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記憶の彼方から ” あの人に逢うために ”  作者: 龍槍 椀
ビューネルト王立学院 二年生
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第59話 園遊会での出逢い


 


 お披露目の舞踏会は恙なく? 終了した。



 各国の大使様達、各本国の外務官様達、それにナイデン大公様との歓談は、思った以上に宮廷の方々に衝撃を与えたみたい。 何をしゃべったか、色々と憶測が流れてたよ。 別にたいした事は言ってないよ。 大体、たかが男爵家令嬢が何を言おうと、まつりごとへの影響なんて皆無なんだしね。





「お嬢様、また、やらかしましたね」





 お家まで、コローナ伯爵に送ってもらって、夫妻の乗った馬車が、夜の闇に溶け込むを見送りって、やっとこさ警戒を解いた途端に、ミャーに釘刺された。 いや別に意図してやった事じゃ無くて、相手が勝手に来ちゃっただけだよ。 超個人的なお話をしただけだし……。


 お部屋に戻って、衣装を脱いで、沐浴して……。 やっと、眠れる状態になった。 大変な一日だったよ。 


 寝る前に、ミャーとお話しなきゃ。 私、何をやらかしたんだろ? 今回は自覚無いよ……。 楽しく踊って、お喋りしただけじゃん。 まぁ、相手が皆さん、大人のおっさんだったけどね。 


 意見を述べよって、課題があるじゃん。 あれと同じだよ。 皆さんも私が、ミソッカスなのを知ってて、面白がって色々と聞いて来ただけじゃんか。 小テーブルにミャーと向かい合わせで座ってから、訊いてみた。





「楽しいひと時でした。……って、やらかしたの? 私が?」


「ミャーは時々心配に成るよ、頭がいい筈のソフィアが、自分から底なし沼に突っ込んでいくようにすら見えるんだよ……。 勘弁してくれよ……」


「どういう事なの?」


「宮殿でのソフィアの評価って、前にも言ったよね」


「まぁ……よく勉強してるよねってやつでしょ?」


「そんで、大使達との御茶会で、大使達が楽しみにしてるって言ったよね」


「うん、物知らずに教えんのって、赤子の手を捻るようなもんだから、楽しいよね。 それが?」


「うん、ソフィアは、周りは良く見えるけど、自分の事は判らんって事が判った」


「へっ?」


「御当主様に、一度、折檻してもらえ! このバカ!」


「ほよっ? なによ…… 判る様に言ってよ」





 ミャーの小気味よい悪態に耳を傾けつつ、これまたミャーの用意してくれたホットミルクを口に運んだの。 いつも通りの まあるい味が 心地いいね。 いや、違う、話はそこじゃない。 私が何だって? ミャーの溜息が聞こえるのよ……





「宮殿……特に【処女宮(ヴァルゴ宮)】ではね、外と違ってソフィアの評価が一番高いの。 宮廷のお約束なんかも一番早く覚えたし、皇室典範に至っては、あっちの人が忘れかけてる様な細かい決め事も、頭に入ってる。 物腰だって、一歩引いて優雅だし、そのくせ言う事は言う。 ソフィアだけだよ、あの侍従長と対等に言葉を交わしているの」


「えっ、ミネーネ=バルカン侍従長、優しくね? 色んな事教えてくれるし、裏話だってほら……」


「宮廷言葉使ってたら、誰もそれに気が付かないよ。 なんか嫌味の応酬してるみたいな感じに見えるし」


「だって、直接的な言葉を使うなって、習ったんだもん。 何時でも表情を変えるなとも……。 まぁ、お陰で、どんな話をしてても、途中から聴いたら、内容がさっぱりになるからねぇ……」


「 と に か く ! ソフィアは、【処女宮(ヴァルゴ宮)】の中では、婚約者候補の筆頭なんだよ!!」


「へっ? どして? 筆頭はソーニア様でしょ?」


「ダメなんだと!」


「どういう事?」


「腹芸出来ない上に、宮廷言葉、サインが覚えられなくて、マゴマゴしとるんだと!! 特に、ソフィアとの会話の後に喋ると、その差があまりにデカくて、やってらんないんだと! あっちの侍女さんとか、侍従さんも頭抱えとるんだと!!」


