第54話 ソフィア、なし崩し的に、デビュダント決定
ハハッ ハハハ……。
乾いた笑いが口から漏れた。
アーバレスト国王が、なんか良い事思いついたって顔して、得意気にね、のたまったのよ。
「 ……ダグラスの婚約者の候補達は、まだ、デビュダントもしておらんのだろう。 他国へのお披露目も兼ね、舞踏会を開こうでは無いか! 見目麗しい候補達は、他国の者に見初められるモノも居るやもしれぬな! ハッハッハッ!!!」
嫌ねぇ……私ったら……。 なにが有っても、大きな感情の動きを出さない様にって、しつこくお勉強してたのにね……。 口元が歪むの。 笑顔の仮面が半分崩れ落ちてんのよ……。 それも、アンネテーナ妃陛下の御前でね……。 さらに、他の婚約者候補さん達も居る中でね……。
このくそバカ陛下、婚約者候補から落っこちた娘の、嫁ぎ先を用意してやるくらいな勢いなんだよ……。 クソが!!! なんで、お前らも、ポーってしてやがんだ!!! 馬鹿か! 政略か、貢物だぞ? 人権なんぞ無いんだぞ!! ろ、労働基準局と、児童相談所はっ……? ね、ねえよなぁ……。
このくそバカ陛下が、こんな事言い出したのには、理由がある。 有るんだよ! 私にとっては、最悪な事がねっ!!!
――――――――――
《精霊帰祭》は、恙なく進行してたんだよ。 アンネテーナ妃殿下の祝詞が響く、その祭祀の最中に、国中の精霊様が、御依代へお帰りになりはじめたの。 精霊様の御加護が、国中に満ち溢れて、薄暗かった街灯に使われている、魔法灯火も眩い光を発し始めようね。
うん、精霊様達は機嫌よく、御帰還されて下さったよ。 この部屋のシャンデリアもさっきより、眩しいくらいだしね……。
それは、いい事。
とってもいい事なんだ。 精霊様にこの国が見限られてないって証だからね。
【処女宮】にある、《精霊帰祭》専用の祈りの祭壇の前で、アンネテーナ妃陛下が主宰となって、祭祀を行われたのよ。 女性精霊神官さん達が、ズラッと並んでいてね、ある意味壮観なのよ。 《精霊帰祭》は、宮中祭祀の中では、特に重要な祭祀でね、女性の王族の第一の義務となっているのよ。
で、国の最高位に居る、王族の女性が通常、主宰となるから、まぁ、アンネテーナ妃陛下で、間違いないのよ。 で、このお祭りの時には、男性陣も参加って事で、アーバレスト国王陛下、サリュート殿下、ダグラス殿下もお出まし。 今年は特別にって、未来の王妃に予定されている私達、「ダグラス王子の婚約者候補」も、全員出席したの。
私はミャーと一緒に……。 末席も、末席、お部屋の端の端にチマッていたよ。
気配を薄くして、隠れる様に、ただ、時間の過ぎ去るのを待つように。 ドレスだって、他の人とは違って、至ってシンプル。 御飾りだって、男爵家相当の物だし……。 無作法に成らない様に、そっと、静かにしてたんだ。
皆で跪拝して、薄らボンヤリと、祭壇が金色に光って、精霊様の御帰還が始まったの。 祭文を読み上げる、アンネテーナ妃殿下の凛としたお声は、朗々と響いていてね。 それは、それは、荘厳な雰囲気だったんだ。
手をお腹の前に組み合わせて、御帰還に感謝を捧げていたんだ……。 いつも通りにね‥‥。
そう、いつも通りな筈だったんだ……。
跪拝して、頭を垂れて、真摯に祈ってたの。 なんか、何時もより明るいなぁ……って、思ってた。 目を瞑って、下向いてんのに、明るいんだよ。 いや、眩しい位にね。 何だろうかなぁ? って、思わず頭を上げたのよ。
目を疑った。
御帰還されてくる、” 精霊の門 ” って珠からさぁ、ザァ~~~って、感じで金ぴかな光が溢れだしてんのよ。 まぁ、そこまでは儀式だし、神々しいなぁ…で、済むんだけどね。 その光の中に特に濃い光の塊があるんだよ。
そんでね、それが、形を取られてるの……。
け、け、けん、顕現だ! 精霊様の御姿だ……! 初めて見た……! すんげぇ……!! いや、まぁ、王家の儀式なんだから、そうかもしれないけど……。 でね、それだけで済まないのよ。 めっちゃ美人さんの精霊様がね、なんか探してるの……。 私と目が有った途端、物凄い笑顔になられたの……。
い、いや、まて、待て待て、これは普通の事じゃ無いよね?
