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記憶の彼方から ” あの人に逢うために ”  作者: 龍槍 椀
ビューネルト王立学院 二年生
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第50話 【鏡祭り】 での 「祈り」

 



 マクレガー子爵の出征は、鏡祭りの後だった。 年明け直ぐの出征が決まったんだよ。 だから、子爵の武運長久の祈願も兼ねて、その年の王家主催の鏡祭りは盛大に執り行われたんだ。


 私は、婚約者候補って事で、【処女宮(ヴァルゴ宮)】での行事に参加する事になっちまった。 去年は、営門で一日中突っ立ってたけどなっ! 綺麗なドレスを新調してもらったよ。 いくらなんでも、もうそろそろ新しくしないとってね。 


 またいつもの特別製な感じだけど、まぁ、そんなこたぁ別に気にしない。 動けるドレスって、なかなか無いんだよ、作んなきゃね。


 アイボリーを基調としたドレスは、無難なスタイルとは言え、いろんなモノを内蔵してるんだ。 まぁ、普通のお嬢様のドレスとはちょっと違うよ。 暗器の類が色々と仕込まれて居るんだからね。 なにが有ってもいいように? 


 いいえ、違います、趣味です! 


 それとわからない様に仕込まれている、数々の武器にほくそ笑む私をミャーは、” やれやれ ” って顔で見てたよ。 そんな事言ったら、ミャーのメイド服なんて、武器庫じゃん! どっから出すんだ? って思う位、色んな所から、投げナイフやら、クナイやら、撒きビシやら……。 何処にかち込む気だ、アアン??



――――――



「武術大会」終了から、【 鏡祭月(シュペーセテス) 】 の王家主催 「鏡祭り」 までの間に、そんな準備に追われて居たんだよ。 学園の殺人的な授業と課題、【処女宮(ヴァルゴ宮)】で行われる王妃教育、運動場で自主的に行う武術鍛錬、更には時々行われる、《証人官》のお仕事……。 滅茶苦茶忙しいんだよ。 飛び回っている感じだね。 



 その合間に、クラスメイトのお嬢さんたちとの御茶会。



 主に、食堂での御茶会は、私に癒しを与えてくれたんだ。 美味しい手作りのケーキとか、穴場な感じの菓子店の絶品とかは、お嬢様方の気持ち。 忙しい私の事を慮って、色々と心を砕いてくれるのよ。 私から渡せるモノなんて、無いんだけどね。 


 で、そのお嬢様方が、フローラ様へのご協力で、ハンカチに刺繍をして来た。 大判のハンカチの周囲に意匠を凝らした額縁風の刺繍。 見事ね。 そんで私もその中に紛れ込ませてもらたんだ。 まぁ、糸の色は別々で、カラフルな仕上がりになってたんだけど、私が使う糸は特別製。 魔法糸使ったんだ。 見た目は変わらないけど、【癒し】の魔法を練り込んだ魔石を糸状に伸ばした奴ね。 