「……誰も、教えないの?」


「こんのぉぉぉぉ!!! 同じ教育されてるよ!!!! ソフィアの習熟が早過ぎんだよ!!」


「…そ…そうだったんだ……。 必死に勉強してただけなんだけどなぁ……」





 やれやれって顔で、ミャーは私を見てるの。 金と銀の瞳(ヘテロクロミヤ)が、なんか残念な生き物を見る様に、こっちを見詰めているの。 なんでじゃぁぁぁ!!! でも各国の大使達の方は、私の見解で間違い無いよね。 ほら、こんな小娘の相手なんざ、片手間で出来る筈だしさぁ……。





「で、でも、大使の方達には、私、遊ばれてるよ? あちらの言葉が上手くできて無いからだと思うんだけど……。 失礼してないかと、いまでも恐々だよ?」


「あ、あのね……、ソフィア……? どうして、あんたって時々、超絶に鈍くなるのさ? 宮廷言葉でさぁ……。 ” お会いするのを楽しみにしております。 ” って…… どういう意味か、分からんのか?」


「えっ、いや、その…… 状況にもよるし…… お国柄で、言葉の意味合いも変わるし……」


「変わんねぇよ!! そん時は、皆さん、エルガンルースの言葉をしゃべってんだよ!!!」


「だって……」


「はっきり言う。 あの方達は、あんたの事を、次代の王妃として見てるんだよ!! それも、この上の無い好敵手としてね!!!」


「な、なんで~~~~!!!!」


「大使さん達の本国の事を調べ尽くして、御茶会に臨んでいる。 質問にはきちんと、彼方の言葉で応え、サインも見逃さず、話題は豊富。 そんでもって、外交案件に関しては、一歩引いた形で、ソフィアの ” 意見 ” を述べる。 勿論、まつりごとには引っ掛からない様に。 さらに、彼方の事情を読み取り、情報も引き出す。 二国以上の大使と同席する時は、それぞれの国の関りとか、外交案件を鑑み、問題になりそうな話題は、さりげなく回避するように話題を持って行く…… あんたのやっている事、みんな、王妃殿下がやってる事と一緒なのよ!!!!」


「だって、習ったんだもん! その実践的な教育の場でしょ? 結果を出さないと、試験は通らないよ?」


「その試験を合格すると……、 何に成るのか判らんのか?」


「えっ? 地力つけるだけじゃ無いの?」





 ミャーの目がスッと細くなったの……。 ちょっと、怒ってるよ? なんで?





「ほんと、ソフィアは、ミャーよりも、鈍い。 禿かむろとして、お姐さんについてた方が楽だったかもしれないよ……。 少なくとも、お姐さん達は、自分の価値を知ってるからね……。 ソフィア、貴女が、貴女で居る為に、その試験は合格しちゃならんのよ。 合格しちゃったら、行き着く先は、「王妃陛下」 しか無いからね」


「うそ……マジで?」


「マジ。 と云うより、【処女宮(ヴァルゴ宮)】の人達は、そっちに向かって努力し始めている。 私にも、そういう教育が始まっている。 側仕えと云うより、王妃参謀としてのね……。 自由が無くなるよ? もう、” あの人 ” 探しに行けないよ? いいの?」


「良くない……。だけど、……この国もほっとけない。 みんなが幸せに暮らす為に……」


「もう!!! ……ソフィアらしい答えだけどね…………でも、一つ聞かせて欲しいの」


「なに?」


「ソフィアは、王妃様に成るつもり……有るの?」


「無い!」


「即答だね。 ……良く判った。 だったら、協力する。 今まで通りね」





 ニッコリと微笑み合って、おでこをぶつけ合わせて、見詰め合った。 そうだね、ミャーはいつも私を助けてくれる。 自分の事は、良く判んないけど、ミャーが見ててくれる。 踏み外しそうになったら、注意してくれる。 大切な、大切な、私の半身。 


 大好きだよ! ミャー






 ――――――――――――――――――――






恵風月(ゼーディン)】 



 園遊会の季節。 去年の轍を踏まない様に、今年は家族の同伴は無し。 出席者は、各家当主とその夫人のみ。 去年の惨状から、学んだ様ね。 で、うちにも招待状が来たんだよ。 私は……出席せよとの事。 婚約者候補だからね。 仕方ないよね。 行きたくないけどね。


 それでもさ、やっぱりというか、何と言うか、御父様と同伴で出席を命じられては居るけど、特別な配慮とかはないんだ。 御父様には伴侶がいないから、その代わりに出ろって感じ。 横に立ってるだけでいいんだよ。 去年と同じね。 


