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記憶の彼方から ” あの人に逢うために ”  作者: 龍槍 椀
ビューネルト王立学院 二年生
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第56話 学内舞踏会が練習? 出席しませんよ?

 


 定例の学内舞踏会が告示されたの。 食堂の掲示板に掲載されたのよ。 もちろん、学内のことだから、デビュタント前の練習10%、社交の練習10%、楽しみ80%な、感じの舞踏会でね、私からいうと、ほとんどお遊びなんだよ。


 それに、デビュタント終わった方々も沢山いらっしゃるのに、ご指導とかもない。 先生は生徒活動だから、学内舞踏会の会場を用意して、無茶するものが居ないかそれの監視だけで、舞踏会自体には干渉しないからね。 生徒会が主催する ”自主的” な、舞踏会だしね。


 でも、学生でしょ? 誰もが楽しみにしているのに、大人の干渉なんて極力排除しちゃうでしょ? 


 だから、もう、”練習”って事を考えると、無駄よねぇ〜。





「ソフィア様? この度の学内舞踏会は、ご出席されますよね?」


「えっ、いいえ、出席しませんが?」


「出席されませんの? 王家主催の舞踏会が来月有るのでは? デビュタントでございましょ? 他の皆様は、出席されてますのよ?」


「様々な”お約束”が有る、王家主催の舞踏会と、学生主催の舞踏会ではその主旨から、マナー、社交術が、大きく異なります。 王子殿下の婚約者候補として、”お披露目”が主旨の王家主催の舞踏会は、いくらわたくしのデビュタントであったとしても、”外交”を主とした、国事ですので、その方を優先したく思います」


「…………そうなの、ソフィア様がダンスされるところ、見たかったなぁ」





 ドロテアは笑いながらそう言ってくれた。 でも、あんた、私のダンスするとこ、御領地でさんざん見てたじゃん! ミャーとかマックスとか相手にしてさぁ、倒れるくらい頑張ってたじゃん!





「高位の皆様の度肝を抜きたかったのよ」


「は?」


「知らないの? ソフィア様が踊れないって、そういう噂をガンガン流されてるのよ…… 悔しくって。 ねぇ、本当に出ないの?」





 口調がぞんざいになってるよ? まぁ、いいか。 でもさぁ、ドロテアさん、私がそんな中出て行って、誰が踊ってくれるのさ。





「それに、わたくしは、殿下の婚約者候補と言う事でお相手がおりませんし……。 たとえ、学生主催の舞踏会だとしても、どうしても、その辺りに問題がでます」


「……そうね、デビュタント前だしね……。 お遊びとしても、問題かぁ……」





 ドロテアの視線が宙に飛ぶ。 そうだよ、なにせ、今の立場で、ヘタ打てばそれこそ、エライ事になるんだよ。 ダンスのパートナーにしても然り。 誰かにお願いしようとしても、相手が相当近しい人か、近親者でなくては、かっこが付かない。 そんな人居ないものね。 ほら、諦めろ!





「無用の混乱を避ける為にも、わたくしは出席をご辞退申し上げたいのです」


「……」





 返事、してくんないよ……。 食い下がるね……。 なんか、嫌な事でもあったのか? 





「ソフィア様は、難しいお立場に居られるのよ。 御存じでしょ?」


「ええ、それはもう」





 一旦目を瞑り、ドロテアは真剣な表情になった。 彼女のこんな顔、初めて見たわ。 そこには剥き出しの闘争心と、何かを成そうとする気概が浮かんでいるの。 何かは判らないけど、とても大事な事みたいね。





「……内緒にしてね。 今回の学内の舞踏会は、別の意味で注目されているのよ。 それはね、貴女の動向。 欠席するのは大方の見方。 理由は先ほど貴女が言った通りね。 でも、宮廷関係者はそうは見ないの。 難しい局面を打破する力がどれ程あるか、その見極めをこの学生主催の舞踏会で見るって……。 出席しないという事は、”逃げ”と思われるわ。 王妃教育で、どんなに良い結果を出していても、弱い姿勢だと、王妃は務まらない。 ここぞとばかりに、他の候補者を推す高位貴族様達から攻撃されるの。 レーベンシュタイン家も含めてね……。 貴方のお陰で、元エルガンズの男爵家は、何となくだけど、穏然とした影響力を保持しているの。 いま、貴女の立場が悪化すると、盾の男爵家達の影響力がまた低下して、エルガンルース王国の防衛にも問題が出て来るのよ……」