 気休め程度だけど、一応これで、「魔道具」に成った訳だ。


 ちょっと、自慢できるんだよ。 何人かのお嬢様方それに気が付いた。





「ソフィア様、それ、魔法糸ですわよね」


「ええ、そうですわ」


「どこで、御手に?」


「御父様の御領地で、極小さい魔石が取れるのです。 それを加工しました。 魔石自体は、定期的に沸く、魔獣を討伐した際、たまに魔獣が落とすのですって」


「そうなんですの……。 昨今は、魔石の価格が高騰して、とても私達では贖えない金額になってきておりますの……。 そうですか、御領地で……」


「ええ、ただ、普通には売り物に成らない程の小さなものですわよ? たいした魔法を練り込む事はできませんわ……。 どうなさったのです?」


「……それが、いやな話を耳にいたしまして……」





 情報通の、ドロテアが表情を曇らせながら、口を開いたんだ。





「ソフィア様ならご存知だとは思いますが、王国の南隣の《ガンダーク帝国》では、大々的に魔道具の使用が容認されてますよね」


「ええ、その様ですわね。 何でも、お馬無しに馬車が走ったり、家事の道具も魔道具が多く取り入れらていると、聞き及びます」


「そうなんです…… あちらの知人のお便りを拝見しますと、此方では大変高価な魔道具でも、彼方では庶民が普段使いしているとか……」




 ちょっとまて! その話本当か? マジなら、ちとヤバいぞ? 私の危惧には、理由が有るのよ。





 ^^^^^




 ガンダーク帝国の周囲の小国が、この数年の間に帝国に吸収されているは知ってる。 王妃教育で習ったからな。 でも、その為に、帝国の人達の社会構造とか、人口構成比とかがハチャメチャになって来てるって、報告書が上がって来てんだって。


 文化レベルの違う、小国を吸収する事によって、税収の一本化を進める帝国。 小国王家は、帝国の一貴族に成り下がり、小国の低位貴族なんざ、庶民落ちよ……。 それでも、帝国の軍事力に蹂躙されるよりは、遥かにマシだし、民草にだって無用の血は流れなくて済んでるんだけど……。


 問題はさ、その文化レベルの違いと、帝国が宣言した「人族は至高の存在である」だなんだよ……。 周辺国のあちこちには、獣人族とか、エルフ族とか、色んな種族が暮して居たんだよ。 その宣言で、その人達の住む場所が……居場所が無くなった感じなのよ。 中央部に近い所なんか、人族以外が奴婢階級に落とされたとも聞こえて来る……。


 もう滅茶苦茶。 そんな彼らが使い倒しているのが魔道具なんだ。 動力は魔石。 歪になった社会構造を無理矢理動かす為に、使い倒して穴埋めしてるんだ……。 でね、その魔石……。 簡単に言えば、魔物や、魔獣を倒した際に偶に落とす、ドロップアイテムなんだよ。


 貴重なんだよ……。 人は、魔石に魔力を注ぎ込む事が出来ない。 ただ取り出すだけ。 魔力を持つ人は、自分の魔力で魔道具を起動させることが出来るんだけどね……。 一般市民は無理。 魔力を持たない一般市民が、魔道具を使うのに、魔石は必ず必要なんだ。 


 で、大量に居る一般人が、文化的な生活を維持するために、莫大な量の魔石を消費しているのよ……あちらの国ではね……。


 噂話だし、そんな非常識な話はありえ無いと思っていた。 国を挙げて、魔道具を、魔石で使用したりすると、あっという間に、魔石が枯渇するよ。 事実、ドロテアの云った通り、このところ、魔石の価格が上昇していて、学園で使う魔石もかなりの制限が加えられているんだ……。


 輸出しちゃってる訳だよ……。 市中の流通量も激減するって……。




 ^^^^^




「魔石の大量流出の理由がソレだったのですね」


「ええ、それだけには留まりませんの」


「……なにか、御懸念がおありになるのですか?」


「人族以外の《ガンダーク帝国》の方達が、避難されて、南部領域彼方此方に集まっていらっしゃるそうなの」


「……それは、また……。 流民……ですわね」


「ええ、その理由も、なにも、彼方の政策だけでは無いのです」


「と、いうと?」


「四年前の魔物暴走スタンピートは……どうも、切っ掛けは彼方の国の行動だったらしいのです」


「……迷宮の破壊ですか」


「ご存じだったのね。 ええ、迷宮の最深部まで、討伐しつくし、迷宮の管理者を殺し、クリスタルも奪い去ったっと……。 アレが引き金に成ったと」


「……でも、迷宮が無くなれば、地に魔力が満ち、妖気が漂い人が暮せなくなる……と、古文書に有りますが……」


「あちらも、必死で隠して居られますが、流民となった方々の口は押えられません。 すでに、一部地域が荒野に成ってしまったと……。 その対策に彼方が極秘で、周辺国に任官されて居た、エルフの賢者を人柱にするため、無許可で捕縛しようと、エルガンルース王国南部諸侯領域に侵入されているらしいのです」