 ミャーがそれとなく調べてくれたんだけど、他の候補の方々は、王家の人の後にくっ付いて、礼を捧げられる立場で出席するんだとさ。 へぇ…、 そうなんだ。 




    身分格差社会なんだよね。




 男爵家令嬢にだれも頭なんか下げたくないよね。 判るよ。 この判断がどっから出て来たのかは、何となく想像できるけど、深く知りたくないね。 それよりも、もう一通来た招待状の方が問題。 園遊会の後に晩餐会が有るらしいのだけど、私は招待されて居ない。 で、その隙を突いたかのような、招待状。




    差出人は、ナイデン大公閣下。




 コレには御父様も引いていたよ。 招待されたのは、御父様と私とミャーの三人。 あの人、何処まで情報持ってんだろうね。 その他にも出席者が居ますよって、書いてあったけど、誰とは書いてなかった。 誰招待したんだ?


 場所は、ナイデン王国公館。 まぁ、順当だよね。 


 気合い入れていくか!!





 ――――――――――――――――――――





          麗かな春の日。





  風に深緑の香りが混ざり込み、爽やかな息吹を感じるそんな、




        【恵風月(ゼーディン)】 






 晴れ上がった青空の下、昨年同様、御父様と紋章付きの馬車に揺られ、園遊会会場に向かった。 広大な馬車溜まりは、去年の様な喧騒は聞かれない、落ち着いた物だった。 階位、爵位の順で馬車は止められる為、私達は遠く離れた会場まで、ゆっくりと芝生の上を歩いて行くの。 


 青空がとっても気持ちイイのよね。





「御父様、この後の御茶会……。 如何します?」


「呼ばれてしまっているしな。 出席せねばなるまい。 あの方には、何かと弱みを握られて居るし」


「弱み……ですか」


「レーベンシュタイン家の弱みでは無い。 エルガンルース王国としての弱みだよ、ソフィア」


「あぁ……左様で御座いますね。 我が国の執政官様達には、モノの道理が判らない方が居られます故。 個人の思い……それも邪な想いで、国政を壟断されておりますわよね。 怖いこと……」


「……ソフィア、もう直ぐ会場だ」


「口を噤みます」


「それが良いだろう。 事実を口にする者は、愚者というそうだからな」


「はい、御父様」





 受付で署名をし、下位貴族に割り当てられた場所で待機する。 私の周りには、盾の男爵家の方々が一杯集まっていらっしゃるわね。 何やら厳しいお顔。 御父様の元に来られ得ては、コソッって耳打ち。 聞こえてるよ! その囁き声!


 曰く、ソフィア様はまた疎外されたのか。

 曰く、何処までも我らを愚弄するのか。

 曰く、聡明なソフィア様こそ、玉座に相応しい。

 曰く、外交案件の交渉をされたとか。

 曰く、後宮の覚えめでたいが、宮廷工作にも力を入れればどうか。

 曰く、我らが旗頭に成って貰えんだろうか。


 御父様は、苦笑いと共に、首を振られていたわ。 対応に疲れちゃうよ……。 去年のバカ騒ぎに比べたらマシだけどね。 笑顔の仮面を張り付けたまま、周囲に愛想を振りまいておいたのよ。 隙が出来ない様にね。 それに、そんなバカ居ないしね。 


 春の日差しは柔らかで、いくらでも立っていられるの。 か弱いお嬢様とは、比べ物にならない位……っつうか、歴戦の騎士並みには、平気だよ。 立ってるだけだもの。 汗すらかかないよ。 青いドレスは、お空の色。 精霊様の息吹を感じられるのよね。 


 ファンファーレが鳴り、いよいよお出ましよね。 遠くから見てるだけだけどね。 まぁ、遠くから最敬礼はしとこうね。 わざと、後ろの方に居た私達。 そこから見える風景は、ある意味絵画的意味として、情愛溢れる風景だった。 宸襟を寛げられ、下位貴族から、高位貴族までを、平等に扱う王家。 


 慈愛に満ちた笑顔で王族一行は、歓談されている。 流れ来る話題は、誰が何をして、評価されたか。 である。 何を陰で押し止めたとかの、見えない成果は、評価の対象から外れる。 だから、この国の貴族達は、目に見える評価を出したがるんだ。


 汚れ役や、縁の下の力持ちは、全て下位貴族である、男爵子爵家の者に押し付けられる。


 当然、お褒めの言葉など、頂けるわけもなく、冷たい視線のまま、王家一家を目で追うまでだった。厚遇される者と、冷遇される者。 両者を隔てるモノは、暗く深い溝。 王家の人達は、向こう側に立っているので、こちら側は見えないんだよね。




