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第5話 これから起こる事







 久しぶりに、ノートを出して読んだの。 



 そう、「例」の思い出した事を書き連ねたノート。 レーベンシュタイン男爵家に引き取ら取られ、レーベンシュタイン男爵令嬢として生きて行く事になってしまった私は、まず間違いなく、「世界の意志(シナリオ)」通りに、ビューネルト王立学院に入学する事になるだろうね。


 お父様も、そう望んでいるのよね。 お父様が、かつて自分が学び、成長した 【 ビューネルト王立学院 】に入学し、私だけの幸せを見つけて欲しい、って そう言われてしまったよ。




    これって、世界の強制力? 



 かなり強い強制力‥‥‥ みたいね。 「世界の意志(シナリオ)」からすると、私が、学院に居ないと、かなり困る。 と、云うより、『君と何時までも』は、ソフィアを抜いては、ストーリー展開に問題が出てしまうからね。 



 今後、起こりうる事を、確認するために、久しぶりに、ノートを出したのよ。




*************************************




 ザックリとシナリオを読み直してみる。 ゲームでは、主人公の王子様(名付け可)が、真に愛する人を見出して結婚するまでの、物語。 それが、『君と何時までも』の、世界。 その王子様の物語の中で、数々の障害になるのが、非攻略対象者である、ソフィア=エレクトア=マジェスタ公爵令嬢。


 うすうす感じてはいるけど、この世界、「Eマイナス」エンドじゃないもん。 だから、私は非攻略対象者なんだよ。 攻略される気もさらさら無いしね。


 そうそう、『君と何時までも』では、マジェスタ公爵家に引き取られたソフィアは、ママと同じミドルネームを与えられ、屋敷の離れで暮す事になってたらしいのよ。  


 マジェスタ公爵家でね、物語の中のソフィアは、陰湿な、家庭内「いじめ」を喰らってたらしい。 エンドロールの後ろのスチルに書いてあったわね。 マジェスタ公爵家の現当主である、ママの弟は、そうとう歪んだ性格してるし、かつて、嵌めた姉ディジェーレの娘であり、自らの野望の手駒って事で、極力、関わりを持たない様にしてるからね。


 それに、今は、現当主様、国務長官って立場使って、相当な悪さしてるから、そっちに掛かりっきりで、表舞台には出てこないのよ。 いわゆる涜職ってやつね。 だって、狙ってんだもの、「玉座」をね。




 ザックリと、本当に、ザックリとシナリオを追ってみた。



 ――――――



 先ずは、前提として、「君と何時までも」の開始前からね。 エンドロールのスチルから、読み取れることは多いのよ。 此処に、悪役令嬢の設定をぶっこんで来るって、どうなのさ? でも、お陰で、私は大助かりよ。 


 マジェスタ公爵家の人に、孤児院から無理矢理連れて来られた、物語の中の「ソフィア」 は、マジェスタ公爵家の女達から「いじめ」を受けるんだ。 その描写は、ちょろっとしか出て来てないけどね。 ストーリーの端々に、いかに性格の悪い娘かを、マジェスタ公爵家の女性たちが、王子様に告げ口してるから、判るんだけどね。


 まぁ、その告げ口も、「下賤な者の娘」とか、「出自の良く判らない娘」とか、「表情の冷たい娘」とか、「残虐な性格をしている」とか、「男を誑し込む手腕だけは飛びぬけている」だとか……。 まぁね、娼館の裏に有る孤児院出身だからねぇ。 生き抜く為に、男を誑し込む事に特化した連中の中で暮してたんだ、そうもなるよね。


 だから、マジェスタ公爵家では、彼女は疎まれて、屋敷の離れに放り出されてたんだって。 碌に教育もされて居ない、食事も手づかみで喰うような、サルの様な令嬢とか、言われてたね。 あんたらがそうしたんだろ? ご飯は早い者勝ちだったし、そりゃ、高貴な人と比べると、酷いもんだよ。 



 だったらさぁ、物語の中のソフィアに、” 貴族の普通 ”ってやつを、普通に教えろよ!



 ビューネルト王立学院に入学する直前は、公爵家の女性たちも、事有るごとに、注意していたらしいんだ。 水の入った桶とか、鞭とかつかってさ。 まぁ、孤児院の折檻に比べたら、生ぬるいんだけどね。 恨みを募らせていくんだよ、物語の中のソフィアはね。


 そんな物語の中の彼女の武器は、冷たく変わらない表情と、策謀を巡らす頭脳、そんでもって、これはって相手にだけ見せる、極上の笑顔。 最終手段でもある、常に懐の中に納めている、形見の短剣。


 王子様の側近たらんとする男達を、篭絡し、策謀で遠ざけ、こっそりと毒を仕込み、襲わせておいて、短剣で止めを刺したり、するんだ。 で、勢いの失くった王子様集団の攻略対象者の「 御令嬢 」との間に不和をまき散らし、疑心暗鬼にさせ、お互いにつぶし合う様に持って行くのよ。  


 ビューネルト王立学院の初等部、中等部の四年間でね、物語の中のソフィアは、それをやり遂げるのよ。 で、王子様が明らかにおかしい周囲の状態を察して、色々と解決に動くの。 