その上、飛んで来やがった! キャ~~~~!!! めっちゃいい笑顔のままね、そんで、なんか、” 精霊の門 ” の方に振り向いて、手招きしてんのよ。 一気に、光の洪水が、私を取り巻いたの。
グ、グオォォォォ、 目がァ、目がァ!!!!
どっかの大佐みたいな副音声が、頭の中で湧き出したくらいよ!! 思わず膝から力が抜けた。 ミャーに抱き留められた。
”ごめんなさい、我等が愛しい子。 嬉しくって! 貴方の願いは聞き入れます。 真摯な祈りは、我らの心を打ちました。”
私の頭の中に、偉い精霊様の御言葉が、響く、響く……。 そ、そんな大それた望みはありません! 唯々、見守っていてください! 民に、安寧の加護を!! お願いします!! それに……、
あの!!
わたし!!!
目立ちたくないんです!!!!!
ヒュゥイって、音共に、精霊様達が、《精霊帰祭》専用の祈りの祭壇のあるお部屋から、吹き抜けの天井を抜けて、大空に向かって、光の奔流が走って、其々の御座所にお戻りに成られたの……。 トンデモナイ置き土産を残してね……。
――――――――――
やっぱ、特別、珍しかったらしい。 女性の精霊神官が、ワイワイ言って、私の周りに集まってらしたし、婚約者候補の方々が物凄く厳しい目で私を睨みつけてきたんだ。 あぁ、ソーニア様だけは苦笑いされていたね……。 いや、まて、私、今、身体に力入んないから! へたり込んでるんだ……。 精霊神官様に取り囲まれて居るけどさぁ……。 なんか、怖えぇよ、お前ら……。
「精霊様が顕現されました。 今年は良き年が訪れましょう!!」
強引に、アンネテーナ妃陛下がまとめて下さった。 ミャーとか、【処女宮】の侍女さん達が、私を取り敢えず、控えの間に移して下さったの。 もうね、何にも言えん。 精霊神官様の、何やらかんやら、ご質問の嵐になりそうなのを見越して、ちょっと時間を開けましょうって事でね。
ちょっとした晩餐会がこの後にあるんだ。 でも、まぁ、倒れちゃったらねぇ……。 【処女宮】付きの医務官とか、薬師さまとか大勢見えられて、お調べになったのよ……。
大丈夫、大丈夫だから!!! 元気だから!!! ちょ、ちょっと、静かにしてたら、問題無いから!!!
理由が判らん。 なんで、精霊様が、私の事を、” 精霊の愛しい子 ”などと、呼ばわれたか… 日々祈りを捧げている、精霊神官様には、にこりともしないのに……。 なんか、奔放で、よく読めないんだよねぇ……。 御意思に叶う行動ってのが、今一理解出来ないんだよ。 まぁ、それでも、昔っから、そこに”ある精霊様”って事で、常に敬ってたよ?