「ぼ、防衛? どういう事ですか?」


「説明は難しいんだけどね……。 宮廷ではね、マジェスタ公爵を筆頭として、南の《ガンターク帝国》と手を結ぼうとする一派と、大協約を遵守しようとする一派が壮絶な宮廷闘争を繰り広げているのよ。  盾の男爵家は……判るわよね」


「ええ、大協約の順守が、私達男爵家が生まれて来た理由ですもの」


「そうよ……。 でも、順守派は低位貴族が主だった者でね……。 実際にこの国を動かしているのも、低位貴族なんだけど、それでも、旗頭に成るような、高位貴族が居ないのよ」


「……他の公爵家の方々は?」


「まだ取り込まれて居ない……と良いんだけど。 確実にこっちよりなのは、国防を担当されている、レクサス大公閣下くらいです。 でも、表立っては立場を明確にされて居ないの……。 傍系の方々も、かなり取り込まれているらしいから。 ここで、貴女が戦う事の出来ない者だとそう、解釈されてしまったら、あの方もあちら側に傾くわ……」


「……高位貴族様は何をお考えなんでしょうか? 初代様が何故、ルース王国を倒したのか……お分かりになっていない……」


「遠い昔の事なのよ……彼等にとってはね。 栄耀栄華に現を抜かして、本質を見ることができないのよ……。 何処にこの国が立脚しているのかすら、忘れてしまう程にね……」


「でも、わたくしにそれ程の影響力が?」


「聴いたわよ、《精霊帰祭》の時の事」


「えっ?」


「御帰還された精霊様が、皆様、貴女の元にご挨拶されたんですってね。 低位なモノ、この国で生きている庶民の祈りに近いモノを貴方は差し出していた……。 そういう風に精霊教会の方々は理解している」


「……たまたま、わたくしが、あの場に居ただけですわよ?」


「高位貴族の皆さまは、それが気にくわない。 自分より低い身分の者が、自分達より遥かに高位の精霊様に愛されて居るなどとは、認められない……。 そんな所かしら」


「だから、潰してしまえ……。 ですか……」


「虎視眈々と、その機会を伺っているの。 これでも、辞退する?」


「……考えさせてください」


「よく考えてね」





 ドロテアは、そう言うと、何時ものふんわりした雰囲気を身にまとったの。 いいね、コイツ。 二重人格かよってくらい、本性を抑え込んでやがる。 そうだよね、この人の御兄さまも、この人も、宮廷内で泳いでいる貴族なんだものね……。 やるね、流石! 


 さて、どうしようか……。 出席しないとなると、今後の動きが阻害される。 何をするにも足枷がかかる。 サリュート殿下の頸木は外れないし……。 今以上雁字搦めに成ると、目も当てられないしね。 それに、レーベンシュタインのお家をどうこうしようって……この辺りは、マジェスタ大公閣下のクソ野郎が画策してんだよね……。 


 運動場で、ソーニア様とガツンガツン鍛錬してるけど、今はまだ、そこまでの間柄じゃ無いしね……。 今回の学内舞踏会は、自力で喰い破れって事か……。 なんにしても、面倒よね。


 ふと、背後の気配を感じたのよ。




       ミャー 




 何時も静かに立って私を護っていてくれる彼女……。 心配そうな顔してるね。


 出席するとしたら、当面の問題はパートナーだもんね。 出席するとしても、相手が居ないと、ダンスを踊れないし、それはそれで、困った事になるし…… 他の男性にパートナーをお願いしたら、そこを突いてくるもんね。 


 ……行けるか?