 で、こっからが、『君と何時までも』の本筋。 ビューネルト王立学院の高等部、その二年間に、女性陣の好感度が上がったり下がったり、ロマンスが生まれたり、生まれなかったりして、最後には、真に愛する人が一人決まるの。 そして、一連の策謀にソフィアが深くかかわっている事を知るのよ……。 



 それから、問題排除に動き出すの。 



 結局、物語の中のソフィアは処刑。 そして、ヒロインと盛大な結婚式で国民に祝福されて、物語は終わるの。 




 エンドロールの中で、物語の中のソフィアが成した悪行の数々がさらけ出されてたね。




 公爵家の女性たちから嫌われては居たけど、うまく立ち回って、彼女達の色んな弱みを握っていてね、公爵家の人間の殆どが彼女に対して文句を言えない状態まで持って行ってた……。


 まぁ、最後は、やっぱり ” 廃された公爵令嬢であるディジェーレの娘 ” って事で、現当主からママと同じように切り捨てられる。 やって来た事が、やって来た事で、処刑は免れない。


 本人も死なば諸共って感じだったしね。 彼女の最後の自爆は、彼女を切り捨てる事を決めた現当主のスキャンダルを、自分の死後バラまけるようにしておいた事。


 それが故に、現当主は、国務長官の任を解職。 流石に公爵家だから御取り潰しは無いんだけれど……、衰退の一途をたどって行ったって所かな? 彼女が嵌めた男達も、復帰は難しいし、王国の次世代は相当厳しくなる感じなんだ。 客観的に見てね。 



 ―――――



 ストーリーは王子様目線で続くから、めでたしめでたしで終わるんだけど、きっと、国家運営って側面で眺めると、厳しいものが有ると思うよ。 次代の側近として能力のある人たちが、尽ことごとく失脚してるんだもの。



 物語はそこでエンドマーク出るけどね。 その後は……、厳しくなるだろうなぁ。と、思ってる。 あの人と他の戦略ゲーム遣り込んだからねぇ……。 



   手足を捥がれた、組織のトップの苦悩は深いんだよ。



 有能 且つ、王国に必要な側近が居ない。 心許せる友達も居ない。 父親である国王陛下の側近達も、 ” 老害 ” に、なりつつある。 加えて、四公爵の権威がことごとく崩壊。 下位の貴族の話なんか、ついぞ出てきていないしね。 王国上層部 ボロボロ状態よ。 



 経済基盤を掌握できずに、弱体化した国軍を率い、王国の外側には敵対する帝国とか魔物、魔人がゾロゾロ……。  味方は恋愛脳の王妃と、かつて自分を取巻いていた見目麗しい、頭空っぽの御令嬢達のみ。




 滅亡の足音が、駆け足で近寄って来るのが、聞こえそうだね。 




 この「君と何時までも」の、シナリオライターは結局、ギャルゲー目線でしか考えて無くて、一人の少女に悪を全部乗っけるって事で、ストーリーを構築したらしいのよ。 悪が大きければ、害意が強ければ、害意にしっかりした理由があれば、主人公の高潔さや爽やかさが輝けるとね。 




『 【 闇 】深ければ、【 光 】輝く。 』




 正に、そんな感じ。 輝かしい勝利の後の事なんて、此れっぽっちも考えてないだもの。 【 闇 】が無ければ輝けない【 光 】なんてね……。 そんなもの、無価値だよ。 それ以外の所で、生きている人たちには、無関係だもの。 とばっちりを喰らうのは、結局そういった人たちね。



 ――――――



 ザックリとシナリオを追ってみただけで、こんだけの事があるんだ。 これからね。 でも、この世界の私、【 ソフィア 】は、その大前提を潰したんだ。 




 この世界に、ソフィア=エレクトア=マジェスタ公爵令嬢 は、居ない。




 だれが好き好んで処刑されようと思うか! 私には探さなきゃならない人が居るんだ。 私の記憶に刻み込まれた、「あの瞳」を、持つ人がね。




 だから私は、生きて行くための、唯一の選択肢として、「ソフィア=レーベンシュタイン男爵令嬢」に、なったんだ。




 全てをひっくり返し、この私が生きている世界で、あの人を探し出すんだ。心に決めたこの想いを、絶対に邪魔されない様に、その為だけに、知識と、知恵と、経験を使うんだ。だから、邪魔はしない。 好きなだけ、恋愛してくれ。 子供の(はかりごと)で、崩れる様な信頼関係しか築けないなら、私が何もしなくても、いずれ崩れるよ。




 遠くの方から見ててあげる。


 だから、関わんないでくれないかな。




 私はね、「世界の意志(シナリオ)」の強制力に抗うよ、最後までね。 シナリオが強制するのは多分、あと、十三年間。 私が十八歳になって、ビューネルト王立学院を卒業する ” その時 ” まで。


 「世界の意志(シナリオ)」は、その時まで続くんだ。 そんな気がする。 でも‥‥‥その後は……。 この世界の時間が続くんだ。 この世界に生きた人達の、彼らの本当の時間がね‥‥‥。





