二人をどっかに連れて行った。 


 彼等の叫び声と喚き声が、響き渡っていたの、お部屋の中にね。 命乞いもあったかしら?  誰も、その絶叫に一片の興味も抱くことなく、彼等は連れて行かれたの。 


 暫く沈黙が部屋の中に漂ったの。 居ずまいを正した、御父様がギルドマスター様に向き直った。 ギルドマスターが、深々と頭を下げられたわ。



「レーベンシュタイン男爵……。 済まなかった。 全貌が明らかになるのが遅すぎた。 今回の失態……」


「ギルドマスター、良いのだ。 後悔は私もしている。 ソフィアからの報告が無ければ、私とて、足を掬われていた」


「……まこと、ソフィア様は、良き目をしておられる」




 御父様の隣に座り直して、真っ直ぐに、ギルドマスターを見てたから、そう言われたのかもね。 ……今回の「事件」は、結局、マジェスタ公爵の描いた絵だった事が判ったのよ。 あの方、王国の全てを手に入れようとしててね。 言う事を聴かない、暗殺者ギルドを目の敵にしていたらしいの。 私の本当の叔父さんなんだけどね。


 自分の子飼いの子爵を、長い時間をかけて、暗殺者ギルドに潜り込ませて、優遇して、その地位を上げて、乗っ取ろうとしたのよ。 そんなさなかに、王国で、同じような任務に当たっていた、御父様が後ろ立てに着いたって訳。 慌てたらしいわね。 


 このままだと、マジェスタ公爵の代わりに、御父様が彼らの庇護者に成ってしまう。 で、一計を案じたのが、さっき退場した副ギルドマスターになりおおせた、子爵さん。 監修は、マジェスタ公爵様。


 ミャーをいじめたおして、こんな使えない奴をギルドに入れようとしたと、喧伝(けんでん)する。  古くから居た手練れを、無茶な「仕事」に放りだして、使い潰す。  自分の子飼いを沢山ギルドに入れる。  そうやって、ギルドマスターの影響力を減らすの。



 最後の仕上げは、ミャーへの今回の「仕事」



 失敗させて、彼女を捕らえて、御父様との繋がりを吐かせるか、でっち上げて、御父様がまるで暗殺者ギルドのギルドマスターみたいに仕立てるの。 国王陛下……「闇の仕事」の事は、お嫌いだから、御父様の排除理由に成るのね。 今の、ギルドマスターもその責を負って、引かざるを得なくなるの。


 そうしたら、何の問題も無く、その子爵が… いえ、マジェスタ公爵様が、暗殺者ギルドを掌握するって、筋書。


 でもね…… ミャーの実力を見誤っていた事と、私達が先に動いていた事が、彼等の敗因。 それに、彼等は「闇の精霊様」との、誓約を軽く見過ぎていたのも。 ダメね。 もう、子爵さん達に、明日は来ないわ。 


そして、マジェスタ公爵家からの、暗殺者ギルドへの影響は無くなったのよ。




「 ”白銀姫” は、御家の至宝となるでしょうな」


「娘は、私の全てだ。 誰にも渡さんよ」




 おいおい、なんだよ、その呼び名は。 笑って誤魔化して置いたけどね。 ミャーはね、暗殺者ギルドのギルドマスターから、直々に御名を貰ったのよ。 



      ミャー=ブヨ=ドロワマーノ




       ギルド内の呼び名(二つ名)はね、 



        ” 闇の右手 ” 



          だって。 




 ……これで、ミャーは、私の「専属侍女」になれる。 ずっと一緒に居られるようになったわ。 




        良かった。




************************************





 こうやって、世界の意思(シナリオ)が強く押し付けて来る、”強制力って言う名の頸木” を、一つ外したの。 あの『君と何時までも』の舞台には昇らずに済むように。 



 でも……、



 そんなに、甘くないかもしれない。



  





  世界の意思(シナリオ)って、諦め悪そうなんだもの。








ブックマーク、評価、有難うございます!!

頑張りますよ~!! 乗ってきました!!


======


生き残る為の力を手に入れつつ、世界の意思(シナリオ)に無い、道を歩み始めるソフィア。 

前提条件、必要条件を一つ一つ潰して、彼女は力強く生き抜く力を手に入れていくのです。



また、明晩、お逢いしましょう!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