「ドロテア様、出席して、ダンスを披露すれば宜しいのですか?」


「ええ、踊ったという実績が必要なのよ」


「……その場合、誰でも良いのですよね」


「そうね、婚約者候補だから、高位貴族のどなたかにお願いするしかないけれど……」


「それは、受けて貰えないし、繋がりも無い わたくし(男爵家令嬢のソフィア) からのお願いも通らない……ですわよね」


「ええ……残念ながら……」


「学生会が認める、身内の出席者は、何処まででしょうか?」


「兄弟の近親者と従者……かな」


「……判りました。 出席致します。 御父様に許可貰わねばなりませんが」


「有り難いわ。 マクシミリアン様をお呼びに成るのかしら?」





 なんか、ドロテアの顔がパァァって明るくなったよ。 そっか、コイツ、マックスに気が有るのか…。 でも残念、そっちじゃないよ! ニッコリ微笑んで、誤魔化して置いた。 


 ミャーに言って、学内舞踏会に出席の御答えを出したの。 パートナーは従者としてね。 まだ時間はあるから、これから説得するんだ。 御父様と……。




 ミャー をね!!







 ――――――――――――――――――――








 学内舞踏会の当日、ちょっと緊張したよ。 だって、【認識阻害】が何処まで掛かるか判んないもの。【隠密】 とか、【隠形】 とかだったらさ、いつも使ってるから、効果は良く知ってるんだけどね。 


 乗合馬車の待合にミャーと一緒に行ったら、みんな息を飲んで私を見たの。 そりゃ、今日はドレスだし、バッチリメイクもしてるからね……。 でも、なんで、そんなにマジマジと凝視するかね……?


 おっ、そうだ、このメイクだ……! 娼館のお姐さん方お墨付きの、傾国仕様だったんだ! 



 ^^^^^


 御父様の許可、めっちゃ難しかったよ。 ほら、他の男爵家の事はいいからって、ずっと仰ってたし、元々、レーベンシュタインのお家、御父様の代で終わりにしようって、思ってらっしゃったから……


 でもさ、御領地の方々の笑顔と期待がね…… 私だって、男爵家令嬢として、あの人達の笑顔を守りたいもの。 御父様を説得して、学園舞踏会の出席のお許しは捥ぎ取った。 御父様もこれでやり易くなるしね。





「ソフィアに、それ程の負担は押し付けたくない……。 本当に気にする必要は無いんだが……」





 御父様はお優しい。 本当に、御優しいの……。 でも、その優しさに甘えてはダメなんだよね。 何時までもヒナ鳥じゃ、いけないんだよ。 だから、ここらで一発……ね。


 ミャーへの説得は……、 あっさりと了承してくれたよ。





「ソフィアがそう決めたんなら、ミャーは従うよ。 その方が護りやすいしね。 大丈夫だよ」





 嬉しかった。 本当に、嬉しかった。 




 ^^^^^^





【認識阻害】は、バッチリ掛かっているね。 だれも、ミャーの姿に何も言わない。 乗合馬車を待ってる時も、乗り合わせて、学園に向かう時も、何時もの様にちょっとした談笑をしながら、乗り切れた。 気を使ってくる様子も無いしね。



 今日は、珍しく、ドレスでね、そっちの方にみんな気が向いてたのもあるらしい。



 ドレス姿の私を見るのは、ここ王都エルガムでは、殆ど無いしね。 いつも制服でウロウロしてるもんね。 深いブルーのイブニングドレス。 カラードレスは、コレしか合うものを持ってないから、一択よね。 御飾りも、ネックレス一本。 トップは魔石。 小振りだけど、品質の良い沢山魔力が入ってる奴。 なんかの時に、使える様にって、作ってもらったのよ。 だいぶ前にだけどね。



 いまじゃ、かなり値段の張る逸品に成っちゃったよ。



 銀髪は、ミャーに物凄く手の込んだ編み込みして貰ったし、お化粧は、これまたミャーの渾身の作。 フフッ、フフフフッ 艶やかな化粧は、気分を高揚させるね。 乗合馬車の皆も、褒めてくれた。 ドロテアなんか、手放しで喜んでくれたよ。 