 このままいけば、いずれこの国は……。 割れるかもしれない。




 そんな不吉な想いがせり上がって来る。 ちょっと息苦しい位にね。 遠くを進む王家一行と婚約者候補の群れ。 煌びやかな一行は……非常に、非現実的だった。 義務は終わった。 もう一つの気の重い御茶会に出席せねばいけないのよ。


 のろのろと進むお帰りの集団。 低位貴族の人達と一緒になって、一団で馬車溜まりに向かっていた。





「もし、レーベンシュタイン男爵父子と、お見受けいたします」





 軽く、それでいて、威厳のある声が私の耳に届いた。 御父様もふと振り返る。 誰だろうね。 それに、何の御用だろう? 不躾では無いけど、ちょっと、こんな所で呼び止められてもね……。





「誠にすまない。 私は、ミュリエ=ウッダートと申す者。 ナイデン大公閣下に、レーベンシュタイン男爵様と一緒に公邸に来るよう、ご招待頂いた。 宜しいか?」





 はぇ? 一緒に? うちの馬車で? で、ミュリエ……って、誰だっけ? すっぽりとローブで顔を覆っているし……。 魔術師のローブみたいな服着てるし……。 手に樹の枝みたいな杖持ってるし……。 


 御父様が、いきなり、最敬礼したよ!!! なんじゃ?!





「賢者ウッダート! 何故、そのような御姿で!!」





 うへっ、また、ヤバいの来た!!!!  そうだよ、ミュリエって、森の民の賢者の名前。 エルフ族の賢者ウッダート様じゃねぇか!! 御父様の云う通り、なんてカッコしてんだよ!!! 七賢人の一人が、こんな所で、男爵に声かけるなんて!!!!





「お忍びということでな……。 それに、あいつの所に行く前に一度あって、礼を言いたかった」


「礼ですか? ……”何に” でしょうかな?」


「妹の事です。 エスカフローネの保護の為に動かれている。 他の者達とも密かに連絡を取りつつ、森の民の安全に心を砕かれている。 それも、彼方には気取られぬように……。 ソフィア嬢の動きには、まったく、死地に燈明を見た気がした。 一縷の望みが出来た。 礼を言わずには居られない」





 え、エスカフローネ様っていったよね…… 賢者だったんだ、あの方……。 この口振りからすると……、 ミュリエ様の妹様……。 あ、あははは、あははははは……。




 エスカフローネ様の事は、あの筋肉(マクレガー君)が、それとなく探してくれてるんだけどね……。




 まだ見つかってないんだよ。 フローラ様経由で、その話は詳細な報告が来てる……。


 スザーク砦の周囲とか、難民のキャンプ周辺とかでね、あの筋肉(マクレガー君)は、エスカフローネ様って事を言わずに、エルフの魔術師が、故郷を目指すのならば、レーベンシュタインの御領地が力になってくれるって、噂ばら撒いてんだって。 探してるって言えば目立っちゃうし、万が一あいつ等に知られれば、厄介この上無い。


 そんで、あの筋肉(マクレガー君)一人で探索するより、自力で行ってもらう方が、早そうだったからってさ。 御父様にもお願いして、エルフの魔術師さん達がレーベンシュタインの御領地に来たら丁重にもてなしてから、西の大森林 《 エルステルダム 》 までの旅費を肩代わりしてたんだよ……。


 まだ、エスカフローネ様は見えられてないけど、沢山のエルフの魔術師の方が、我が領へお越しに成られたんだよ。 エスカフローネ様も……どうにか、レーベンシュタインの御領地まで、逃げ延びてくれれば、なんとかなる様に手筈は整えてあるんだ……けれどね。 今以上には、大胆には動けないんだよ……。




     歯がゆいよね。 




 ミュリエ様、それを知っていたの……か。 探索は続いているんだけどねぇ……。  いかんせん、範囲が広すぎて……。  この話は、ここでは、ちょっとやりづらいのよ……。  ほら、《ガンクート帝国》の手先に成り下がっている人もいるじゃん……。






 御父様に目配せして、うちの馬車に一緒に乗り込む事にしたよ。






        ミャー、ゴメン。






  周囲の探索と、ストーキングされてないか調べて!





    私も、周囲を警戒しながら、調べとくから!








ブックマーク、評価、誠に有難うございます!



また、明晩、お逢いしましょう!!

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