日本で、八百万の神様が居たのと同じだよ。 そう、そこに居るの。 ” 御利益下さいね、何時もいい子にしてますから。 あぁ、そっちの荒ぶってる神様には、ほら、色んな食べ物お供えしますから、押さえてくださいね! ” ってな感じの緩い宗教観しか持ってなかったしね。 取り立てて、どうこうって云うのは無いんだよ。
私にとってはね、祈りは生活の一部に成ってるから。 ほら、「頂きます」、「ごちそうさまでした」は標準装備だしね……。
神官様達は、精霊様の御言葉は聞こえなかったみたいね。 口々に、何を仰ったかを聞きに来られてて、ちょっと参った。 本当の事を言っちゃうと、また面倒な事になるのは確実。 だから、嘘ついたの。 いや、あながち間違いじゃないよ、だって、私の望みを叶えてくれるって言ってたもの……。
「精霊様達は、大変我等の祈りに心を打たれ、今年の加護をお約束してくださいました」
ってね。 いいじゃん、それで、誰も困んないんだし。 体にも力が戻って来たし、しっかり立って、真っ直ぐ前を見て、微笑みの仮面は完璧に被り直して、精霊神官様達には、そう言い切ったの。 まぁ、納得してくれたし、精霊様が顕現した理由がわからないなんて言ってたらか、ちょっと誤魔化しといたの。
「本年の《精霊帰祭》には、わたくしを含む、婚約者候補全てが出席しております。 色々な階層の者の真摯な祈りが、御心に叶ったのではないでしょうか? 精霊様は、あまねく大地の祈りを欲せられますので」
なんとか、納得して貰えたかな? たまたま、あそこに居た中で、祭礼のメンバーとしては、私が最下層だから、たまたま来たんだよ……。 って、体にしておいたよ……。
そこで、やっと控えの間から解放されて、今度は晩餐会に連れ込まれたんだ。
遅れて入ったら、婚約者候補様達に、ギロッ! って睨まれた。 し、仕方ないじゃん、私のせいじゃ無いよ。 文句が有るんなら、精霊神官様達に言ってよ。 もう大丈夫って言っても、なかなか放してくれないんだもの……。
アーバレスト陛下以下、国王様ご一家はまだ、見えられてないから、そそって、着席したのよ。 同じ候補なんだから、一応の礼節を守って、頭は下げたけどね。 国王様ご一家がいらっしゃった。 席を立ち、全員が淑女の礼を決める。 うん、バッチリ。 こう云うのは、得意なんだよね、この人達。
「うむ、着席を許す。 本日はご苦労であった。 王家よりの心尽くしだ」
みな、緊張しながら、着席した。 いい感じの音楽も始まる。 フルコースみたいだね。 ウハッ、旨そう!!! 給仕さんが色々入って来て、晩餐会が始まった。 もっぱら私は、食べるのに専念してたんだ。 だって、何も、誰も、私には喋ってくれないのだもの。
美味しいよね……。 【処女宮】でのご飯は、ホントに美味しい。 厨房方の人の腕が光るよ。 こんなの毎日食べてんだ……。 なんか、レーベンシュタインのお家のご飯と比べたらいけない気がしたよ……。
あぁ、うちのご飯だって、マズくは無いんだマズくは……。 極々標準的なんだよね。 まさに、ザ・家庭料理なんだ。 こんな豪勢な食事なんて、毎日喰ってたら、罰が当たるよ……。 だから、今は精一杯美味しくいただくのよ。
周りはさぁ……色々、お話がはずんでいるのよ。 なんか、流し目でこっちを見て来る人も居るけどさ、気にしてたら、始まんないしね。 でも、やっぱり、さっきの精霊様の顕現は強烈な印象があったのだろうね。 その話が、あっちでもこっちでも、話されていたよ。
まぁ、精霊様が顕現されるなんて事が、とっても珍しい事なのは、判ったけどね。 あとで、精霊様が口にした、” 愛しい子 ”の意味、探っとこうか……。
「精霊様が、御顕現されるような祈りを捧げる、この見目麗しい、心の美しい者達。 ダグラス、お前は、幸せ者だな」
「はい! 国王陛下! わたくし、ダグラスも 王子として、この者達に負けぬくらいの高貴な者になるべく、精進いたします」
アーバレスト国王が、なんか良い事思いついたって顔して、得意気にね、のたまったのよ。
「 ……ダグラスの婚約者の候補達は、まだ、デビュダントしておらんのだろう。 他国へのお披露目も兼ね、舞踏会を開こうでは無いか! 見目麗しい候補達は、他国の者に見初められるモノも居るやもしれぬな! ハッハッハッ!!!」
思わず、カトラリー取り落としそうになった……。 舞踏会だって? 辞めてくれよ……。 国王陛下主催で、他国の賓客も揃えて、舞踏会なんぞしたら……。 タヌキな大使達の顔が思い浮かんでは消えるの……。 それにさ、デビュダントだったら、エスコートとか、ファーストダンスとか……。 御父様は男爵よ? 気軽に王宮に入れる身分でも無いのよ?
全く!!
なんで、こうも、
次から次へと、
厄介ごとバッカリ、
持ってくんだよ!!!!
王家の人達は!!!
ソフィアさん、公的に表に出てきました。
国王陛下の思い付きから、嫌がっている、高位貴族様の間に入る事になってしまいました。
さてはて、彼女の周りには、厄介事しかよってきませんね
新年、あけました、おめでとうございます。
今年も、何卒、宜しくお願い申し上げます!