「……スザック砦での、巡察隊の皆様が、結構な数の死傷者を出している原因ですか……それが」





 あちゃぁ……マクレガー子爵の行く場所が、きな臭い訳だよ。 表向きは盗賊討伐だけど、本当は、エルフの賢者の保護及び、彼方の国の方々の無茶を止めに行かれるんだ……。 責任重大だね。 ガンダーク帝国と、マジェスタ公爵家は仲良しだから、秘密裏に事を進めなきゃならんし、万が一バレたら、絶対にマジェスタ公爵家からの邪魔が入る。


 下手すりゃマクレガー子爵の命まで脅かされるんだよね、コレって……。





「マクレガー子爵様、大丈夫でしょうか? 色々と宮中では噂になっておりますが」


「……ご自身で決められた事のようですし、御覚悟はできるていると……思います」


「そう……ですよね」


「この御守りが、役立つでしょうね……」


「間違いなく……」





 なんか、暗い話になっちゃったよ。 フローラ様の懸念は、違う次元で正解を出していたのかもしれない。 まさしく命の危険と隣り合わせの任務になりそうだね。 三年の任期。 命、永らえられるかな? 王宮主催の鏡祭りの前に、その刺繍が施されたハンカチをフローラ様に届けよう。 彼女の祈りだけでなく、この国を想う下位貴族の思いも一緒に渡してもらおう。





 死ぬなよ。 脳筋馬鹿(マクレガー子爵)





 ――――――――――――――――――――





 何とか時間を見計らって、フローラ様に幾枚かのハンカチを渡せた。 全部、【癒し】の魔法を練り込んだ「魔道具」のハンカチだよ。 頑張ったよ。 私の手持ちの微小の魔石全部使ったよ……。 フローラ様、とても喜んでくれた。 彼女もそれに一針を加えて、マクレガー子爵にお渡ししたそうよ。


 鏡祭りまでの日々、中庭で仲睦まじげに歩く彼らを見ながら、精霊様にお祈り申し上げたよ。




 ” どうぞ、どうぞ、彼らを護ってください。 世界の理を理解せぬ者達の、想いのままにさせないでください。 ” 




 ってね。 あの人達にも幸せを。 阿呆共には鉄槌を。


 こんな展開、「君と何時までも」のストリーラインには無かったよ……。 シナリオから、どんどんかけ離れていく……。 現象は同じなのにね。 「君と何時までも」の中でも、マクレガーの退場は、この鏡祭りだった。 でも、理由が違うし、結末だって違うと思いたい。


 そう、彼は断罪され廃嫡され、気狂いになって、処刑される処だったんだよ。 それが、国王陛下の御言葉を貰い、皆に激励され、フローラ様に愛されて……戦地に向かう。 生き残れるだけの力を付けてね。



 何もかも違う事になった。



 無理矢理、シナリオが彼を排除した形になっているけど……。 奴は喰い破るね。 御父様にも、それとなくお願いした。 出来る範囲で良いので、マクレガー様の周囲を守って欲しいって。 御父様も同意されて、エルガンズの各所に、お願いのお手紙を出されていたよ。




 ^^^^^^




 鏡祭りは盛大に、厳粛に、華やかに行われた。


 精霊様へのお願いに、今年は一つ付け加えた。






 ” どうぞ、どうぞ、御守り下さい。 この国の安寧は護らねばなりません。 人知を尽くしてのち、精霊様の御心にお任せいたします。 世界を……、生きとし生けるモノの未来を、御守り下さい。 ”











 はぁ……。 あの人だったら、もっと上手い手を考えるんだろうなぁ……。







大遅刻してしまいました。

何とか朝に成る前に、お届けできます。


すみませんです。



また明晩、お逢いしましょう!!

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