 本日は、朝から舞踏会の真似事さ。 まる一日潰して、開催されるの。 授業はお休み。 だから、来たい人は来てもいいし、休みたい人は、お休みになるんだ。 普通はね。


 でもさ、今年は、ほら、来月に迫った、婚約者候補のお披露目の舞踏会があるじゃない。 一目婚約者候補に成った令嬢達を見ようと、大勢の生徒さん達が詰めかけてるんだ。 そんで、そのお相手から、誰がどんな後援者を持ってるか、誰について行けばいいか、なんてモノを見極めるってな事も、視野に入れてるんだとさ。 あぁ、これドロテア情報ね。





「ソフィア様の御相手は、今どちらに? あ、アーノルド様でしたら、ご挨拶しておかないと」


「アーノルド様は、ご都合が付きませんでしたので、別の方にお願い申し上げました」


「えっ?」


「別の方ですわ……。 ゴメンなさいね、ドロテア様♪」


「い、いえ、そのような……! って、誰を用意されたの!!!」





 フフフって笑っておいたよ。 ちゃんと、困らない様にしたからね。 ダグラス王子が、良く通る声で、開催の辞を述べられた。 いよいよ始まるね……。





「……さぁ、皆、踊ろう! 社交の練習にもなる。 ダンスの練習にも! みな、心ゆくまで、楽しんでくれ!」





 楽団が、ワルツを奏で始めた。 他の婚約者候補の人達も、ホールへ進みだした。 ダグラス王子のお相手は、言わずもがな、ソーニア様。 あぁ、綺麗なダンスだ。 あの方体幹が整ってるし、大柄だから、見栄えが良いんだよね~。



    さぁ、私も行くか!



 ドロテア、心配しないでよ。 ボールルームの人達には、私が一人で、ホールに進み出たみたいに見えるんでしょ。 居るよ、ちゃんと、パートナーはね。 強強度の【認識阻害】を、昇華させる。 徐々にその存在を現してくる、私のパートナー。


 手を握って、いざ、踊ろうか!


 流れる曲に身をゆだねて、踊った。 いいね、楽しいね。





 ミャー、無理言ってゴメンね。





 一つに括った、ミャーの飴色の髪。 右耳しか無いけど、獣人族の証である、ケモミミ。 私より拳一つ分高い彼女は、きちっとリードしてくれてるの。 で、今日の装いは……、 獣人国である、《 ナイデン王国 》 人民の正装。 詰襟の準軍服なのよ。 御父様が用意してくれた。 また、それがカッコいいのよ。 


 あちらの庶民が正式な場に着て来る、《 ナイデン王国 》の正装はね、国民皆兵のあちらの事だから、軍服仕様なのよ。 濃緑色の詰襟で、スラックスの横に深紅のラインが入ってるの。 目を引くよとっても。 そんで、美少女でしょ……。 周りの目、釘付けだよ。 お嬢様方、溜息漏らしてるよ……。 




     ワハハハハ!!!




 どうだ、ミャー、カッコいいだろう!! 私の大事な取って置きさッ!!!


 堂々と踊り切って、みんなの元に戻ったら、一気に取り囲まれた。 ミャーの元にね。 おお、困ってる困ってる。 よし、助け船出してやるか。





「ミャー、ここでは、皆様のご迷惑に成ります。 殿下にご挨拶して、下がりましょう」


「はい、お嬢様」




 ダグラス殿下に、本日のお招きして頂いた感謝の「ご挨拶」をしてから、ボールルームを後にした。 控えの間に行ったら、男爵家だけじゃなく、子爵家、伯爵家のお嬢様方、御令息方が大挙していたよ。 




  もみくちゃに成りながら、受け答えしたよ。



    バッチリ、王妃教育が働いてくれた。



   ミャーも戸惑いながら、良く対処してくれた。



  これでね、ドロテアの懸念も払拭されたよね。



        どうだ、これでいいだろ。 



         宮廷のスズメどもめ!







     コッソリと、ミャーが耳ともとで囁いたんだ。






         ” やり過ぎです、お嬢様 ”







               ってね。








男装の麗人 ミャーの顕現です!

中の人一押しの人です(獣人ですが)


さて、ソフィアの反撃は、どんな衝撃をもたらすのでしょうか? 

乞う、ご期待!!



また明晩、お逢いしましょう!!

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