*********************************





 「世界の意志(シナリオ)」を考えると、一人、問題な子がいるの。 そう、ミャーの事。 あの子は、『君と何時までも』の世界には、これっぽっちも出てこない。 きっと排除される。 それも最悪な形で。 ソフィアは冷たく誰も信じないっていう設定だから。


 ミャーは、小さいころから知っていて、大事な友人。 心から大切に思っているし、信じている。 だから、彼女がいることで、「世界の意志(シナリオ)」の設定が破綻してしまう。 わたしを傷付けるために、世界は彼女を排除しようと動くだろう事は、わかっていたの。





 その兆候はあったの。 気が付かなかったら、きっと、ミャーは私と一緒にはいられなかったと思うの。





 彼女は、私の専属の侍女になる為に、暗殺者ギルドに鍛えてもらう事になったよね。 彼女、ギルドに登録して訓練を始めてから、段々表情が暗くなってきたのよ。 一週間とか、十日とか、お屋敷から出て帰ってくるたびにね。


 最初の訓練で、お屋敷から出る時に、彼女に私が編んだニット帽子をあげたの。 もう、冬だし、ほら、耳が寒くない様にってね。 最初の頃は、暑いだのなんだの言って、脱いでたんだけど、一か月の訓練から帰って来た時にから、脱がなくなったのよ。


 それと、もう一つ…… ミャーが私の事を、「お嬢様」って、ずっと言うの。 二人っきりの時もね。 おかしいよね。 目の色が濁って、なんか怯えてるみたいだし。 様子がおかしいから、聞いてみたんだけど……




「何でもありません、お嬢様……」




 って言って、目深にニット帽子をかぶるのよ…… 目が隠れるほどね…… もう、我慢できない。 大切な友達を取り上げようとする「世界の意志」なんか、最初から無視してやる。 私とミャーしか居ないお部屋でね、ミャーの両手を取ったの。 物凄く怯えてた。 でも、それも無視。 




「癒しの泉、我に力を」 




 二人を包み込む金色の光。 私は心を開いているから、彼女の「痛み」が、「苦悩」が、私の中に流れ込んできた。 孤児院での折檻なんか目じゃない、「悪意の塊」を、受けてたのね。 お父様に、”手出しはするな” って言われてたからって……。


 癒しの光はミャーを包み込んで、傷ついた身体を癒していく。 切り傷や火傷は綺麗に治る。 ミャー……、左耳が無くなってた。 流れ込む彼女の記憶の中に、訓練で切り落とされたってある。 傷跡は何とかしたけど、心の傷はそう簡単にはいかない。 猛烈に腹が立ってきた。




「ミャー……、あなた……」


「ソフィアぁ……、手を……、手を出しちゃいけないんでしょ?」


「そんなことないよ!!! 貴女は貴女自身を守る為に、『爪』 を、使ってもいいのよ。 ……私が許可する。 私がね。 私の大切な友達を傷つける者は、皆、その報いを受けるべきよ」


「ソフィアぁ…… 」




 ミャーの金と銀のヘテロクロミアの瞳が濡れる。 大粒の涙が今にも零れんばかりに、浮かんでいた。 その顔を見て、聞いたの。 大事な事を。




「一つ、聞いていい?」


「なに?」


「私は、ミャーの事、友達と思ってる。 ずっと一緒に居たいとも思ってる。 ミャーは?」


「……ソフィアが、ソフィアがどっかに行けって言うまで、一緒!」


「わかった。 ……あなたは、最高の友達よ」





 ちょっと、これからの事を考えてみた。 彼女の意志はちゃんと確認した。 だから、二人で考えたのよ。 出た答えがあったの。 それは……、




 これからも、ミャーは暗殺者ギルドで訓練を受ける。 そして、出来るだけ多くの技を身に着ける。 やられても、私が癒す。 そして、その記憶を私はもらう。


 十歳……、 十歳になってから、決着をつけるの。 それまでに、色々な力を身に付けるの。 自分達で、研ぎ澄ますのよ。 出来るだけ鋭く、容赦なくね。 お父様の意向を無視した人が誰なのか、確認するわ。 そして、ミャーを苛んだ人には、鉄槌を。 その時まで、生き残ろうって、二人で決めたの。






 世界の意志(シナリオ)の強制力を逆手に、「生き残る力」を、手に入れるのよ!!







ブックマーク、評価、誠に有難うございます。

とても、嬉しいです。 頑張ります。


======


世界の意思が、強固に反映されれ居るこの世界に、生ある人として、転生してきたソフィア。 知っているストーリーラインを捻じ曲げ、処刑エンドを避けるために、下準備を開始しました。 どうあっても、舞台に上がらなければならなくなった彼女は、世界の意思に反逆し始めました。


彼女にとって、この世界は、もう一度与えられた、「幸せな時間」へのチャンス。 


絶対に、つかみ取り、愛しい「あの人」を探し出すという、使命感にも似た目的を心に持っています。 だから彼女は、現実を見、フラグを折り、生き残りをかけて、今日も戦っています。


ガンバレ! 



また、明晩、お逢いしましょう!

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